1.ヒマワリ組のイガラシ君
<その1>
(とある保育園の教室にて)
みち先生:(にこやかな顔で)さぁみなさん、これから絵を描きましょう。テーマは「ぼくの夢・わたしの夢」です。画用紙を一枚ずつもらって、大きくなったら何をしたいか、何になりたいか、自分で選んで描きましょうね~。
子供達:は~い!!
みち先生:(子供達の絵を見て回りながら)あら歩美ちゃん、ステキなお花さんね。
歩美ちゃん:うん! あたし、大きくなったらお花屋さんになるの~。
みち先生:まぁステキな夢ね。がんばってね歩美ちゃん!
歩美ちゃん:うん、がんばる!
みち先生:えっと……あら小嶋くん、これは大きなウナギねぇ。
小嶋くん:うん。おれ大きくなったら、ウナ重を百杯食べるんだ~。
みち先生:(ちょっと苦笑い)ま、まぁ。そうね、たくさん食べて大きくなろう!
小嶋くん:はーい!!(みょうに力強く)
みち先生:ウフフ。おや、イガラシ君。これは野球かしら?
イガラシくん:そうだよ(ちょっと素っ気ない返事。画用紙に野球の試合を描いている)。
みち先生:てことは……イガラシ君は、大きくなったら野球選手になりたいのかしら?
イガラシくん:うん、「せんしゅ」にもなりたいけど……いちばんやりたいのは、これ(ベンチに座っている人物を指さす)。ここに、エラそうにすわってるオジサンいるでしょ。ええと、なんていったっけなぁ。
みち先生:え……もしかして、監督?
イガラシくん:そう、それそれ。カントクやりたい。
みち先生:まぁ、野球の監督だなんて。イガラシくん、しぶいトコに目をつけたわね。でも……たしかにカッコいいよね、監督って。
イガラシくん:い、いやぁ……カッコイイとかじゃなく(ちょっと首を傾げて)。
みち先生:え、どういうこと?
イガラシくん:おれがカントクしたほうが、ぜったい、つよくなるとおもって。
きのうのジャイアンツのしあいなんか、あいてのバントのときにもっとすばやくダッシュしてたら、セカンドでさせたのに、なんでしじしないんだろうとおもって。それと「だじゅん」も……(ブツブツ)
みち先生:ぐ、具体的……(なんかすごいけど、カワイクないわね)。
<その2>
(お昼寝の時間。みち先生は、前日に彼氏と別れ、傷心を引きずっている)
みち先生:(イスに座り、すやすや眠る子供達を眺めながら)ああ……あのまま彼と結婚して、子供を産んで、なんて未来を想像してたのに。ぜんぶダメになっちゃった。あたし、これからどうしたらいいんだろう。
(その時、服の裾をチョンチョンと引っぱられる)
みち先生:えっ……あら、イガラシくん。
イガラシくん:……(無言のまま、こちらをじっと見つめている)。
みち先生:どうしたの? おトイレ?
イガラシ:せんせい、コレやるよ(折りたたんだ手紙のようなモノ)。
みち先生:え……これ、なぁに?
イガラシ:いいから、やるって(強引に手渡し)……あとでよんでよ。じゃ、おれはねるから(ぱたぱたと布団へ)。
みち先生:なんだろう……あら、これって(紙に子供の字で)
―― せんせいへ。シツレンぐらいで、そうおちこむなよ。よのなかには、オトコなんて「ほしのかず」ほどいるんだからよ。もっとカッコイイおとこをさがせるチャンスじゃねーか。
あ、だからといって、おれはカンベン。としがはなれすぎてると、あとあとクロウしそうだもん。とにかく……あしたは、もうそんなショボくれたかお、しないでくれよな。
みち先生:あ、ありがとうイガラシくん。あいかわらず、カワイクないけど……うれしいわ(涙ホロリ)。
<その3>
みち先生:さぁみなさん、今日からおゆうぎ会の練習を始めますよ。ヒマワリ組は、みんなの大好きな「サルカニ合戦」をやりましょうね。
子供達:わーい!!(大喜び)
みち先生:さっそく、役を割り振ります。ええと……まず<お母さんカニ>が歩美ちゃん。子ガニが光彦くん、哀ちゃん。あと……サルがイガラシ君。臼(うす)が小嶋君。それと……(順に役を当てていき)では、さっそく練習を始めましょう。
子供達:はーい!
