南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』小ネタ集⑦ -<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中”こいつは凄かった”ベスト5」>ほか-

 

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1.ヒマワリ組のイガラシ君

 

<その1>

 

(とある保育園の教室にて)

 

みち先生:(にこやかな顔で)さぁみなさん、これから絵を描きましょう。テーマは「ぼくの夢・わたしの夢」です。画用紙を一枚ずつもらって、大きくなったら何をしたいか、何になりたいか、自分で選んで描きましょうね~。

 

子供達:は~い!!

 

みち先生:(子供達の絵を見て回りながら)あら歩美ちゃん、ステキなお花さんね。

 

歩美ちゃん:うん! あたし、大きくなったらお花屋さんになるの~。

 

みち先生:まぁステキな夢ね。がんばってね歩美ちゃん!

 

歩美ちゃん:うん、がんばる!

 

みち先生:えっと……あら小嶋くん、これは大きなウナギねぇ。

 

小嶋くん:うん。おれ大きくなったら、ウナ重を百杯食べるんだ~。

 

みち先生:(ちょっと苦笑い)ま、まぁ。そうね、たくさん食べて大きくなろう!

 

小嶋くん:はーい!!(みょうに力強く)

 

みち先生:ウフフ。おや、イガラシ君。これは野球かしら?

 

イガラシくん:そうだよ(ちょっと素っ気ない返事。画用紙に野球の試合を描いている)。

 

みち先生:てことは……イガラシ君は、大きくなったら野球選手になりたいのかしら?

 

イガラシくん:うん、「せんしゅ」にもなりたいけど……いちばんやりたいのは、これ(ベンチに座っている人物を指さす)。ここに、エラそうにすわってるオジサンいるでしょ。ええと、なんていったっけなぁ。

 

みち先生:え……もしかして、監督?

 

イガラシくん:そう、それそれ。カントクやりたい。

 

みち先生:まぁ、野球の監督だなんて。イガラシくん、しぶいトコに目をつけたわね。でも……たしかにカッコいいよね、監督って。

 

イガラシくん:い、いやぁ……カッコイイとかじゃなく(ちょっと首を傾げて)。

 

みち先生:え、どういうこと?

 

イガラシくん:おれがカントクしたほうが、ぜったい、つよくなるとおもって。

 きのうのジャイアンツのしあいなんか、あいてのバントのときにもっとすばやくダッシュしてたら、セカンドでさせたのに、なんでしじしないんだろうとおもって。それと「だじゅん」も……(ブツブツ)

 

みち先生:ぐ、具体的……(なんかすごいけど、カワイクないわね)。

 

 

<その2>

 

(お昼寝の時間。みち先生は、前日に彼氏と別れ、傷心を引きずっている)

 

みち先生:(イスに座り、すやすや眠る子供達を眺めながら)ああ……あのまま彼と結婚して、子供を産んで、なんて未来を想像してたのに。ぜんぶダメになっちゃった。あたし、これからどうしたらいいんだろう。

 

(その時、服の裾をチョンチョンと引っぱられる)

 

みち先生:えっ……あら、イガラシくん。

 

イガラシくん:……(無言のまま、こちらをじっと見つめている)。

 

みち先生:どうしたの? おトイレ?

 

イガラシ:せんせい、コレやるよ(折りたたんだ手紙のようなモノ)。

 

みち先生:え……これ、なぁに?

 

イガラシ:いいから、やるって(強引に手渡し)……あとでよんでよ。じゃ、おれはねるから(ぱたぱたと布団へ)。

 

みち先生:なんだろう……あら、これって(紙に子供の字で)

 

―― せんせいへ。シツレンぐらいで、そうおちこむなよ。よのなかには、オトコなんて「ほしのかず」ほどいるんだからよ。もっとカッコイイおとこをさがせるチャンスじゃねーか。

 あ、だからといって、おれはカンベン。としがはなれすぎてると、あとあとクロウしそうだもん。とにかく……あしたは、もうそんなショボくれたかお、しないでくれよな。

 

みち先生:あ、ありがとうイガラシくん。あいかわらず、カワイクないけど……うれしいわ(涙ホロリ)。

 

 

<その3>

 

みち先生:さぁみなさん、今日からおゆうぎ会の練習を始めますよ。ヒマワリ組は、みんなの大好きな「サルカニ合戦」をやりましょうね。

 

子供達:わーい!!(大喜び)

 

みち先生:さっそく、役を割り振ります。ええと……まず<お母さんカニ>が歩美ちゃん。子ガニが光彦くん、哀ちゃん。あと……サルがイガラシ君。臼(うす)が小嶋君。それと……(順に役を当てていき)では、さっそく練習を始めましょう。

 

子供達:はーい!

