南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

強すぎた大阪桐蔭と、近江・浦和学院それぞれの覚悟 ~第94回選抜高校野球より~

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 選抜高校野球大阪桐蔭-近江の決勝戦は、18-1という大差で大阪桐蔭が圧勝し、四度目の優勝を果たした。

 

 このスコアは仕方がない。大阪桐蔭が強かった。いや、強すぎた。

 

 市立和歌山戦(準々決勝・17-0)と同じである。圧倒的力量を誇る相手に、万全でない状態で臨めば、どんなチームだってそうなる。

 

 近江はエース山田が足を負傷していただけでなく、前日の準決勝・浦和学院戦で十一回を投げ抜き、疲労もかなり溜まっていたはずだ。おそらく彼自身も含め、チーム関係者は決勝戦がこういう結果になることを、覚悟していたのだろう。それも分かった上で、山田にすべてを託したのだと思う。

 

 覚悟といえば、準決勝で敗れた浦和学院にも、別の形でそれが見られた。同点に追いつかれ、延長戦に突入するという緊迫した展開で、最後までエース宮城を登板させなかった。もちろん球数制限のこともあるだろうが、大阪桐蔭相手には主戦投手が万全の状態でなければ歯が立たないと分かった上で、覚悟を決めた“エース温存”だったのではないだろうか。

 

 近江の覚悟。浦和学院の覚悟。私は、そのどちらも尊重したい。

 

 しかし――近江と浦和学院という全国屈指の強豪に、それだけの覚悟を迫るほど、今大会の大阪桐蔭は図抜けた存在であった。

 

 この決勝戦。私にとって驚きは、18点を奪ったことではなく、1点しか与えなかったことだ。先発の前田、八回からリリーフした川原は、それだけ高い集中力を持って投球していた証である。どんなに点差が開いても、気を緩めることはなかった。

 

 打線も4本塁打は圧巻だったが、基本的にコンパクトなスイングで、けっして大振りしなかった。ホームランとなった当たりも、甘く入った球を素直に打ち返したら、そのままスタンドに入ったという印象だった。またアウトになった場面でも、ファールで粘ったり際どいコースをきっちり見極めたりして、じわじわと近江投手陣にジャブを打ち続けた。パワーのある打線に技を駆使されるほど、厄介なことはない。

 

 大阪桐蔭の西谷監督は、日頃から選手達に「どんなに大差がついても、1点差のつもりで戦いなさい」と指導しているという。まさにそれを体現する戦いぶりで、彼らは最後まで攻め続けた。その姿勢には、天晴れと言うほかない。

 

 こうして今年(令和4年)の選抜高校野球は、幕を閉じた。しかし“春”の良いところは、負けても“夏”への希望を残せることにある。

 

 大阪桐蔭は、今年も十分に春夏連覇を狙える力量を有している。そんな彼らを倒すチームは、現れるのだろうか。この大敗の雪辱を期す近江か、その近江に惜敗した浦和学院か、大阪桐蔭に唯一接戦を演じた鳴門か。はたまた、別のチームが頭角を表してくるのか。

 

 球児達のさらなる成長と、コロナ禍の終息、そして“夏”の大会の幕開けを、今から心待ちにしたい。