南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

【私選】2019年沖縄高校野球”隠れた名勝負”ベスト3(興南、沖縄尚学、沖縄水産、本部……)

 

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1.今後の沖縄高校野球における分水嶺!?

 

 怒涛の2019年が、幕を閉じた。以前の記事でも書いたが、昨年は沖縄勢の対外的な戦績は芳しくなかったものの、今後へ向けて新たな希望の光の灯り始めた一年でもあった。

 

 先日、Twitterで相互フォローいただいている沖縄高校野球情報局氏が、はてなブログにて「2019 沖縄高校野球ベストゲーム トップ3」と題した記事をアップされた。

okinawahbbaseball.hatenablog.jp

 非常に良記事なので、多くの方に読んでいただきたい(私も楽しませていただきました)のだが、関連して、私も似たような企画を考え付いた。

 

 題して――「2019年・沖縄高校野球“隠れた名勝負”」。

 

 こちらは試合内容だけでなく、ひょっとして沖縄高校野球における今後の分水嶺になるかもしれないという視点で、私も三試合を選んでみた。

 

 

2.発表! 2019年・沖縄高校野球“隠れた名勝負” 

 

その1:強力打線、沈黙!

 

―― 秋季県大会準々決勝<嘉手納1-0沖縄水産

 

 一昨年(2018年)の県秋季大会の優勝メンバーが数多く残る沖縄水産。夏ではライバル・沖縄尚学との直接対決に敗れたものの、やはりポテンシャルは高く、秋のシード校を賭けた新人大会にて、圧倒的な強さで優勝を飾る。

 

 続く秋季県大会でも、初戦から強力打線が威力を発揮。三回戦では、興南との“古豪対決”において、初回から毎回得点を挙げるなど10-2と粉砕。この時点で、誰もが(この大会で優勝した)打倒・沖尚の一番手と目したことだろう。

 

 ところが、そこに伏兵が立ち塞がった。

 

 迎えた準々決勝。嘉手納の先発・新垣の力投の前に、前の試合まで猛威を振るった打線が沈黙。僅か三安打に抑え込まれ、まさかの完封負けを喫してしまう。

 

 どうも沖水、技巧派投手に弱い印象があった。一昨年秋と昨夏、いずれも沖尚に一得点のみに抑え込まれているが、いずれも相手投手の変化球にうまくかわされていた。

 

 前述のように、沖水のポテンシャルは高い。

 

 ただ試合のステージが上がっていくにつれ、相手バッテリーに警戒され、なかなか甘い球を投げてもらえなくなる。簡単にストライクを取りにいって長打を喰らうより、結果歩かせてもいいからクサい所を突いていこう、という攻め方をされるのだ。

 

 そうなった時、ある程度“ガマン”というものが必要になってくる。このガマンができるかどうかという点こそ、沖水が“一新興チーム”に終わるのか、それとも古豪復活を果たすことができるのか。いずれかの分岐点だと思う。

 

 力をぶつけ合うだけが、野球ではない。相手に力を出させないようにすることも、また野球の一側面である(良し悪しは別として)。

 

 相手が「こっちの力を出させない」ような対策を取ってきた時、沖水はどうするのか。彼らの導き出す“答え”に注目したい。

 

 

その2:「勇気ある戦い」が呼び込んだ“21世紀枠”

 

―― 秋季県大会準々決勝<沖縄尚学5-3本部>

 

 昨年の沖尚は、覚悟を決めた――私にはそう見えた。

 

 つい最近までの彼らは、バッティングにおいては(良くも悪くも)個人の技量に任せているように見受けられた。

 

 そのため、一度火が付けば目の覚めるような快打を連発するが、ちょっと相手投手に合わないとサッパリというケースが多かった。一昨年の秋、沖水に準決勝でノーヒットノーランを喫したのは、沖尚打線の特徴からいって“必然”だと言えた。

 

 しかし……ひと冬越し、“復活”を掲げて夏の県大会に乗り込んだ沖尚は、それまでと別のチームになっていた。それまで見られなかった「逆方向へのバッティング」や、ツーストライク取られた後のねばり、いわば“泥くさい攻撃”を実行できるようになっていたのだ。その裏に、ライバル興南の絶対的エース・宮城大弥の存在があったであろうことは、想像に難くない。

 

