<はじめに>
最近、私が再三批判している『プレイボール2』(及び『キャプテン2』)が好きだとおっしゃる方達と、Twitter上にて交流させていただいた。
だからといって、私の『2』への評価が変わることはないが、物事にはいろいろな楽しみ方があるのだなと学ぶことはできた。
そこで……というわけではないが、今回は少し力を抜いて、『キャプテン』の小ネタ集を作成することにした。
自粛ムードのGWのお供に、少しでも楽しんでいただけたら幸いである。
1.慎二の独白
<その①>
俺のアニキは、弟ながらすごいと思う。ちと短気で取っつき辛いところもあるが、昔からスポーツ万能、成績優秀。時々、人間に見えない時さえある。
でも、意外と知られてないのが……けっこう面倒見もいいんだ。
――とある冬の朝。慎二はタチの悪い風邪を引き、高熱で寝込んでいた。
慎二:ゴホン、ゴホン……くそっ。俺としたことが、こんなこじらせちゃうなんて。
(ふいに襖が開き、学ラン姿のイガラシが入ってくる)
イガラシ:おい慎二、生きてるか?(両手におかゆと梅干をのせたお膳を持っている)
慎二:に、にいちゃん……ゴホンゴホン(体を起こそうとして咳き込む)
イガラシ:ばかっ、病人は寝てろ。まったく……もう二日も寝込むとは、自己管理がなってないぞ。
慎二:わ、わかってるよ…‥‥
イガラシ:ほれ(お膳を枕元に置く)。これでも食って、さっさと元気になれ。
慎二:にいちゃん……わざわざ作ってくれたのかい?
イガラシ:はぁ? なんでおまえのために、わざわざ作らなきゃなんねーんだよ。こちとら受験が近いからな、夜食のあまりをよそっただけさ。
慎二:そ、そう……
イガラシ:じゃあ、俺は学校行くからな。今日は店番と片付け、俺がやってやるから。下りてくるんじゃないぞ。オヤジやオフクロにうつしたら、ことだからな。
慎二:はーい。
(イガラシが部屋を出て、一人残される慎二)
慎二:ったく、アニキのやつ……素直じゃないよな。アタマが鈍くなるからって、夜食を食べたことなんか一度もないってのに。
<その②>
俺のアニキは、弟ながらすごいと思う。昔からスポーツ万能、成績優秀。時々、人間に見えない時さえある。
何よりすごいのが……どんなことでも、けっして手を抜かないんだ。
――夜。慎二が寝ようとすると、部屋の隅でイガラシが明かりを点け、何かやっている。
慎二:……に、にいちゃん。なにしてるの?
イガラシ:(振り向いて)ああ、これよ(業務用のエプロンを手にしている)。
慎二:これ、オヤジとオフクロの?
イガラシ:ああ。さっき店を片づける時、気づいたのよ。明日もまた使うだろうし、いまのうちに直しときたいんだ。
慎二:べ、べつに急がなくていいんじゃない? オヤジもオフクロも、必要なら自分で直すだろうし。
イガラシ:ばかいえ。明日は早朝から仕入れだし、そんなヒマないだろうよ。
慎二:……よ、よかったら俺も手伝おうか?
イガラシ:おお、助かる……と言いたいトコだが、これで仕舞いだ。気にしないで、先に寝てろよ。
慎二:う、うん。
イガラシ:ええと、後はこうしてこうして……
慎二:(アニキのやつ、聞いてないのか。明日からエプロンを新調するって)
2.丸井のクッキング修行ー全国大会へ向けての合宿にてー
<その①>
(全国大会へ向けての合宿中。講堂外にて。丸井は大鍋に作った焼きそばを前に、腕組みして悩む)
丸井:ううむ。せっかく料理の本を買ってきて、レシピ通りに作ってみたが、まーたしおっからいのができちまった。はて、どうしたものか・・・
イガラシ:(練習を抜け)あ、丸井さん。ここにいたんスね。
丸井:(一瞬ビクッとして)お、おう。どしたい。
イガラシ:ちょっと慎二と佐藤を見てやってもらえませんか。どうも一・二塁の連係がワンテンポ遅れてしまって。
丸井:えっ・・・わ、分かった。(焼きそばをチラッと)もちっと味を整えたかったが、仕方ないか。また食べ残しが、ブツブツ・・・
イガラシ:なにか?
