【目次】
はじめに
壮絶な死闘だった。間違いなく、後に語り継がれる一戦だろう。戦評を述べる際、幾らでもエモーショナルな言葉を紡いでいくことは容易い。
しかし……あえて、それは控えようと思う。
なぜなら、この試合が到達点であっては困るからだ。あれは“狼煙”である。低迷していた沖縄の高校野球が、ここから復活を遂げようとする“最初の狼煙”としなければ。
死力を尽くした選手達は、当然讃えたい。ただ一夜明け、冷静にこの一戦を振り返った時、胸の内に複雑な思いが過(よぎ)るのだ。
率直に言えば――勝った沖尚にしても敗れた興南にしても、双方に「物足りない点」や「惜しいと感じる点」が残る。
だから、繰り返すが「到達点」であっては困るのだ。とりわけ新チームに残る1,2年生の選手達には、昨日の一戦を“きっかけ”として、あるいは“教訓”として、これからもっと強くなるためのヒントを探して欲しい。
それ故、野暮なようだが……あえてシビアに分析を述べることとしたい。
1.宮城大弥が“2年生”だったら……
試合が決した後、私がまず思ったことは……興南の主戦投手・宮城大弥が今「2年生だったら良かったのに」ということ。
ある意味“負けても言い訳の利く”全国の舞台ではなく、県大会の段階で「同県のライバル校とギリギリの戦いを演じる」という経験は、間違いなくチーム……特に投手を大きく成長させる。
例えば東浜巨(沖縄尚学)は、2年生時から伊波翔悟擁する浦添商業と新人戦、春季大会、秋季大会と激戦を重ねていくことで、3年春の選抜優勝へとつなげた(これは伊波翔悟にとっての東浜と沖尚もそう)。
例えば島袋洋奨は、1年生時には選抜優勝の沖尚、2年生時には山川穂高擁する中部商業、今宮健太擁する明豊(大分)と戦い、全国のトップレベルを体感したことで、3年時の春夏連覇への下地を作れた。
では、宮城は? 残念なことに、彼は1,2年生の段階で「県内のライバルと鎬を削る」経験を得られなかった。3年夏になって、前日の美里工業、この日の沖尚と、ようやくライバルと呼べる相手に巡り会えたのだが……さすがに遅すぎた。
死力を尽くした彼を批判するつもりは、毛頭ないのだが……やはり勝負所で「経験値の不足」からくるミス、というより“隙”が、この一戦で露呈してしまっていた。
まず初回――4点は、取られ過ぎである。
この回、宮城はなかなか変化球が決まらず、直球を狙い打ちされていた。厳しい言い方をすれば、これは“準備不足”である。
なぜなら、沖尚は三回戦でやはり速球派の沖縄水産・国吉吹(いぶき)を攻略していることから、「沖尚が「ストレートに強い」というデータは入っていたはずなのだ。
事実、変化球が決まり出した二回以降は、沖尚打線を封じ込めている。立ち上がりが不安定なのは仕方ないにしても、せめて1,2点に抑えていれば、沖尚の先発投手も乱調だったため、もっと優位に試合を進めることができた。
さらに、六回表に許した「同点スクイズ」の場面。二塁への牽制球が相手走者に当たり、三塁への進塁されたことが失点につながった、またしても“余計な失点”である。
ミス自体を問題としたいのではない。
あれは、調子よく相手打線を抑えている時、投手はちょっとした“エアポケット”のような状態に陥りやすい。経験豊富な投手であれば、その辺りにも気を配れたのだろうが、宮城はそこまでの「想定」ができていなかった。
なぜ「想定」できなかったのかと言えば……これもやはり、ギリギリの試合での経験値の不足に他ならない。
これは宮城と興南の責任ではない。ここ数年は沖縄高校野球全体が低迷期にあり、県予選の段階では、一昨日のように「ちょっとしたミスが命取りになる」レベルの試合を経なくとも、九州大会や甲子園へ出ることができた。
以前のエントリー(↓)でも書いたのだが、県内のライバルに恵まれなかったことが、宮城と興南の不運だったなと、あらためて感じることとなった。
2.沖尚、待ち望んだ“全国レベルの投手”の登場
以前のエントリーにて「沖尚は全国レベルの投手がいれば、すぐに復活する」と書いたのだが、まさにその“全国レベルの投手”が、久々に登場した。
それが、三回からリリーフ登板の2年生右腕・永山蒼である。
変則気味のフォームから繰り出される、140キロ前後の速球。球速自体は驚くほどのものではないが、見た目以上に球威があるのだろう。興南の各打者が差し込まれる場面が目に付いた。
やや荒れ気味で球数が多くなるのと、変化球の精度はもう少し改善が必要だろうが、球威自体はすでに宮城を凌ぐ。最後はさすがに力尽き、同点打を許してしまったが、2年生の時点でここまで投げられれば十分だ。
3.あえて沖尚の“勝因”を挙げるなら……
どちらに転んでもおかしくない試合ではあった。ただ、あえて沖尚の“勝因”を挙げるとするならば……興南を「成長スピードで上回った」ということだと思う。
誤解なきように。興南の選手達も、1年生時から比べると成長はしていた。昨年、一昨年と彼らの試合を見続けてきたが、間違いなく今年のチームが一番強かったと思う。
ただ……沖尚の選手達の“成長スピード”が、あまりに凄まじかったということ。
言わば「若さの爆発力」である。高校野球には、時々このような現象が起こり得る。大したことないと目されていた選手が、チームが、何かのきっかけに豹変する。まるで別の存在へと生まれ変わる。
こういう瞬間があるから、高校野球は“面白い”のだ。
もう一つ付け加えるなら……月並みな言い方ではあるが、ここ数年の「悔しさをエネルギーに変えられたこと」だろう。
過去2年間、沖尚は甲子園どころか4強にさえ残れなかった。有望選手が集まらなかったのなら、まだ諦めもつくが、1年生大会では連覇を果たしているから、比嘉公也監督始めチーム関係者の葛藤は相当なものがあったと想像する。
しかし……何かの壁を突き破ろうとする時、悔しさは何よりのエネルギーとなる。負けの悔しさを知るチームは、ぎりぎりの状況になればなるほど、強い。
4.夏の甲子園大会以降の展望
迎える夏の甲子園大会――こう言うと叱られそうだが、今回の沖尚には、個人的にはあまり期待していない。
もちろん応援はするし、沖尚の選手達は本気で勝ちに行くだろうと思う。ただ状況的に、今回はまだ甲子園で勝つための“戦い方”は未整備だろうし、それを本大会までに完成させるのも、あまり現実的ではない。
それよりも、やはり全国レベルを体感し、夏の甲子園で勝ち抜くためのヒントを一つでも手に入れて欲しい。
また沖尚にとって、さらに幸運なのは……興南がなかなか巡り合えなかった県内のライバルチームが、彼らにはいるということ。甲子園だけでなく、秋季県大会それ以降の戦いで、レベルアップする機会が数多くある。
それが、1年生大会準決勝で熱戦を演じた、美里工業である。
この美里工と沖尚が、秋以降の沖縄高校野球を引っ張っていく存在となるはずだ。これに沖縄水産と興南が加われば、ますます熾烈な争いとなる。
沖縄高校野球、復活の狼煙上がる――今年の夏の沖縄県大会は、まさにその一言で総括される大会となった。
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