南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第8回「イガラシくんは、いじめ問題をどう考える!?」> ~ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より~

 

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<はじめに>

 

 みなさんこんにちは。墨高野球部のイガラシです。ええと……もうオープニングでしゃべることもなくなってきたので、さっそく今日のテーマにいきますね(笑)。

 

 今日のテーマは、野球とあまり関係ないんスけど……これはずっと話したかった内容なので、いい機会だから取り上げようと思います。

 まずは、ぼくのもとに届いたお便りを紹介することにします。ペンネーム:N美さんより。

 

―― イガラシさん、はじめまして。私は中学2年生の女子です。

 

 実は2年生になって、同じクラスの女子3~4名からいじめを受けています。朝、学校に来ると、机の上に「バカ」「死ね」とか落書きされていたり、体操服を隠されたりします。

 

 担任の先生に相談したいのですが、実は私をいじめている子達というのは、クラスのリーダー的な存在の子で、先生もその子達を頼りにしている様子です。

 私の方は、逆に要領が悪くて、提出物が遅れたり忘れ物をしたりして、よく先生に叱られるので、私の話を聞いてもらえるか心配です。

 

 四月からずっとガマンしてきたのですが、もう限界です。私はこれから、どうしたらいいのでしょうか。アドバイスよろしくお願いします。

 

 

 以上が、お便りの内容です。ということで、今日のテーマは……

イガラシくんは、いじめ問題をどう考える!?

 

 

1.第三者の力を借りよ!

 

 まずね、N美さん。きっとムリして、学校に通ってたんだろうけど、もうガマンするこたあねえよ。この様子じゃ、両親にも言えてないんだろう。たしかに親や先生に言ったら、余計に話がややこしくなったりもあるからな。

 

 そうだな……明日の朝、学校へ行くフリして、役所か図書館か、アンタが歩いて行ける所へ行くんだ。あ、公園はダメだぞ。女学生が一人でいると見るや、不埒なことを考える輩もいるからな。

 

 要するに学校以外の、マトモな大人がいる場所へ行け。そこで、おれに当てた手紙の内容を、そこにいる大人に伝えるんだ。

 

 もし話しづらいなら、そこでウロウロしとくだけでいい。平日の日中に、女学生が一人で所在なげにしてたら、分別のある大人なら、何かあったんだと気付くはずだ。

 

 ちと話は逸れるけどよ。おれはかつて、選抜大会前の練習のことが新聞で取り上げられて、それがもとで「練習が過激すぎる」と父兄の間で騒ぎになっちまって、苦い思いをしたんだ。

 

 あん時に分かったんだけどよ。学校てのは、騒ぎが大きくなるのを嫌うんだ。外部の機関から、いじめの問題を指摘されたとなりゃ、きちんと対応せざるを得ない。

 

 それと、こう言っちゃ悪いが、アンタの言うとおり、アンタの担任は役に立ちそうにねえな。アンタをいじめてる連中に、おそらく丸め込まれちまってる。

 アンタがいじめを訴えたところで、「あまり気にしない方がいい」とか「君にも悪いところがある」とか、テキトーなことを言ってお茶を濁すしかできねえだろうよ。

 

 あ、そうそう。アンタ自分で要領が悪いなんて言ってるが……この手紙の文面からして、アンタはもっとしっかりした性格のはずだ。今、いろいろと上手くいかないのは、しかたねーよ。だって、毎日こんな辛い目にあってるんだからな。

 

 それに要領が悪いってだけで、人をいじめていいっつーんなら、おれの後輩の近藤なんて、毎日いじめられなきゃおかしいだろ。しかもあのヤロウ、自分は天才で、アンタみたいに要領が悪いなんて自覚すらしてないんだから、ほんと始末が悪いぜ(笑)。あ、わりい。つい話が逸れちまった。 

 

 とにかく……学校関係以外の、第三者の力を借りるんだ。

 

 特に役所には、悩みを抱えた青少年を対応する専門の部署がある。そこに話を通してもらえ。何なら、しばらくそこへ通うといい。そうしている間に、専門の職員が、学校に働きかけて、問題を解決するように働きかけてくれるはずさ。

 

 

2.学校を責められない理由

 

 ただね……あまり学校のことを、責められないってのもあるんスよ。

 

 当たり前スけど、学校は警察じゃない。いじめた子も、いじめられた子も、双方とも学校にとっちゃ“大事な生徒”なんスよ。だから両方に話を聞いて、今後こういうことが起こらないように“指導”して、一応の解決にするのが精一杯でしょうよ。

 

 もっと厄介なのは……そもそもイジメって、先生や親に隠れてやるものじゃないスか。だから発見自体が、ものすごく難しい。

 

 オマケに最近じゃ、ちょっと先生が手を出したくらいで、父兄もマスコミも体罰だなんだって騒ぐじゃありませんか。これじゃ先生たち、ますます指導がやりにくいでしょうね。

  

3.無理してクラスメイトと仲良くする必要はない!!

