南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

<考察>谷口はなぜ、丸井を後継キャプテンに選んだのか――ちばあきお原作『キャプテン』『プレイボール』関連コラム①

 漫画『キャプテン』ファンの間で時々話題になるのが、丸井はなぜキャプテンに指名されたのかということ。

 

 作中、丸井のキャプテンとしてのデビューは、散々なものだった。新入部員だった近藤が、(一年生にしては)傍若無人な態度を取ったことが原因とはいえ、大勢の部員の前で激高して近藤を殴りつけてしまい、イガラシに「あれが人の上に立つ者の態度か!」と一喝されている。

 

 その後も、選抜の初戦敗退を近藤一人の責任にしてしまい、部員達から「キャプテン不適格」と言われてしまう(すぐ撤回されたが)など、キャプテンとしての資質には、いつも疑問符がつきまとった。

 

 では、そんな丸井に、谷口は何を期待してキャプテンに指名したのか。

 

 例えば、自分を誰よりもリスペクトし、慕ってくる丸井のことが、谷口は可愛かったから?実際、谷口は丸井をレギュラーから外した後も、青葉戦に向けての対策練習について、丸井に相談を持ち掛けている。

 

 しかし、谷口の愚直な性格からいって、そういう“政治的な臭い”は感じられないし、そもそも『キャプテン』の世界観にふさわしくない。もちろん作品設定の都合上、などと野暮なことは言うまい。

 

 まず言えるのは、丸井が谷口や後のイガラシと同様、大変な努力家だということ。

 

 谷口の陰に隠れがちだが、丸井自身も大変な努力家であることは、イガラシに代わりレギュラーを外れた後、一人で黙々と練習し、青葉戦で快打と好守備を連発したという描写から、明らかである。

 

 ただ……努力家ということだけでは、まだ弱い。連日の猛練習に耐えていたのは、彼以外のナイン達も同じだからである。丸井の“努力”が、他と比べ明らかに秀でたものがあったからこそ、谷口は自分の後継に選んだのだ。

 

 では、その“秀でたもの”とは何か。それは――すなわち「逆境時に努力できる」ということ、ではなかったか。

 

 努力は確かに苦しいものだ。それでも、目の前に希望がある、つまり「努力すれば“良いことがある”」とさえ思えば、普通の人は努力する。

 

 しかし、逆境にある時、それでも懸命に努力を続けられる者は、そういない。

 

 ところが、丸井はどうだ。前述の通り、力のある一年生にレギュラーを奪われてなお、谷口さえ舌を巻く“影の努力”で、見事なレベルアップを果たした。

 

 さらに、選抜大会の初戦で敗れた直後、他の出場校に練習試合を申し込んでいる。この姿勢は、彼のいないミーティングで「キャプテン不適格」の決定を下した部員達を改心させるきっかけとなった。

 

――おれたちは丸井さんのことをどうのこうのいったがよ。チームのこれからのことを考えたやつが、おれたちのなかにいたか?(byイガラシ<『キャプテン』文庫版第4巻「絶体絶命」の巻>より)

 

 さらに墨谷二中卒業後も、一度は墨谷高校に不合格となりながら、朝日高校の軟式野球部で力を蓄え、後に編入で墨谷へ入学するという努力家ぶりを発揮している。まさに“逆境に負けない男”の面目躍如だ。

 

 感情的になりやすく、すぐ頭に血が上る反面、涙もろい。この不器用な男は、確かにリーダーとしての適性は、あまり高くないのかもしれない。

 

 しかし、ただ一点……「逆境時に努力できる」ということ。この部分において、丸井は墨谷ナインの中で大きく秀でており、それを認めたからこそ、谷口は彼をキャプテンとして選出した。

 

――おれはなんの能もないキャプテンだったけど、おまえたちが見せてくれたように、おれなりのことを見せてやるぜ。(地区大会決勝・青葉学院戦<『キャプテン』文庫版第5巻「さよならホーマー」の巻>より)

 

 このように、谷口やイガラシと同様、丸井も墨谷二中のキャプテンとして恥じない、立派な男だったと言えるのではないだろうか。

 

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