 

イガラシくん:……あの、せんせい(おもむろに手を挙げる)

 

みち先生:な、なぁにイガラシくん(まさか顔がサルに似てるからって、サルの役を当てたのがバレて、気に障ったのかしら……冷や汗)

 

イガラシくん:おれたちみたいに、「やく」をもらったやつはいいけど、そうじゃないやつは「ムラビト」とか「カキのみ」とか「カキの木」のやくって、ちとカワイソウだよ。

 

みち先生:そ、そこっ? しかも正論……(驚愕)

 

イガラシくん:たとえば、やくを二人とか三人ずつにして、こうたいずつやるとか。そしたら「おめん」も一つずつですむし、せんせいもテマかからないし、おやもよろこぶし。

 

みち先生:(さらに驚愕)た、多方面への配慮もバッチリ!!

 

(おゆうぎ会の後の反省会にて)

 

園長先生:ヒマワリ組さんの「サルカニ合戦」、大好評だったわね(ニコニコ)。一つの役に二人ずつ充てるなんて、よく思いついたわ。子供達も親御さんも、大満足。来年から、どの組もそうするようにしようかしら。

 

みち先生:え、ええ……ありがとうございます(まさかイガラシ君のアイディアだなんて、言えない……汗)。

 

 

2.DJ丸井<第2回>

 

― 特別企画<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5> ―

 

 

 【オープニング】

 

丸井:(ポップなBGMとともに)さぁ今夜も始まりました。俺っちDJ丸井のお送りする「サタデーナイトキャプテン」。今週は、特別企画。題して……

 

<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5>

 

 え~、というわけで。俺っちの墨谷二中時代のチームメイトで、こいつはスゴイと思ったプレーヤーを五人選び、その理由について語っていこうというコーナーです。

 

 では……さっそく、第五位から!

 

【第5位】

→ イガラシ慎二

 

 ご存知、あのイガラシの弟だ。やつの弟なだけあって、野球の素質はピカイチだ。なにせ初見で、あの近藤の速球を打ち返したんだからな。ザマアミロ……じゃなくて、オホン(咳払い)。ほんと驚かされたぜ。

 

 それに二塁手としても、俺っちの後釜を立派に務めてくれた。ま、当初はちと動きの甘さも目立ったが、俺のアドバイスを受けてすぐに修正し、見違えるほど動きも良くなった。

 

 しかも俺っちのことを「名セカンド」だなんて、しっかり立ててくれてよ……へへっ。アニキとちがって、可愛い弟くんだぜ。

 

 あと面白れーのは、あのイガラシと口でやり合うことができるって点だな。

 

 もともとイガラシは、前年の選抜で、近藤のバカが失態を冒した経緯から、一年生からのレギュラー選抜をずっと躊躇していたらしい。それを慎二の具申により変えたってんだから、大した男だぜ。まったく……イガラシも少しは弟を見習って、もうちょい口も巧くなりゃいいものを。

 

 む……口が巧い? そ、そうすっとあの「名セカンド」ってのも、たんに俺っちを持ち上げてただけなのか? ハハハ……ま、いいや。深く考えるのはよそう。

 

 

【第4位】

→ 久保

 

 イマイチ地味な印象かもしんねーが、実はスゴイんだぜっていうプレーヤー。なにせ中学選手権優勝チームの三番打者だかんな。

 

 長身ながら柔らかなスイング、もちろん長打力もある。そして勝負強さ。あの和合中との決勝・九回裏に、試合の流れを変えるスリーベースを放ったのが、記憶に残っているリスナーも多いことだろう。

 

 さらに選球眼。地区決勝の江田川戦で、他のメンバーが直球と変化球の見きわめに苦労する中、やつは初見で成しとげやがった。ひょっとしてバッターとしての素質は、イガラシや江田川の井口にも匹敵するかもしれねーな。

 

 しいて望むとするなら、もちっと思い切りが欲しいことか。時々判断に迷いが出たりする。選球眼がいい分、打ちにいくタマを絞りきれないというのがあるのやもしれん。ま、俺っちのような凡人からすれば、ゼイタクな悩みだが。

 

 さて、続く三位は……俺っちが人生で最も尊敬する、あの人だ。

 

 

【第3位】

→ 谷口タカオ

 

