南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

風は凪いでいる——鹿島アントラーズ、優勝へ王手を掛けてラスト一試合へ……

 33試合を終えて、23勝8敗2分の勝ち点71。まだ何も手にしていないのだが、今のうちにこれだけは言っておきたい。

 鹿島アントラーズは、昨シーズンよりも強くなった。

 昨シーズン終了後、鹿島の鈴木満強化部長はこのように述べていた——「(来年は)力で勝ち取る形に進化していきたい」と。昨季は1stステージ制覇を皮切りに、CSを制して7年ぶりのJリーグ優勝を果たし、さらにはCWC決勝進出、天皇杯制覇と華々しい成績を残す。だが、その内実は決して盤石ではなかった。

 チーム状態が良く、理想的なパフォーマンスを発揮できた時には勝ち切れるが、そうでない時は脆さも露呈してしまう。1stステージを制覇できたものの、2ndステージでは終盤4連敗を喫するなど、11位に沈む。シーズンを通しての安定感を欠いた。

 迎えた今シーズン。前半戦こそ勝ち切れない試合が続き、石井正忠前監督が解任される事態に至ったが、大岩剛新監督に代わってからは上昇気流に乗った。

 もっともチームとして“絶好調”だったのは、アウェーでガンバ大阪を完封するなど安定した戦いぶりを見せていた、7月8月初旬の頃だけだったように思う。それ以外の時期は、ぎりぎりの試合を強いられながらも、相手の僅かな隙を突いたり個人技やセットプレーで辛うじて勝ち越すといった試合も少なくなかった。

 逆に言えば——その好調でない時期に、「良くないながらも勝ち切る」ことができるようになった。今までであれば勝ち点を落としていた内容でも、結果としては勝ち点3を得られる試合が増えた。それこそが通算23勝、昨季と比べて成長した部分である。そうして積み上げた勝ち点は、71。まだ一試合を残した現時点でも、逆転優勝を果たした2007年の72に次ぐ、チーム史上2番目の記録である。

 王手を掛けて臨んだ、先日の柏レイソル戦。結果はスコアレスドローに終わり、ホームで優勝を決めることはできなかった。

 それでも個人的には……鹿島の選手達は、よく戦ってくれたと思う。勝ち切ることはできなかったが、決して恥じることはない。

 私がもし、双方に何の思い入れもない“第三者”の立場だったなら、素晴らしい試合を見せてくれてくれた両者に拍手を贈りたい気分だったと思う。互いに得点こそ奪えなかったが、球際の激しい攻防あり、相手の出方を伺う駆け引きあり、鋭い攻撃とGKの好セーブあり、と……まさにサッカーの魅力が詰まった、濃密な90分間だった。

 本来、私は“負けたが(勝てなかったが)内容は良かった”などと安易に試合を解釈することには、反対の立場である。だが、極まれに「ここまで戦ったんだから、結果は仕方がない」と言いたくなる試合も、確かにあるのだ。

 鹿島の選手達は、いつも通り、やるべきタスクをしっかりと実行してくれた。しかし、相手の柏レイソルも、素晴らしいパフォーマンスを発揮した。今シーズンのJリーグにおける、おそらくベストバウトの1つに数えられる試合だったのではないか。

 ただし、一つだけ認めなければならないことがある——今の鹿島は、残念ながら「絶好調ではない」ということ。

 もし好調であったなら、幾つかあった決定機に1点を挙げていただろう。もっとも不調時であれば、幾つかあったピンチに1点を逆に奪われていただろうが。

 今、風は凪いでいる。追い風でもなければ、逆風でもない。静かだ。本当に静かな最終盤である。クライマックスに差し掛かっているというのに、まだまだ結末が見えない。

 それならばこそ——「力で勝ち取る」という今季の集大成を、ここで見せ付ける時だ。さぁ、いよいよラスト一戦である。あと“一勝”、勝ち点3を。鹿島アントラーズ。強くなったことを、確かに証明するためにも。