南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

悪いことは言わないから……  強豪・浦和レッズの不調に思うこと

 悪いことは言わないから、ペトロビッチ監督をもう辞めさせるべきだと思う。これ以上続けさせても、何も良いことはない。選手達にとっても、監督自身にとっても、何より浦和レッズというチームにとっても。

 どう考えても、いたずらに傷口を広げていくだけである。

 先に告白しておくと、私は鹿島アントラーズのファンだ。したがって、このところの“ライバル”浦和レッズの不調と監督解任騒動には、非常に複雑な思いを抱いている。

 少なくとも言えるのは、敵チームだからこそ、浦和レッズの本来の力を身に染みて感じていたということ。特にオリベイラが辞任(2011年)した翌年から4年間、公式戦で浦和に一度も勝てなかった。何度も煮え湯を飲まされたからこそ、昨年のCSの記憶が未だ鮮烈ではあるが、逆転で破ってなお、“やはりレッズは強い”という印象は変わらなかった。

 おや?と最初に思ったのは、五月の対戦時だった。五月の連休真っ最中、CSと同じ埼玉スタジアムで対戦した際、正直「こんなものか?」と思ってしまった。

 攻撃にまるで迫力が感じられなかったのだ。

 当時の浦和は、前節で未勝利だった大宮アルディージャとの“埼玉ダービー”で今季初黒星を喫し、チームの調子が下がり始めていたのかもしれない。また鹿島のディフェンス陣も、昨年の経験で力を付け、昌子源を筆頭に大きく成長していたという面もある。

 だがあの試合、鹿島もベストパフォーマンスを発揮できたわけではなかった。

 攻撃面では、柴崎岳の抜けた影響でアイディアが不足しているように感じられたし、この試合は無失点に抑えた守備にしても、CSやクラブ・ワールドカップで見せたような集中力の高さは、やや影を落としているように思えた(実際、鹿島は翌節・翌々節と連敗し、ACL敗退後の石井監督解任へとつながっていく)。

 あまり状態が良くなかったにも関わらず、強敵であるはずの浦和に、なぜか危なげなく勝ててしまった……個人的には、そういう感想を抱いたのだ。世間的には、あの“暴言騒動”ばかり目立ってしまったのだが。

 今にして思えば、この時何らかの手を打つべきだったかもしれない。

 迎えた今節——相手は、残留ぎりぎりのラインを争うコンサドーレ札幌。ここまでの18試合で、僅か16得点しか挙げられていない。

 いくら守備面に不安を抱える浦和でも、相手のパスワークや個人技で崩されて失点することは、なかなか考えにくい。

 こういう相手と戦う時に気をつけるべきは、セットプレーとカウンターである。この2つだけは、どんなに力の差がある相手でも、得点を狙える可能性がある。

 特にセットプレーは、たとえマークが付いていたとしても、こぼれ球が相手の方へこぼれてしまったり、強引に打ったシュートがたまたま味方選手に当たってGKが反応できなかったりといった“事故”が起こりやすい。

 何より格上チームと戦う際、相手は「点を取るならセットプレーしかない」と、精度を高めてくることも多い。逆に言えば、セットプレーにさえ気をつけていれば、そうそう点は取られないはずだ。

 ところが……その警戒しなければならないセットプレーから、あっさり失点。CKで、相手FWに競り負け頭で合わせられたのだから、これは“事故”ですらない。

 ただ、不調のチームというものは“まさかの失点”を喰らいがちではある。前半終盤に槙野智章が一発退場したことも痛かったが、それでも戦力差を考えれば、後半に同点・逆転を狙うチャンスは十分にあったはずだ。

 しかし、指揮官自ら……試合をより苦しいものにしてしまった。流れを変えるためか、それとも選手のパフォーマンスに不満があったのかは分からないが、一気の“三枚替え”。

 結果として、後半開始直後に投入したばかりの那須大亮が負傷退場したことにより、浦和は9人でのプレーを強いられることとなった。これが交代策の不味さを一層浮き彫りにしてしまったが、アクシデントがなかったとしても、批判されるべき采配だったと思う。

 下位チームが、格上のチームにリードを奪って試合を折り返す。このような展開だと、後半は両チームともヒートアップして、荒れ模様の展開になることが十分予想されるからだ。

 攻める方は、なかなか点が取れないとイライラが募ってくる。守る方も、どうにか点を与えまいとファール覚悟で止めにいく。那須が無事だったとしても、他の誰かが負傷したり、警告の累積等でさらに退場者を出していた可能性もあった。

 悪いことばかりとも限らない。相手が“勝ち”を意識した途端、プレーが硬くなり致命的なミスを犯してしまうことだってあり得る。そこに付け込めば、案外簡単に追い付けたかもしれない。

 こんなことは、長年サッカーを見ている者ならば、簡単に想像が付く。まともな監督なら、試合展開がどう転んでも対応できるように、交代カードを残しておくだろう。差は1点、相手は下位。三枚替えなどというバクチを打つ場面でもない、はずだ。

 

 ではなぜ、曲がりなりにもJリーグで長いキャリアを積んできたペトロヴィッチに、そういう想定ができなかったのか。これはもう……よほどの“視野狭窄”に陥っているとしか思えない。

 これも春先、見た目上は派手な大勝が続いていたから、監督も選手達もチーム・スタッフも、どこかで「このままでいける」と捉え違いをしてしまったのかもしれない。だが、綻びを放置したまま勝ち続けられるほど、Jリーグも甘い舞台ではなかった。

 鹿島ファンという立場から言えば、このまま“ライバル”には眠ってもらっていた方が楽に決まっている。好調時の浦和は、今までずっと脅威であり続けたのだから。だが、あえて中立の立場から述べるのであれば、やはり冒頭で述べたことを繰り返すしかない。

 悪いことは言わないから、辞めさせるべきだ。ペトロビッチ体制は、もう限界である。

 このまま手をこまねいているのならば、浦和レッズというチームはさらなる痛手を被ることになるだろう。今季のみならず、将来に禍根を残すような……深い傷跡を。