南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

【準決勝・興南4-2美里工業(戦評)】美里工ナインの涙は、明日の彼らそして沖縄高校球児の歓喜へと変わる<2019年 選手権・沖縄県大会>

【目次】

 

 

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はじめに

 

 過去5年間の沖縄県大会において、最もハイレベルな試合だったと思う。

 

 個人的には、まず美里工業のチームとしての予想以上の成熟具合に驚かされた。大会通じて無失策を誇った守備といい、走塁といい、各打者のバッティング技術の高さといい、そしてバッテリーの相手の打ち気を逸らす配球といい、すでに全国レベルに達していた。

 

 さらに……その美里工を迎え撃ち、堂々と押し切った興南の力強さにも、目を見張るものがあった。

 

 正直、私は今まで、興南の現チームをあまり認めてこなかった。いや、もちろん主戦投手の宮城大弥を始めとしてポテンシャルの高さは買っており、今大会も優勝候補の筆頭だと目してはいた。

 

 しかし、1年生時からレギュラーを張っている選手が多いわりに、ここ一番で力を出し切れない“ウブさ”が目に付く。どうしても「これだけのメンバーが揃っていて、この程度の試合しかできないのか」と感じずにはいられなかったのだ。

 

 だが、この準決勝・美里工戦の彼らは、(美里工がどこまで食い下がれるかという視点で見ていたこともあるが)十分に“強い”と感じさせられるチームだった。

 

 大会前、興南は「甲子園で一勝するのが精一杯のレベル」だと思っていた。

 

 これは昨夏から変わらず、本ブログの昨年のエントリーにおいて「よく頑張った」という趣旨の記事を書いている。しかし……昨日の試合を見て「(甲子園でも)もう少し勝ち上がれるかも」と思い始めた。

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 前置きが長くなった。昨日の試合について、以下もう少し具体的にポイントとなった場面を振り返ってみることとする。

 

1.美里工業の“唯一の勝機”

 

 好試合ではあった。しかし、美里工ナインには酷なようだが……内容的には“興南のゲーム”だった。一試合通じて、ほぼ主導権は興南が握り続け、最後までそれを相手に渡すことはなかった。

 

 美里工に“勝機”があったとしたら――それは「初回」だったと思う。

 

 初回の宮城は、まだ制球が安定していなかった。そこで1点止まりではなく、もう少し畳み掛けられていれば、さすがに興南も焦っていただろう。

 

 もっとも並のチームなら、宮城の制球難に付け込むことさえできなかっただろう。美里工がそこまでのレベルに達していたからこそ、先取点を奪うことはできた。

 

 ただ……「勝つため」には、ここでさらに2点、3点と追加する必要があった。1点では、興南バッテリーの“虎の尾”を踏むだけになり、以後は明らかにギアを上げてきた宮城の投球に、打線が沈黙する。

 

2.やはり露呈してしまった、美里工の“勝負所での経験不足”

 

 初回だけでなく、美里工は「もう一歩詰められていれば……」という場面が、幾度となくあった。

 

 それが2失点目と、3,4失点目である。あれは外野手個人の判断ミスというより、打球がどこまで飛んでくるかという想定が、チームの中で徹底できていなかったことが原因と思われる。

 

 特に2失点と4失点目は、余計だった。ここで最少失点に凌いでいれば、まだ勝負は分からなかった。

 

 前述したが、美里工は今大会無失策。日々の練習で身に付けたものは、すべて試合において発揮していた。しかし……あのような場面での“想定”と“咄嗟の判断”は、強いチームと公式戦で戦った経験のあるチームでないと、なかなか身に付かない。

 

 言わば「勝負所での経験不足」が露呈してしまった格好だ。そしてこれが、夏の県大会2連覇中の興南との、小さいようで大きな“差”だった。

 

3.“相手と戦えるようになった”興南ナインの成長

 

 この試合、興南が「強くなったな」と感じたのは、きちんと“相手と戦えるようになった”ということ。

 

 相手と戦うのは当たり前じゃないか、と思われるかもしれない。しかし、必ずしもそうはならない。相手と対する前に、まず“自分のプレー”や“チームスタイル”を実行できるかどうかという問題がある。

 

 特に興南の場合、(良い悪いは別として)“戦術重視の野球”を展開しているから、チームの初期段階では「戦術を“こなす”のが精一杯」という状態になる。

 

 そのせいか、昨夏……いや昨秋辺りまで、興南は“長打が打てない”打線だった。「逆方向へのバッティング」を意識しすぎるあまり、思い切りよく振り切る余裕がなかったのだろう。これはバッティングだけでなく、走攻守すべてにおいて言える。

 

 しかし、今大会(正確には春季九州大会辺りから)の興南は違う。宮城と遠矢大雅の適時打は、それぞれ振り抜いたバッティングだった。何とか戦術を“こなす”段階から、「状況に応じて使い分ける」というレベルにまで達した証だろう。

 

 さらに、バッテリーの配球。

 

 二回以降、興南バッテリーは変化球を多投していたが、これは美里工打線の各打者が「変化球にタイミングが合っていない」と判断してのものだろう。これにより、準々決勝まで毎試合二桁安打を記録していた打線が、僅か4安打に抑え込まれる。

 

 また、七回裏に美里工各打者にタイミングを合わされていると見るや、バッテリーはさらに配球を変えた。きちんと相手を観察していないと、この判断はできない。結果として、一番プレッシャーの掛かるラスト2イニング、相手に反撃の糸口すら掴ませなかった。

 

4.興南を本気にさせた、美里工の“チカラと可能性”

 

 ただ、私は思うのだ。興南を文字通り“本気”にさせたのは、それだけ美里工のチカラを感じ取っていたからではないかと。きちんと相手の出方を見なければ、こちらもベストパフォーマンスを発揮しなければ、やられてしまう……と。

 

 先週、私は興南の主戦投手・宮城大弥について、「県内のライバルチームがいなかったことが彼の不運だ」という趣旨の記事を書いた。

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 宮城だけではない。興南の現レギュラーは、1年生時から試合に出続けているのだが、県大会レベルにおいて、自分達と志を同じくする(甲子園を“夢”ではなく、現実的な目標として捉えている)力量あるチームと対戦したのは、この美里工戦が初めてではなかったか。

 

 そう……彼らはようやく、自分達のチカラを高めてくれる“ライバル”と、最後の夏に出会えたのである。こう考えると、何だか感慨深いものがある。

 

 もう一つ、忘れてはならないことがある。

 

 美里工の現2年生は、昨秋の1年生大会において4強入りを果たしている。実力的には、優勝した沖縄尚学とともに、他校を一枚も二枚も上回っていた。

 

 収穫を手にしたのは、興南だけではない。強敵に食い下がり、それでも届かなかった悔しくも貴重な経験……それを美里工の新チームは、必ずや生かすだろうということ。“経験”だけが足りなかった彼らが、ついにそれを手にした。

 

 間違いなく、秋以降の美里工は、沖縄高校野球を引っ張っていく存在となる。

 

 昨日の美里工ナインの涙は、明日の彼らそして沖縄高校球児の歓喜へと変わる。そう遠くない未来に……

 

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