南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

<考察>近藤キャプテン時の墨谷二中は”このやり方”なら、地区大会を勝ち抜ける!?ーーちばあきお原作『キャプテン』『プレイボール』関連コラム⑦

 

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<はじめに>

 

 以前、ちばあきお『キャプテン』において、近藤キャプテン世代の墨谷二中が地区を勝ち抜くのは、ちょっと厳しいのではという趣旨の記事を書いた。

(↓以下のエントリー)

stand16.hatenablog.com

 

 

 しかし、あれから考えを巡らせた結果、ひょっとして「このやり方なら勝てるんじゃないか」という戦略を考えついたので、以下に紹介してみることとしたい。

 

1.サインは「打て!」

 

 キーワードは「サインはV、なぁんちゃって」……もとい、サインは「打て!」である。

 

 ちばあきお「キャプテン」最終話を読み返して欲しい。

 富戸中学に敗退後の部室にて、OB丸井が個々の能力は認めつつも、「ち密なプレーがおそまつ」だと指摘していた。また“近藤ノート”の計画によると、守備の連係プレーは地区予選を戦いながらとある。

 

 だったら、である。

 

 いっそのこと、攻守における細かいプレーはやめて、ごくごく基本的なプレーのみに絞っても良いのではないだろうか。

 

 だいたい近藤の大雑把な性格からして、細かいことは合わない。どんな場面でも「打て!」この方が、思いきりよくプレーできると思う。

 

……こう書くと投げやりのように思われるかもしれないが、ちゃんと“成功例”もある。

 

 古くからの高校野球ファンであれば知らぬものはいない、あの池田高校“やまびこ打線”を率いた蔦文也監督である。

 

 元々“坊ちゃん育ち”の蔦は、当初(巧みなバントで一時代を築いた箕島のような)細かい野球を志向していたらしいが、どうも性に合わなかったようだ。

 

 そこで、ウエイトトレーニングを取り入れたパワー野球、つまり“打つだけの野球”に切り替えたことが、82年夏、83年春の連覇につながった要因だと言われている。

 

 どんな野球が正しいということはない。結局のところ、そのチームに合うか、合わないかである。近藤とて、自分に合った野球をすれば良いと思うのだ。

 

※やまびこ打線を知らないは、90~00年代に猛威を振るった智辯和歌山打線(優勝した00年は得点56、失点34、11本塁打。まさにノーガードで打ち勝った)を、それでも分かりにくい方は、今の西武ライオンズ(得点も多いが失点も多い。攻守両面においてセーフティリードなしと言われている)を思い浮かべてもらえれば、イメージしやすいと思う。

 

 

2.“近藤式選抜”の利点

 

 もちろん、ただ近藤に合った方法を選ぶというだけでは、名門・青葉学院やライバル・江田川のいる地区予選を勝ち抜けない。

 

 そこでもう一つ目を付けたいのが、いわゆる“近藤式選抜”の利点である。

 

 前代のイガラシ・丸井のレギュラー選抜の仕方は、基本的に「脚力→守備→肩→打撃」の順に行い、ふるい落としていく方式である。

 

 このやり方は、たしかにオールマイティな選手を探し出すことができる。だから大会直前、急遽レギュラーを追加しなければならない場合には、こっちが適しているだろう。

 

 しかし、欠点もある。

 

 前代キャプテンまでのやり方では、いわゆる“一芸に秀でたタイプ”が選から漏れてしまうのだ。当の近藤が、かつて“守備が苦手”という理由で落とされかけたように。

 

 だが近藤の選抜法では、そういう者も生き残ることができる。例えば「守備は上手くないが打撃センスのある者」を選んでおき、レギュラーに組み込んでいけば良い。

 

 もちろん二遊間など、本当に守備力が不可欠なポジションもあるが、それは既存のメンバーで十分補える(慎二=セカンド、曽根=ショート、牧野=キャッチャー)。

 

 さらに言えば、逆に打撃センスは低いが「守備力がある者」あるいは「駿足である者」も選んでおく(これについては後述する)。

 

 

3.練習メニューは基本を徹底的に!

 

 さて、具体的な強化法だ。

 

 まず……意外に思われるかもしれないが、全員を「猛ノックで徹底的に鍛える」ことから始めたい。近藤は嫌がりそうなので、ここは牧野の出番である(笑)。

 

 なぜノックかと言えば、理由は二つ。一つは、いくら守備が苦手だからといって、まったく守れないようでは困るからだ。せめて体で止めて、確実に一塁でアウトにする。それぐらいの基本プレーは身につけさせたい。

 

 そして、もう一つは「足腰を鍛えるため」である。

 

 ノックが単に守備練習だというのは、素人の考えだ。実際は、足をしっかり動かすことが下半身強化につながり、それが安定したバッティングフォームを生み出す。

 

 ついでに……これも近藤が嫌いなランニング(笑)も、しっかりメニューに組み込みたい。長距離でなく、短中距離のダッシュを行うのである。とくに中学生は、まだ体ができていない。将来を考えても、基礎的な運動を蔑ろにしてはいけないはずだ。

