南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』小ネタ集② -歴代キャプテントーク&「プレイボール」俳句-

 

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1.ぎこちない二人

 

イガラシ:……あの、半田さん。

 

半田:(一瞬びくっとして、振り向き)な、なんだいイガラシ君。

 

イガラシ:四月の川北戦のスコア、後で見せていただけますか?

 

半田:うん、ちょうどいまスコアブック持ってる。どこだっけ……(ページをめくりながら)あ、あいかわらず熱心だねぇ。

 

イガラシ:ちょっと自分の打席を振り返りたくて。

 

半田:む……あの試合、イガラシ君は二打数一安打だったね。(←まだページを探している途中)

 

イガラシ:(!)え、ええ。

 

半田:二打席目のショートゴロも、いい当たりだったんだけど、相手の守備がうまかったよね……あった、ハイどうぞ。

 

イガラシ:ありがとうございます。どれどれ……ああ二打席目は、カンタンに初球から打っちゃってる。もう少し粘るんだったなぁ。

 

半田:でもイガラシ君、たしかあの時『追い込まれると変化球がくるから、早いカウントから打ちにいかないと』って言ってたよ。

 

イガラシ:(!!)えっ、そうでしたっけ(半田さん、記憶力スゴイな……)。あ、スミマセン……ちょっと貸していただけますか? 他のメンバーへの投球もチェックしたいので。帰る前には、お返ししますので。

 

半田:どうぞ。

 

(イガラシがいなくなって一人に)

 

半田:ふぅ……なんだかイガラシ君と話すと、キンチョウしちゃうなぁ。一年生なのに物怖じしないし、野球スゴク上手だし。丸井なんか、ズケズケ突っ込まれてるし。

 

(一方、スコアブックを預かったイガラシは……)

 

イガラシ:(部室のイスに座り)ふぅ……(深く溜息をつく)

 

丸井:どしたいイガラシ、疲れた顔しちゃって。さすがのおまえもバテたのか。

 

イガラシ:いえ……さっき、半田さんと話してたので。

 

丸井:え、今なんつった?

 

イガラシ:ですから、半田さんと話して……ちょっと疲れちゃったんです。あの人と話すの、けっこうキンチョウしちゃうので。

 

丸井:き、キンチョウ? おまえが? 半田に!? ななな、なんでよ!!

 

イガラシ:驚きすぎですよ(苦笑い)。だってあの人、先輩なのに部室の掃除とかみんなの切符を買ったりとかやってくれるので、なんか負担感じちゃうんですよ。

 

丸井:ま、たしかに。

 

イガラシ:しかもプレーは下手なのに、野球の知識はスゴイですし。正直、どう接したらいいのか……

 

丸井:ハハ。ま、いいんじゃねーの。いつも誰にでも、ズケズケ言ってたら、そのうちバチが当たっちまうからな。

 

イガラシ:(小声で)丸井さんみたいに分かりやすい人は、ラクなんだけどな……(ブツブツ)

 

丸井:……こらイガラシ、なにか言ったか?

 

イガラシ:ほら、そういうトコとか。

 

丸井:なんだとてめ。スキを見りゃ、人をからかいやがって。

 

イガラシ:よ、よしましょうって。みなさん見てますよ。

 

丸井:またそうやってごまかしやがって! ……へっ?(おそるおそる周りを見る)

 

倉橋:丸井、さっきからウルサイぞ!

 

丸井:す、スミマセン!

 

周囲:(こらえきれず吹き出して)プー、クククク!

 

谷口:(困惑顔)

 

<完>

 

 

2.二十年後の歴代キャプテン

 

(とある赤提灯のカウンターにて)

 

丸井:ようっ、近藤。久しぶりだな。

 

近藤:(立ち上がり)ま、丸井ハン。お久しぶりです(ペコリ)。

 

丸井:ははっ。相川らず、丸井「さん」って言えないのかおまえは。

 

近藤:は、ドウモ……(やや恐縮した顔で)

 

丸井:なにビクついてんだよ。ま、いいや。とりあえずカンパイしようぜ。

 

近藤:……は、はいな。ほな……丸井はん、おビールでよろしいですか?

