南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

<野球小説>白球の“リアル”【第9話】「投手の感覚」の巻 ~ ちばあきお原作『プレイボール』もう一つの続編 ~

前回<第8話「努力の天才」の巻>へのリンクはこちらです。

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第9話「投手の感覚」の巻

 

 気付けば、辺りは夕闇に包まれ始めていた。グラウンド脇でストレッチをしていると、ふいに背後から呼ばれた。

「イガラシ」

 耳馴染みの声だが、久しく聴いていなかった気がする。

「おお。どしたい」

 前屈の姿勢のまま振り向くと、墨谷二中からの同僚、久保がバットを手に立っていた。

「ごめんダウン中に。まずは……初登板、おめでとう」

「そんなら井口に言ってやれ。あいつ、七回にポカして替えられたけど、やっと硬球が指に馴染んできたらしいぞ」

「ああ。五、六回は、圧巻だったな。五者連続三振。速球だけでなくシュートとカーブもばんばん決まり出して。俺らが対戦した時の井口に戻ったみたいだった」

 にやりとして、イガラシは言った。

「おまえこそ、やるじゃねぇか。第二試合、初先発で三打数三安打。レギュラーの上級生達、おまえのバッティングにだいぶ危機感を覚えたみたいだぞ」

「たまたま相手と、相性が良かっただけだよ。そんなに好投手でもなかったし」

 久保と同様の感想を、多くの野球部員達が漏らしている。

 前日からの三戦で、トータル三十九点を叩き出したが、この結果を手放しで喜ぶ者は一人もいなかった。むしろ「歯応えがなさ過ぎた」と、ダブルヘッダーをこなした後にも関わらず、各自居残り練習に取り組んでいた。

それでも夕暮れ間際になり、一人また一人と帰っていく。谷口や丸井も、珍しく「用事があるから」と先に引き上げていた。

「ところで、何か用か?」

 問うてみると、久保は少し気恥ずかしげに答える。

「ちょっと、素振りを見て欲しいと思って」

「構わねぇが……どうせなら、ボールを打ち込むところを見せてくれよ。ちょうどゲージが空いてるから、そこでやろうぜ」

「でも……まだ途中だろ」

「柔軟なんて、家に帰ってからでもできるさ。遠慮すんなよ」

 バッティングゲージのネットをくぐり、段積みになったトスバッティング用のボール籠を一つ引っ張り出す。その脇に、イガラシはしゃがむ姿勢になった。ボールを数個拾い、手前でバットを構える久保に呼び掛ける。

「希望のコースはあるか?」

「ええと……ランダムで。左右高低に、まんべんなく散らして欲しい」

 へぇ、と思わず吐息をついた。久保の奴……色々考えて、取り組んでやがる。

「……ちょっと難しいか?」

「ん? まさか、お安い御用さ」

 小さくため息をつく。久保の奴、俺が元キャプテンだからって、まだ気を遣っているのか。同学年だってのに。こいつは本当に、優しすぎるのが玉に瑕なんだよな。

「ほれ、いくぞ。早くしねぇと日が暮れちまう」

「分かった。さぁ来い」

 膝元へのトスを、久保は難なく捉える。打球がネットを突き刺す「バシッ」という音の激しさに、思わず息を呑んだ。やっぱりな……と、胸の内でつぶやく。

「どんどん行くぞ。コースは予告なしでいいな?」

「もちろん。どこでも来い」

 あっという間に一籠が空になる。ボールを拾い集めながら、久保が「どうだった?」と尋ねてきた。

「どうだったも何も……さすがだな、としか言いようがねぇよ」

 お世辞でなく、率直に答える。

「この練習、コースに投げ分けられても対応できるためのものだろ。その成果、さっきの練習試合でちゃんと出てたじゃないか。特に第一打席、外角のカーブに体勢を崩されながらも、おっつけて逆方向へ。相手バッテリー、面食らってたぞ」

