ノンマルトの伝言【後編】ーウルトラセブン第42話「ノンマルトの使者」後日談ー
<主な登場人物>
モロボシ・ダン:かつて地球防衛軍の精鋭部隊・ウルトラ警備隊及びMACにて、多大な功績を残す。その正体は、光の国・M78星雲より遣わされた平和の使者・ウルトラセブンである。今回は、殉職したMAC隊員の墓参りと、“ある謎”を探るために地球を訪れた。
ハヤタ・シン:科学特捜隊の元隊員にして、現地球防衛軍の長官を務める。かつてウルトラマンと一心同体となり、地球の平和のために戦った伝説のヒーローである。
1.明かされた真相
翌日の午後。二人は、都内某所にあるカラオケボックスの一室で落ち合った。部屋は防音壁で作られており、密談するには最適だ。
「焚きつけている者がいる、ですって?」
ダンが、驚愕の声を発した。
「ええ。あの青年は、ガイロスを操ったのではないそうです。どうやら別の誰かと協同していたのが……経緯からして、段々と主導権を奪われつつあるようだ」
そう言って、ハヤタはウーロン茶を一口飲み下す。
「誰かというのは、彼らの種族内における、もっと上の存在ということですか?」
「そうかもしれません。ただ私が気になっているのは、先にキャッチした宇宙からの侵入者の情報です」
「ああ、例の……彼が伝えてきた」
ダンの相槌に、ハヤタはうなずく。
「ソイツがあの青年を唆して、隠密に動き回っているとしたら……ちょっと面倒です」
その時、ふいに部屋のドアがノックされた。
「あ……僕が、出ましょう」
ドアを開けると、そこには二十歳前後の若い女性、そして父親らしき五十歳前後の男性の二人が立っていた。ダンはてっきり、部屋を間違えたものと思った。
「おや。待ち合わせの部屋が、探せないのですかな?」
ところが女性は、間髪入れずにこう答えた。
「モロボシ・ダンさん。それに後ろの方は、ハヤタ・シンさんですね?」
驚いて、ハヤタと目を見合わせる。このカラオケボックスにいることは、誰にも伝えていない。それに二人とも、偽名を使って部屋を利用していたのだ。
「……そうだが、あなた方は?」
「屋敷にて、我が一族の長が待っております。是非とも、お二人に話したいことがあると」
何やら有無を言わせない雰囲気だ。
親子(?)に言われるまま、二人はカラオケボックスを出た。すると店先には、黒の高級リムジンが横付けされている。
「これは随分、用意がいいのですね」
ダンの冗談めかした一言に、親子はニコリともしない。ハヤタが苦笑いして肩を竦める。
それからリムジンで三十分ほど走り、やがて郊外へと出た。さらに十分ほど過ぎると、まるで武家屋敷のような建物が見えてくる。
ほどなく車はスピードを緩め、建物の裏手に停まった。
「こちらでございます」
女性の声と同時に、扉が開けられる。どこから現れたのか、使用人らしき複数の男女がそこに立っていた。二人がリムジンから降りると、なぜか丁重にお辞儀してくる。
屋敷に上がると、さっきの若い女性に先導され、廊下の奥まで案内される。その突き当たりに襖があった。
女性は正座して襖を開け、二人を「どうぞ中へ」と促す。
そこは広さ四畳半程度の、座敷になっていた。障子張り、さらには壁の掛け軸。一般的な和室の造りだ。
「不躾にお呼び立てして、かたじけない」
声に呼ばれ、二人は前方を見やる。紺の作務衣を身に纏った老人が、座布団の上で胡坐をかいていた。すでに九十歳を超えていそうな風貌だ……もし彼が、人間であれば。
「……ふむ、さすがに慧眼ですなぁ」
見かけよりも若い声が発せられる。
「二人とも、ワシらが人間でないとすぐ見抜いたようだ」
「ええ、とっくに」
ハヤタは険しい眼差しで言った。
「どういうつもりで我々を呼びつけたのか、まず教えてくれませんか」
その時、ふと視線を感じた。ちらっと背後を振り向き、二人はぎょっとする。いつの間にか、異形の者達が十人余り集合していた。ごつごつした青い顔面に、黒一色の全身。きっと一族の長を警護するつもりなのだろう。
驚くハヤタに、ダンが耳打ちする。
「彼ら……ノンマルトです」
老人は「ハハハ」と高笑いした。
「そう身構えることは、ありませんよ。あなた方に危害を加えるつもりは、一切ないのですから。ささ、どうぞ楽になさい」
言われるがまま、二人も胡坐をかく格好になる。
「それで、あなた方は一体?」
「我らは……ノンマルト一族。その生き残りの者達だ」
やはり、とダンは胸の内につぶやく。
「素性が分かったところで、もう一つお尋ねしたい」
