南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第15回「イガラシくんは、キャッチャーの倉橋さんをどう思ってるの!?」> ~ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より~

 

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<はじめに>

 みなさんこんにちは、墨高野球部のイガラシです。

 今日はですね……先日、どっかの誰かさんが、アンケートなんて余計なことをやっちゃいましてね。ま、協力してくださった方もいらっしゃるので、ちゃんと答えようと思いますが。ただ勝手なことをしやがったあのヤロウは、この御礼にぼくの千本ノックを三時間受けてもらうことにします(笑)。

 

 ということで、今回のテーマは……

イガラシくんは、キャッチャーの倉橋さんをどう思ってるの?

  

1.倉橋のおかげで、イガラシは“いい子”になった!?

 

 そういやぼく、谷口さんや丸井さんのことは話しても、倉橋さんのことはあまり話したことがなかったですね。

 ま、うちの正捕手なので、やっぱり頼りになる先輩だと思いますよ。しかもうちの部で唯一、キャプテン谷口さんにも対等に意見を言える存在ですよ。

 個人的に、谷口さんに対してほとんど文句はないんスけど。強いて言うとすれば、ちと人に気を遣いすぎるトコがあるので。自分が正しいと思ったら、遠慮せずハッキリ言えばいいのにってたまに思います。で、その辺を倉橋さんがカバーしてくれてるので、ほんといいコンビですよね(笑)。

 おかげで、みなさんも気づいてるでしょけど、墨高に入ってからのぼくは、素直で礼儀正しくて、いい子になってるでしょう?(ニコニコ)

 えっ、猫かぶってるのが丸分かり? もうすでにメッキが剥がれかけてる? 薄気味悪いから、早く本性を表せ?

 ちょっとみなさん(汗)。ぼくのこと、一体なんだと思ってるんですか!

 ぼくのこと、生意気で言いたいことをズケズケ言って、勝つためには手段を選ばない冷血人間だと思ってるっておっしゃりたいのですか!?

 

会場の客一同:(心の中で)その通りじゃねえか!!

 

2.倉橋のスゴさは行動力と判断力!

 

 まあまあ、ぼくの話はこれぐらいにして(汗)そろそろ入りましょうよ。

 ええとですね。ぼくが倉橋さんのことをこれまで見聞きして、特にスゴイなと思ったのは、あの人の行動力と判断力ですね。

 

 聞いた話ですと、倉橋さんが入部した頃の墨高野球部って、練習中に焼き芋を始めちゃうくらい、それはそれはヒドイ有様だったそうじゃないですか。んなもんで、それにスパッと見切りをつけて、自分のやりたい野球に合うチームを探して転々としてたわけでしょう。

 結果として、その過程で川北高野球部キャプテンの田淵さんと知り合って、その縁でうちの野球部とも練習試合できたわけですし。

 

 む、ぼくならどうするかって? そうスね……ぼくなら真剣に野球部をやりたいと思うメンバーを募って、新しくチームを作りますね。で、旧チームと対決でもして、勝った方が“真の野球部を名乗る”と。ま、ぼくのやり方に、付いてこれるヤツがいればの話ですが(会場、引きつった笑い)。

 

 

3.倉橋の判断が、墨高野球部の分岐点となった!

 

 ええと、何の話でしたっけ?(笑)

 あ、そうそう。倉橋さんの行動力と判断力。後から思えば、それが墨高野球部の重要な分岐点にもなってるんスよ。

 川北との練習試合いしても、直前の夏の大会で東実に善戦して、悪く言えばちとイイ気になってた当時のメンバーに、強豪校の“本当の強さ”を実感させて、チームの意識改革につなげていったんですから。

 

 それに最近だって、谷原高からの練習試合の申し込みがあって、倉橋さんの判断ですぐに対戦することになったじゃありませんか。結果はちと……というか、だいぶショッキングなものになりましたけど、それはぼくらが“本気で甲子園を目指す覚悟があるのか”を強く自分達自身に問うことになりましたし。

 