「でも、イガラシ。おまえはやっぱり凄いな」

 肩をすくめて、久保は言った。

「高校初登板の試合で、いきなり五回零封。打っては二試合連続ホームラン。同学年としては悔しいけど……やっぱりモノが違うんだなと、正直思ったよ」

「……じゃあ、俺も正直言うけどな」

 ボールをすべて籠に仕舞い終えると、イガラシは体育座りの姿勢になった。

「おまえが進学先に墨高を選んだと聞いて、正直……かなり安堵した」

「えっどうしてだよ」

「久保、おまえを敵に回したくなかったからだ。覚えてるだろ、あの和合戦。逆転の口火を切ったのは、おまえの三塁打だ。あれがなければ、俺と近藤の同点打、逆転打もなかった。つまり、おまえがいなければ、墨谷二中の優勝はなかったというわけさ」

 久保も手前にしゃがみ込む。何だか不思議そうな表情を浮かべている。こいつ自覚がねぇんだな、とイガラシは可笑しかった。

「残念だったよな、久保。同学年に俺がいなければ、墨谷二中の四番は間違いなく、おまえだったのによ」

 わざと露悪的な言い方をしたのに、久保は生真面目に考え込む顔になった。

「いや……俺より、一学年下の近藤だろ」

「近藤? 冗談だろ。あいつは、変化球がからっきしだ。おまけにムラっ気も多い。それに比べたら、いや比べるまでもないが。おまえはミート力に優れているし、長打も打てる。ついでに……言うのは癪だけど、おまえの方が俺よりも人望がある」

「そ、そんな……照れるなもう」

「何が言いたいかというとな、久保」

 立ち上がり、イガラシはきっぱりと言った。

「おまえは俺が知る限り、三本の指に入るスラッガーだ。練習試合でちょっと結果を残したくらいで、まさか満足なんてしてねぇよな」

 つい、ふふっと笑みがこぼれる。声をひそめて、短く告げる。

「何なら……俺とおまえで墨高のクリーンアップ、乗っ取ろうぜ」

「倉橋さんと谷口さんを、下位に回してか? ははっ。それも面白いな」

 相手のこちらを見上げる眼差しに、僅かながら挑むような色が浮かぶ。ああ、分かってるよ……と、うなずく。

 分かっている。ただ優しいだけの奴が、全国優勝チームの三番を担えるわけがない。

「なぁ、久保」

 わざとおどけた口調で、さらに付け足す。

「このチームで、もし甲子園へ行けたとしても……俺は満足しないぞ。分かってんな?」

「……全国制覇、か」

 吐息混じりに、久保は答える。

「イガラシが言うと、本当に実現できそうな気がしてくるから、不思議だよな」

 ああそうか、と胸の内でつぶやく。

 俺、人を“その気にさせる”才能は、あるのかもしんねぇな。中学の時も、あれだけ過酷な練習を課したにも関わらず、結局みんな付いてきてくれたし。まぁ、これはたぶん……谷口さんの影響だろうけど。

「それはそうと、イガラシ」

 ふいに久保が、怪訝げな目を向けた。

「おまえ……どうして今日、ずっと浮かない顔してるんだ」

「ん、そうか? 相手が弱すぎて、これじゃ物足りねぇな……とは思ってたけど」

 ぎくっとする。こいつ油断なんねぇな、さすが元三番。

 「それより……まだ足んねぇだろ? もう一箱いくぞ」 

「あ、ああ。頼む」

 再び屈み込んで、箱の中のボールを手に取る。トスを上げると、小気味よく打ち返される。それが幾度も幾度も、繰り返される。

 ふいに、湿り気を帯びた風が、頬の辺りを走り抜けていった。今年は、梅雨の到来が早まるらしい。それまでに片付けなければならない課題が幾つもあると、イガラシは危機感を募らせた。

 