 

丸井:お、おう。なんでおめぇ、少しは気が利くようになったじゃねぇか。

 

近藤:おかげさまで……ほな大将、生二丁!

 

赤提灯の大将:ハイヨ! (目の前でビールをそそぎ)へいっ、おまち!

 

丸井&近藤:(ビールのグラスを手に)カンパーイ!(二人とも一気飲み)

 

丸井:ぷはぁ、生き返るぜ! む……しっかし近藤、悪かったな。

 

近藤:は、なにがですの?

 

丸井:(大将に聞かれないよう小声で)プロ野球のスターを、こんな所に付き合わせちまってよ。

 

近藤:なんや、そんなことですか。だって丸井はんのことやし、なにがなんでもおごってくれようとしてくれはるじゃありませんか。もし高い店にしたら、先輩の負担になりますし。

 

丸井:こら、人をビンボウ人みたいに言うじゃねぇ。おまえほどじゃねぇが、こちとら結構稼いでるんだぜ。

 

近藤:せやけど丸井はん、昨年二番目の子ォが生まれたそうやないですか。

 

丸井:(一気にデレデレして)そ、そうなんだよ。これがまた俺っちソックリで、かわいくってな。あのくりっとした目で、俺っちのこと「ぱぁぱ、ぱぁぱ」って呼ぶんだぜ。

 

近藤:ほんなら、ますますムダ遣いはあきまへんな。奥さんの機嫌も悪うなりますし。

 

丸井:ほ、ほっとけ!(←怖い奥さんの尻に敷かれている)

 

(しばし二人で飲み交わしながら)

 

近藤:(ふいにしみじみと)せやけど丸井はん……ワテ、丸井はんに、すごく感謝してることがあるのですよ。

 

丸井:むっ、なんだよ。

 

近藤:ほら、ワイ走るのキライでしたやろ。スキあらば、さぼろうとしたりして。

 

丸井:ハハハ、そうだったな。おまえ何度、俺っちのゲンコツくらったことか。

 

近藤:ええ。せやけど丸井はんは、こんなワイになんやかんやで、根気よう教えてくれはったやありまへんか。やはりプロの世界では、才能だけじゃあきまへん。キライな練習でも、しっかりやらないと、生き残っていかれないのですよ。

 

丸井:けっ、いまさらおまえに感謝なんてされても、何も出ねーよ。ったく……(目元がうるんでくる。うつむいて、さりげなさを装って手で涙を拭く)

 

近藤:む……丸井はん、泣いてますの?

 

丸井:(ムキになって)だ、誰が泣くかよ。ちと目にゴミが入っただけだ。

 

(その時、後ろの扉がガラッと開く)

 

大将:へい、らっしゃい!

 

丸井:お、新客か……って、おおっ。い、イガラシ!

 

イガラシ:(バリッとしたスーツ姿)お久しぶりです、丸井さん。そして近藤。

 

(イガラシは近藤の隣に座る。三人であらためて乾杯して)

 

丸井:しっかしイガラシ、おまえ社会人野球で活躍してたのに。たしか五年前、あっさり引退したんだってな。もったいねー。

 

イガラシ:はは、そう言ってもらえるのは、ありがたいスけど。じつは……長年のツケで、だいぶ肘と膝にガタがきてたんです。なにせ、この体なので。

 

丸井:そ、そうだったのか。悪いコト聞いちまったな。

 

イガラシ:なーに。おかげで元々やりたかった仕事ができるようになって、むしろ好都合でした。

 

丸井:や、やりたかった仕事って?

 

イガラシ:(名刺を二枚取り出す)どうぞ丸井さん。近藤も。

 

丸井:ふむ……し、「少年野球トレーニング法」研究室長、だと?