 

 でね。こっからは、ぼくの持論ス。

 

 小学校の低学年くらいだと、単に力の弱いヤツ、嫌なことを言われても言い返せないおとなしいヤツが、いじめられやすい。けど……それが高学年になると、クラスにうまく馴染めないヤツ。つまり友達を作るのが苦手なヤツが、いじめのターゲットになりますよね。

 

 女子の場合は、それがより顕著じゃないスか。

 あいつらグループを作って、こっちから見りゃ気色悪いくらい、トイレに行くにしても何をするにしても一緒に行動しますよね。

 

 ま……それで仲良くしてるうちは、いいんでしょうけど。グループ内の雰囲気を乱したり、ちょっとでも意に沿わないようなことをすれば、排除の対象になる。

 

 だからグループを作るなって言いたいんじゃありませんよ。男のぼくにはよく分からないスけど、女子には女子の事情というか、ルールがあるんでしょうからね。

 

 ただね。親も先生たちも、それから生徒自身も……なんとなく「友だちがいないのは良くないこと」って思ってますよね。先生たちも「仲のいいクラスを作りましょう」なんて、学級目標を掲げたりする。

 

 ぼく……思うんスよ。クラスメイトと仲良くすることって、そんなに大事スか!?

 

 いや、自然に仲良くなりゃ、それに越したことはないと思いますよ。けど……そもそも学校って、好き同士集まったわけでもないメンバーで、勝手に三十数名ずつ区切られてクラスを作ってるワケでしょう。

 

 これは極端な話スけど。ぼくは野球をやってますが、ぼく以外のヤツが全員野球が嫌いなら、ぼくだって簡単に仲間外れになっちゃいますよ。

 

 今のは極論に思えるかもしれないスけど。確率で言えば、クラスの中に自分と気の合うヤツが一人もいないことだって、十分あり得るでしょう。なのに、みんな何となく「クラスメイトと仲良くしなきゃいけない」と思ってる。

 これじゃあ誰だってストレスが溜まるし、いじめだって起きますよ。

 

 好きで集まったわけでもない、必ずしも気が合うわけじゃないクラスメイトと、無理して仲良くする必要はないんじゃありませんか!? 仲良くしなきゃいけないって思い込みを捨てりゃ、みんなもっとラクに学校生活を過ごせると思いますがね。

 

 

4.同じ志(こころざし)の仲間を作れ!!

 

 さて、N美さん。最後にちと厳しいコト言わせてもらうけど、勘弁してくれな。今は辛いだろうから、問題がある程度解決した時にでも、じっくり考えてみて欲しい。

 

 アンタ……なにか、目標はあるかい? 勉強でも部活でも趣味でも、何でも。

 

 ただ「楽しく学校生活を送りたい」じゃ、ダメだ。それは自分の日々の生活を、他人に委ねちまってる。それじゃ、これからも今と同じことの繰り返しになりかねないぜ。

 

 しょーじき、おれは友達なんて作りたいと思ったことはない。

 けど、おれは一人じゃない。それはおれに「甲子園に出る」という目標があって、同じ目標を共有する仲間が、自然に集まってくるからだ。

 

 男のおれの話じゃ参考にならないってんなら、アンタと同じ女生徒の話をしようか。

 

 前にも話したが、おれが墨二中の一年生の時、同じクラスに浅井遥菜(あさいはるな)って吹奏楽部のヤツがいた。女子にしては珍しく、ほとんど一人で過ごしてたな。

 

 けどそいつ、自分がクラスでひとりぼっちなのを、ちっとも卑下した様子じゃなかったのよ。むしろいつも堂々として、なんつうか気高い雰囲気だったな。

 

 で……そいつには、目標があったんだ。誰にも負けないフルート奏者になるってよ。だから文化祭なんかで演奏会があると、みょうにあいつの姿が目に留まったのよ。ひときわ美しく背筋が伸びて、心底フルートが好きだってな。

 

 ただ……ちょっと変なヤツでよ。三年生の時、おれに演奏会のチケットをくれたくせに、終わった後で声をかけようとしたら、なぜかこそこそと隠れやがるんだ。まったく、なに考えてんだか。

 

 えっ、それはイガラシくんがにぶい? みなさん、なにがおっしゃりたいんです? さっぱり分からないんスけど(汗)。

 

 ま……いいや。で、その浅井ってヤツ。ずっとひとりぼっちだったかというと、そうじゃなかったんだ。

 

 三年生になって、あいつとまた同じクラスになったんだけどよ。同じように音楽が好きな同級生、そして後輩に、いつも囲まれてた。あいつも好きな音楽の話をして、楽しそうだったぜ。

 

 N美さん、おれの言いたいこと分かるかい?

 

 アンタも、なんとなく一緒にいる連れじゃなく……同じ目標、同じ志(こころざし)を持った仲間を見つけるんだ。その方が有意義だし、今よりずっと楽しい学校生活を送れるはずだぜ。

 

 つうことで……今回の話は、以上ス。次はまた、本題の野球の話に戻りますから。

 

 とにかくN美さん。何でもいいから、まず元気を出せよ。

 はっきり断っておくが……今回のことは、アンタが悪いんじゃない。ただ、ちっと運が悪かっただけだ。まちがっても、これで自信をなくして、後ろ向きな気持ちで日々を過ごすことがないようにしてくれよな!

 

 元気になったら、あの浅井を紹介してやる。アイツ、おれからこそこそ隠れやがったくせに、なぜか「イガラシくんの頼みなら聞いてあげる」だとよ。

 

 え、やっぱりにぶすぎる? なんのことだか。ま……いいや。それじゃあな!!

 

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