南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

文句なしの快勝劇! コロナ禍の中で見せつけた、沖尚野球”進化の証”<令和3年選手権大会一回戦・沖縄尚学8-0阿南光>

<はじめに>

 

 まさに文句の付けようがない快勝劇である。夏の甲子園大会に限っていえば、私が見た沖縄尚学の試合で、ダントツの出来だったと思う。

 もちろん二安打完封勝利の當山渚の投球の素晴らしさは、誰もが認めるところだろう。

 

 ただ、私がそれ以上に讃えたいのは、沖尚のバッティングの進化である。

 

 沖縄の高校野球ファンならご周知の通り、沖尚は春の選抜優勝2回、8強2回と輝かしい戦績を残しているが、なぜか夏は2014年の8強が一度だけだ。

 

 その大きな要因が、「打ち負ける」ことの多さである。言うまでもなく沖尚の守備は全国レベルだが、それでも各校の打力のアップする夏は、どうしても点を取られてしまうのだ。

 

 しかし、単に“沖尚が守備のチームだから”夏に勝てなかったというわけではない。実は、「夏の甲子園大会で勝つためのバッティング」というものがあるのだ。

 

 

1.なぜ「右方向へのバッティング」が必要なのか?

 

 強豪校の野球部に入部経験のある方なら、指導者から「右方向(左打者は左方向)へのバッティング」の練習を課された方が多いはずだ(私自身は野球経験はないが、県内の数人の甲子園経験者の方に話を聞いて確かめた)。

 

 ではなぜ、右方向へのバッティングが必要なのか。

 

 例えば――あなたが突然ピッチャーをやることになって、しかもメジャーリーガーの大谷翔平と対戦することになったとしよう。

 大谷を抑えるために、あなたはどのコースへ投げますか?

 

 真ん中付近へ投げれば、ほぼ確実にホームランである。では、インコース? 際どいコースに投げ込むコントロールがあれば良いが、少し内側にずれればデッドボール、外側にずれればこれまたホームランである。

 となると……やはりアウトコースへ投げるのが無難だろう。

 

 つまり強豪校のバッターへ投げる普通レベルの投手(この場合は県大会3回戦程度としておこう)の心理というのは、我々が大谷翔平へ投げろと言われるのと同じなのだ。

 

 さて次は、立場を逆にして考えてみよう。

 

 強豪校のバッターからすれば、相手投手が普通レベルであった場合、失投でもない限りアウトコース中心(ちなみにインコースへ正確に制球できる投手なら、県4強以上も狙える)の投球になる。

 

 となれば、必然的に真ん中付近“しか”打てないバッターというのは、強豪校でレギュラーにはなれない。

 

 では、アウトコースの球を打つとどんな軌道になるのか。

 読者の皆様も、たとえばボールをミカン袋か何かに入れて吊るし、軽くバットで打ってみて欲しい。自然とボールは右方向(左打者なら逆方向)へ飛ぶはずだ。

(※但し、ここで注意していただきたいのは、右方向へのバッティングは“応用技術”だということである。まずは真ん中の球を、フルスイングで打ち返せる基本技術を身につけてから、右方向へのバッティングに取り組んで欲しい。でないと、ただの手打ちになり、打球に勢いがなくなってしまう。)

 

 というわけで、アウトコースを苦もなく打てるチームになれば、(味方投手の出来にもよるが)県4強以上をねらうことができる。

 

 

2.沖縄勢が“苦手としているボール”

 

 当然、今までの沖尚のバッターもアウトコースを打つことはできた。しかし、それだけでは全国レベルの投手を打ち崩すことはできないのだ。

 

 なぜなら――全国レベルのピッチャーというのは、アウトコースへ“キレのある変化球”、さらに厳しいインコースを投じることができるからである。

 

 沖尚だけでなく、特に沖縄代表校のバッターが苦手としていたのが、“アウトコースのスライダー”である。これに簡単に手を出し、空振りするか凡打に倒れるシーンが多かった。

 とはいえ、打てないこと自体は責められない。相手も激戦区を勝ち抜いてきたのである。そんな好投手の決めダマを簡単に打ち返せるチームなど、全国にも数えるほどだろう。

 

 だが、もちろん攻略の方法はある。

 

3.全国大会レベルに必要な“バッティング技術”

 

 極めて単純な方法である――見逃すか、ファールにすれば良いのだ。

 

 スライダーも含め変化球というのは、鋭く変化すればするほど、ボールになる確率が高い。ストライクを取られたら仕方ないと割り切り、手を出さなければ、相手投手の方が勝手に焦れてくるかもしれない。

 

 もう一つ。相手がその変化球を決めダマとして使っている場合、技術的に可能であれば、ファールにすればより効果的だ。ファールは何回打っても良い。相手投手からすれば、決めダマとして投げたボールを簡単にファールにされれば、精神的にダメージを負う。

 

 前回の試合。私が最も感嘆させられたのは、當山渚の四回裏の打席である。2ストライクと追い込まれながら、際どいボールは見逃し変化球はカットし、そして八球目をレフト前ヒットにしてしまった。

 

 まさにパーフェクトである。点にこそつながらなかったものの、これを下位打線、しかも投手にやられたことに、相手は少なからずダメージを負ったことだろう。

 この當山の打席に限らず、沖尚は以前と比べ、明らかに”ファールの数”が増えた。見逃しがちなことだが、そこに今の沖尚というチーム戦術、粘り強く戦っていく意思の浸透ぶりを見た気がした。 

 

<終わりに>

 

 だが、夏の甲子園大会はそう甘いものではない。次戦の盛岡大付は、パワーに優れたチーム。どちらかというと、沖縄県勢が苦手とするチームである。

 しかし……言いたかないが、もし次戦で敗れるようなことがあったとしても、沖尚の選手達は、このコロナ禍の中で、進化した戦いぶりを見せられたことを誇りとして欲しい。

 

 願わくば、まだまだ彼らの夏を見ていたい。