なおも厳しい口調で、ハヤタは言った。
「東京湾沖にて怪獣を出現させたのは、あなたなのか?」
「……ううむ」
ふと渋い顔になり、老人は答える。
「結論から言えば、違います。しかし……どうやら、幾つか誤解を解かなければないようですな」
そして、今度はダンに顔を向けた。
「モロボシさん。我々の種族のこと、あなたはどのように聞いておられます?」
「はい。ノンマルトというのは、M78星雲では地球を指します。つまりあなた方の種族は、地球の先住民だったと」
横から「しかし」と、ハヤタが補足する。
「その説に関しては、この星における生命の進化の過程からして、かなり矛盾していると指摘せざるを得ませんが」
老人は、小さく溜息をついた。
「ふむ。やはり肝心な部分が、事実と食い違っておる。モロボシさんの知っている説については、半分正解で半分間違い、といったところかな」
「そ、それは……どういう」
思わずダンは腰を浮かせる。
「ダンさん、ハヤタさん。こう言えば、きっと理解してもらえるだろう。我々は……あなた方と同じく、もともと宇宙から来たのだと」
衝撃的な事実に、二人は言葉を失う。
「少し詳しく話そう」
あとは淡々と、老人は説明を続けた。
「つまり我々の祖先は、人類誕生以前の地球に住んでいたのですよ。もちろん侵略などではなく、惑星調査の一環でね。その時、彼らはこの星を“ノンマルト”と名付けた」
「そ、そうかっ」
つい声を発してしまう。
「だから私達の星にも、ノンマルトという名前が伝わっているのか」
「さすがモロボシさん、ご名答」
相手は満足そうに笑う。
「しかし、一つ分からないのですが」
ハヤタがまた質問を投げかける。
「調査目的で来たのに、なぜそんなに長期間、居住することになったのです?」
「そこなのですよ」
老人は腕組みして、渋い顔になる。
「故郷の星で、醜い争いが頻発しましてね。帰るに帰れなくなってしまったのです。仕方なく、この星に永住することにしたのですが……間の悪いことに、ちょうど地球にも高度な知的生命体、すなわち人類が誕生したのです」
溜息混じりの声になる。
「こうなると、我々が大手を振って地上で暮らすわけにもいかなくなる。そこで海底に移り住もうという話になったのですが……中には、この星の生命を根絶やしにすればいい、などと過激なことを言うヤカラもいましてね」
「それで、争いになった……と?」
ダンの問いに、老人は小さくうなずいた。
「なんのことはない。単なる、みっともない内輪もめです。それでも、どうにか過激派を追放して、以後は海底で暮らすことになったのですが」
そして、また溜息をつく。
「人類の進化は、想像以上でした。気づけば海底にまで進出して、我々の生活圏を脅かすまでになったのです。そこで……またぞろ消えたはずの過激派が台頭して、原子力潜水艦を奪い、さらに怪獣まで操って、地上攻撃を仕掛けるに至ったというわけです」
なるほど、とダンは相槌を打つ。
「結果は……今さら語るまでもありませんな。モロボシさん、あなたの所属していたウルトラ警備隊の反撃に遭い、都市ごと破壊されてしまった。ワシは穏健派のメンバーを率いて、先に脱出していたが、残った者は死に絶えたはずです」
無念そうに、老人は目元を押さえた。
「ただ、ワシらが言えた筋合いではないが……ウルトラ警備隊も、少々やり過ぎましたなぁ。都市が破壊し尽くしたことが、大きな禍根を残した。穏健派メンバーの中にも、人類に対して恨みを持つ者が出てきてしまった。それが今日まで続いているのですよ」
そう言って、さらに付け加える。
「あの若いのは、その筆頭格でね。どこで聞きかじったのか知らないが、突然『この星を人間から取り返してやる』などと言い出して、ワシらも困っているのですよ」
心底うんざりした顔で、老人はやれやれと肩を竦める。
「今お伝えした通り、本当はもっと複雑な事情があるのだが……若者は分かりやすい話を好みますからな」
ダンはしばし瞑目し、一つ吐息をつく。
何だか、とても疲れた気がした。それでも、これが紛れもなく「ノンマルト事件の真相」だな……と、確かに腹落ちする。
2.黒幕の正体
二人が屋敷を出ると、あの青年が立っていた。
「なぜここにいるのです?」
初めて彼の肉声を聴いた。
屋敷の中から、青年の仲間が出てこようとするのを、ダンは制した。そして相手の問いかけに答える。
「真相を確かめるためだ」
束の間、青年は黙り込む。