イガラシくん:……あの、せんせい(おもむろに手を挙げる)
みち先生:な、なぁにイガラシくん(まさか顔がサルに似てるからって、サルの役を当てたのがバレて、気に障ったのかしら……冷や汗)
イガラシくん:おれたちみたいに、「やく」をもらったやつはいいけど、そうじゃないやつは「ムラビト」とか「カキのみ」とか「カキの木」のやくって、ちとカワイソウだよ。
みち先生:そ、そこっ? しかも正論……(驚愕)
イガラシくん:たとえば、やくを二人とか三人ずつにして、こうたいずつやるとか。そしたら「おめん」も一つずつですむし、せんせいもテマかからないし、おやもよろこぶし。
みち先生:(さらに驚愕)た、多方面への配慮もバッチリ!!
(おゆうぎ会の後の反省会にて)
園長先生:ヒマワリ組さんの「サルカニ合戦」、大好評だったわね(ニコニコ)。一つの役に二人ずつ充てるなんて、よく思いついたわ。子供達も親御さんも、大満足。来年から、どの組もそうするようにしようかしら。
みち先生:え、ええ……ありがとうございます(まさかイガラシ君のアイディアだなんて、言えない……汗)。
2.DJ丸井<第2回>
― 特別企画<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5> ―
【オープニング】
丸井:(ポップなBGMとともに)さぁ今夜も始まりました。俺っちDJ丸井のお送りする「サタデーナイトキャプテン」。今週は、特別企画。題して……
<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5>
え~、というわけで。俺っちの墨谷二中時代のチームメイトで、こいつはスゴイと思ったプレーヤーを五人選び、その理由について語っていこうというコーナーです。
では……さっそく、第五位から!
【第5位】
→ イガラシ慎二
ご存知、あのイガラシの弟だ。やつの弟なだけあって、野球の素質はピカイチだ。なにせ初見で、あの近藤の速球を打ち返したんだからな。ザマアミロ……じゃなくて、オホン(咳払い)。ほんと驚かされたぜ。
それに二塁手としても、俺っちの後釜を立派に務めてくれた。ま、当初はちと動きの甘さも目立ったが、俺のアドバイスを受けてすぐに修正し、見違えるほど動きも良くなった。
しかも俺っちのことを「名セカンド」だなんて、しっかり立ててくれてよ……へへっ。アニキとちがって、可愛い弟くんだぜ。
あと面白れーのは、あのイガラシと口でやり合うことができるって点だな。
もともとイガラシは、前年の選抜で、近藤のバカが失態を冒した経緯から、一年生からのレギュラー選抜をずっと躊躇していたらしい。それを慎二の具申により変えたってんだから、大した男だぜ。まったく……イガラシも少しは弟を見習って、もうちょい口も巧くなりゃいいものを。
む……口が巧い? そ、そうすっとあの「名セカンド」ってのも、たんに俺っちを持ち上げてただけなのか? ハハハ……ま、いいや。深く考えるのはよそう。
【第4位】
→ 久保
イマイチ地味な印象かもしんねーが、実はスゴイんだぜっていうプレーヤー。なにせ中学選手権優勝チームの三番打者だかんな。
長身ながら柔らかなスイング、もちろん長打力もある。そして勝負強さ。あの和合中との決勝・九回裏に、試合の流れを変えるスリーベースを放ったのが、記憶に残っているリスナーも多いことだろう。
さらに選球眼。地区決勝の江田川戦で、他のメンバーが直球と変化球の見きわめに苦労する中、やつは初見で成しとげやがった。ひょっとしてバッターとしての素質は、イガラシや江田川の井口にも匹敵するかもしれねーな。