 うーん……敬愛する谷口さんを、この順位にしなきゃならんのは、本当に忍びない。ただ上二人は、誰がどう見ても突出したやつだからなぁ~。

 

 ま、他のやつはいいとして。我が心の師・谷口さん。バッターとしては、小柄ながらパワーもあるし、選球眼、そして簡単にはアウトにならない粘り強さもある。そして「ここで打って欲しい」場面で、打ってくれる勝負強さ。

 

 また守備では、どんな打球にも喰らい付く。いわゆる“球際が強い”ってやつだろうな。そして執念。青葉との再試合では、なんと指を骨折してでもプレーを続け、ついにチームを日本一へと導いたんだ。

 

 けど……まだこれだけでは、あの人の凄さは伝わらないと思う。

 

 企画の趣旨には合わねーが、やはり語らないわけにはいかないな。なんといっても、谷口さんの凄さは、みんなを引っぱる力。そのリーダーシップよ。

 

 知ってのとおり、谷口さんがキャプテンの時、俺は大会途中でレギュラーを外された。すげぇショックだったし、もう野球部やめてやろうと思って、退部届まで出しかけたんだ。

 

 そして青葉戦が近づくにつれて、苛烈さを増していく特訓。俺でもちと行き過ぎだと思ったし、みんなが文句言う気持ちも、よく分かったよ。

 

 でも……あの人、ウラで俺っちら以上の特訓をしてたんだよ。神社で自分のオヤジと一緒に。俺っちらのコーチに追われて、学校ではできないもんでよ……グスン(涙声)。

    あの人……谷口さん、オヤジの作ったマシンの強いボールに、体中が痣だらけになって、それでも喰らい付いていくんだぜ。あんな姿見せられたら……そりゃ、俺っちらもガンバルしかねーわな。

 

 さぁーて。このまま放送時間いっぱいまで、谷口さんの話をしときたいが、あと二人残ってる。次のやつは、名前を口にするのもイヤだが、自分で選んだんだし、仕方ねーや。

 

 

【第2位】

→ 近藤

 

 素質だけなら、墨谷二中歴代ナンバー1のプレーヤーだろう。 

 特にピッチャーとしての才能は、だいぶシャクだが、認めるしかねーわな。初めてやつの投球を見た時、まるで大砲が打ち込まれるように思えたし。その後打席に立ってみたが、ファールした時の手のしびれが、しばらく残ってたくらいだしな。

 

 またバッターとしても、パワーはチーム随一だ。もっとも変化球にカラッキシという弱点があるから、チャンスで回したいかと問われれば、ちと首を傾げるが。それでも俺やイガラシに鍛えられて、段々シャープなスイングができるようになってきたから、少しは俺っちらに感謝して欲しいものだぜ。

 

 しっかし……アイツと初対面の時は、ほんと頭にきたもんね。敬語はなってないわ、「守備はイヤだピッチングだけさせろ」だの信じられねーほど図々しいわ。あー、思い出してもムカツクぜ!

 

 けど、いま振り返ってみれば……やつとの出会いで、俺も人間として鍛えられた面はあるのかもしれねー。自分がいかに感情的になりやすく、器の小さい人間かってことを、イヤってほど思い知らされたしな。俺ってホント、なんの能もないキャプテ……

 

 うーむ……やつの話をしてると、どうも自虐になっちまう。さ、いよいよ栄えある第1位の発表だ!!

 

 

【第1位】

→ イガラシ

 

 これはもう、誰しもが納得だろうぜ。やつを選ばなかったら、俺の好き嫌いが入ってると言われちまうくらいだ。

 

 なにせ、この俺っちを一時レギュラーから追い落とした男よ。

 こいつが相手じゃなければ、俺だって谷口さんに抗議してたかもしれんが。イガラシなら……まぁ納得するしかねーわな。一年生にして、明らかに俺っちより守備範囲は広いし、ピッチャーも兼任してただけあって肩もつえぇし。

 

 さらにバッティング。あの小柄で、広角に長打が打てる。そしてなんといってもミート力だ。さっきの近藤はちと極端だが、普通のバッターは、苦手な球種・コースがあるもんだ。

 

 ところがイガラシに限って、それはない。やつの凄いところは、どのコース、どの球種でも対応してくる。しかも打席を重ねるごとに、その精度は増していく。

 想像してみてくれ。競った展開での終盤、ランナーを置いてイガラシを迎えた時の、相手バッテリーの心境を。さぞ怖かったろうな……ウヒヒ。

 

