南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

<考察>墨谷のライバル校・ランク別分析――ちばあきお原作『キャプテン』『プレイボール』関連コラム⑥

 以前のエントリーにて、甲子園初出場を目指す墨谷にとって最大の障壁になると目される谷原にも、意外に分かりやすい隙があるということを指摘した。

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  しかし……東京都大会が、墨谷にとって“茨の道”であることに変わりはない。谷原以外にも、手強いライバル校は幾つか挙げられる。さらに、様々な背景を勘案すると、ある意味で谷原よりも厄介な存在になりそうなチームもある。

 

 そこで、今回は墨谷が過去に対戦したライバル校について、ランク別にその“強敵度”を分析してみた。

 

ランクC:今や“恐るるに足りず”

ランクB:強敵だが、十分勝てる

ランクA:勝てるかどうかは五分五分

ランクS:大苦戦は必至

 

 

ランク:今や“恐るるに足らず”

 

大島工業

<分析>強力打線、と言うほどか……?(笑)

 原作を読む限り、確かに各打者ともパワーはありそうだが、何というか格下相手には強いが、少しでも投手のレベルが上がるとさっぱり、というタイプのチームに見える。

 どちらかというと、投手力を警戒すべきかもしれない。

 何しろ、事前に偵察し十分対策を練りながら、結果的に初回の二点のみに抑えられたのである。とりわけインコースにあれだけコントロールされたシュートを放れるというのは、結構レベルの高い投手だ。

 もっとも、墨谷を「完封できるほど」のレベルかと問われると、微妙なところだ。前年の主戦投手は、立ち上がりが悪いという弱点があり、そこを突いて二点を奪った。下級生にそれを上回る投手がいるという描写はないので、(スーパー一年生でも入部してこない限り)何点かは取れるはずだ。墨谷の投手層の厚さから見て、三点取れれば安全圏だろう。

 

聖陵

<分析>シード校クラスにしては投手力が弱い

 谷口二年時の対戦でも、反則すれすれのプレーで何とか七回まで持ちこたえられたものの、もし序盤にアンパイアから「走塁妨害」を告げられていたら、当時の主戦投手・岩本はもっと早く墨谷打線に打ち崩されていた。さらい、二番手の木戸はマウンド上で泣き出してしまうほどの弱メンタルだから、とうてい彼では止めようがない。

 さらに、頼みの打線にしても、二番手の谷口には抑えられてしまった。松川のように 速球主体の投手には強いようだが、谷口のように変化球とコントロールを武器とする“技巧派”には弱いということが伺える。

 そしてこの夏、墨谷にはもう一人の技巧派投手が入学した――そうイガラシである。多彩な変化球を操るイガラシには、格好の“カモ”ではないか。

 谷口とイガラシの投手リレーで聖陵打線を封じ、木戸を序盤で攻略すれば、下手すれば墨谷のコールド勝ちという結果もあり得ると思う。

 

 

ランク:強敵だが、十分勝てる

 

川北

<分析>ロースコアの展開に持ち込めれば……

 都大会の上位常連校ということから、やはり実力校と見るべきである。

 ただ、イメージほど打力はないように思える。練習試合で対戦した際には、初回こそ(当時さほど球威のなかった中山を打ち込み)九点を奪ったものの、谷口がリリーフ登板し、倉橋のリードにより各打者の苦手コースを突かれるようになってからは、打球を詰まらされていた。初対戦時と比べ遥かに投手層の熱くなった墨谷から、そう点を取れるとも思えない。

 また、最終回には次期主戦投手候補・小野田がタイミングを合わされ、墨谷に二失点を喫している。もう少し事前のデータがあれば、さらに早い回で攻略される可能性もある。

 おそらく、谷口と松川の投手リレーさえ上手くハマれば、焦ってくるのは川北だ。ロースコアの展開に持ち込み、競り勝つというイメージが持てる。

 

 

専修館

<分析>投手力に不安も、強力打線に要警戒!

 こちらは、最後まで「ランクA」にするべきかどうか迷った。

 警戒すべきは、やはり打線。同じシード校である三山の速球派投手をフルスイングで捉え、三回コールドで粉砕するほどの破壊力である。前年夏も、二点に抑えられたのが“奇跡的”とさえ思えるほど、最後まで谷口を苦しめ続けた。

 不安は投手力。二番手投手であり、新チームの主戦投手(となるはず)の加藤は、一時捕まり掛けた百瀬をリリーフしたものの、墨谷打線に委縮し、あっさりマウンドを降りてしまう。そのイメージが残っていてくれたら、この加藤を攻略するのはさほど難しいことではないだろう。

 つまり、十分点は取れる。あとは、墨谷の投手陣が、いかに専修館打線を封じられるかに掛かっている。

 

 

ランク:勝てる確率は五分五分

 

谷原

<分析>作中最大にして、最強の敵!