「ボール、フォワ!」

 アンパイアを務める半田の、いつになく雄々しい声が響く。

「よしっ。選んだぞ」

 バットを放り、横井が一塁ベースへと駆け出した。その後ろ姿を追いつつ、マウンド上の松川が渋い顔をしている。

「いい粘り方だったぞ、横井」

 三塁ベース手前から、谷口が声を掛ける。

「みんなも今の横井の打席を、よく頭に入れておくんだ。ツーストライク取られた後も、カットして粘り続ける。そうすれば、いずれ相手はしびれを切らす」

「そうだぞ、みんな。“ファールは何球打ってもいい”からな」

 谷口の指示に、横井が乗っ掛かるように言うと、すかさずキャッチャーの倉橋が「ばかっ」と突っ込んだ。

「三球目と五球目の甘いコースをファールにしちまったのは、完全なミスショットだ。四球は結果オーライだぞ」

「わ、わーってるよ。何も後輩の前で言うことないじゃねぇか」

 一転して、横井は唇を尖らせる。

 大勝した練習試合から、四日が過ぎている。平日の練習メニュー自体は、従来と同じ内容だったが、フリーバッティングとシートバッティングの際に「ツーストライク」までは見逃すという、日曜日の二試合と同様の制約が付けられた。

 狙いは、ストライク・ボールの際どいコースの見極め、さらにツーストライクと追い込まれた後の対応力を身に付けるためである。

「辛辣ですね」

 ネクストバッターズサークルで素振りしながら、イガラシは笑って言った。

「ちょっと心配してんだよ」

 軽口のつもりだったのに、思いのほか生真面目な顔で返答される。

「横井の奴、このところスイングに思い切りがなくなってきている。振り抜くんじゃなく、どちらかというと当てにいくような感じだ。その分、さっきのような打ち損じが増えてしまっている」

「……えっ」

 かなり深刻な表情を浮かべてしまったらしい。倉橋に「どうした?」と問い返される。

「何でおまえが、横井のことを気にする。これはアイツの問題だ。一年坊は、まず自分が結果を出すことを優先して考えろ。ほれ、次はおまえの番だぞ」

「ど、ドウモ……」

 苦笑いを返して、イガラシは打席に入った。

 一球目、内角低めいっぱいに直球が決まる。二球目は一転して、外角にカーブが投じられる。これは僅かに外れて、ワンストライク・ワンボール。

「松川さん、カーブの切れが増してきましたね」

 吐息混じりに、イガラシは言った。

「“制約”がなければ、手が出ていたかも」

「ほぉ。辛口のおまえさんが、松川のことを認めるとはな」

「以前、痛い目に遭いましたからね」

 それと、倉橋さんのリードにも……後に続く言葉を飲み込み、バットを構える。

 三球目。今度は膝元、内角低めいっぱいにカーブが決まる。さすがに驚いた。カーブのように曲がりの大きい変化球をコントロールするのは、容易な技ではない。それを、最も精度が求められる内角低めに決めてくるとは。

