南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

イガラシくんの野球講座<第35回「イガラシくんは、どうして”天狗”にならずに済んだのか!?」ちばあきお『キャプテン』『プレイボール』より>

f:id:stand16:20190713083954j:plain

<はじめに>

 みなさんこんにちは、墨高野球部のイガラシです。

 今回も、視聴者(?)の方より質問が届いていますので、それに答える形で進めていこうと思っています。

 ええと……ペンネーム「たい焼き」さんより。

―― イガラシさんに質問です。墨谷二中の頃、近藤君が入部してきた時、イガラシさんは「あれだけのタマをもってりゃ 天狗にならないほうがおかしい」と言っていましたが、イガラシさんこそ走攻守に秀でた才能を持っていたのに、どうして天狗にならずに済んだのか不思議です。何か理由があれば教えてください。

 ということで、今回のテーマは……

 

「イガラシくんは、どうして“天狗”にならずに済んだのか!?」

 

 ええと……先に断っておきますが、ぼくなりに“自信”はありますよ。自信がなきゃ、墨二中の一年生の時、キャプテンの谷口さんに向かって「早く試合に出して欲しい」なんて言えませんから(笑)。でも、確かに「たい焼き」さんの言うように、“天狗”になったことはない……というか、なろうと思ってもなれないですね。

 

1.いつの間にか周りを追い抜いていた!

 理由はいくつかありますが……まず言えるのは、ぼくが野球を始めた時って、上級生だけでなく同級生にも、ぼくより力のあるやつが何人もいたってことですかね。

 

 確か野球を始めたのは、小学校の低学年くらいだったんスけど。最初は、やっぱり体の大きいやつが試合に出してもらえるんですよ。でもほら、ぼくは見てのとおり、体が小さいですから。

 体が小さいということは、力も弱いってことです。始めの頃は、バットもうまく振れなくて(苦笑)。当時のぼくが、他のやつに比べて勝っていたことと言えば、ちょっとすばしっこく動けたことと、人一倍負けん気が強かったことぐらいです。ま……負けん気の強さは、今でも変わりませんけどね(笑)。

 

 んなもんで、チームの練習が終わった後も、一人で素振りしたり、谷口さんみたいに神社へ行って投げ込みをしたり、近所をランニングしたりしてましたね。そういうのを続けてると、段々バットが軽く感じるようになって、思うように操れるようになってきたんですよ。

 ああ、ちなみに守備を仕方を覚えるのは、そんなに苦労しませんでした。さっきも言ったように、元々すばしっこく動くのは得意だったので、ゴロやフライを捕るのは結構すぐできました。そこだけは、素質があったかもしれません。

 

 ま、それはともかく……毎日のように特訓を続けていると、いつの間にか、ぼくより実力のあるやつが、ほとんどいなくなってたんですよ。気がつけば抜いてたってやつですね。

 

 どうしてなのか。今思うと、何でもすぐできちゃうと、飽きるのも早いんスよ。それでなくても、小学生って遊びたい盛りなので。野球以外の楽しいことがあれば、すぐにそっちへ行っちゃう。ぼくみたいにムキになって、できるまでやり続けるっていうのは、どうも少数派だったみたいです。

 

2.身近なライバルの存在

 あとは……ちと言うのはシャクですけど(苦笑)、やっぱり井口の存在ですかね。

 まあ、アイツは昔からすごかったですよ。打つにしても投げるにしても。ぼくのいたチームの中でも、ずば抜けてましたね。あんなやつが身近にいたら、とても天狗になんてなれるはずないじゃないスか。

 

 もっとも、向こうは向こうで、ぼくのことをそれなりに意識してたみたいで。気づけば、お互いに投げ込みをしたり、競い合うようにフリーバッティングをするようになってましたね。特にバッティングでは、体格のいい井口と同じ打ち方をしても飛ばないので、自分なりにスイングの工夫を重ねてきました。

 

 んで、思ったわけですよ。身近に井口みたいな素質のあるやつがいるんだから、全国にはもっと力のある人間がゴロゴロしてるんだろうって。井口にその話をしたら、あいつも「そうだな」と共感してくれて。ただみなさんも知ってのとおり、ぼくも井口も負けず嫌いなので、今度は全国の“まだ見ぬ敵”を思い浮かべながら、二人でひたすら特訓を続けてましたよ。その相手と、まさか中学で全国大会出場を賭けて争うとは、夢にも思わなかったですけどね(笑)。

 

<終わりに>

 まあ早い話、「誰にも負けたくない」気持ちと、「上には上がいる」という認識がずっとあったお陰で、天狗にならずに済んだと思っています。

 

 その意味で、近藤はちょっと不運だったかもしれません。小学生の頃から、身近に自分を脅かす存在がいれば……実際、あいつは井口を意識したことで、さらに球速をアップさせましたし。これからだって、新入生の誰かが急激に伸びてきたら、またあいつの闘志に火がつけば。近藤が努力を覚えたら、本当に誰も手が付けられなくなるかもしれませんよ。

 

 最後に一つ言わせてもらうと……学生野球のレベルで“天狗”になって、どうするんだって話でしょう。ぼくらは若いんだし、その気になれば、いくらでも成長できるはずです。天狗になるってことは、今の自分で満足してしまうことと同じですから。

 本当の「自信」というのは、今これぐらいできる自分はスゴイと思うことじゃなく、“これからもっと成長できる自分を信じる”という意味だと、ぼくは思っています。