南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第28回「チャンスで”あと一本が出ない”のは、なぜなのか!?」~ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より~>

 

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<はじめに>

 みなさんこんにちは、墨高野球部のイガラシです。今日はですね、この講座宛に質問が届いているので、まずそれを紹介させていただきます。

 ええと、ペンネーム「青葉の一般生徒」さんより。

 

―― イガラシさん、はじめまして。ぼくの地元に、S学園という甲子園常連校があるのですが、毎回初戦突破がやっとで、なかなか上位まで勝ち上がることができません。

 特によく見かけるのが、結構ヒットは打ってチャンスは作るのですが、あと一本が出ずになかなか点が取れないことです。逆に、相手に少ないチャンスをモノにされて、競り負けてしまうことが多いのです。これは単に、運が悪かったのでしょうか。それとも、はっきりとした点を取れない原因があるのでしょうか。

 

 ふむ。この方、よく野球を見てらっしゃるようですね。それに質問内容も、なかなか鋭いトコを突いてきてます。

 というわけで、今回のテーマは……

 

「チャンスであと一本が出ないのは、なぜなのか!?」

 

 結論から言うとですね――地方予選ならともかく甲子園レベルともなれば、けっして不運じゃありません。まあ多少、運に左右されることもあるでしょうが、ほとんどの場合は明らかな原因があります。

 

 その原因は、大きく分けて二つあります。今からそれぞれ説明していきますね。

 

1.チャンスの時とそうじゃない時とでは、相手バッテリーの配球が変わる!

 原因の一つ目。それは、バッターに「備えが足りない」ことです。

 

 ある程度ヒットは出てチャンスは作っているということですが、それはたぶん、相手投手が「カウントを取りにきた甘い球」を打ってるんだと思うんですよ。

 回の先頭打者を迎える場面で、投手が一番何に気を付けるかというと、四死球で出塁を許すことです。同じノーアウトのランナーでも、ヒットの方がまだマシ。そこで投手は、もちろんバッターの力量にもよりますが、なるべくストライク先行でいこうとする。だから早いカウントで投げるタマは、真ん中付近に集まりがちなのです。

 このことから……これはプロアマ問わずですが、「初球打ちが一番ヒットになる確率が高い」と教える指導者が多いのです。それ自体は間違っていません。ぼくも回の先頭で打席が回ってきた時は、いつも初球の甘く入ってくるタマを狙ってますから。

 

 しかし――得点圏にランナーを置いた状況となると、話は変わってきます。

 回の先頭打者を迎える時と違って、今度は「ヒットを打たれないこと」が優先事項となります。塁が空いていれば、四球を与えても構わない。相手バッターが焦れて、ボール球に手を出してくれたら儲けもの。そんなふうにバッテリーは考えます。

 

 となれば、初球は失投でない限り、甘いタマがくる確率はぐっと低くなります。ボール先攻、球数を費やしても構わないと。そこで色々なタマを見せられるうちに、バッターが迷ってくるんですよ……どれにねらいを絞ればいいのかと。

 さらにレベルの高い投手ともなれば、“厳しいコース”を突いてもストライクが取れるんですよ。それであっという間に追い込み、バッターに考えるヒマさえ与えない。

 

 つまり、チャンスの時とそうじゃない時とでは、相手バッテリーの配球が変わるということです。チャンスであと一本が出ないというのは、その変化に対応する術が身についていないということなんですよ。

 

 これに対応する術は、ぼくが考えるに二つあります。

 

 一つは、“失投”を確実に仕留める集中力を身につけること。いくら厳しいコースをねらっていても、ピンチの場面ではピッチャーも緊張しますから、コントロールミスして甘いコースに来ることもあります。ただ、ピッチャーの力量が高ければ、失投は一球あるかないか。それを見逃せば、あとは厳しいボールしか来ないでしょうね。

 

 もう一つは、その厳しいボールに対応する術を身につけること。これはもう練習で、内外角ギリギリのコースを打ち返す練習を、何百回と繰り返すしかないでしょうね。

 ちなみに強豪校なんかでは、アウトコース打ちの練習を徹底して行うと聞いたことがあります。強いチームと戦うとなれば、ほとんどのピッチャーは外に逃げたがりますからね。そこを狙い打ちするというわけです。

 

 ちなみに……今ぼく打ち返すじゃなくて、「対応する」と言いましたよね。打ち返すのが難しければ、せめてファールに逃げることです。特に投手がバッターを仕留めにきた“決め球”をファールにすれば、相手バッテリーは少なからず動揺します。そうすると、投げるタマがなくなって、また失投の確率が上がります。

 

 まあ問題は、練習でここまで想定してやっているかどうかじゃないでしょうか。フリーバッティングなんかで、ただ遠くへ飛ばして満足してるようなヤツは、きっと試合じゃカモにされますよ。

 

2.相手バッテリーに「打線を分断」されているかも……

 で、もう一つの原因ですが……こっちはさらにシビアです。それは相手バッテリーの「打線を分断する」という作戦に、嵌っている可能性があるということ。

 

 全国大会レベルともなれば、必ず各校には要注意のバッターがいますよね。強豪校のエースでも、さすがにそういうバッターを確実に抑えるのは簡単じゃありません。

 なので、こう考えるわけです――そいつにはある程度打たれてもいいから、前後のバッターを確実に抑えよう、と。

 

 甲子園でもよく見かける光景じゃありませんか。せっかく一、二番がチャンスを作るのに、頼みの三、四番がまったく打てず得点につながらないとか。あるいは、四番は打つけれどシングルヒット止まりで、前後の三番と五番が続けずに毎回散発に終わるとか。

 

 これ、相手バッテリーの術中に嵌っているわけですよ。ごく一部を除いて、弱点のないバッターなんていませんから。要注意バッターにはホームランさえ打たれないようにしておいて、前後のバッターには徹底的に苦手コースを突き、打たせない。そうなりゃ、よく言う“あと一本が出ない”という状態になるんです。

 

 その対抗策としては――もう、得点パターンを増やすしかないでしょうね。

 例えば盗塁、エンドランを使って相手バッテリーを攪乱するとか。セーフティバントスクイズなど、小技を絡めるとか。

 あとは思いきって、打順を変えるという方法もありますよ。いつもクリーンアップに置いているバッターを、わざと一、二番辺りに持ってくるとか。

 「相手打線を分断する」というのは、相手の得点パターンを崩す作戦ですから。先にこちらから動けば、相手を惑わせることができます――もっとも、打順変更に自分達が戸惑ってしまわなければですが(笑)。

 

<終わりに>

 今回の締めくくりに言いたいのは、野球というのは投打のぶつかり合いという目に見える部分だけじゃなく、バッテリーの意図やベンチワークといった、目に見えない部分の攻防もあるということです。それが分かるようになれば、野球がもっと深く楽しめるようになると思いますよ。

 というわけで、また次回お会いしましょう! それじゃ……