「た、タイム……」

 いったん打席を外し、数回素振りしてみる。

 さすがだな、松川さん。気を抜いたらやられる。けど……俺も、そう易々と打ち取られるわけにはいかねえ。

 四球目は、直球を投じられた。外角低め、しかし僅かに外れる。松川が一瞬、景色ばむ。

「手が出なかったか?」

 低い声で、倉橋が問うてくる。

「いえ。ボール半個分、外れてましたよ」

「確信を持って見逃したのか。さすがだな」

 微かな舌打ちが聴こえた。バットを構え、肩の力を抜き、マウンド上を凝視する。

 五球目――真ん中低め、直球の軌道だったが、スピードが抑えられている。これはもしや……と思った瞬間、ホームベース手前で沈み込んだ。

 咄嗟に、バットを払うように差し出す。芯で捉えた手応えがあった。低いライナー性の打球が二遊間を破るのを見届け、イガラシは一塁ベースへと駆け出す。

 ベースを踏み、そのまま二塁へと回りかけたところで、外野から返球される。

「やられたな、松川」

 マスクを脱ぎ、倉橋が苦笑いを浮かべた。松川が「はい」と、悔しさのにじむ眼差しをこちらに向ける。

「密かに練習していたフォーク、試すには絶好の相手だと思ったんですけど。まさか初見で捉えられてしまうとは」

「気にすることないですよ」

 一塁ベース上から、イガラシはおどけて言った。

「普通なら三振ですよ。今回は、相手が悪かっただけです」

「こらイガラシ、またそんな憎まれ口を」

 倉橋が軽く睨む。

「いいんです。イガラシ……ちょっといいか」

 そう言うと、ふいに松川がマウンドを降り、こちらに歩み寄ってきた。怒らせてしまったと思い、少し焦る。

「あ……スミマセン松川さん、言い過ぎちゃいました」

「何が? あぁ、今の打席のことじゃない」

 真顔のまま、松川は首を横に振った。

「どうした松川」

 谷口が小走りに寄ってくる。

「キャプテン、大丈夫ですよ」

 イガラシはそう言って、谷口を制した。

「今の打席のことで、俺に聞きたいことがあるそうです。確認した上で、次の打者に投げたいそうなんで……谷口さん、ちょっと投げててもらえませんか?」

「あ、ああ……それは構わないが」

 やや訝しげな目を向けながらも、谷口は松川の降りたマウンドへと向かった。

「スミマセン」

 いったんフェアラインの外側に出ると、そこに松川が駆け寄ってきた。

「どうしたんですか、一体」

 小声で問うてみる。

「練習を中断させてまで。何か気になることが?」

「ああ……これはまだ、倉橋さんや谷口さんには言いづらくて、おまえだけに話すから、そのつもりで聞いてくれ」

 思わず「はい……」と、深くうなずく。真面目で練習熱心ではあるが、どこかのんびりとした雰囲気のある松川にしては、いつになく力の籠った話しぶりだ。

「さっきの、おまえの前、横井さんにしてもそうだが、この“制約”を設けてから、みんなのバッティングにどこか迫力が感じられないんだ」

 束の間、イガラシは言葉を失った。漠然と不安に感じていたことを、ずばり言い当てられた格好になる。

「……具体的に。どこが、というふうに言えますか?」

 やっと言葉を絞り出し、尋ねる。

「そうだな……横井さんが分かりやすいんだけど、やっぱり振るんじゃなく“当てにきている”感じなんだよ。以前はフリーバッティングでも、甘いところにいけば一発で仕留められる怖さがあったんだ。それが、このところ全然」

「松川さんがレベルアップして、前よりも簡単には打てなくなったんじゃ。これ、お世辞じゃなく……フォークよりも、その前のカーブに驚きました」

「ありがとよ。けど……どうも、そう単純な問題じゃない気がして」

 イガラシも経験していた。投手として相手打者と対した際、何となく肌に伝わる感覚。これは案外重要で、投球にかなりの影響を及ぼすことさえある。

 松川も投手。しかも、昨年からチームメイトに対して、何百球も何千球も投げ込み、ナイン達の“打者としての力量”を誰よりも把握している人物の一人である。当然、これは無視できない意見だ。

「松川さんの言いたいことも、分かるんですけど」

 十分に理解した上で、あえて問い返してみる。

「でも、この練習……まだ始めたばかりですし。今までツーストライク分の猶予があったのが、いきなりワンストライクで勝負せざるを得ない状況になったんですよ。よほどチカラのある打者でない限り、すぐ思い切りよく振るのは難しいんじゃ」

「分かってる」

 意外にも、松川はあっさり答える。

「だから、今はおまえにだけ話すんだ。全員がこの練習の影響を受けているわけじゃないし、レギュラーの上位打線……丸井と島田、倉橋さん、谷口さんは、上手くできているわけだし。一年生でも、イガラシのように難なくこなしている奴だっているもんな。他のメンバーも、もう少し時間が経てば対応できるようになるかもしれない。ただな」

