南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

私選・沖縄県高校野球名勝負<ベスト10+5>――県大会編(前編)

 

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 気付けば、高校野球の記事を書かなくなっていた。

 

 沖縄県勢が甲子園で勝てないから……というのは、確かにある。だがそれ以上に、“希望”が見えない。より正確に言えば、沖縄高校野球界全体から「何が何でも勝つ!」という気迫・情熱が、ここ数年は感じられなくなっていたからだ。

 

 誤解なきように。現役の野球部員、選手達は皆それぞれ頑張っている。しかし、沖縄高校野球界を取り巻く空気感が、どことなく緩んでしまっている。本気で勝とうとしていないチームに対して、外野がいくら熱くなっても仕方ないではないか。

 

 ただ……先日の1年生大会・準決勝を観戦して、少し気持ちが変わった。対戦カードは、沖縄尚学-美里工業。そう、かつて九州大会で県勢同士の決勝を争った両校である。

 

 久しぶりに“熱い試合”だった。1年生同士とは思えないほど、緊迫感アリ、駆け引きアリ、勝負度胸アリの9イニングス。順調に育てば、間違いなくこの両チームが世代を引っ張っていく存在になるだろうと確信させられた。

 

 確かに今は、ツライ状況だ。

 

 それでも……夜明けの時は、案外すぐそこまで迫っているのかもしれない。悲願の夏の甲子園制覇を果たした“次の夢”を叶える、新たな旅立ちの時である。

 

 ならば、私は“次の夢”を叶えるためのヒントを探すことにしよう。それは、かつて我々高校野球ファンの胸を熱くした「名勝負」の数々が、教えてくれるはずだ。

 

 というわけで……久しぶりの特別企画。「私選・沖縄県高校野球名勝負<ベスト10+5>」と題し、3回に分けてお送りする。まずは「県大会編」である。本エントリーは(前編)とし、第10位~4位までを発表することとしたい。

 

(※なお、2001年以降の試合を対象とする。あらかじめご了承下さい。)

 

 

第10位

【09年夏・決勝】興南4-2中部商業

                 <戦評>

 翌年の春夏連覇投手・島袋洋奨と、現在は西武ライオンズそして侍JAPANの4番を務めるまでに成長したスラッガー山川穂高との迫力の対決。

 この日は先発回避の島袋だったが、無死満塁の場面で登板し、山川も三振に切って取ると、後続も抑え無失点で切り抜ける。2年生とは思えない、冷静かつ気迫の籠った投球が圧巻だった。しかし、山川も怯むことなく、後の打席で適時打を放つ。

 投手×打者としては、県高校野球史上、最もハイレベルな勝負。

 

第9位

【07年秋・二回戦】沖縄尚学2-0浦添商業

              <戦評>

 後の選抜優勝校と選手権4強の両者が、早くも秋季大会二回戦でぶつかってしまうという、何ともモッタイナイ組み合わせ。

 試合は大方の予想通り、沖尚・東浜巨、浦商・伊波翔悟というハイレベルな両投手の対決にふさわしい、七回までスコアレスが続く緊迫した展開に。

 迎えた八回裏、伏兵・普天間の一発で沖尚が均衡を破る。これが決勝点となり、最後は東浜が完封で締める。

 しかし、この一戦が浦商ナインの闘志をさらに掻き立て、翌年夏のリベンジ劇へとつながったことは言うまでもない。

 そう……物語はまだ、ほんの序章に過ぎなかった!

 

第8位

【13年秋・決勝】美里工業3-0沖縄尚学(延長十回)

                <戦評>

 過去5年では、最もハイレベルな一戦である。

 九回を終え、ともスコアレスという緊迫した展開に。十回表、その時点でのコンディションで上回る美里工業が3点を挙げ決着するも、両チームの図抜けた能力の高さを示す結果となった。

 そして……やはりと言うべきか。後に両校は九州大会でも勝ち進み、再び決勝で相まみえることとなる。

 

※【13年秋九州・決勝】沖縄尚学4-3美里工業

                 <戦評>

 初の“沖縄勢対決”となった九州大会決勝戦。両校とも、前評判に違わぬ素晴らしい戦いぶりで、決勝へと駒を進めてきた。

 試合は、いきなり波乱の幕開けとなる。準決勝までの3試合、いずれも失点1で抑えていた沖尚主戦・山城大智が、初回で集中打を浴びノックアウトされてしまう。

 しかし、美里工が再三の好機で畳み掛けられずにいると、序盤は鳴りを潜めていた沖尚打線が、ここで牙をむく。ワンチャンスで一気に逆転。バッティング精度の高さを見せ付ける。

 その後は、美里工が再逆転すると、沖尚が八回裏にまたも逆転するという激しい展開に。「やはり勝ち上がるべき両チームだったのだ」と首肯せざるを得ない、白熱したハイレベルな一戦となった。

