南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第6回「イガラシくんは、勝利至上主義じゃないの!?」> ~ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より~

 

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<はじめに>

 

 みなさんこんにちは、墨高野球部のイガラシです。そろそろ全国各地で、夏の甲子園出場を賭けた地方大会が始まりますね。今回は、学生野球で盛んに議論されるテーマであり、ぼく自身も周りからよく言われることについて、話していこうと思います。

 

 今回のテーマは……

イガラシくんは、勝利至上主義じゃないの!?

 

 えーっとですね。この類(たぐい)の質問、よく聞かれるんですけど。ショージキ、質問の意味がよく分からないんですよ(汗)。

 

 いや、勝利至上主義っていう言葉じたいは、だいたい分かりますよ(笑)。でもほら、この言葉って、使う人によって捉え方が微妙にズレてたりするでしょう。だからまず、言葉の定義をハッキリさせなきゃいけないと思いましてね。

 

 

1.“勝利至上主義”の定義とは!?

 

 ぼくは最近まで、勝利至上主義ってのは“勝つために全力を尽くすこと”だと思っていて、「そういう意味ならぼくも勝利至上主義です」と答えてました。ついでに、それのどこが悪いんですか?って。

 

 けど……この言葉が、あまりにも良くないことみたいに言われるので、どうしてなのか、自分なりに考えてみたんスよ。で、思ったのが……けっきょく「その勝利を心から喜べるかどうか」じゃないかなと。

 

 分かりやすいのが、あの青葉ですよ。ぼくらと初めて戦った時、ヤツらは規定を破って十四人以上の選手を使ってきましたよね。それでゴリ押しに勝った。

 

 ぼくがもし、青葉の部長の立場なら……絶対にやらないですよ。

 

 だって、もともと格下だと思ってた相手に、あんなやり方で勝ってもうれしくないじゃありませんか。

 

 おまけに、ヤツらは全国大会を控えてたんです。あんなやり方でしか勝てなかったと、自信をなくして、全国大会でほんらいの力を出せなくなるかもしれないでしょう。結果として優勝できたから、いいようなものを。

 

 そういや、これは噂なんスけど……中には大会で目障りになりそうなチームと、大会前に練習試合を組んで、そのチームの主力をケガさせるなんて話も聞いたことがあります。あと他の種目じゃ、国際大会なんかで審判に賄賂を渡して、自国のチームが有利になるように姑息な働きかけをするトコもあるんだとか。

 

 もはやそんなヤツらは、スポーツをやる資格ないスよね。

 ただまあ……何が何でも勝てばいいって考えに凝り固まっちまえば、そういうコトも起こり得るのかな。

 

 つうことで。ぼくの“勝利至上主義”の定義は、「手段を選ばず、何が何でも勝てばいい」ってことになりますかね。この定義だと……さすがに違うよなあって思いますけど。

 

 

2.野球はプレーヤーのもの! 勝負はグラウンドでつけるもの!!

 

 ま、要するに、なにごとも「やりすぎは良くない」って話でしょうか。

 

 ただねえ……このやりすぎかどうかってのも、人によってちがうんで。

 ぼくが墨二中のキャプテンだった時、ぼくとしては選抜大会で優勝させるために、必要だと思って組んだあの特訓メニューも、松尾の母ちゃんや父兄に言わせれば「学業を犠牲にする」「練習が過激すぎる」なんて言われちゃいましたからね。

 

 え? 自分でも「やりすぎだと思ってる」って口にしてたろうって? 忘れちゃいましたよ、そんな昔の話(すっとぼけ)

 

 で、なんの話でしたっけ。あ……そうそう、どこまでがオーケーでどこからが行きすぎかなんて、その線引きはなかなか難しいって話スよ。

 

 それともう一つ考えなきゃいけないのが、目標が大きくなればなるほど、良くも悪くも周囲の人間を巻き込むことになるってことです。

 

 読者のみなさんも、青葉の野球部の施設を見たでしょう? 寮に加えて照明付きの専用グラウンド、バス、豊富な練習用具。おまけにぼくらとの再試合に向けて、プロや大学に進んだOB連を呼べるネットワーク力。

 

 ちと下世話な話スけど。いったい、いくらのカネが動いてるんでしょうね。

 

 うらやましいかって? そうですね……支援してもらえるだけで、何の見返りも求められていないとすれば、ね。

 

 でも、そんなワケにはいかないでしょう。あれだけ手厚い支援をしてもらってるのに、それで勝てなきゃ、なにを言われるか分かったもんじゃありません。勝たなきゃいけないというプレッシャーは、ぼくらのようなフツーの野球部とは比べものにならないはずです。

 

 そう考えりゃ、青葉の部長がなりふり構わなかったのも、ちと分かる気がします。強いチームには、強いチームなりの苦労があるんスよね。

 

 ああ……これは別の学校の話ですけど。私立校の野球部なんかだと、父兄が指導者に向かって「私達のカネで食わせてもらってるんだから、こっちの要望を聞け」なんて言ってくる場合もあるらしいス。

 

 そこまで露骨じゃなくても、「なんでウチの子を試合に使わないんですか?」って、平気で聞いてくる親も多いんだとか。ハハ……松尾の母ちゃんなんて、まだ可愛いもんスね。

 

 要するに――どこまでいっても、野球はプレーヤーのもの。そして勝負は、グラウンドでつけるもの。その根本を忘れちゃダメってことなんじゃないでしょうか。

 

  まあぼくとしては、けっきょく「自分達にできることをすべてやり切ることで、勝利を手にする」――これこそが、野球に限らずスポーツの醍醐味だと思いますよ。それが分からない人に、外野からゴチャゴチャ言って欲しくないスね。

 

 【関連リンク】

stand16.hatenablog.com