 説明不要……と言いたくなるほど、間違いなく『プレイボール』における最強チーム。作中では、他にも大島工業や聖稜など強豪チームは登場するが、谷原は別格の存在。何せ、単に都内の幾つかある強豪の一つではなく、甲子園優勝を狙えるレベル、まさに全国でも指折りの野球名門校である。

 警戒すべき点を挙げればキリがないが、まず谷口に猛打を浴びせた打線。単にパワーがあるというだけでなく、フォークボールまで簡単に捉えている描写から、硬軟併せ持つ、実に厄介な好打者・強打者揃いだと分かる。

 一方、意外に隙がありそうなのが、投手陣。以前も書いたが、村井以外に主戦級の投手がおらず、その村井にしても、島田に「決してミートできない球じゃない」と言われてしまっている。こちらはしっかり対策を講じさえすれば、何とか攻略できるかもしれない。

 あとは谷原打線をどれだけ抑えられるか。三~四点以下に留められて、初めて勝機は見えてくるだろう。いずれにしても、厳しい戦いになることは間違いない。

 

明善

<分析>東実を撃破した“隠れた実力校”

「Aランク」に推す理由は、単に前年夏に墨谷を破ったからではない。

 意外と読み飛ばしがちなのだが……この大会で、東実は墨谷が聖陵を破った試合を偵察に訪れている。自分達が勝ち進めば、聖陵と墨谷の勝者と対戦する組み合わせだったからだ。しかし、それはならなかった。

 そう。何と明善は、東実を直接対決で下しているのである。この実績だけでも、警戒しなければならない。

 さらに、投手力。山本の言う“ナチュラルカーブ”を武器に、墨谷打線を零封した。単に墨谷が対策不足だったこともあるが、ナチュラルに変化する癖球というのは、変化の仕方が不規則で、そもそも対策がしづらい(東実もこれに嵌ったものと思われる)。

 加えて、守備の硬さ。反応が良いというだけでなく、相手打者を研究し、打球方向を想定したシフトを敷くこともできる。これは本来、墨谷が“格上相手”に得意としてきた戦法である。それを逆に相手にやられてしまった。こうなると、もう“お手上げ”だ。

 また見逃せないのが、メンタルの安定。大量リードを奪っていたこともあるが、最終回に「けっして手をゆるめるなよ」と味方に声を掛けたキャッチャーを中心に、最後まで冷静だった。他の対戦校が、終盤になり焦りとプレッシャーから感情を乱しがちだったのとは、対照的である。

 私が作中世界の新聞記者であれば、明善を“谷原の対抗馬”の一つとして取り上げる。それぐらい、墨谷にとって厄介な相手だと思う。

 

 

 以上!……では、ない。

 

 

 『プレイボール』及び『キャプテン』ファンの方であれば、忘れられないチームについて言及されていないことに、きっとお気付きではないだろうか。

 

ランク:大苦戦は必至

 

東実

<分析>“ライバル”の加入により、一気に厄介な存在へ!

 ブロック予選決勝時点の段階なら、「ランクC」以下である。

 元々投手力が弱い(谷口一年時の墨谷に二桁失点、翌年は明善に(おそらく投手陣が打ち崩されて)敗戦)上に、頼みの打線も谷口にまで完封を許してしまう。

 もはや東実は、墨谷の敵ではない……はずだった。

 しかし、“ある出来事”をきっかけとし、状況は一変する。言うまでもない、佐野の加入である。これは単に、“力のある投手が敵になった”というだけではない。

 佐野といえは、墨谷二中と過去三度に渡り激闘を演じた青葉学院の出身である。つまり彼がいることにより、谷口はもちろん、丸井やイガラシら、墨谷の主力選手に関する情報が筒抜けとなってしまうのだ。

 井口がいるから大丈夫? それなら話は簡単なのだが……思い出して欲しい。井口擁する江田川は、地区大会決勝で墨谷二中と対戦する直前、準決勝で青葉を完封している。その時のメンバーが、「佐野さんがいるから」と東実に進学したとしたら。

 そう……佐野の存在により、墨谷が得意とする“情報戦”において、ほとんどアドバンテージがなくなってしまうのだ。

 戦力的には、谷原の方が上かもしれない。だが、この東実との一戦は、ある意味で谷原戦以上に、墨谷にとっては厳しい戦いとなる。

 互いに手の内を知り尽くした者同士の一戦。墨谷の真価が問われるのは、むしろこの試合かもしれない。

 

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