南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

<考察>谷口タカオ率いる墨高は、果たして”別格”の強敵・谷原に勝てるのか!?

 

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1.はじめに

 

 グランドジャンプにて連載中の『プレイボール2』において、谷口タカオ率いる墨高ナインが、いよいよ因縁の谷原との決戦を迎えることとなった(時を同じくして、筆者が執筆中の小説『続・プレイボール』でも、次は谷原戦である)。

 

 この機会に、往年のファンが最も気になるであろう疑問、すなわち「墨高は谷原に勝てるのか」という点について、改めて考察してみることとしたい。

 

 

2.谷原が“別格”である理由

 

 原作『プレイボール』では、この谷原の他にも強豪校は出てくる。最初に登場した東実。倉橋の縁で胸を借りた川北。二年夏に辛くも勝利した名門・専修館、東実を破り墨高も完敗した明善。

 

 しかし、それらの強豪校と比較しても、やはり谷原は図抜けた存在だ。そう断言できる理由は、ずばり「甲子園(=全国大会)での実績」である。

 

 東実や川北は、しばしば甲子園へ出ているチームだと、作中において言及されている。しかし、甲子園での戦績についてはボカされている。

 

 ところが谷原は、(どこまで勝ち上がったか具体的な記述はないものの)はっきりと“甲子園で活やくした(「プレイボール」文庫版第11巻より)”と書かれている。都内はおろか、全国的にもトップレベルのチームなのである。

 

 しかしそれを以て、だから「墨高は谷原に勝てない」と結論付けてしまうのは、あまりに夢がない。

 

 では、件の谷原との練習試合について振り返ってみたい。

 この時点で、すでに墨高は“弱小校”ではなかった。昨年度は夏・秋と二季連続の8強入り。その上、都内でも強豪として知られる聖稜、専修館、東実を退けている。

 

 優勝候補とまでは言えないにしても、十分に有力校の一つとして数えられる存在になっていたのだ。

 

 その墨高が、なぜ谷原にあれほどの大敗(五点先取したものの、終わってみれば十九失点)を喫したのか。これを“谷原と力の差が大きかったから”と結論付けるのは簡単だが、ちょっと待って欲しい。

 

 

3.墨高はなぜ谷原に大敗したのか

 

 墨高が強豪相手に大敗を喫したことは、過去にもあった。

 まずは一年秋の練習試合・川北戦。そして二年夏の準々決勝・明善戦。そして谷原戦。これら三試合には、実はある“共通項”が存在する。

 

 相手チームの“分析不足”である。

 

 川北戦は、彼らを知る倉橋がリードするまで、単に低めを突くだけの投球になり、いいように打ち込まれた。そして明善戦は、専修館との対決ですべてのエネルギーを使い果たし、事前に情報を得ることすらしなかった。

 

 では、谷原戦は? ほとんど急なタイミングで、谷原のマネージャーが試合を申し込みにきた「翌日」に対戦する運びとなり、川北戦や明善戦と同様、相手をよく調べて分析することが、まったくできなかった。

 

 さらにこの日の墨高は、今までの「無心で相手と戦う姿勢」が、やや欠けていた。

 

 谷原戦、墨高は試合開始の時点で、力のある一年生(井口、イガラシら)を温存している。さらに試合の作戦も、相手にとって効果があるかどうかよりも「一年生に攻め方を教えるため(by丸井)」という意図で行っている。

 

 要するに、今までの“どうにかして格上に一矢報いる”という姿勢ではなくなっていたのだ。そうであれば一年生も先発に加えただろうし、エース村井にもっと喰らいつくバッティング(川北戦のようなチョコン打法)をしていたはずである。

 

 ただでさえ力の差がある相手に、まともな対策もなくぶつかり、さらに自分達本来の戦い方をしなかった――これでは、大敗するのが当然ではないか。

 

 

 もちろん、だから「次やれば勝てる」と言えるわけではないが、少なくとも今までの“墨高らしい戦い方”(相手をしっかり分析して、試合では粘り強く食い下がる)ができれば、善戦は十分可能だろう。

 

 

4.墨高が谷原を倒すために必要なモノ

 

 ただ前述のとおり、谷原は“別格”である。彼らに勝つためには、墨高本来の戦い方を実行することに加え、さらに二つの要素が必要だと私は考える。

 

 それは「奇襲」と「運」である。

 

 まず「奇襲」について。墨高がこちらを研究してくること、そして粘り強く戦ってくることは、谷原も想定済みだろう。だから、それだけでは足りない。バッティングでも、ピッチングでも、守備でもいい。とにかく、何かしら相手に「こんなはずじゃなかった……」と思わさせること。そうすれば、谷原とて本来のプレーができなくなる。

 

 さらに「運」。ここは案外見過ごされがちだが、実はかなり重要な点である。

 

 どうにかして接戦に持ち込んだとしても、やはり全国クラスのチーム。普通にいけば、最後はチカラで押し切られてしまう。だから、どうしても「運」は必要だ。いわば“人事尽くして天命を待つ”といったところか。

 

 この二点について、『プレイボール2』では作者が意図したかどうかは別として、両方とも満たしている。

 

 まず打順を変更し、谷口を1番に持ってきたこと。これは谷原も「あれ?」と思ったことだろう。そして首尾よく谷口が出塁できたが、この流れで一点を取れば、チームはさらに勢いづく。

 

 さらに谷原が、先発にエース村井でなく二番手の野田(おそらく決勝が連戦になることを睨んでのことと思われる)を立ててきたこと。もし村井が先発だった場合、墨高は点を取るチャンスが良くて一回あるかどうかだったが、野田が出てきたことで、少なくとも二回は得点機を得られることとなった。

 

 墨高としては(『プレイボール2』の流れでいえば)、野田が投げているうちにリードを奪い、早めにエース村井を登板させたい。

 

 いかに墨高でも、体力のある村井を打ち崩すのは難しい。早めに登板させることで、少しでも粘って体力をけずり、球威が落ちたところを叩く。それが現実的な戦法だろう。

 

 墨高の意図と、それをさせんとする谷原の底力。これをきちんと描けば、かなりの名勝負となるだろう。作者・コージィ城倉氏の腕の見せ所である。