丸井:い、いや。なんでもない。よしきた、先に行ってるぞ(グラウンドへ駆け出す)。
イガラシ:あ・・ちょっと丸井さん、そんなに慌てなくても。
(その時、大鍋の焼きそばが目に留まる)
イガラシ:(ひとつまみして味見)おっと塩辛い。そうか丸井さん、味つけに悩んでたのか。 こういう時は……(調味料の籠をのぞき)あった。砂糖と味噌で味をまろやかにするといいんだ(大匙一杯ずつ入れ、火をつけて混ぜる)。
ーー30分後。講堂にて昼食時間。
小室:う、うまい。こんな焼きそば、食べたことないス。
久保:ほんと。さすが丸井さん、今日は味つけバッチリですね。
丸井:(戸惑いながら)ハハハ、俺っちの手にかかりゃ、料理の一つや二つちょちょいのちょいよ。
慎二:む、これ味噌が効いてますね。丸井さん、よくこのやり方知ってましたね。(※イガラシの弟。実家は中華そば屋)
丸井:そ、そうだろう(あれ、味噌なんて入れたっけな)。
近藤:ワイ、もう一杯おかわり。
丸井:て、テメーはだめだ。早々にノックから逃げるようなやつは、食う資格なんかねえ。
近藤:そんな殺生な・・・
イガラシ:モグモグ・・・(素知らぬ顔で、黙って食べる)
<その②>
丸井:(失礼な新聞記者二人を見送り)へーんだ、見る目のない記者どもめ。全国大会が始めったら、目にモノ見せてやるってんだ! あっかんべー!!
(講堂横にて、大鍋にカレーライスを調理中。ほぼ完成し弱火に)
丸井:さぁさぁ、あんなのほっといて。(お玉でカレーをすくい味見)うーむ、わるくはないが……イマイチなんか足らねーな。あとちょいルーを増やすか、もちっと煮こむか。しかしグズグズしてっと、練習試合が決着ついしまうし……
(その時、テーブルの料理の本が目に留まる。栞がはさまれている)
丸井:お、そっか。本を見りゃいいんだ……あり? 俺っち、栞なんて挟んだっけ。はて……(栞のページを開き)お、おおっ!
――三十分後。
(講堂にテーブルを並べ、墨谷二中ナインと朝日高ナインが一堂に会し、カレーを食す)
丸井:さ、先輩方どんどん召し上がってください。(墨二の後輩達へ)おまえ達も遠慮はいらんぞ、おかわりもたんとあるからな。
近藤:ほな、遠慮なく……(カレーこれで三杯目を入れようとする)
丸井:こら近藤! てめーは少し遠慮しろっ。
近藤:せやけどワテ、今日はがんばりましたで。(九回二失点の力投)
丸井:……し、しゃーねぇな(しぶしぶ許す)。
久保:にしても、このカレーは特別うまいですね! とてもまろやかじゃないスか。
小室:うむ、野菜たっぷりで栄養満点だ。もうすっかり、練習の疲れが吹き飛んじゃったみたいですよ。
丸井:そうだろう。えっへん。
イガラシ:モグモグ……(黙ってカレーを食べている)
丸井:む、どうしたイガラシ。食が進むの、ちと遅いんじゃねーか。ハラでもいてーのか。
イガラシ:(カレーを飲み込み)まさか。しっかり噛まないと、せっかくの栄養が体にゆき渡らないからですよ。
丸井:なんでぇ、心配しちまったじゃねーか。ムフフ……(そっとイガラシに近づき、耳元でささやく)おいイガラシ。このカレー、隠し味を使ってんだよ。気づいてたか?
イガラシ:え、そうなんですか?
