南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

【高校野球】「コントロールとスピード、どっちが大切か?」という二者択一の議論は、あまり意味がないのでは?

 

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<はじめに>

 野球では、投手に関してよく「スピードとコントロールどっちが大事か?」という議論が聞かれる。しかしこの二者択一自体、私はあまり意味がないと思う。

 

 理由は二つある。

 一つは、スピードもコントロールも、両方とも“あるに越したことはない”からだ。スピードの遅い投手よりも速い投手の方が、コントロールの悪い投手よりも良い投手の方が、打者を抑える確率が高くなるのは言うまでもない。

 

 もう一つは、コントロールの良い投手の“弱点”というのもあるからだ。それは一言でいうと、打者にとって「ねらいを絞りやすい」ということである。配球を読まれ、“次はそこへ来る”と分かっていれば、コントロールの良い投手の方がねらい打ちされやすい。

 その点、コントロールが悪い……というか、ある程度バラついて「どこに来るか分からない」投手の方が、かえって打者もねらいを絞りにくい。

 実際、高校野球の甲子園大会やプロ野球の試合で、打者が“逆球”(キャッチャーの構えとは逆に来る球)に、思わず手が出て空振りするシーンは、よく見られる。そして、制球がバラつき四死球も多く与えているのに、なぜか点を取られない投手というのも少なからず存在する。

 

 もちろん、まったくストライクが入らないのでは話にならない。ある程度ストライクを取れることは前提として、コントロールの良い投手・あまり良くない投手のそれぞれの長所と短所というものがあり、一概にどっちが良いとは言えない状況もあるからだ。

 

1.どこまで出来て「コントロールが良い」と言えるのか。

 では、本当に“勝てる投手”になるために必要なものは何なのか。これからそれを論じていきたいが――その前に、少し述べておきたいことがある。

 それは“ピッチャーのコントロール”というものについて、人によって理解がバラバラではないかということである。

 

 例えば、ストライク先行で投げる投手が“コントロールが良い”と言う人。あるいは、内外角の高低、四隅を突ける投手が“コントロールが良い”と言う人。また、キャッチャーの構えた所に投げられる投手が“コントロールが良い”と言う人。

 このように、一言で“コントロールが良い”と言っても、人によって捉え方が微妙に違うのではないだろうか。

 

 では、私の意見を述べたい。

 

 高校野球レベルでは――内外角の低めに、速球と変化球の両方でストライクを取れる投手であれば、ひとまず“コントロールが良い”と言って良いと思う。

 

 この“速球と変化球の両方でストライクを取れる”というのは、重要なポイントだ。

 

 例えば速球だけでポンポンとコーナーを突ける投手を見て、「このピッチャーはコントロールが良い」と言う人も、案外少なくないのではないだろうか。

 しかし、速球ではコーナーを突けても、変化球となると、低めに集めるのが精一杯という投手も少なくない。いや、変化球を低めに集められるというだけでも、高校野球レベルでは大したものだろう。実際には、速球でストライクは取れるものの、変化球ではまったくカウントを取れず、速球をねらい打ちされるケースは珍しくない。

 

 また、外角低めいっぱいを突くことはできても、内角には巧く制球できないという投手も少なくない。特に全国大会レベルで、強打者相手に内角へ投じるのは、技術だけでなく、勇気と集中力が必要だ。

 外角へしか投げられないと分かると、強豪校のバッターであれば、外へ踏み込んで強振してくる。それはもう、真ん中に投げられるのと一緒だ。好き放題に狙い打ちされるのは、言うまでもない。

 

 私も長らく甲子園大会を見てきたが、「内外角の低めに、速球と変化球の両方でストライクを取れる投手」というのは、一大会で数人いるかどうかだ。すなわち、それができる投手というのは、全国四強を狙えるレベルということである。

 

