南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

県外チームの”力の野球”にどう対抗していけば良いのか ~2021年沖縄高校野球を振り返る~

 

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<はじめに>

 

 2021年の沖縄高校野球も、間もなくシーズンオフに入る。

 

 今年は、何といっても21世紀枠で選抜出場した具志川商業の活躍が光った。2014年の沖縄尚学以来、実に8年ぶりの選抜大会での勝利を挙げ、二回戦で敗れたものの延長戦にもつれ込む激闘を演じた。さらに直後の春季九州大会も制し、夏の活躍も期待されたが、残念ながら県予選で敗れ春夏連続の甲子園出場は成らなかった。

 だがそれでも、コロナ禍で難しい練習環境の中、好チームを作り上げ、あの溌溂とした戦いぶりには胸を打たれた。改めて、彼らの健闘に拍手を贈りたい。

 

 さて、各校新チーム発足後の秋季県大会では、興南と前原が決勝進出。両校が九州大会出場を果たすも、前原は初戦で、興南は準々決勝でそれぞれ敗退し、来年も自力での選抜出場は厳しい趨勢である。

 

 まだまだ夜明けには遠い沖縄高校野球界ではあるが、そんな中でも、少しではあるが希望の光が見えたことを、ここに書き記しておきたい。

 

 それは、県大会で興南と準決勝、決勝を争った沖縄水産と前原の台頭である。

 

 

1.パワー野球にどう対抗していくか

 

 沖縄県勢が甲子園で勝ち進む条件は、すでに分かっている――「好投手」「打力」「機動力」である。ちなみに「打力」は、一発長打というよりも、単打でつなぐ力だ。

 

 それじゃあ、この3つを備えたチームを作れば、いつでも甲子園で勝てるかといえば、事はそう単純な話ではない。

 

 もうこの十年余り、甲子園大会では投打ともにパワーのあるチームが、上位進出するケースが増えた。特にここ数年は顕著で、一試合にホームランが複数飛び交う試合も珍しくない。また投手も、緩急を使って“打たせて取る”というよりは、豪速球をどんどん投げ込み、力でねじ伏せるタイプの投手が増えた。二十年前なら、140キロを超えれば“速球派”の部類に入ると言われたが、今ではベスト8以上を争うチームの主戦投手であれば、150キロ近い速球を投げるのが普通になってきている――良い、悪いは別にして。

 

 今の沖縄の代表校は、全国の“力の野球”の流れに対抗できていない。守備等の細かいプレーでは決して全国に引けを取らないものの、相手投手の速球に最後まで押され、長打一発でやられるケースが多い。

 

 なぜ沖縄勢が“力の野球”に弱いかと言えば、単純に県内で“力の野球”をしてくるチームが少ないからだ。

 

 県勢で最も実績のある私学二強・興南沖縄尚学も、どちらかと言えば堅守からリズムを作り、小技と機動力を駆使して、少ないチャンスをモノにして勝つというスタイルである。それが間違っているわけではないのだが、県外のパワーのあるチームと対戦した時、どうしても投打において力勝負で負けてしまう(今やオリックス・バファローズの準エースにまで上り詰めた宮城大弥でさえ、初めて甲子園に出た時は、智辯和歌山の強打に「怖かった」と思わず口にしてしまうほどだった)。

 

 だから地方大会や甲子園での戦いに挑む前に、県内で“力の野球”をしてくるチームとの対戦を経験しておけば、対抗策を取れるようになる。

 

 その意味で、沖縄水産と前原が“力の野球”で他校を力でねじ伏せ勝ち上がってきたことは、県全体のレベルアップにつながると思う。

 もちろん両校だって、他校の踏み台になるのは面白くないだろう。県外のチームがそうしているように、両校は「守備の勝負」に持ち込まれても負けないように、現時点で足りない所を鍛えていけば良い。

 

 そうやって、県内でも興南・沖尚を中心とした“堅守・技の野球”のチームと、沖縄水産・前原等を中心とした“力の野球”のチームが互いに切磋琢磨するようになれば、自然と互いにレベルアップを図れるようになるはずだ。

 

 

2.もう少し“力の野球”を取り入れることも必要では?

 

 ところで、私は沖縄勢の野球が間違っているとは思わないが、もう少し各校とも“力の野球”を取り入れることも必要だと感じる。

 

 さっきも少し触れたが、沖縄勢は2015年の糸満高を最後に、自力での選抜出場がない。その2015年以降、甲子園での勝利以外に、極端に減ってしまったものがある。それが何か、お分かりだろうか。

 

 答えは――ホームランである。

 

 なんと2015~2021年までの7年間、春夏の甲子園で沖縄勢が記録したホームランは、僅かに1本だけなのだ。しかも、その1本は今年の選抜2回戦で、具志川商の新川選手が放ったものだから、実に6年間も甲子園でホームランが出なかったことになる。

 

 これはパワー不足ということもあるが、“思いきり振る”という文化が、沖縄高校野球界の中で、やや軽視されがちになっていたからではないだろうか。

 

 ただ、それは仕方のない面もある。甲子園レベルともなれば、相手投手は多彩な変化球を投げられる者ばかりだ。強振するばかりでは、確かに変化球を捉えることはできない。

 

 しかし……今度は変化球対応を意識するあまり、“軽打”や“逆方向へのバッティング”が重視されるようになったのではないだろうか。

 もちろん意図は分かるのだが、フルスイングを身に付けた上で“逆方向へのバッティング”に取り組まないと、単なる“手打ち”になってしまう。だからそこへ速球を投げ込まれると、簡単に振り遅れてしまうというわけだ。

 全国レベルの投手を想定して、“逆方向へのバッティング”に取り組むことは大事だが、その前にもう一度基本に戻って、バットを“思いきり振る”練習も必要なのかもしれない。

 

<終わりに>

 

 ただ何より大切なことは、バッティングもそうだが、攻守ともに“思いきりよく”プレーするという原点を思い出すことではないだろか。

 繰り返すが、私は選抜の具志川商のプレーに胸を打たれた。それは沖縄高校野球が久しく忘れていたかもしれない思い切りのよさ、ひたむきさ、何より「野球が大好きだ」という気持ちの詰まった戦いぶりを演じてくれたからである。

 

 コロナ禍で厳しい世の中ではある。しかし元々、沖縄県民は、甲子園での高校球児の溌溂としたプレーに胸を打たれ、それを日々の生きる活力へと変えていった。

 低迷が続いている今だからこそ、沖縄の高校球児達には、もう一度“思いきりよく”プレーして欲しい。勝敗よりも、まずはそれがずっと大切だと私は思う。