南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

いきなり“大物”との対戦——興南、初戦の相手は強豪・智弁和歌山

 いきなり“大物”との対戦である。

 ただプラスに捉えると、この試合に勝てば興南は化けられるはずだ。元々、現チームは春季県大会の準決勝と三位決定戦、そして九州大会で敗れて以降、成長を遂げて甲子園へ辿り着いた。まだまだ伸びシロはあると見える。

 この智弁和歌山との一戦を、また一つのキッカケにすることができれば、今大会も案外面白い存在になれるかもしれない。もちろん、勝つことが前提ではあるが。

 戦力的には、総合的に見てあまり差はないように思える。長打力では、当然ながら智弁の方が上だろう。しかし、足を絡めたり小技を使ったりといった攻撃のバリエーションでは、興南の方が豊富だ。

 そして実は、興南にとってそこまで戦いにくい相手というわけでもない。

 一発とチャンスでの集中力という点で、もちろん脅威ではある。ただ、攻撃の仕方そのものは、比較的オーソドックスだ。ファールで粘って球数を費やさせたり、時に奇襲を仕掛けてきたりといった“嫌らしい野球”をしてくるチームではない。

 したがって、興南にも十分勝つチャンスはあると思う。投手陣が制球難で無駄に走者を溜めたり、守備が乱れたりといった自滅に近い形にならない限り、おそらく競った展開か、もしかしたら興南が主導権を握って試合を進めることもできるかもしれない。

 とはいえ、やはり楽に勝てる相手ではない。

 最も避けたいのは、走者を溜めて中軸に回してしまうことである。走者が溜まると、バッテリーは「これ以上走者を出したくない」という思いから、限られた球種でしか勝負できなかったり、簡単にストライクを取りにいったりしてしまいがちだ。こうなると、容易に狙い打ちされてしまう。

 そこで鍵を握るのは、バッテリーの配球である。

 まず重要なのが、“外一辺倒”にならないこと。長打を避けるために外を突くというのはセオリーではあるのだが、智弁和歌山ほどの強豪校になると、それも「織り込み済み」だろう。少々外寄りの球であっても、甘く入れば簡単に捉えるに違いない。

 そこで思い切って、「内角ぎりぎりのコース」へ直球を投げる——これができれば、相手はそう簡単に狙い打ちできなくなるはずだ。内角を突くことができて、初めて“外”も生きてくる。

 また、智弁和歌山の県大会の映像を見たのだが、準決勝・決勝において「逆方向へ長打」という場面は少なかった。2試合いずれも本塁打を一本ずつ放っているが、いずれも高めの変化球をフルスイングで引っ張ったものだ。つまり、甘く入ると危ないが、コースさえ間違えなければ、打たれたとしてもシングルヒットだ。

 何球か内角を見せて意識させることができれば、あとは外角低めを中心に攻める投球で十分打ち取れると考えられる。たとえ中軸に何本か長打を浴びることがあっても、それまでに走者を溜めていなければ、大量点にはならない。

 逆に言えば、だからこそ1,2番は確実に切りたい。特に前半五回まで、中軸の前後を上手く分断できるかどうかが、勝敗を分けることになるだろう。23点程度に抑えられれば、あとは打力で十分取り返せる。

 攻撃面では、外角の変化球への対応がポイントになる。

 興南は、決勝戦こそ15得点を挙げたが、他の試合では打線のつながりに課題を残していた。それは、相手バッテリーが慎重になり、変化球でかわそうとする配球に手こずっていた印象だ。

 正直、智弁和歌山バッテリーが「真っすぐ主体」の配球できてくれたら、ラッキーだ。興南打線はさほど長打力はないが、外寄りの真っすぐをセンターから逆方向へ打ち返す技術は高い(それで決勝戦では、速球派の美来工科・山内慧に集中打を浴びせることができた)。

 しかし、そうそう都合の良いことは起こらないだろう。県大会の準決勝までと同様、変化球主体で攻めてくると想定した方が無難だ。となると、変化球をあえて狙うのか、ファールで逃げて真っすぐを待つのか、あるいは足で揺さぶり変化球を投げにくくさせるのか——といった策が考えられる。

 相手の打力を考えれば、最低でも45点は奪いたい。できれば、中盤まで競った展開に持ち込み、終盤に突き放すというのが理想的だろうか。

 ここまで述べてきたように、決して勝てない相手ではない。県大会で見せてくれたように、焦らずじっくり試合を進め、チャンスで高い集中力を発揮することができれば、必ず勝機は来る。

 戦力的には、もっと上のチームはたくさんあるだろう。しかし興南には、野球の奥深さを知り、またチームとして成長し続けられるという“無形の力”が備わっている。メンバーは違っても、先輩達から受け継いだ「興南の野球」を、再び甲子園の舞台で見せて欲しい。