「やはり君は、いくつもカン違いしている。それに君の仲間は、地球を奪い返すことなんて望んじゃいない。目を覚ますんだ」
「う、ウソだっ」
相手は激高した。
「アンタ達が、人間にとって都合のいい話を吹き込んだに決まってる。そんなの信じるものか!」
もはや当初の不敵な笑みは、欠片も残っていない。
「きみぃっ。いい加減に……」
その時、ふいにハヤタが割って入る。
「君が何を信じようと、信じまいと、それは君の自由だ。しかし……君のバックにいる、明確な悪意を持った何者かは、決して見逃すわけにはいかない」
いつになく険しい眼差しを向けた。
「これだけは答えてもらう。君のバックにいるのは、一体誰なんだ!」
さすがに動揺したらしく、青年は目を大きく見開いた。
「……そ、それは」
やがて口を開き、何かを言いかける。その時だった。
三人が向かい合う路上に、どこかから小さな手榴弾のようなものが投げつけられた。伏せろっ、とダンが叫ぶ。
ドンッ! 破裂音がして、爆風が飛び散る。咄嗟に姿勢を低くしたため、ダンとハヤタはかすり傷で済んだ。しかし青年は遅れてしまい、頭を負傷してしまう。
ハヤタが顔を上げた時、黒い人影が走り去っていった。
「手当てを頼みます!」
ダンの一声に、待機していた数人が駆け寄ってきた。そして青年を抱き抱える。幸いにも意識はあるようで、小さく「裏切りやがった……」とつぶやく。
黒幕は、今のやつだろう。きっと口封じに来てたんだ。
その時ふいに、流星バッジが鳴る。通信をオンにして「こちらハヤタ」と応答した。すると、悲鳴のような声が返ってくる。
――ハヤタ長官、大変です。東京湾に巨大なロボットが出現。停泊する大型船を、次々に襲っています。
「そのロボットの特徴は?」
――はっ。体長は六十メートル前後。頭部と胸の方に、電光板が装着されています。また歩く度に、ワッシワッシと不気味な音がします。
傍らで、ダンが大声を発した。
「キングジョーだ!」
ハヤタは青年に駆け寄り、囁くように尋ねる。
「そのキングジョーというロボットも、君が操っているのかね?」
「……ち、違います。あれは……アイツが」
そこまで言うと、青年は意識を失う。
仲間が慌てるのを、ハヤタは「大丈夫、ただの貧血でしょう」と落ち着かせた。そしてダンに顔を向けた。
「モロボシさん……いや、ウルトラセブン。すぐ現場に急行してください。ここはロボットの特徴を知っているあなたじゃないと。防衛軍の装備では、おそらく厳しい」
「分かりました。ハヤタさんは、どうされるのですか?」
「私の方は、さっきのやつを追います」
口には出さないが、ハヤタはさっきの人物の気配に、既視感があった。心の隙に付け込むような狡猾さ。自分はなかなか姿を見せず、配下を操ろうとする。
「……黒幕をつかまえたら、私もすぐ急行します」
「ええ。それでは、健闘を祈りますよ」
それだけ言葉を交わし、二人はお互いの目的地へと向かった。
東京湾に突如出現した巨大ロボット。周辺は、大パニックに陥っていた。
数隻の船が転覆し、オイルに引火して炎上している。サイレンが鳴り響き、多くの人々が悲鳴を上げながら、四方八方へ逃げていく。
炎の海の中を、ロボット怪獣キングジョーが悠然と動き回る。
すでに防衛軍の航空部隊が、ミサイル攻撃を始めていた。しかし鋼鉄に覆われたキングジョーの体は、それをまるでモノともせず。
しかし……その背中に飛び掛かったのは、ウルトラセブンだった。
路地を駆け抜け、ハヤタは大通りに出た。そして西側へ振り向く。
そこから数十メートル前方の坂の上に、やはり黒い人影があった。その姿が、すぐにはっきりと浮かび上がってくる。
漆黒のスーツ、さらに帽子も黒のシルクハット。
――どうやら今回も、失敗したようだ。
テレパシーだ。初老の男性の声が、頭の中に流れ込んでくる。しかも、やはり聞き覚えのある声だった。
「な、なにぃっ」
――人間ではない、地球の先住民の心なら、うまく利用できると思ったが。そう甘くはなかった。しかし……君との約束が果たせて、良かったよ。
「約束だと? なんだ、それは!」
――君の若かりし頃、こう言ったのを覚えているかね? 私はもう一度……人間の心に挑戦しにやってくる。必ずくるぞ、とね。
人間の心に挑戦する、だとっ。やはりそうか、あいつの正体は……
眼前を、ふいに砂煙が舞う。ハヤタは咄嗟に、姿勢を低くした。そして再び見上げると、小さな円盤が回転しながら、少しずつ上昇していく。
逃がすものか!
