南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

※過去記事より【2013年・秋季九州大会決勝】沖縄尚学-美里工業<名勝負プレイバック> 

 

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1.はじめに

 

 先日、ある美里工業OBの方より、DMをいただいた。詳細を明かすことはできないが、当時の悔しさは今でも鮮明に覚えているとのこと。

 本人の胸中は察してあまりあるが、しかし沖縄高校野球の一ファンの立場からすれば、球児達がそれくらいの情熱を賭けていたという事実は、何とも嬉しいものだ。

 その彼とのやり取りがあって後、ワードの文書ファイルを開いてみると、スポナビ+時代に書いた記事のデータが出てきた。せっかくなので、ここに再アップする。

 奇しくも、今世代でも沖尚と美里工業は、夏の覇権を争うライバル関係である。現役の球児達の参考に……とまでは言わないが(笑)、沖縄県勢同士で九州の決勝を戦った、その激闘を振り返ってみたい。

 

2.過去記事から

 

【決勝戦】 沖縄尚学(沖縄) 4-3 美里工業(沖縄)

 

 間違いなく、今大会最高レベルの試合だったと思う。また同時に、「今までで一番強い相手」だとお互いに感じたのではないだろうか。

 

 沖縄尚学と、美里工業。両チームの選手達の個人能力、チーム戦術、体力、集中力、そして気迫……これらを総合的に見ると、やはり“沖縄2強”と呼ばれた彼らが、勝つべくして勝ったのだ。そのことを改めて実感させられた、秋季九州大会のクライマックスだった。

 

 この決勝戦のハイレベルさを、何よりも物語っていたのは――自分達の長所であったはずの部分で、双方とも思うように力を発揮できなかったことだ。

 

 まずは一回表。美里工が2番西蔵當祥の左中間への二塁打を皮切りに、沖尚の先発・山城大智に4連打を浴びせ1点を先制する。準決勝までの三試合で抜群の安定感を誇っていた山城が、初回からこれだけ集中打を浴びるのは、秋季県大会・九州大会を通じて初めて見る光景だった。

 

 山城本人の不調もあったかもしれないが、ここは美里工の“チームバッティングの徹底ぶり”を褒めるべきだろう。4連打の内訳は、いずれも「センターから逆方向」へ打ち返したものである。これが山城クラスの好投手に対してできるのは、日頃の練習からそういう意識を持って取り組んでいることの証だ。

 

 更に注目すべきは、美里工は駿足巧打の神田大輝・県大会で2本塁打を放った宮城諒大ら、各選手の能力も高いということだ。素質のある打者が揃うと、攻撃は「選手の能力任せ」になってしまいがちだが……美里工は能力の高い選手を擁しながらも、それに頼り切らないというところが強みである。

 

 しかし、沖尚もこのまま黙ってはいなかった。

 1点ビハインドで迎えた四回表、それまで好投していた美里工の先発・長嶺飛翔がやや制球を乱し、2つの四球で二死ながら一・二塁とチャンスを得る。そして迎えた7番伊良部渉太が、外角寄りにやや甘く入った変化球を見逃さなかった……打球はライト線を破る2点適時二塁打となり、沖尚が2-1と逆転に成功する。

 

 その後再逆転を許すが、八回裏にまたしても沖尚打線が底力を見せ付ける。

 この日はリリーフ登板だった美里工の主戦・伊波友和に対し、二死後に4番安里健が一・二塁間を破るヒットで出塁。続く5番上原康汰は、初球を左中間へ弾き返し二塁打となる。二死二・三塁とチャンスを拡げ、迎えた代打・金城太希が、今度はレフト線を破る2点適時打を放つ。

 二死無走者から一気の3連打、鮮やかな逆転劇である。

 

 今度は、美里工が計算を狂わされる番だった。

 彼らは今大会、本調子でないながら「要所での集中力・プレー精度の高さ」で相手を上回り、厳しい試合をモノにして勝ち上がってきた。これはチームバッティングと並ぶ、彼らの大きな武器だ。

 

 だが……そんな彼らとて、どうにもならない時がある。試合の要所で、相手に自分達を上回る集中力・プレー精度を発揮された場合だ。

 

 美里工が今大会で初めて対戦した、「要所での集中力・プレー精度の高さ」の部分でも自分達と互角以上の相手――それが、同県のライバル校・沖尚だったのである。

 

