まさに一瞬の隙を突いた。
スコアレス・ドローに終わりそうな気配だった、ゲーム最終盤の88分。伊東幸敏からの縦パスに抜け出した金崎夢生が、そのまま右サイドを持ち上がり、倒れ込みながらクロスボールを送る。ゴール中央へ走り込んだ鈴木優磨の動きに、それまで高い集中力を見せていたセレッソ大阪のディフェンス陣が、束の間幻惑される。
がら空きになった逆サイドで、フリーになったレアンドロが難なくボールを受け、ワントラップから右足を振り抜く。
0-1。均衡を破ったのは、押されていた鹿島アントラーズだった。そして4分のアディショナルタイムを凌ぎ切り、タイムアップ。一位・二位の“首位決戦”を制し、敵地で貴重な勝ち点3を得る。
はっきり言って、内容は良くなかった。
とりわけ、気になった点が二つ。一つ目は、縦パスがなかなか前線で収まらなかったこと。二つ目は、こぼれ球をあまり拾えなかったことだ。ここでボールキープできれば。これをマイボールにできれば。……そう思ったところで、ことごとく相手にボールが渡り、何度もカウンターを浴びてしまう。
夏場でさすがに疲労が蓄積しているのか、動きが鈍いように見受けられた。試合を通じてのパフォーマンス自体は、セレッソの方が上回っていたように思う。決定的なシュートも打たれたが、GK曽ヶ端準の再三の好セーブにより、辛くもゴールは割らせない。
一方で、セレッソの体を張った守備。さらには高い集中力と闘争心には、目を見張るものがあった。他のチームなら「(ボールを)取った」「抜けた」と思った場面で、もう一歩足が伸びてくる。ボールを奪ってからの速攻・攻守の切り替えも見事だった。さらには運動量も豊富で、時間が経過するにつれて「そろそろ落ちてくるかな」と思いながら見ていたのだが、終盤まで動きが鈍らなかった。
さすがは名将・尹晶煥(ユンジョンファン)監督に鍛えられたチームだ。何とか勝つことはできたが、J2からの昇格組ながら上位をキープしているだけのことはあると思った。
前々節に敗れた川崎フロンターレにしても、このセレッソ大阪にしても、きちんと「自分達の勝てる形」を持っているチームは、敵に回すと厄介だ。まだ対戦が残っている柏レイソルや横浜Fマリノス、ジュビロ磐田辺りも、そういう中に含まれるだろう。
まだまだ油断はできない。一つずつ勝っていくことでしか、優勝には近づけない。「鹿島独走」という声も聞こえるが、Jリーグはそんなに甘くないはずだ。
日本代表のアジア最終予選により、少しでも中断期間があるのは有り難い。八月以降、5勝1敗と勝ち越しているものの、チームの調子自体は結果ほど良くないように見える。このところパフォーマンスが下降気味の選手も何人かいる。小休止を挟むことで、何とか改善して欲しい。
セレッソ戦に話を戻せば——苦しい展開を「想定」していたからこそ、ぎりぎりながら勝ち切ることができたように思う。
内容は良くなかったが、それでも“ここぞ”という場面でのプレー精度の高さは、さすがである。曽ヶ端のセービング然り、レアンドロの決勝弾然り。「想定」しているからこそ、冷静にプレーできる。だから大事な場面でミスをしない。プレー精度が落ちない。
それでも、まだ“満足できる試合”ではない。今のチームならばもっと良いプレー、さらに良い試合ができるはずだ。
大一番を制した後だからこそ、あえて辛口の戦評とさせていただいた。もっと伸びシロがある。そして、もっと強くなれるチームだと思うから。