 そして忘れちゃならねーのが、ピッチング。真っすぐは、あの近藤にヒケを取らないほどのスピード。もちろんコントロールも抜群、さらにカーブ、シュート、落ちるシュートと球種も多彩だ。なにせ青葉との一戦目、いきなりリリーフして、あの強力打線を抑えちまうほどのボールだったからな。

 

 しいて、やつの弱点を挙げるとするなら……力を抜くことを知らねーんだよ。いつも全力投球。んなもんで、相手がわざとファールしてくるなんてセコイ手を使ってきたら、どうしても消耗しちまうんだ。

 

 もっとも、イガラシの自分の身を省みない一面があるからこそ、他のメンバーはあれだけ厳しく言われても、やつについていくトコもあるんだろうな。

 うーむ……言うのはシャクだが、そこは谷口さんと似てるのかもしんねぇ。

 

 しかもイガラシの場合、元々の素質は秀でたものがありながら、努力も人一倍だ。そこが近藤との大きなちがいよ。あのヤロウ、少しは先輩のそういう姿を、って……やつの話はドウデモイイんだっ。

 

 あ、そうそう。イガラシはよく「ワガママ」「自己中心的」だなんて誤解されることも多いが、それはまちがいだと、ここでハッキリ断っておこう。

 

 基本的に、歴代キャプテン……ま、近藤はおいといて、俺っちも谷口さんも、勝つためにこうしなきゃいけないって考えることは、そう変わりねーんだ。

 

 ただ、俺や谷口さん……普通の人間は、やっぱ悩むワケよ。これはいくらなんでも、やりすぎじゃねーか、とか。こう言ったら、相手が傷つくんじゃねーか、とか。後で知ったが、あの谷口さんも俺をレギュラーから外すとき、だいぶ悩んだそうだからな。

 

 けどイガラシは、そこで悩まねーのよ。必要だから、やる。いまできねーのなら、できるように努力しろ。どうしてもムリってんなら、控え組に回れ。……ってな。

 

 言い方が淡々としすぎるもんで、どうしても冷たい印象は与えるのかもしれねぇ。かく言う俺っちも、やつと一緒にいて、なんど寒気がしたことか……ハハ(苦笑)。

 

 ただいま思うと、それもやつなりの優しさだったのかも。

 

 あの苛烈な特訓にしたって、ついてくる体力のない者は、かえって早めに脱落させた方が親切だものな。そいつらも見捨てたわけじゃなく、後になってレギュラーを獲得した者だっているし。

 

 またレギュラーテストに不合格だった者に、冷たい言い方をしたのも、ヘタな慰めを言われる方がずっと傷つくと思ったからなのかも。そん時だって、後で力をつけてきた者には、ちゃんとレギュラー組に加えてたからな。

 

 む……なんで俺が、イガラシを庇う話をしてんだ!? い、いいんだよっ。やつはあの見た目通り、可愛げのねぇイヤなやつなんだ。誤解されて上等じゃねぇか。

 

 いいか、全国の野球少年の諸君。まちがっても、イガラシのような人間味に欠ける選手を目指しちゃダメだかんな!!

 

 

【エンディング】

 

(アニメ「キャプテン」のエンディング曲『ありがとう』が流れる)

 

 さて。早いもので、あっという間にエンディングの時間となってしまいました。今夜の特別企画<DJ丸井が選ぶ「墨谷二中“こいつは凄かった”」ベスト5>、いかがだったでしょうか。

 

 おっと、ここでお便りが一通届いたようだから、急いで紹介するぜ。ええと……ラジオネーム・墨谷二中野球部OBさん、より。なんだこの名前、ひょっとして知り合いか?

 

―― こんばんは。丸井はん、お久しぶりです。ワイのこと、ベストプレーヤーの二位に選んでいただき、おーきに! ワイは今、明日のプロ野球オールスター戦を控えて、都内のホテルに宿泊中です。球団マネージャーを通じて、このハガキを届けます。

 明日のワイの雄姿、ぜひとも丸井はんにも見て欲しいです。ほな、また~。ずっと愛してまっせ、キャプテンはん!!(ハートマーク五個つき)

 

 って……これ、近藤じゃねーか!! 明日はオールスターって、自慢か? マグレでプロ入りして、なんかしらんがラッキーで昨年新人王なんか獲ったくらいで、調子に乗りやがって、あのヤロー。

 

 (小声で)しかし、うれしいもんだな……(ボソッ)。あっ、マイクが拾いやがった! い、いまのはナシだ、ナシ。それじゃ、また次回~!!

 

 【関連リンク】

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