 え、ぼくスか? うーむ……悔しいというより、呆れましたね。あそこまでコテンパンにやられると(汗)。なにせ、あの谷口さんのタマが、いとも簡単に次々と弾き返されていったんですから。

 ただね。みなさんが気づいてたかどうか分かりませんけど……あの試合、谷口さんは本調子じゃなかったんスよ。コントロールが定まらなかっただけじゃなく、四回辺りから微妙にフォームも崩れてたので、ひょっとして、どこか傷めてたかもしれません。

 

 それから、負け惜しみに聞こえるかもしれませんけど……実際やってみて、なんとなく谷原の弱点も見えてきたんです。それは今ヒミツにしておきますが(笑)、二度も同じやられ方はしないということだけ、約束しておきます!

 

 

4.倉橋よりイガラシへのメッセージ

 

 さて。うーむ……どうしようかな。実はですね、倉橋さんに関して、ちと苦い思い出があるんスよ。ま、せっかくなので。会場のみなさんにだけ、こっそりお話ししますね(笑)。

 

 みなさんも知ってるかと思いますけど、ぼくが墨二中の一年生の時、倉橋さんのいた隅田中と、地方大会の準決勝で対戦してるんですよ。

 その試合で、倉橋さんの巧みなリードと、松川さんの重い速球と正確なコントロールを前に、かなり苦しめられまして。あの大会で、たしか唯一ノーヒットに抑えられちゃったんスよね。四死球とか敬遠で出塁はしましたけど、ヒットを一本も打てなかったというのは、あの時以外ちょっと記憶にないので。

 

 え……なんです? 倉橋さんからメッセージが届いてる? へえ、忙しいはずなのに。なんでしょうね、わざわざ。

 

―― おいイガラシ。おまえ、いつまで猫かぶって、おりこうチャンのフリをしてるつもりだ。こちとら、薄気味悪いったらありゃしない。

 もうメッキは剥がれかけてんだよ。元々おまえを知ってる連中はともかく、ほかのヤツらは一年だけじゃなく上級生も含めて、みんなおまえにビビッてんだよ。半田なんて、おまえを見るとコソコソと隠れやがる。一体なにしやがったんだ。

 

 それと中学ン時、おまえはおれのリードにしてやられたと言ってたが、逆だよ。

 忘れもしねえ。一打席目はインコース低めを打ってショートゴロ。二打席目は、外角高めを打って、あわやホームランかというライトライナー。その後、墨二打線は松川の高めのタマをねらい打ちしてきやがった。あれはおまえが、松川の高めは球威が落ちることを、他のメンバーに耳打ちしやがったんだろ。

 

 しかもその後、おまえは記録上はノーヒットだが、ファールで粘るわバスターの構えで揺さぶるわ、疲れの見える松川の前にわざとバントを転がすわ。メンドウだと思って歩かせりゃ、今度は脚で搔き回してくるわ。

 

 まったく……おれも長いこと野球やってきたがよ、。おまえほど意地の悪いバッター、見たことなかったぜ。そんなおまえと今チームメイトになれたのは、運が良かったのか悪かったのか。

 

 ま……とにかく、夏の大会では、おまえの意地の悪さを良い方向で使ってくれることを期待してるぜ。はっきり言や、可愛げのない後輩だが、試合になれば、まちがいなくおまえは頼りになる男だからな!!

                    墨高野球部三年 倉橋豊より

 

 うーん、ホメてるんだかケナしてるんだか、よく分からない内容スね。まあいいや。

 

 とにかく……ぼくにとっちゃ、高校生になって初めての大会なので。高校球児らしく、さわやかに、ひたむきに白球を追って、何よりも仲間を大切に、正々堂々とプレーしようと思います!(両眼キラキラ、表情ニッコリ、しかし棒読み)

 

(あまりに不似合いな発言に、会場が凍り付く)

 

 あれ、みなさん顔が青ざめてますよ。震えてる人も多いし、寒いんスか。どうもこないだから、クーラーが効きすぎてるみたいですね。後で業者の方にちょっと見てもらおうと思います。

 

―― 会場の客一同:(心の中で)寒いのはクーラーじゃなく、おまえの発言だよ!!

 

 

 

 

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