 最後は再登板の山城が締め、沖尚が秋九州連覇を果たす。勢いに乗る沖尚は、半月後の明治神宮大会も制し、翌年の選抜優勝候補へと躍り出た。

 

 

第7位

【15年夏・決勝】興南4-2糸満

              <戦評>

 春夏連覇を果たした10年以来、実に5年ぶりの決勝となった興南

 選抜出場校・糸満の打力を前に、序盤は劣勢を強いられるが、興南バッテリー比屋根雅也-佐久本一樹の内角を攻める「度胸ある投球」で再三のピンチを凌ぐと、中盤以降に粘り強く4点を挙げ、逃げ切った。

 選手権でも8強へ進出。惜しくも準々決勝で、関東一校・オコエ瑠偉の一発に涙を飲んだが、堂々たる戦いぶり。沖縄のみならず、全国の高校野球ファンに“興南復活”を印象付けた。

 

第6位

【08年夏・準々決勝】興南3×-2名護

             <戦評>

 後に春夏連覇を果たす興南我喜屋優監督と、かつて宜野座を選抜4強へと導いた奥濱正監督による“知将対決”。

 準決勝で選抜優勝校・沖尚と互角の勝負を演じた興南を、最後まで苦しめた名護の粘りが印象的。我喜屋監督をして「名護は勝ち方を知っている。接戦は覚悟の上」だったと言わしめる。

 攻撃では、何と島袋から本塁打を放ち先制。その後逆転を許すも、コンパクトなスイングで徐々に島袋を捉え、中前適時打で追いつく。守備では、再三得点圏に走者を背負うも、“伝家の宝刀”宜野座カーブを駆使した巧みな投球で、興南打線に的を絞らせず。幾度もピンチを切り抜け、試合巧者の興南に二ケタの残塁を記録させる。

 それでも……やはり興南は強かった。勝負を決めた九回裏のサヨナラスクイズは、バックホームさえ許さないほど完璧に決まる。後に春夏連覇を果たすことになるチームの、洗練された技術の高さを見せ付けた。

 

第5位

【06年夏・準決勝】八重山商工1-0浦添商業

              <戦評>

 因縁の“ライバル対決”、ここに完結。1年生大会に始まり、二年連続となった秋季大会での対決。そして、いよいよ最後の夏。舞台は違っても、相まみえるその度に激闘を繰り広げてきた両者である。

 迎えた「ラストマッチ」は、打撃戦になるという大方の予想を覆す、緊迫した投手戦に。強力打線に真っ向から挑む浦商主戦・知花真斗の力投。強打を誇る八商工打線を、この夏唯一の最少得点に抑え込む。

 ところが――相手が強くなると、それに呼応するかのように底力を発揮したのが、この八商工というチームだった。選抜大会で優勝した横浜と互角以上に渡り合い、その勢いで春季九州を制覇。

 そして迎えた夏――彼らが照準を合わせていた試合こそ、この浦商戦だった。準々決勝までの危なっかしい投球からは想像も付かなかったほど、まさにベストピッチングを披露する八商工・金城長靖-大嶺裕太両投手。

 スコアレスの均衡を破り、勝敗を決したのは、伏兵・東船道の鮮やかな中前打だった。

 

 

第4位

【07年夏準決勝】浦添商業5-4沖縄尚学(延長十一回)

               <戦評>

 翌年の激闘を予感させる、両校のハイレベルな死闘。

 試合は終盤まで、一進一退の息詰まる攻防。浦商が東浜を捉え2点を先取すれば、沖尚も伊波の制球が乱れたところを狙い打ち、同点に。

 迎えた終盤、波乱が。東浜が、熱中症により無念の途中降板となる。連日の猛暑と雨により、グラウンド上はサウナ状態だった! 

 エースを失った沖尚に、浦商が容赦なく襲い掛かる。リリーフした投手から、無情の勝ち越し2点本塁打。これで勝負は決したか――しかし、沖尚ナインはなおも必死の抵抗を見せる。

 九回裏、ソロ本塁打で1点差に迫ると、二死からライト線を破る適時打で何と再び追い付く。後はイニングごとに継投し、凌ぐ構え。

 一方、試合中に雨も降る悪コンディションの中、まったく動じない浦商主戦・伊波翔悟のタフさにも目を見張った。最後は――タフさで上回った浦商が、決勝の1点をもぎ取る。 

  準々決勝の中部商業に続き、ライバル校・沖尚を撃破したことで、もはや浦商に敵なし、と思われたのだが……

 

 

 ひとまず今回は、ここまで。続く(中編)では、泣く泣く選外とせざるを得なかった試合や衝撃的な結果となった試合を5つ<番外編>として紹介する。