南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

戦力分析ーー興南(2017年・夏)

 やはり課題は、バッティングにある。

 決勝戦では15点を奪ったものの、二回戦から準決勝までの四試合は、ヒット数がいずれも1ケタに抑えられている。

 これは対戦校のバッテリーが警戒し、外角を丹念に突いたり、変化球主体の投球をしたりしてきたためと思われる。この“かわすピッチング”を攻略する各打者の技術が、あと一歩だったという印象だ(おそらく甲子園大会へ向けて、変化球をカットし直球を狙う等の対策は取ると考えられるが)。

 もう一つ、長打が少ないというのも気になる。

 これは得点効率の問題である。単打であれば、盗塁などで進塁しない限り、もう一本ヒットが必要となる。

 だが、二塁打三塁打であれば、内野ゴロや外野フライでも点が入る。ホームランなら、その一本だけで1点だ。特に試合がもつれた場合、要所で長打を打てるチームの方が確率的に有利だ(ただ振り回すだけの荒っぽい打撃をするチームなら別だが)。

 もしベスト8以上を狙うなら、相手の得点を23点以内に封じなければならない。それ以上取られるようだと、厳しいだろう。

 鍵を握るのは、投手陣。県大会決勝のように、宮城大弥を先発にさせるのか。だが、川満大翔も上原麗男も、リリーフ登板の時の投球内容はあまり良くない。かといって、1年生の宮城にあまり無理もさせたくないはずだ。ベンチとしても悩みどころだろう。

 個人的に発見だと思っているのは、準々決勝からマスクを被る渡辺健貴である。

 特に決勝戦のリードは、見事だった。相手打者が初球から積極的に振ってくるのを逆手に取り、変化球を振らせてカウントを稼ぎ、最後は外角低めを突く直球で仕留めていた。相手打線の特徴を捉え、それに応じた配球をする。この観察眼を買われたのだと思う。

 宮城を筆頭に川満・上原も好投手ではあるのだが、力勝負で勝てるほど全国は甘くないだろう。県大会以上に、渡辺と相手打線の対決にも注目したい。

 野手陣では、4番の福元信馬が気になっている。

 彼は主将も務め、チームメイトからの信頼が厚いのだろうと思う。バッティングも本来は力があるのだろうが、県大会では確実に走者を返そうと意識しすぎるせいか、中途半端なスイングをしてしまうケースが目立った。

 福元が復調すれば、もう少し楽に点が取れるはずだ。あるいは、彼に積極性を取り戻させるため、打順を1番に上げるという方法も考えられる。

 そして、もう一人。宮城と同じ1年生、根路銘太希の名前を挙げないわけにはいかない。

 興南が来年以降も甲子園へ連続出場を果たせるなら、根路銘は間違いなく、注目内野手の一人になるだろうと思う。1年生でシード校チームのレギュラーを奪っただけあって、走攻守揃った好選手だ。

 特に魅力的なのは、そのバットコントロールの巧みさだ。直球・変化球とも、広角に弾き返すことができる。また、甘い球であれば初球から狙っていく積極性も素晴らしい。さらに、際どい球はカットする粘り強さもある。

 現チームでは2番を打っているが、おそらく新チームからは1番辺りを任されるだろうと思われる。走者を返すバッティングもできるから、もしかしたら中軸を打たせても面白いかもしれない。

 正直、優勝を狙えるような戦力ではないと見ている。組み合わせに恵まれて、上手く戦うことができれば、良くて23勝を挙げることができるだろうか。ベスト8くらいまで勝ち進めば、大健闘と言って良いと思う。

 ただ、だからこそ“勝って欲しい”とも思う。

 今年の興南は、県内でもトップクラスの戦力では決してなかった。そんなチームが勝ち上がれば、戦力に恵まれない他チームに勇気を与えることにもなる。

 そう、興南には証明して欲しい。有力選手を揃えた“パワー野球”だけが、甲子園で勝つための「正解」とは限らないのだと。