しいて望むとするなら、もちっと思い切りが欲しいことか。時々判断に迷いが出たりする。選球眼がいい分、打ちにいくタマを絞りきれないというのがあるのやもしれん。ま、俺っちのような凡人からすれば、ゼイタクな悩みだが。
さて、続く三位は……俺っちが人生で最も尊敬する、あの人だ。
【第3位】
→ 谷口タカオ
うーん……敬愛する谷口さんを、この順位にしなきゃならんのは、本当に忍びない。ただ上二人は、誰がどう見ても突出したやつだからなぁ~。
ま、他のやつはいいとして。我が心の師・谷口さん。バッターとしては、小柄ながらパワーもあるし、選球眼、そして簡単にはアウトにならない粘り強さもある。そして「ここで打って欲しい」場面で、打ってくれる勝負強さ。
また守備では、どんな打球にも喰らい付く。いわゆる“球際が強い”ってやつだろうな。そして執念。青葉との再試合では、なんと指を骨折してでもプレーを続け、ついにチームを日本一へと導いたんだ。
けど……まだこれだけでは、あの人の凄さは伝わらないと思う。
企画の趣旨には合わねーが、やはり語らないわけにはいかないな。なんといっても、谷口さんの凄さは、みんなを引っぱる力。そのリーダーシップよ。
知ってのとおり、谷口さんがキャプテンの時、俺は大会途中でレギュラーを外された。すげぇショックだったし、もう野球部やめてやろうと思って、退部届まで出しかけたんだ。
そして青葉戦が近づくにつれて、苛烈さを増していく特訓。俺でもちと行き過ぎだと思ったし、みんなが文句言う気持ちも、よく分かったよ。
でも……あの人、ウラで俺っちら以上の特訓をしてたんだよ。神社で自分のオヤジと一緒に。俺っちらのコーチに追われて、学校ではできないもんでよ……グスン(涙声)。
あの人……谷口さん、オヤジの作ったマシンの強いボールに、体中が痣だらけになって、それでも喰らい付いていくんだぜ。あんな姿見せられたら……そりゃ、俺っちらもガンバルしかねーわな。
さぁーて。このまま放送時間いっぱいまで、谷口さんの話をしときたいが、あと二人残ってる。次のやつは、名前を口にするのもイヤだが、自分で選んだんだし、仕方ねーや。
【第2位】
→ 近藤
素質だけなら、墨谷二中歴代ナンバー1のプレーヤーだろう。
特にピッチャーとしての才能は、だいぶシャクだが、認めるしかねーわな。初めてやつの投球を見た時、まるで大砲が打ち込まれるように思えたし。その後打席に立ってみたが、ファールした時の手のしびれが、しばらく残ってたくらいだしな。
またバッターとしても、パワーはチーム随一だ。もっとも変化球にカラッキシという弱点があるから、チャンスで回したいかと問われれば、ちと首を傾げるが。それでも俺やイガラシに鍛えられて、段々シャープなスイングができるようになってきたから、少しは俺っちらに感謝して欲しいものだぜ。
しっかし……アイツと初対面の時は、ほんと頭にきたもんね。敬語はなってないわ、「守備はイヤだピッチングだけさせろ」だの信じられねーほど図々しいわ。あー、思い出してもムカツクぜ!
けど、いま振り返ってみれば……やつとの出会いで、俺も人間として鍛えられた面はあるのかもしれねー。自分がいかに感情的になりやすく、器の小さい人間かってことを、イヤってほど思い知らされたしな。俺ってホント、なんの能もないキャプテ……
うーむ……やつの話をしてると、どうも自虐になっちまう。さ、いよいよ栄えある第1位の発表だ!!