 

 話を戻す。

 

 次は、やはり打撃強化。これも基本の形を重視したい。素振りやトスバッティングでフォームを固めたうえで、生きたボールを打つ。

 

 ポイントは、どの球種でもどのコースでも、しっかり振り抜くこと。ここで誤解のないように書き添えておくが、大振りせよというわけではない。バットを短く持っていいから、しっかりフォロースルーまで完結させること。

 

 また、前述の「打撃が苦手な者」も、せめてバントとゴロ打ちだけはできるように、しっかり練習しておく。チームの特徴として、大味になりがちだけに、細かいプレーのできる者は重宝されるはずだ(笑)。

 

4.地区大会における戦略

 

 上記のようなチーム強化が順調に進み、いよいよ地区大会である。

 

 勝ち上がるイメージとしては、極端に言えば毎試合「10-5で勝てたら理想的」といった感じだ。要するに、取られてもその倍取り返すという。

 

 なぜ失点を前提とするかといえば、もちろん継投を使うからである。

 

 主力投手としては、近藤とJOYである。できれば慎二にもがんばってもらって(コントロールはいいので)、三人でローテーションしたい。

 

 具体的には、中盤までJOYが投げ、六~七回以降は近藤が締める。打力のない相手であれば、慎二に何イニングか投げさせると、さらに余裕が生まれるだろう。

 

 リードを奪った終盤。ここから、前述の「打撃センスは低いが守備力のある」選手の出番である――そう、プロ野球でよく見られる“守備固め”だ。欲をいえば、外野に「駿足」の選手を置くことができれば、さらに守りを強化できる。

 

 このように「一芸に秀でた選手」を上手く組み合わせ、適材適所で使い分ける。これこそ近藤式選抜の利点であり、前代キャプテンが唯一実現できなかった、懐の深いチーム作りというものではないだろうか。

 

 

 ただ問題は……どうやって“最大のライバル”青葉を倒すか、である。

 

 青葉戦に限って言えば、近藤先発でも良いかもしれない。彼が九回を三点以内に抑えられれば、墨二に勝機がある。

 

 ただ近藤先発は、リスクもある。以前のエントリーでも書いたが、彼は一年時から主戦格で投げ続けているため、青葉打線に覚えられている可能性が高い。抑えられれば良いが、もし序盤から打ち込まれた場合、代える投手がいないのだ。

 

 私なら、JOYと近藤の継投でいく。JOYは四~五回まで。青葉打線が捉え出したところで、近藤にスイッチする。二人で五点以下に抑えられれば上出来だろう。

 

 打つ方は、どうにかなると思う。

 

 墨二はなんといっても、近藤を相手にバッティング練習ができるのだ。いくら青葉でも、近藤と同格の投手はそういまい。それで不安なら、せっかくOB丸井の執り成しで、朝日高校とのパイプができたのだし、また練習試合を組んでもらえば良い。

 

 そう……墨二が勝つためには、打撃戦に持ちこむしかない。それも九回で決着させなければダメだ。延長戦にまで持ち込まれると、選手層の薄い墨二は……不利だ(丸井キャプテン時代の青葉戦、イガラシは九回から登板。それでも最後はボロボロだった)。

 

 まとめると――点の取り合いに持ちこんでどうにかリードを奪い、最後は近藤で抑えるというのが、墨二の勝利の方程式だろう。

 

5.コージィ先生、そりゃないっス!(※『キャプテン2』好きな方はスルー奨励)

 

 ここから先は、グチである。

 

 コージィ城倉氏による『キャプテン2』は、ちばあきお『プレイボール』に登場した元サッカー部・相木が登場し、練習法について様々な指南をするという展開から始まった。

 

 作中の「長距離走は重要じゃない」だの「“練習させすぎ問題”」だの(大きく外してはいないが言い方がムカツク)と、前代のやり方どころか、ちばあきお『キャプテン』の根本哲学まで否定するようなフレーズの数々は、はっきり言って気分が悪かった。

 

 だがそれでも、私はコージィ氏なりの野球哲学で、墨二がどのように地区大会を勝ち上がっていくのか、見たい気持ちもあった。原作の精神を否定までしたのだから、それに代わる哲学と方法で、青葉や江田川とどのように伍していったか、それなりに説得力を感じたいと。

 

 が……コージィ氏は、その過程をすっとばした。

 

 これじゃ近藤流、いやコージィ氏の哲学がどのように機能したのか、確かめようがないではないか。

 

 皮肉で言っているのではない。上記に礼を示した通り、切り口によっては「あっ、そういうやり方もあるのか!」「これなら原作ファンも納得できる」と思わせることも、十分可能だったのに!

 

 私はコージィ氏の『プレイボール2』と『キャプテン2』については批判しているが、氏の代表作『グラゼニ』は楽しませてもらったし、野球への造詣は深い方だと確信している。

 

 かえすがえすも残念である。コージィ先生、あなたならもっと描けたでしょう……と。

 

 

 

 

 

 

 【関連リンク】

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