 それにしても、日南学園戦・安里健の先制2点本塁打や波佐見戦の四回・五回の集中打、そして美里工戦の四回・八回の逆転劇……今大会における沖尚の勝負強さ、甘い球を確実に仕留める“一振りの精度”の高さには、何か“凄み”さえ感じる。単に「打力がある」というだけなら、沖尚より上の強豪校は全国に幾らでもあるだろう。だが、それを勝負所で発揮できるかという点で、沖尚に匹敵するチームは数少ないと思う。

 

 また今大会の沖尚は、各選手の「技術面でのレベルアップ」にも、目を見張るものがあった。

 

 県大会まで、沖尚は変化球投手を苦手とする傾向が見られた。特に美里工との県大会決勝では、その弱点を突かれ、長嶺-伊波の投手リレーの前に僅か2安打に抑えられてしまう。まったく手が出ないというわけではないのだが、内外角の厳しいコースに決められると、強引に打ちにいって凡打に仕留められるシーンが目立っていた。

 

 だが、九州大会では見事にその“解答”を示すことができた。

 その兆しが見られたのは、波佐見戦だった。各打者がベース寄りに立ち、外角の変化球を逆方向へ打ち返す――このバッティングが形になり、変化球でかわそうとした相手投手陣から大量得点を奪った。続く鎮西戦でも、同様のバッティングでサイドハンド投手・須崎琢朗から13安打を放つ。

 

 美里工との再戦となった決勝では、更に「相手に外角へ投げさせる」工夫も見られた。逆転した八回裏、沖尚の各打者はラインの内側ギリギリに立ち、「内角を封じる」策に出る。

 

 前日の疲れからか、この日の伊波はやや制球にバラつきがあった。だから沖尚の内角封じに、美里工バッテリーは“痛い所を衝かれた”と思ったことだろう。結果として、それまで内外角へ効果的に投げ分けていた伊波が、この八回裏に限っては外角一辺倒になってしまう……そこに、沖尚打線が襲いかかった。

 

 試合はそのまま、沖尚が4-3で美里工を振り切った。苦戦の連続だった美里工に比べ、大会を通して安定したパフォーマンスを発揮した沖尚が、その分だけ僅かに上回ったという印象だ。

 

 逆に言えば、それ以外はほとんど差がなかったということである。次当たった時は、おそらく同じ結果にはならないだろう。現時点で、両チームは戦力的にも戦術的にも「ほぼ互角」と見るのが妥当だ。

 

 個人的には、ここまでハイレベルな攻防を見せられると……途中から、もうどっちが勝とうが良いじゃないかという気持ちにさせられた。

 

 他の都道府県に比べると人材の限られている我が県において、全国に通用するチームが同じ世代に2つも現れたということ。それ自体が素晴らしい快挙であるし、沖縄の高校野球ファンの一人として、こんなに誇らしいことはない。夏はどちらかが出られないということが惜しい気もするが、それも贅沢な悩みだ。

  

 最後に――秋季九州大会関連記事の締めくくりとして、言わせていただきたい。

ありがとう、沖縄尚学並びに美里工業関係者の皆さん! 来年の選抜大会、あなた方が甲子園の舞台で躍動する姿を見るのが、今から本当に待ち遠しい。

 

3.終わりに

 

 沖尚と美里工業。結果として、両者は大きく明暗を分かつこととなる。

 この県勢対決を制した沖尚は、その勢いのまま明治神宮大会で優勝。さらに、翌年の春夏の甲子園大会で、ともにベスト8へ進出を果たした。

 一方、美里工業は春の選抜初戦で、関東一高と好勝負を演じたものの、終盤の逆転負けで敗退。さらに、続く春九州で初戦コールド負けを喫すると、夏の県大会では準々決勝で浦添商業に惜敗(奇しくも神谷嘉宗監督の前任校である)。沖尚との最後の決着を付けることなく、無念の夏を終えることとなった。

 

 そして、昨年秋。1年生大会の準決勝で、両校は相まみえた。

 時は巡り、メンバーも違うのだが、当時を髣髴とさせるほと素晴らしい熱戦だった。沖尚はもちろん、敗れた美里工業にも大いに期待したのだが。

……美里工業野球部諸君、そろそろ「終盤の逃げ切り方」を覚えてくれ!(苦笑)。私はほうぼうに、「美里工がまた復活する」と言いふらしているのだが、そろそろ私の見識が疑われる(笑)。

 

 冗談はさておき、今年もこの二校による、素晴らしい熱戦を期待したい。