 

イガラシ:ええ。もともとうちの会社、スポーツ整形関連の仕事をしているので。いまは、ぼくらが現役の頃みたいに、ムチャな練習はできませんから。限られた時間で少しでも上達できるトレーニング法がないか研究して、少しずつ成果が出始めてるとこなんスよ。

 

近藤:そういやぁ、ワイも聞いたことあります。かなり画期的なトレーニング法が紹介されてて、うちのチームでも話題になってました。

 

イガラシ:ふふ、プロの間でも広まってきてるとなりゃ、続けた甲斐があったぜ。ま、軌道に乗り出した最初のキッカケは、墨高の谷口監督……いや谷口さんが、注目して活用してくれたことですけど。

 

丸井:そうそう、谷口さん。墨高野球部の監督になったんだよな。

 

イガラシ:ええ。しかも、いまや墨高といえば、都内屈指の強豪校ですからね。あの人が監督に就任してから、この夏でたしか三年連続の甲子園出場でしたっけ。噂じゃ、来年は全国制覇がねらえるほどの実力だそうですよ。

 

丸井:らしいな。やはりあの人は、根っからの指導者気質なんだろう。なんだか自分のことのように、うれしいぜ……(グスン)

 

近藤:あ、やっぱり泣いてはる。

 

丸井:うるせー、野暮なこと言うんじゃねぇ!

 

イガラシ:そういや近藤は、谷口さんと一緒だったことはないんだよな。

 

井口:はいな。せやけど、オールスターで墨高出身の人と会うた時に、ちらっと聞いたりはします。

 

イガラシ:おお、井口か。そういや近藤とは、セ・パで別のリーグだもんな。ひょっとして日本シリーズでの対決もあるかと思ったが、惜しかったよな。

 

近藤:……わ、ワテ……あの人は苦手や。

 

丸井:れ、なんでよ?

 

近藤:なんや図々しい、ふてぶてしいし、ワガママそうやし。

 

丸井&イガラシ:(目を見合わせ)おまえら似た者同士だろう……(ブツブツ)

 

近藤:なにか言いはりました?

 

イガラシ:(苦笑いして)い、いやっ。なんでもねーよ。あ……そうだ近藤、一つおまえに感謝してることがあるんだ。

 

近藤:わ、ワイに感謝? なんですの。

 

イガラシ:俺もこの歳になって、部下を持つようになったんだけどよ。やはり色んなやつがいるんだ。けど、中学ん時に、おまえと一緒にやってたから、どんなやつに出会ってもハラが立たなくなったよ。

 

近藤:……そ、それホメてますの?

 

イガラシ:ホメてるんだ。一見はみ出し者に思っても、チャンスときっかけを与えてやりゃ、こっちの予想以上の働きをしてくれたりする。おまえを見てて、学んだことだからな。

 

近藤:は、ハァ……おおきに。

 

丸井:やい近藤。イガラシに感謝することなら、まだあるぞ。オメーが入学してきた時、俺はあまりの傍若無人さに、いっそクビにしてやろうと思った。けど、イガラシが引き留めてくれたから、おまえは部に残れたんだぞ。

 

近藤:へっ、そうだったんですの。

 

丸井:うむ。おまえはイガラシがいなけりゃ、いま頃野球を続けてなかったかもしれねぇんだからな。

 

近藤:い、イガラシはん。おおきに!(抱きつこうとする)

 

イガラシ:よせよ、気持ち悪い(冷たくあしらう)。

 

(それから約二時間後……)

 

丸井:(ぐでんぐでんに酔っぱらって)イガラシ! てめぇは昔から、口達者でリクツっぽくて、可愛げがねーんだ。そこんとこ、もうちょいなんとかしろ……ヒック。で、近藤! きさまは……ウイー、ヒック。

 

イガラシ&近藤:か、変わらねーな。この人……

 

<完>

 

 

3.もしも歴代「キャプテン」が戦国武将だとしたら……

 

谷口:打てぬならもっと練習ホトトギス

 

丸井:打てぬなら泣かせてしまえホトトギス

 

イガラシ:打てぬなら打つまで特訓ホトトギス

 

近藤:打てぬなら打つまで待とうホトトギス

 

 

4.プレイボール俳句

 

白球の飛び込む川面(かわも)夏来(きた)る

  季語:夏来る

 

炎天下王長島のベンチかな

 季語:炎天下

 

鯛焼や筵の真っすぐな綾は

  季語:鯛焼

 

大敗の後の車内や夏隣(なつどなり)

  季語:夏隣

 

盗塁は牽制の後油蝉

  季語:油蝉

 

 【関連リンク】

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