丸井:なんだよ、気のない返事しやがって。じつはな……リンゴだよ。リンゴをすりお
ろして入れると、こんなに味がまろやかになるんだ。
イガラシ:あー、そういや……どこかで聞いたことがあります。
丸井:ちぇ、知ってたのかよ。
イガラシ:い、いえ……言われるまで忘れてましたから。どこかで使わせてもらいます。
丸井:む、めずらしく素直じゃねーか。いつもそうしてくれりゃ、オメーもちっと可愛げがあるってのに。
イガラシ:ど、ドウモ……(苦笑い)
菅野(朝日高キャプテン):丸井、おかわりもらうぞ。
丸井:は、はいっ。ぼくがよそいます(駆けていく)
イガラシ:(ひそかに微笑んで)……フフ、丸井さん。あの栞のページ、ちゃんと読んでくれたみたいだな。
3.オマケ -墨高野球部勉強会にて-
丸井:ううむ……(頭を抱える)
イガラシ:(鉛筆を止めて)どうしたんスか、丸井さん。
丸井:この「I taught himi baseball.」って文だけどよ、なんでhimがbaseballより先にくるんだ?
イガラシ:は、はぁ? 丸井さん、これ第4文型がありませんか。
丸井:なに言ってんだよ、英文のどこにも4なんて入ってないじゃないか。
イガラシ:(溜息をつき)いや、そうじゃなくて。himもbaseballもO(オー)、つまり目的語です。目的語が二つ並ぶ時は、人が前にくるんですよ。
丸井:(頬をぽりぽりかいて)へっ、目的語? ひ、人って……ハハ(苦笑い)。
イガラシ:あちゃぁ……あのねぇ丸井さん。こんな基本でつまずいてちゃ、話にならないんスけど。
丸井:な、なんだと。てめ黙ってりゃ、インテリぶりやがって(大声になる)。
イガラシ:よしましょうよ。他のメンバーの、勉強のジャマになりますよ。
丸井:あーそうかい。またそうやって、逃げるのか!
イガラシ:まぁまぁ、そうムキにならずに。分からない所があれば、ぼくがちゃんと教えますから(ニヤニヤしている)。
丸井:ばっ、バカいえ。なんで上級生の俺が、1年のオメーに習わなきゃいけねぇんだっ。
周囲:プクククク……(我慢しきれず、吹き出してしまう)
谷口:(辞書を持って通り掛かる)ハハ、よかったじゃないか丸井。先輩思いの後輩にめぐまれて。それにイガラシは、このまえの定期試験で学年4位だったそうだからな。教わって損はないと思うぞ。
丸井:そ、そんなぁ。キャプテンまで……
イガラシ:(つられて吹き出す)ぷっ……む、なんだおまえら(久保、根岸ら1年生メンバーが数人来ている)。
久保:イガラシ……その文型のところ、俺達にも、ちと教えてくれないか。
イガラシ:はぁ? 教えてくれって、ついきのう授業でやってたところだぞ。おまえら、ノートぐらい取ったんだろうな。
根岸:も、もちろん。でも……ショージキさっぱり。
イガラシ:まったく、しょーがねぇな。ノートを持ってこっちに来い(ブツブツ言いながらも、なんだかんだ教えに行く)。
谷口:あはは。イガラシのやつ、ああ見えて面倒見いいんだな。なぁ、丸井。
丸井:え、ええ……(苦笑い)
谷口:(心の中で)ありがとうイガラシ。文型のこと、じつは俺もよく知らなかったんだ。
4.キャプテン俳句
夏の雨逆転打のこの手が熱し
――和合戦、逆転サヨナラの場面 ※季語:夏の雨
白球にすべる夕立連覇消ゆ
――墨谷二中優勝、和合の立場から ※季語:夕立
炎天下ファールボールのとめどなく
――北戸戦。しつような相手のファール攻めに苦しむイガラシ。 ※季語:炎天下
ダグァウトに無理やり笑う夕立晴
――和合戦。気持ちを切り替えようと、笑顔を作る墨二ナイン。 ※季語:夕立晴
秋風や殊勲のキャプテンは朴訥
――新聞部の取材を受けるキャプテン谷口。 ※季語:秋風
【ちばあきお先生を偲んで】
行間は漫画にもあり秋の雲
――あきお先生の漫画は台詞が短い。その分、行間を味わえる。 季語:秋の雲
命を削る音のペン入れ秋の風
――まさに命を削りながら、あきお先生は素晴らしい作品を世に残した。
季語:秋の風
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