南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

ちばあきお『キャプテン』小ネタ集 -イガラシが言いそうなこと&俳句-(追記:2020/5/2)

 

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<はじめに>

 

 最近、私が再三批判している『プレイボール2』(及び『キャプテン2』)が好きだとおっしゃる方達と、Twitter上にて交流させていただいた。

 だからといって、私の『2』への評価が変わることはないが、物事にはいろいろな楽しみ方があるのだなと学ぶことはできた。

 そこで……というわけではないが、今回は少し力を抜いて、『キャプテン』の小ネタ集を作成することにした。

 自粛ムードのGWのお供に、少しでも楽しんでいただけたら幸いである。

 

1.慎二の独白

 

<その①>

 

 俺のアニキは、弟ながらすごいと思う。ちと短気で取っつき辛いところもあるが、昔からスポーツ万能、成績優秀。時々、人間に見えない時さえある。

 でも、意外と知られてないのが……けっこう面倒見もいいんだ。

 

――とある冬の朝。慎二はタチの悪い風邪を引き、高熱で寝込んでいた。

 

慎二:ゴホン、ゴホン……くそっ。俺としたことが、こんなこじらせちゃうなんて。

 

(ふいに襖が開き、学ラン姿のイガラシが入ってくる)

 

イガラシ:おい慎二、生きてるか?(両手におかゆと梅干をのせたお膳を持っている)

 

慎二:に、にいちゃん……ゴホンゴホン(体を起こそうとして咳き込む)

 

イガラシ:ばかっ、病人は寝てろ。まったく……もう二日も寝込むとは、自己管理がなってないぞ。

 

慎二:わ、わかってるよ…‥‥

 

イガラシ:ほれ(お膳を枕元に置く)。これでも食って、さっさと元気になれ。

 

慎二:にいちゃん……わざわざ作ってくれたのかい?

 

イガラシ:はぁ? なんでおまえのために、わざわざ作らなきゃなんねーんだよ。こちとら受験が近いからな、夜食のあまりをよそっただけさ。

 

慎二:そ、そう……

 

イガラシ:じゃあ、俺は学校行くからな。今日は店番と片付け、俺がやってやるから。下りてくるんじゃないぞ。オヤジやオフクロにうつしたら、ことだからな。

 

慎二:はーい。

 

(イガラシが部屋を出て、一人残される慎二)

 

慎二:ったく、アニキのやつ……素直じゃないよな。アタマが鈍くなるからって、夜食を食べたことなんか一度もないってのに。

 

 

<その②>

 

 俺のアニキは、弟ながらすごいと思う。昔からスポーツ万能、成績優秀。時々、人間に見えない時さえある。

 何よりすごいのが……どんなことでも、けっして手を抜かないんだ。

 

 

――夜。慎二が寝ようとすると、部屋の隅でイガラシが明かりを点け、何かやっている。

 

慎二:……に、にいちゃん。なにしてるの?

 

イガラシ:(振り向いて)ああ、これよ(業務用のエプロンを手にしている)。

 

慎二:これ、オヤジとオフクロの?

 

イガラシ:ああ。さっき店を片づける時、気づいたのよ。明日もまた使うだろうし、いまのうちに直しときたいんだ。

 

慎二:べ、べつに急がなくていいんじゃない? オヤジもオフクロも、必要なら自分で直すだろうし。

 

イガラシ:ばかいえ。明日は早朝から仕入れだし、そんなヒマないだろうよ。

 

慎二:……よ、よかったら俺も手伝おうか?

 

イガラシ:おお、助かる……と言いたいトコだが、これで仕舞いだ。気にしないで、先に寝てろよ。

 

慎二:う、うん。

 

イガラシ:ええと、後はこうしてこうして……

 

慎二:(アニキのやつ、聞いてないのか。明日からエプロンを新調するって)

 

2.丸井のクッキング修行ー全国大会へ向けての合宿にてー

 

<その①>

 

(全国大会へ向けての合宿中。講堂外にて。丸井は大鍋に作った焼きそばを前に、腕組みして悩む)

 

丸井:ううむ。せっかく料理の本を買ってきて、レシピ通りに作ってみたが、まーたしおっからいのができちまった。はて、どうしたものか・・・

 

イガラシ:(練習を抜け)あ、丸井さん。ここにいたんスね。

 

丸井:(一瞬ビクッとして)お、おう。どしたい。

 

イガラシ:ちょっと慎二と佐藤を見てやってもらえませんか。どうも一・二塁の連係がワンテンポ遅れてしまって。

 

丸井:えっ・・・わ、分かった。(焼きそばをチラッと)もちっと味を整えたかったが、仕方ないか。また食べ残しが、ブツブツ・・・

 

イガラシ:なにか?

