<はじめに>
かねてより構想していたものの、なかなか取り組めなかった企画――「【私選】平成の沖縄高校野球名勝負ベスト10」。以前の<県大会編>に続き、いよいよ<甲子園編>である。
今回は、全10試合のうち第10~6位までの五試合を紹介することとしたい。
【目次】
- <はじめに>
- 第10位――機動力vsパワー。最強バッテリーvs強力打線。選抜4強チームを相手に、沖縄高校野球の底力を見せ付ける!
- 第9位――注目スラッガーの一振りに沈むも、最後の最後まで喰らい付く!
- 第8位――スーパーエリートvs離島の少年達。大会の優勝校を土俵際まで追い詰める!
- 第7位――トルネード左腕vsパワー打線。ウブな少年達が“戦士”へと変貌を遂げた一戦。ラストの“感動シーン”も必見。
- 第6位――“魔球”宜野座カーブ炸裂! 「二十一世紀枠」村のチームの爽やかな快進撃!
第10位――機動力vsパワー。最強バッテリーvs強力打線。選抜4強チームを相手に、沖縄高校野球の底力を見せ付ける!
<浦添商業 12-9 千葉経大附属(2008年選手権・二回戦)>
【短評】
相手の千葉経大附属は、選抜4強のハイレベルなチーム。とりわけ各打者のパワーには、凄まじいものがあった。
試合は、序盤から激しく動く。浦添商が集中打に機動力を絡めた攻撃で一挙5点を奪えば、千葉経大もその裏、ツーランホームランで食い下がる。
その後、浦商が一時10-2と最大8点の大量リードを奪うものの、千葉経大が七回裏に猛追。一挙6点を挙げ、ついに1点差へと迫る。しかし、相手の反撃を見事な中継プレーにより凌いだ浦添商は、直後の八回表に2点を追加し突き放す。
二本塁打を浴び9失点を喫したものの、そこからの浦商主戦・伊波翔悟の“気迫”が印象的。とりわけ最終回の連続三振は圧巻だった。
県全体のレベルとしては、この2008年が間違いなく過去最強だろう。何せ選抜、選手権と別のチームが、それぞれ4強以上まで勝ち進んでしまったのだから。まさしく沖縄高校野球の底力を見せ付けた一戦、そして大会であった。
第9位――注目スラッガーの一振りに沈むも、最後の最後まで喰らい付く!
<興南 4-5 関東第一(2015年選手権・準々決勝)>
【短評】
オコエ瑠偉擁する東東京の雄・関東第一に対し、二年生左腕・比屋根雅也を主戦とした五年ぶり出場の“新生”興南の健闘が光った。
この時の興南は、申し訳ないが県内でも図抜けて強い存在ではなく、どうしても2010年のチームと比べてしまい、技術的にも精神的にも、粗削りで未熟さが目に付いた。
ただ、そんなチームが甲子園の強豪相手に必死で喰らい付く姿には、胸を打つものがあった。九回表にオコエの一振りで突き放されるが、その裏一点差に迫る粘り。“新生”興南の可能性を見せ付けた。
唯一残念だったのが、この試合も含めた三試合で、応援歌『ハイサイおじさん』が演奏されなかったこと。『ハイサイおじさん』を演奏しなかったことが、最大の敗因だと私は思っている。試合の流れを引き寄せられず、好機に畳み掛けることができなかった。
第8位――スーパーエリートvs離島の少年達。大会の優勝校を土俵際まで追い詰める!