 一呼吸置き、吐き出すように言った。

「ただ……これは俺の個人的な意見だけど。この練習は、元々チカラのある打者には有効だが、そうじゃない奴には、あまり効果がないのかもしれないって」

「おおいっ、何そこで油売ってるんだ」

 振り向くと、丸井が息を弾ませながら立っていた。練習用ユニフォームが泥だらけになっている。

「……丸井さん、今までどこにいたんですか」

「どこって、グラウンドの反対側でノックを受けていたんだよ。今週から、守備練とバッティング、半分ずつに分かれて交代で行うメニューだろう。ボケてんのか、イガラシ」

「ドウモ……実は、松川さんがフォークをマスターしたんで、俺も教えてもらおうかと」

「なにっ本当か。よし、後で俺が打席に立って、どれほどのモノか試してやる。いいな松川、覚悟しろ」

「……お、おぅ」

 丸井さんが単純で助かったよ。イガラシは、ひそかに吐息をついた。

 その時、こちらに駆けてくる影が視界に入ってきた。「オオイ」と叫ぶ、野太い声。田所だ。すかさず、谷口が「集合っ」と部員全員を呼び集める。

 ホームベース付近まで来ると、田所は膝に手をつき、息を切らしながら「あ、あのよ……」と息切れ声を発する。谷口が、苦笑いして言った。

「息を整えてからで大丈夫ですよ」

「す、すまねぇな……ゼイゼイ」

 何とか呼吸が落ち着くと、田所は頭を上げ、問うてきた。

「おまえら……招待野球のこと、聞いたか?」

「招待野球? あぁ、毎年大型連休の時期に他府県の強豪一校を招いて、都内の上位三校と対戦するイベントですね」

 谷口が答えると、田所はさらに続けた。

「この件、部長が何か言ってたか?」

「いえ、何も」

「あらっ。野球のことは、相変わらずのんびりしてんなぁ。あの部長先生」

「別に言われなくても、偵察の予定ぐらい組んでありますよ。谷原始め都内の上位三校が出場するんですし、絶好の……」

「その“上位三校”のうち、一校……川北が辞退したんだよ。主戦投手が故障から癒えてなくて、今回は勘弁して欲しいってことだったらしい」

「川北が? あれだけの名門なら、エースの代わりになれそうな人材なんて、いくらでもいるでしょうに」

 丸井が首を傾げると、倉橋は「どうスかね」と苦い顔で言った。

「そもそも……“主戦投手が故障”という話自体、あやしいですけどね。ライバル校にチームの仕上がり具合を知られたくなくて、もっともらしい理由をでっち上げたんじゃ」

「なっ名門校が、そんな嘘付いていいんですかっ」

「そうムキになるなよ、丸井。名門校だからこそ、それぐらいのことは平気でやるさ。特に、今年は……“あの”谷原がいる」

 聞くところによると、倉橋は川北高野球部に、何人も知り合いがいるらしい。そのツテで、以前練習試合を組んでもらったこともあるそうだ。その倉橋が言うのだから、真実味のある話だとイガラシは思った。

「いずれにしろ、川北が辞退したということは……今年は谷原と明善の二校だけ出場するということか。まっ俺達には何の関係もない話だ」

 横井がのんびりとした口調で言うと、田所は「ばかっ」と怒鳴った。

「それが、大ありなんだよ。都の高野連としても、わざわざ招待する相手に二試合だけなんて失礼なこと、できやしない。かといって、他のシード校は、大型連休の時期になると遠征で各地へ飛び回っている。そこで」

 しばし間を置いて、田所は告げた。

「何と、唯一遠征の予定のなかった墨高野球部が、繰り上げで出場することになった」

 四方八方から「何だって?」「マジかよ」と驚きの声が飛び交う。

「……それで、相手は?」

 谷口が恐る恐るといった口調で尋ねる。田所は「聞いて驚くな」と前置きしてから、震え声で答えた。

「今年の招待校は……春の選抜で、谷原を破って優勝した、大阪の西将(せいしょう)学園だっ」

 

次回<第10話「天秤に掛ける」の巻>へのリンクは、こちらです。

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第1話~第8話へのリンクは、こちらです。

 

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