【第1位】
→ イガラシ
これはもう、誰しもが納得だろうぜ。やつを選ばなかったら、俺の好き嫌いが入ってると言われちまうくらいだ。
なにせ、この俺っちを一時レギュラーから追い落とした男よ。
こいつが相手じゃなければ、俺だって谷口さんに抗議してたかもしれんが。イガラシなら……まぁ納得するしかねーわな。一年生にして、明らかに俺っちより守備範囲は広いし、ピッチャーも兼任してただけあって肩もつえぇし。
さらにバッティング。あの小柄で、広角に長打が打てる。そしてなんといってもミート力だ。さっきの近藤はちと極端だが、普通のバッターは、苦手な球種・コースがあるもんだ。
ところがイガラシに限って、それはない。やつの凄いところは、どのコース、どの球種でも対応してくる。しかも打席を重ねるごとに、その精度は増していく。
想像してみてくれ。競った展開での終盤、ランナーを置いてイガラシを迎えた時の、相手バッテリーの心境を。さぞ怖かったろうな……ウヒヒ。
そして忘れちゃならねーのが、ピッチング。真っすぐは、あの近藤にヒケを取らないほどのスピード。もちろんコントロールも抜群、さらにカーブ、シュート、落ちるシュートと球種も多彩だ。なにせ青葉との一戦目、いきなりリリーフして、あの強力打線を抑えちまうほどのボールだったからな。
しいて、やつの弱点を挙げるとするなら……力を抜くことを知らねーんだよ。いつも全力投球。んなもんで、相手がわざとファールしてくるなんてセコイ手を使ってきたら、どうしても消耗しちまうんだ。
もっとも、イガラシの自分の身を省みない一面があるからこそ、他のメンバーはあれだけ厳しく言われても、やつについていくトコもあるんだろうな。
うーむ……言うのはシャクだが、そこは谷口さんと似てるのかもしんねぇ。
しかもイガラシの場合、元々の素質は秀でたものがありながら、努力も人一倍だ。そこが近藤との大きなちがいよ。あのヤロウ、少しは先輩のそういう姿を、って……やつの話はドウデモイイんだっ。
あ、そうそう。イガラシはよく「ワガママ」「自己中心的」だなんて誤解されることも多いが、それはまちがいだと、ここでハッキリ断っておこう。
基本的に、歴代キャプテン……ま、近藤はおいといて、俺っちも谷口さんも、勝つためにこうしなきゃいけないって考えることは、そう変わりねーんだ。
ただ、俺や谷口さん……普通の人間は、やっぱ悩むワケよ。これはいくらなんでも、やりすぎじゃねーか、とか。こう言ったら、相手が傷つくんじゃねーか、とか。後で知ったが、あの谷口さんも俺をレギュラーから外すとき、だいぶ悩んだそうだからな。
けどイガラシは、そこで悩まねーのよ。必要だから、やる。いまできねーのなら、できるように努力しろ。どうしてもムリってんなら、控え組に回れ。……ってな。
言い方が淡々としすぎるもんで、どうしても冷たい印象は与えるのかもしれねぇ。かく言う俺っちも、やつと一緒にいて、なんど寒気がしたことか……ハハ(苦笑)。
ただいま思うと、それもやつなりの優しさだったのかも。
あの苛烈な特訓にしたって、ついてくる体力のない者は、かえって早めに脱落させた方が親切だものな。そいつらも見捨てたわけじゃなく、後になってレギュラーを獲得した者だっているし。
またレギュラーテストに不合格だった者に、冷たい言い方をしたのも、ヘタな慰めを言われる方がずっと傷つくと思ったからなのかも。そん時だって、後で力をつけてきた者には、ちゃんとレギュラー組に加えてたからな。
む……なんで俺が、イガラシを庇う話をしてんだ!? い、いいんだよっ。やつはあの見た目通り、可愛げのねぇイヤなやつなんだ。誤解されて上等じゃねぇか。
いいか、全国の野球少年の諸君。まちがっても、イガラシのような人間味に欠ける選手を目指しちゃダメだかんな!!
【エンディング】
(アニメ「キャプテン」のエンディング曲『ありがとう』が流れる)
さて。早いもので、あっという間にエンディングの時間となってしまいました。今夜の特別企画<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5>、いかがだったでしょうか。
おっと、ここでお便りが一通届いたようだから、急いで紹介するぜ。ええと……ラジオネーム・墨谷二中野球部OBさん、より。なんだこの名前、ひょっとして知り合いか?
―― こんばんは。丸井はん、お久しぶりです。ワイのこと、ベストプレーヤーの二位に選んでいただき、おーきに! ワイは今、明日のプロ野球オールスター戦を控えて、都内のホテルに宿泊中です。球団マネージャーを通じて、このハガキを届けます。
明日のワイの雄姿、ぜひとも丸井はんにも見て欲しいです。ほな、また~。ずっと愛してまっせ、キャプテンはん!!(ハートマーク五個つき)
って……これ、近藤じゃねーか!! 明日はオールスターって、自慢か? マグレでプロ入りして、なんかしらんがラッキーで昨年新人王なんか獲ったくらいで、調子に乗りやがって、あのヤロー。
(小声で)しかし、うれしいもんだな……(ボソッ)。あっ、マイクが拾いやがった! い、いまのはナシだ、ナシ。それじゃ、また次回~!!
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