 

丸井:い、いや。なんでもない。よしきた、先に行ってるぞ(グラウンドへ駆け出す)。

 

イガラシ:あ・・ちょっと丸井さん、そんなに慌てなくても。

 

(その時、大鍋の焼きそばが目に留まる)

 

イガラシ:(ひとつまみして味見)おっと塩辛い。そうか丸井さん、味つけに悩んでたのか。 こういう時は……(調味料の籠をのぞき)あった。砂糖と味噌で味をまろやかにするといいんだ(大匙一杯ずつ入れ、火をつけて混ぜる)。

 

ーー30分後。講堂にて昼食時間。

 

小室:う、うまい。こんな焼きそば、食べたことないス。

 

久保:ほんと。さすが丸井さん、今日は味つけバッチリですね。

 

丸井:(戸惑いながら)ハハハ、俺っちの手にかかりゃ、料理の一つや二つちょちょいのちょいよ。

 

慎二:む、これ味噌が効いてますね。丸井さん、よくこのやり方知ってましたね。(※イガラシの弟。実家は中華そば屋)

 

丸井:そ、そうだろう(あれ、味噌なんて入れたっけな)。

 

 

近藤:ワイ、もう一杯おかわり。

 

丸井:て、テメーはだめだ。早々にノックから逃げるようなやつは、食う資格なんかねえ。

 

近藤:そんな殺生な・・・

 

イガラシ:モグモグ・・・(素知らぬ顔で、黙って食べる)

 

 

<その②>

 

丸井:(失礼な新聞記者二人を見送り)へーんだ、見る目のない記者どもめ。全国大会が始めったら、目にモノ見せてやるってんだ! あっかんべー!!

 

(講堂横にて、大鍋にカレーライスを調理中。ほぼ完成し弱火に)

 

丸井:さぁさぁ、あんなのほっといて。(お玉でカレーをすくい味見)うーむ、わるくはないが……イマイチなんか足らねーな。あとちょいルーを増やすか、もちっと煮こむか。しかしグズグズしてっと、練習試合が決着ついしまうし……

 

(その時、テーブルの料理の本が目に留まる。栞がはさまれている)

 

丸井:お、そっか。本を見りゃいいんだ……あり? 俺っち、栞なんて挟んだっけ。はて……(栞のページを開き)お、おおっ!

 

――三十分後。

 

(講堂にテーブルを並べ、墨谷二中ナインと朝日高ナインが一堂に会し、カレーを食す)

 

丸井:さ、先輩方どんどん召し上がってください。(墨二の後輩達へ)おまえ達も遠慮はいらんぞ、おかわりもたんとあるからな。

 

近藤:ほな、遠慮なく……(カレーこれで三杯目を入れようとする)

 

丸井:こら近藤! てめーは少し遠慮しろっ。

 

近藤:せやけどワテ、今日はがんばりましたで。(九回二失点の力投)

 

丸井:……し、しゃーねぇな(しぶしぶ許す)。

 

久保:にしても、このカレーは特別うまいですね! とてもまろやかじゃないスか。

 

小室:うむ、野菜たっぷりで栄養満点だ。もうすっかり、練習の疲れが吹き飛んじゃったみたいですよ。

 

丸井:そうだろう。えっへん。

 

イガラシ:モグモグ……(黙ってカレーを食べている)

 

丸井:む、どうしたイガラシ。食が進むの、ちと遅いんじゃねーか。ハラでもいてーのか。

 

 

イガラシ:(カレーを飲み込み)まさか。しっかり噛まないと、せっかくの栄養が体にゆき渡らないからですよ。

 

丸井:なんでぇ、心配しちまったじゃねーか。ムフフ……(そっとイガラシに近づき、耳元でささやく)おいイガラシ。このカレー、隠し味を使ってんだよ。気づいてたか?

 

イガラシ:え、そうなんですか?