<八重山商工 6-7 横浜(2006年選抜・二回戦)>
【短評】
敗れはしたものの、痛快な一戦。地元・石垣島のメンバーだけで構成された八重山商工の“悪ガキ軍団”が、エリート揃いにして大会の優勝校・横浜を、土俵際まで追い込んだのだから。
安打数では、8対14と圧倒。大嶺裕太に代わってからは、強打の横浜打線をノーヒットに抑え込んだ。押せ押せだった八回の走塁ミスがなければ。あるいは、九回に三塁手の送球が少しでも逸れていれば……と、タラレバは尽きない。
後に明らかになったのだが、横浜の“名参謀”として名高い小倉清一郎部長は、この八重山商工を相当警戒していたらしい。「大嶺君が投げていれば1-5くらいで負けていた」と答えている。
横浜といえば、まさに選りすぐりの野球エリートを集めたチーム。特にこの年は、他校が戦慄するほどの戦力を備えていると専らの評判だった。
そんなスーパーチームに対し、ここまで紙一重の勝負を演じて見せたのである。これほど痛快なことがあるだろうか。
この試合には惜敗したものの、八重山商工の快進撃は止まらない。直後の春季九州大会を圧倒的な強さで優勝すると、沖縄県大会も制し、二季連続の甲子園出場。千葉経大附属を鮮やかな逆転で下すなど、沖縄勢として9年ぶりの夏2勝を挙げた。
第7位――トルネード左腕vsパワー打線。ウブな少年達が“戦士”へと変貌を遂げた一戦。ラストの“感動シーン”も必見。
【短評】
どうしても夏の報徳戦の印象ばかり強くなってしまうが、こちらも名勝負。
大会ナンバー1左腕・島袋洋奨に対し、持ち前のパワーで正面から対抗してきた日大三高各打者も見事。技の興南が集中打で5点を奪い逆転すれば、日大三も、2本塁打などで食い下がり、六回を終えて5-5とまったくの五分。
緊迫した展開の流れを変えたのは、十一回裏。日大三の送りバントを二度封殺した、島袋の見事なフィールディングである。最後は三振で締め、十二回表の猛攻へとつなげた。
日大三にしてみれば、ここは強気でフルスイングしても良かったかもしれない。自分達の持ち味を束の間忘れてしまったことが、相手に流れを渡す要因となった。
個人的には、興南の選手達がまさしく変貌を遂げた一戦だと思っている。
この試合、興南は5つの失策を記録。実はこれ、年が明ける前の彼らには、そう珍しいことではなかった。
秋季九州大会の準決勝・宮崎工業戦では、守備の乱れにより逆転を許し、決勝進出を逃している。島袋というスーパーエースを擁しており、かつ各打者とも優れた技術を有していながら、肝心なところで力を出し切れない。どこかウブな印象を拭えなかった。
この決勝戦でも、序盤に失策絡みで失点を重ねたシーンでは、そのウブさが顔を出してしまったと思った。しかし……厳しい局面を凌ぎ切り、勝ち切った彼らが、その後このような脆さを出すことは二度となかった。
言ってみればウブな少年が、戦士へと変貌を遂げた一戦である。
また、十二回裏二死より、興南の“苦労人”大湾君がサードのポジションに就いたシーンも、事情を知る関係者には感動的なシーンだった。
第6位――“魔球”宜野座カーブ炸裂! 「二十一世紀枠」村のチームの爽やかな快進撃!
<宜野座 4-2 浪速【延長十一回】(2001年選抜・準々決勝)>
【短評】
二十一世紀枠「宜野座旋風」の象徴的試合と言えるだろう。
パワーヒッター揃いの大阪代表・浪速の各打者が、宜野座の先発・比嘉裕の緩急を使った、いわゆる“宜野座カーブ”を駆使した投球の前にばったばったと仕留められていく様は、まさに痛快だった。
個人的に印象深いのは、十回裏に一死三塁という絶体絶命のピンチを迎えた場面。さすがにもうダメか……と思ったが、マウンドに集まった宜野座ナインは、笑顔を絶やさなかった。この笑顔が、彼らの大会における快進撃を後押ししていた。
このピンチを凌ぐと、続く十一回表。四番・山城尚悟の2点三塁打で勝ち越し。一連の流れは、カタルシス溢れるシーンだった。
準決勝では仙台育英に完敗するも、夏にはその仙台育英を逆のスコア(7-1)で下すという、またも痛快な番狂わせをやってのける。まさに“宜野座旋風”、「二十一世紀枠」村のチームが見せた、爽やかな快進撃だった。
※「その2」はコチラです!
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