南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第29回「「逆方向へのバッティングは、なぜ大事だと言われるのか!?」」ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より>

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<はじめに>

 みなさんこんにちは、墨高野球部のイガラシです。

 今回は、ぼくの方からテーマを持ち込みました。何かと言いますと、野球をかじったことのある人なら、一度は聞いたことがあるでしょう――“逆方向へのバッティング”について、ぼくの考えを話してみたいと思います。

 というわけで、今回のテーマは……

 

「逆方向へのバッティングは、なぜ大事だと言われるのか!?」

 

 あまり野球に詳しくない方のために説明しますと――逆方向へのバッティングというのは、右打者がライト方向へ、左打者がレフト方向へ打ち返すことです。

 なぜ“逆方向”というかと言いますと……今、自分の手でボールを打つ真似をしてみて下さい。右利きの方は、手が左へ回転するでしょう。また左利きの方は、手が右へ回転したはずです。その逆側へ打ち返すことから、“逆方向へのバッティング”と呼ばれています。

 

 この逆方向へのバッティング。試合のレベルが高くなればなるほど、大事になってくると言われています。ぼくが思うに、その理由は大きく分けて二つあります。

 

1.相手バッテリーにプレッシャーを掛けられる

 

 一つ目は、前の講座でも話しましたけど、レベルの高い試合になればなるほど、相手投手はそうそう甘い球なんて投げてくれなくなるんですよ。

 特にこっちの打力を警戒されている場合、多くの投手はアウトコースへ逃げたがります。そうなった時、いわゆる“引っ張り”しかできないと、ボールの軌道に逆らうことになりますから、引っ掛けてゴロになる可能性が高くなるんですよ。

 

 そこで、アウトコースに来た球は、軌道に逆らわず打ち返す――それができると、自然に逆方向へ強い打球が飛ぶようになるんです。

 

 アウトコースに投げても強い打球を打ち返されるとなれば、ピッチャーは「インコースにも投げなきゃ」と思うようになるでしょう。ところがインコースのコントロールは、アウトコースよりもさらに難しくて、ちょっと内側へ外れれば死球になっちゃうし、外側へ外れれば真ん中、つまり一番打ちやすいコースになっちゃうわけです。

 

 つまり逆方向へのバッティングができるというだけで、相手バッテリーにかなりのプレッシャーを与えることができるわけですよ。

 

2.攻撃の幅が広がる

 二つ目の理由は、攻撃時における作戦の幅が広がることです。

 

 特に分かりやすいのは、ヒットエンドランを仕掛ける時ですね。一塁ランナーがスタートすると、セカンドかショートが二塁ベースカバーに入らないといけないですから。その際、一・二塁間か三遊間のどちらかが、ほぼガラ空きになるんです。

 

 そんな時、引っぱりだけでなく逆方向のバッティングもできると、内野手のいない所をねらって打ち返すことができるわけです。きれいな当たりじゃなくても、普通なら内野ゴロになる打球でも外野へ抜ける可能性がある。そうなると、一気に一・三塁とチャンスを広げることができます。

 

 また、引っぱりしかできないと、相手守備陣にそれを読まれて、右打者ならレフト寄り、左打者ならライト寄りのシフトを取られてしまうこともあります。プロ野球でも、王貞治選手を打ち取るための“王シフト”なんてものが敷かれてましたよね。もっとも、王選手はそのシフトをものともせず、ヒットを放っていたようですが。
 少し話はそれましたが、いわゆる広角へ打ち返すことができると、そういうシフトを敷かれることもなくなるわけです。何せ、どこに飛んでくるか分からないですから。

 

3.“逆方向へのバッティング”は、基本ができてから取り組むべし!

 ただぼく自身は、墨二中でキャプテンを務めていた時、フリーバッティングであえて「逆方向へ打て」と指示したことはありません。

 中学レベルだと、まだ自分のフォームもできていないヤツが少なくありませんから。近藤なんてその典型で(笑)、あれだけパワーがあるのに、やたらめったら振り回しちゃって。それで最初、変化球にはからっきしだったでしょう(苦笑)。

 

 なので、ぼくが部員達へ言ったのは“脇をしめてシャープに振ること”と、いつも“自分のフォームを崩さないで打つこと”これだけです。

 要するに、いつでも基本を忘れるなってことですよ。

 バッティングの基本というのは、しっかり腰を回転させながら、バットを最短距離で出し、ボールを捉える瞬間に一番力が出るようにすること……これだって、毎日練習を重ねないと身につくものじゃありません。それに「打撃は水もの」とはよく言ったもので、ちょっとしたことで狂ってしまうのがバッティングです。

 基本もできてないうちに、いきなり逆方向をねらおうとすると、どうしても“手打ち”か“振り遅れ”になっちゃって、正しいバッティングフォームが身につかなくなっちゃうんですよ。

 

 ねらって逆方向へ打つのと、振り遅れてたまたま逆方向へ飛んでしまうのとでは、意味がちがいます。振り遅れが多い、要するに非力なバッターだと判断されて、相手バッテリーはインコースへ力のあるタマをどんどん投げ込んできますよ。

 

 ぼくのオススメとしては……まずはど真ん中の緩い球を、センター方向へ強く打ち返す練習から始めた方が良いと思います。センターへ強い打球が飛ばせるというのは、正しいフォームが身についている証拠ですから。

 

 また、どうしても引っぱりしかできないという子には、無理に逆方向へ打ち返させる必要はないと思いますよ。そういう子には、アウトコースはファールで逃げることを覚えさせるか、もっとスイングスピードを上げて、アウトコースでも引っ張って右中間辺りへ打ち返せるようにさせた方が、その子の持ち味を生かすことができます。

 

<終わりに>

 要するに、逆方法へのバッティングというのは“応用技術”なんです。基本ができていないうちにこれをさせてしまうと、バッティングフォームを崩してしまうことになりかねません。

 ですから指導者の皆さんには、チーム全員のバッティングを“一つの型”に嵌めてしまうのではなく、その子のバッティングがどの段階にあるのかを見極めた上で、その子に合った練習法を伝えて欲しいということです。

 ちょっと生意気言いましたが、ぼくからのお願いです。それでは、また次回……