 

丸井:なんだよ、気のない返事しやがって。じつはな……リンゴだよ。リンゴをすりお

ろして入れると、こんなに味がまろやかになるんだ。

 

イガラシ:あー、そういや……どこかで聞いたことがあります。

 

丸井:ちぇ、知ってたのかよ。

 

イガラシ:い、いえ……言われるまで忘れてましたから。どこかで使わせてもらいます。

 

丸井:む、めずらしく素直じゃねーか。いつもそうしてくれりゃ、オメーもちっと可愛げがあるってのに。

 

イガラシ:ど、ドウモ……(苦笑い)

 

菅野(朝日高キャプテン):丸井、おかわりもらうぞ。

 

丸井:は、はいっ。ぼくがよそいます(駆けていく)

 

イガラシ:(ひそかに微笑んで)……フフ、丸井さん。あの栞のページ、ちゃんと読んでくれたみたいだな。

 

3.オマケ -墨高野球部勉強会にて-

 

丸井:ううむ……(頭を抱える)

 

イガラシ:(鉛筆を止めて)どうしたんスか、丸井さん。

 

丸井:この「I taught himi baseball.」って文だけどよ、なんでhimがbaseballより先にくるんだ?

 

イガラシ:は、はぁ? 丸井さん、これ第4文型がありませんか。

 

丸井:なに言ってんだよ、英文のどこにも4なんて入ってないじゃないか。

 

イガラシ:(溜息をつき)いや、そうじゃなくて。himもbaseballもO(オー)、つまり目的語です。目的語が二つ並ぶ時は、人が前にくるんですよ。

 

丸井:(頬をぽりぽりかいて)へっ、目的語? ひ、人って……ハハ(苦笑い)。

 

イガラシ:あちゃぁ……あのねぇ丸井さん。こんな基本でつまずいてちゃ、話にならないんスけど。

 

丸井:な、なんだと。てめ黙ってりゃ、インテリぶりやがって(大声になる)。

 

イガラシ:よしましょうよ。他のメンバーの、勉強のジャマになりますよ。

 

丸井:あーそうかい。またそうやって、逃げるのか!

 

イガラシ:まぁまぁ、そうムキにならずに。分からない所があれば、ぼくがちゃんと教えますから(ニヤニヤしている)。

 

丸井:ばっ、バカいえ。なんで上級生の俺が、1年のオメーに習わなきゃいけねぇんだっ。

 

周囲:プクククク……(我慢しきれず、吹き出してしまう)

 

谷口:(辞書を持って通り掛かる)ハハ、よかったじゃないか丸井。先輩思いの後輩にめぐまれて。それにイガラシは、このまえの定期試験で学年4位だったそうだからな。教わって損はないと思うぞ。

 

丸井:そ、そんなぁ。キャプテンまで……

 

イガラシ:(つられて吹き出す)ぷっ……む、なんだおまえら(久保、根岸ら1年生メンバーが数人来ている)。

 

久保:イガラシ……その文型のところ、俺達にも、ちと教えてくれないか。

 

イガラシ:はぁ? 教えてくれって、ついきのう授業でやってたところだぞ。おまえら、ノートぐらい取ったんだろうな。

 

根岸:も、もちろん。でも……ショージキさっぱり。

 

イガラシ:まったく、しょーがねぇな。ノートを持ってこっちに来い(ブツブツ言いながらも、なんだかんだ教えに行く)。

 

谷口:あはは。イガラシのやつ、ああ見えて面倒見いいんだな。なぁ、丸井。

 

丸井:え、ええ……(苦笑い)

 

谷口:(心の中で)ありがとうイガラシ。文型のこと、じつは俺もよく知らなかったんだ。

 

 

 

4.キャプテン俳句

 

夏の雨逆転打のこの手が熱し

――和合戦、逆転サヨナラの場面  ※季語:夏の雨

 

白球にすべる夕立連覇消ゆ

 ――墨谷二中優勝、和合の立場から  ※季語:夕立

 

 炎天下ファールボールのとめどなく

――北戸戦。しつような相手のファール攻めに苦しむイガラシ。  ※季語:炎天下

 

ダグァウトに無理やり笑う夕立晴

――和合戦。気持ちを切り替えようと、笑顔を作る墨二ナイン。  ※季語:夕立晴

 

秋風や殊勲のキャプテンは朴訥

――新聞部の取材を受けるキャプテン谷口。  ※季語:秋風

 

ちばあきお先生を偲んで】

 

満州秋天漫画家は散つた

――あきお先生は満州生まれ。九月に死去。  ※季語:秋天

 

行間は漫画にもあり秋の雲

――あきお先生の漫画は台詞が短い。その分、行間を味わえる。  季語:秋の雲

 

命を削る音のペン入れ秋の風

――まさに命を削りながら、あきお先生は素晴らしい作品を世に残した。

季語:秋の風

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