ジャケットの内ポケットに手を入れ、ハヤタはベータカプセルを取り出す。そして右手で頭上に掲げ、ボタンを押した。
その刹那。まばゆいばかりのフラッシュが、彼の全身を包む。
――シュワッチ!
大空に、銀色の巨人が現れる。そして加速した円盤を、超高速で追い掛け始めた。彼こそ我らのヒーロー・ウルトラマンである。
しばし円盤を追い続けた後、山の麓付近に差しかかった。そこで両手をT字の形に組む。そして白色の連続技・フラッシュ光線を発射した。数発命中する。
円盤は揺れながら落下し、爆発炎上した。そして、やはり巨人が出現する。その姿を確認し、ウルトラマンも地上に降り立った。
黒の全身。小さな青の双眼、発光する黄色の口。狡猾さで、全宇宙にその名を知らしめた悪質宇宙人・メフィラス星人である。
束の間、両者はにらみ合いを続けた。
そしておもむろに、メフィラス星人が右拳を突き出す。そして光線を打ってきた。ウルトラマンはすばやく右腕を耳の後ろに引いて、八つ裂き光輪を放ち応戦する。
二つの光は、両者のほぼ真ん中で衝突し、弾け飛んだ。
――フフ、これぐらいにしておこう。
またもテレパシー。相手が、不敵に笑ったように見える。
――昔も言ったが、宇宙人同士で戦ってもしようがない。今回は、ノンマルトの若者の心につけ込みたかったが、思うようにはいかないものだ。しかし……私はけっして諦めない。今度こそ、地球人の心を屈服させて見せる。フハハハハ!
高笑いの後。メフィラス星人の姿は、まるで空間から剥がれるように消え去った。
東京湾。ウルトラセブンはかつてと同様、キングジョーに苦戦を強いられていた。
のしかかろうとしてきた相手を、どうにか振り払う。そして距離を取り、アイスラッガーを放つ。しかし、これを簡単に弾き返される。
それでも怯むことなく、右腕を水平にしてエメリウム光線を発射。ところが、これもまったく通じない。やがて、ウルトラセブンの額のランプが点滅し始める。
まさに、その時だった。
東の空の一角が、きらりと光る。そして飛行する銀色の巨人が、海へ急降下してきた。避難する作業員の男が、ふと振り返り、こう叫ぶ。
「おおっ、ウルトラマンだ!」
キングジョーは、ゆっくりと陸地へ進み始めていた。その頭部に、ウルトラマンが上空から、両足でキックを浴びせる。
さしものキングジョーも、大きく上半身をぐらつかせる。だが倒れることなく、すぐに体勢を直してしまう。
ウルトラマンは突進し、肩から体当たりを喰らわせるが、逆に押し返される。あやうく倒れそうになるのを、背後からウルトラセブンが受け止めた。海での戦いは、足を取られ俊敏に動けない。
二人の巨人は、互いにうなずき合う。そして一旦引き、十数メートルほど距離を取る。
ふいにキングジョーが、頭部からピンポン玉の形をした、白色光線を連射してきた。ウルトラマンは咄嗟にフラッシュビームを打ち返し、敵の光線を無効化する。そして間髪入れず、八つ裂き光輪を放った。
だが、やはりキングジョーの頑丈な体には通じず。そしてウルトラマンの青かった胸のカラータイマーが、赤く点滅を始めた。
しかしこの時、ウルトラマンは一計を案じた。
ふいに左右の腕を×の形にし、両拳を握る。すると、怪力を誇るキングジョーの体が宙に浮き上がった。そして両腕を伸ばし、指先から二本の細い光線が放たれる。
これにより、相手の動きがストップ。かつて水爆を飲み込んだ、どくろ怪獣レットキングを倒した時に用いた大技・ウルトラ反重力念力である。
そして二人の巨人は、互いに合図し合ってから、互いの必殺技の構えをした。ウルトラマンは両腕を十字に組む。一方、ウルトラセブンは右腕を立て、左腕は水平にした。
左から、ウルトラマンのスペシウム光線。さらに右から、ウルトラセブンのワイドショットが同時に発射された。それが巨大ロボットに命中する。
空中にて、キングジョーは爆発四散した。
3.明けの明星が輝く空
翌日。防衛軍日本支部の手により、東京湾近辺の海底調査が行われた。
その結果、かつてノンマルトの海底基地のあった地点に、小規模ながら数十個の建造物が発見されたのである。
すでに生命の気配はなく、そこはもぬけの殻であった。