 少々前置きが長くなってしまった……

 

 そんな沖尚を、昨年の秋季大会において最も苦しめたチームこそ、いま21世紀枠候補に残っている本部である(決勝の八重山農林は、八回までほぼ一方的な展開だった)。

 

 沖尚や興南に見られる“逆後方へのバッティング”は、少々乱暴に言えば「アウトコースを打つため」の方法である。

 

 甲子園レベルのピッチャーは、基本的にアウトコースへの真っすぐ、さらに変化球をベースとして攻めてくる。したがって、“逆方向へのバッティング”を身につけ、アウトコースを攻略することができなければ、甲子園大会での勝利はおぼつかない。

 

 だが……これにも“弱点”がある。すなわち「インコース」を攻められた場合だ。

 

 沖尚打線に対して、本部バッテリーは効果的にインコースを攻め、本来のバッティングをさせなかった。それが功を奏し、四回まで無失点に抑えた。

 

 インコース攻めの重要性については、昨年引退した名捕手・阿部慎之助ら多くのプロ選手が指摘している。が……これを実行するのは、そう簡単なことではない。

 

 まずコントロールが良くないといけない。少しでもずれれば死球、もしくはホームランコースになってしまうからだ。そして、なによりも勇気が必要である。強打者相手にも、逃げずに向かっていく姿勢。

 

 中盤以降は、地力の差が出て突き放されてしまった。それでも、強力打線に敢然と立ち向かった本部バッテリーの勇気は、讃えられるべきだと思う。彼らの勇気こそが、この好勝負を生んだ。

 

  この勇気ある戦いが評価されてのことだろう。県高野連は、九州大会出場の八重山農林ではなく、本部を21世紀枠候補に推薦した。そして、彼は最終候補の9校の中に残っている。これも彼らの勇気が呼び込んだと言える。今月下旬の吉報を待ちたい。

 

 

その3:スーパーエースの去った名門に、新星現る!

 

―― 1年生大会決勝<興南3-0沖尚>

 

 山城京平――この男の名を、県内の高校野球ファンは覚えておいてもらいたい。

 

 公式戦デビューは、秋季県大会の沖水戦。大勢が決まった後に登板し、一人だけレベルの違う投球を披露。

 

 そして直後の1年生大会にて、ついに本領発揮。ライバル沖尚との決勝では、5安打完封の快投。スーパーエース・宮城大弥の去った興南に現れた新星として、その存在を強く印象付けることとなった。

 

 速球は、すでにMAX143キロ。これだけでも魅力的なのだが、それ以上に山城を評価したい点は、彼の勝負強さにある。沖尚戦では、ピンチを背負ってもインコースを突く強気の投球。要所で三振を奪い、相手に傾きそうな流れを断ち切った。

 

 個人的には、かつて浦添商業にて夏の甲子園4強入りを果たした伊波翔悟とイメージがだぶる。気迫を前面に押し出した投球。どちらかといえば優等生タイプが多かった興南には、今まであまり見られなかったピッチャーである。

 

 ところで……この試合では敗れてしまったが、沖尚の粘り強さにも触れておきたい。

 

 結果は5安打完封なのだが、狙い球を絞って打ち返したり、ファールで粘ったりと、彼らも決して手をこまねいたわけではなかった。途中で一本出ていれば、試合は分からなかった(それをさせなかった山城が凄いとも言える)。

 

 興南と沖尚の双方に言えることだが、1年生の時点でハイレベルな力と力のぶつかり合い、神経を使う駆け引きを経験できたことは、今後に向けて大きい。この二チームが、ほどなく沖縄高校野球を引っぱっていくのだろうと予感させられる試合でもあった。

 

3.面白いトピック満載だった2019年

 

 振り返ってみると、2019年は面白いトピックが満載だった。

 

 スーパーエース・宮城大弥の“最後の夏”。復活の予感漂う沖水。その沖水を撃破し、一気に決勝へと上り詰めた沖尚の逆襲。そして迎えた、沖尚と興南の延長十三回の死闘。その沖尚と習志野の印象深い激闘。さらに本部、八重山農林、具志川の健闘。……

 

 夏の甲子園の勝利こそ叶わなかったものの、明るい材料がたくさん見られた。この一年が、沖縄高校野球復活の狼煙となることを期待しつつ、本稿を閉じることとする。