南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

頂点へのラスト・スパート——This is KASHIMA.(ディス・イズ・鹿島)」 鹿島アントラーズ1-0浦和レッズ<戦評>

 前半こそ押し気味だったが、後半に入ると中盤にスペースが生じ、ややオープンな展開へと変わる。中盤でボールを失うと、ラファエル・シウバらに自陣近くまで運ばれ、縦への突破を許し何度かあわやというシーンも作られてしまう。一方、攻撃ではなかなか前線でボールが収まらず、シュートまで持っていけない時間帯が続く。

 

 五月の対戦時と比べ、浦和は明らかに強くなっていた。

 結果だけ見ればそこそこ勝ち星を積み重ねてはいたが、どこか落ち着かない試合が続いていた当時の鹿島に、あっけなく敗れた彼らの姿はもうなかった。前回はカウンターから再三決定機を作り、2・3点差が付いてもおかしくない内容だったが、今回は集中力の高い相手守備陣の綻びを見出すのに、やや苦労している様子が伺える。

 

 ところが……私は、不思議な安心感を抱いていた。内容からすれば、かなり苦しい展開と言えたにも関わらず。それは試合全体を通じて、最後まで揺らぐことはなかった。

 

 相手に押し込まれる時間が続いても、さほど焦ることなく対応していく。ここで抜かれれば危ないという所で、確実に潰す。緊迫した展開だからこそ、鹿島の選手達の冷静さ、気迫、執念——それらがピッチ上から強く伝わってくる。

 

 だから思ったのだ。この雰囲気であれば、大丈夫だと。

 

 迎えた80分。右サイドを持ち上がった西大伍が、ゴール前へ速いクロスを送る。敵陣へ三人が駆け込む。逆サイドからレアンドロが飛び込み、右足・ダイレクトで合わせる。ボールは相手GK・西川周作の股間を破る。

 

 リードを奪った後は、いつも通り時計の針を進めながら、相手の反撃を凌いでいく。予定通り、まるで事前にプログラミングされていたかのようだった。やがて、さほど大きなピンチを迎えることもなく……タイムアップ、10。

 

 拮抗した展開でも、一瞬の隙を突く。リードを奪ってしまえば、あとは全員が意思統一された動きで、残りの時間を凌ぎ切る。劣勢でも慌てることなく、優位に立っても浮つかず、まさに揺るぎない“空気感”。これぞ「ディス・イズ・鹿島」だ。

 

 それにしても、よくここまで立て直したと思う。一時は2位の川崎フロンターレに勝ち点差8を付け、変に余裕を持ってしまったが故の緩みからか、横浜Fマリノスに自滅に近い形で3失点を喫し、さらには天皇杯でもヴィッセル神戸に「らしくない」試合運びからPK戦の末敗退したのは、僅か二週間前のことだ。

 

 いずれも手痛い敗戦だったが、ここでチームとして浮つきを排し、気を引き締め、今一度「勝つ」ということに厳しい姿勢で臨む。前々節時点での川崎の勢いから、正直なところ「逆転されてもおかしくない」と思っていた。

 

 しかし、やはり“ここ”という所で底力を発揮してきた。ACL制覇を視野に入れ調子を上げてきた浦和を撃破し、2位川崎にプレッシャーを与え優勝に王手を掛けた。だがその結果以上に、あの下降線を辿っていたチーム状況から、この短期間で立て直しを図れたことこそ評価されるべきだと思う。

 

 残り二試合。数字上はかなり優位には立ったが、まだまだ油断はできない。二試合の相手は柏レイソルジュビロ磐田といずれも難敵である。ルヴァン杯決勝敗退の雪辱を期す川崎も、最後の意地を見せようとするだろう。

 

 この“空気感”を保てるのであれば、負けはしない。どこが相手でも、きっと勝ち切ることができる。つい二週間前までの焦燥感が幻だったとさえ感じるほど、私は今、かなり楽観的な気持ちでいる。

 

 そう。これぞ『This is KASHIMA.(ディス・イズ・鹿島)』——さぁ、いよいよ頂点へのラスト・スパートだ。

 

※11月7日未明にエントリーに加筆・修正した上で再アップさせていただきました。あらかじめご了承下さい。