六十年前の反省を踏まえ、今回は破壊せず。防衛軍の研究資料という名目で、丁重に保存されることとなった。
また、生き残りのノンマルト達が潜伏していた屋敷は、いつの間にか跡形もなく消え去っていた。彼らがどこへ行ってしまったのか。その謎は解き明かされぬまま、事件は終わりを迎えたのである。
「やはり悪知恵の働くやつです。本当に、忌々しい」
苦々しげに、ハヤタは言った。
「建物が空っぽだったのは、すでに怪獣を出撃させた後だったからです。残りのものも、配下の宇宙人を隠れさせたり、武器を保管したりする地上呼応劇の前線基地として、利用する目的だったのでしょう」
「では……あのノンマルトの青年は、メフィラス星人に唆されていたと?」
「そう考えて、間違いないと思います」
二人の戦士は、小さく溜息をつく。
午前五時。辺りはまだ、薄暗い。ダンとハヤタは、郊外のとある丘を訪れていた。東京湾にてキングジョーを葬ってから、三日が過ぎている。
「人間を言葉巧みに篭絡し、地球侵略の口実を得ようとするのは、やつの得意技です。以前も、私の同僚の弟、さとる君に近付き『地球をあなたにあげます』と、言わせようとした。その時はあえなく失敗に終わったが……」
ダンは「そうか」と合点した。
「今回は、地球人に恨みを抱くノンマルトの若者。純粋な正義感を持つ子供より、ずっとつけ込みやすかったのでしょうな」
「ええ。おそらく『地球を君達の元に取り返そう』とでもうそぶき、海底都市再建だと偽って基地の建設を手伝わせていたのでしょう。ところが彼も、メフィラスの強硬な手段に付いていけなくなった。それでしまいには、離反に至ったと思われます」
「やつは今頃、自分の星でほぞを噛んでいるでしょうな」
「だといいのですが」
ハヤタが苦笑いを浮かべる。
「メフィラスにとっては、いい娯楽だったかもしれません。人間とノンマルト。我こそは地球人だと主張する、両者の争いに、高みの見物を決め込んでね」
ふいに風が吹き始める。やわらかで涼しい、秋の風だ。
「やつを非難ばかりもしていられません」
地球の友は、やや険しい眼差しになる。
「これはノンマルトもそうだが、我々人類も、ろくに相手の話を聞こうとしなかった。だから互いに傷つけ合い、遺恨が残ったのです。そこをメフィラスにつけ込まれた。この点、我々は大いに反省しなければなりません」
そう言って、ふと穏やかに微笑む。
「しかし、このように考えれば……モロボシさん。我々人類とウルトラマン達が、こうして長年に渡り良い関係を築けているのは、まさに一つの奇跡と言えるでしょうね」
「いいえ、奇跡などではありません」
ダンは、少しムキになって答えた。
「我々は、地球人のことを理解しようと努めましたし、地球人もまた我々を深く愛してくれた。ですからこれは、必然です」
「ハハ、これは失礼。やはり良い関係を築くコツは、互いを思いやる気持ちだと」
話を締めくくり、ハヤタは朗らかに笑った。ダンも一緒に笑う。二人の間を、鮮やかな紅葉が数枚流れていく。
「ところでハヤタさん」
最後に一つ、尋ねてみる。
「彼は今、どこに?」
「ああ。彼なら、もう」
愉快そうに、ハヤタは空を見上げる。
「また別の任務があるからと、キングジョーを破った直後、また旅立っていきましたよ。ベータカプセルも、いつの間にやらなくなっていました」
「そうですか……」
しばしの静寂。そして、ダンは右手を差し出した。
「では、ハヤタさん。お世話になりました」
「こちらこそ」
二人は固く握手を交わす。
「ご機嫌よう。モロボシさん……いやウルトラセブン」
ダンは微笑みを返し、ハヤタに背を向けた。そしてウルトラ・アイを取り出し、目元に装着する。
―― デュワッ!
ウルトラセブンに変身したダンは、東の空へと旅立つ。残されたハヤタは、ゆっくりと右手を振りつつ、違う星の戦友を見送った。
明け方近くになり、辺りは少しずつ白み始めている。ウルトラセブンの飛び去った東の空には、明けの明星がひときわ輝いていた。
<完>
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