 プロレベルであれば、これだけでも不十分だ。内外角の高低、速球だけでなく複数の変化球でストライクを取れるというだけでなく、場合によっては僅かにコースを外したり、死球ギリギリの内角攻めができる――そこまで出来て、初めて“コントロールの良い投手”と言えるだろう。もっとも、そこまでのレベルの投手となると、昨年引退した上原浩治投手や、今年の日本シリーズで活躍した吉田正尚投手、全盛期の田中将大投手くらいだろう。

 

 

2.コントロール以上に、“勝てる投手”に必要なもの

 

 話を高校野球に戻す。実際には、「内外角の低めに、速球と変化球の両方でストライクを取れる」くらいのコントロールがなくても、上位進出を果たした投手は存在する。一方、ある程度コントロールは良くても、相手打線に狙い打ちされ、早々に敗退した投手も少なくない。というわけで、高校野球レベルで“勝てる投手”になるために必要なものは、(もちろんある程度ストライクを取れることは前提として)コントロール以上に、重要な要素があると私は考える。

 

 ズバリ、「緩急を付けられる」ことと、「(分かっていても)空振りを取れるボール」を持っていること、この二つではないかと思う。

 

 まず「緩急を付けられる」ことについて。どんなに速いボールであっても、いずれ打者の目は慣れてくる。また回を追うごとに、どうしても投手の疲労度は増してくるから、ボールのスピードやキレも落ちてくる。だから、ただタマが速いというだけでは、九イニングを抑え切ることは難しい。

 そこで、打者の目を慣れさせないために、遅い球(チェンジアップやスローカーブ等)を混ぜる。これをされると、打者はタイミングを合わせることが難しくなる。

 また、さほどスピードボールを投げられない投手であっても、より遅い球を投げられれば、真っすぐを速く見せることができる。

 

 そして「(分かっていても)空振りを取れるボール」を持っていること。いわゆる“決め球”である。

 野球の試合では、終盤のピンチの場面等、どうしても“ボールの力”だけで勝負しなければならない場面が出てくる。

 ただコントロールが良いだけでは、どんなに厳しいコースを突いても、ファールで粘られてしまいがちである。そして球数を費やされ、やがて制球が甘くなったところを仕留められるというわけだ。

 しかし、投手が「空振りを取れるボール」を持っていると(これは真っすぐでも変化球でも何でも良い)、打者にもプレッシャーが掛かる。追い込まれると“決めダマ”がくるからと、どうしても早打ちになってしまいがちだ。バッテリーはその心理を逆手に取り、わざとボール気味の球を投げ打たせて取る。また、ツーストライクを取った後は、その“決めダマ”で仕留める。このように、打者の打ち取り方にもバリエーションが出てくる。

 

 沖縄勢でいえば、かつて21世紀枠ながら選抜大会4強へ進出した宜野座高校の比嘉裕投手が印象深い。彼は落差のある“宜野座カーブ”を駆使して相手打者を翻弄し、カーブを意識させた上で、130キロ前後の速球も効果的に使っていた。準々決勝で、大阪代表の浪速高校の最後の打者を見逃し三振に仕留めた球は、速球である。あれもカーブという“決め球”があったからこそ、打者のウラを掻くことができたのだと思う。

 

<終わりに>

 さて、私が今回「スピードとコントロール」というテーマで記事を書いた理由は、高校球児に“目標をどこに置くか”を具体的に持って欲しいという思いからである。

 

 コントロール一つ取っても、どのレベルを目指すかによって、求められることが違ってくる。地方大会で8強程度をねらうなら、単に低めに集められれば良いかもしれない。だが、甲子園出場、さらに甲子園でも上位進出をねらうなら、もっと多くのことができるようになる必要がある。

 

 我が沖縄勢は、残念ながら来春の選抜大会の出場も難しそうだ。かといって、各校の主戦投手に「今すぐ150キロのボールを投げろ」と言っても、それは無茶な要求だ。

 

 まず「勝つためには何が必要か」というゴールを定め、そこから逆算して今の自分にできること、できないことを整理し、克服しなければならない課題を見出しつつ練習に取り組んで欲しい。