南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

(2024.3.19『続・プレイボール』最新話更新!)【野球小説】『続・プレイボール』『続・キャプテン』 ~各話へのリンクその他~ <ちばあきお『プレイボール』『キャプテン』二次小説>

【野球小説】続・プレイボール

 

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【目次】

 

1.あらすじ 

(1)続・キャプテン

 ちばあきお「キャプテン」の”もう一つの”続編。

 物語は近藤キャプテンを主人公として、春の選抜大会で敗れた直後から始まる。「来年さらに強くなる」ことを目標に再スタートした現チーム。しかし”夏”もあきらめたわけじゃない。近藤流チーム作りとは!? 

 

(2)続・プレイボール

 ちばあきお「プレイボール」の”もう一つの”続編。

 物語は、あの谷原との練習試合に大敗した直後から始まる。キャプテン・谷口タカオ率いる墨谷高校野球部は、夏の甲子園出場を果たすことができるのか!?

 

2.目次(各話へのリンク) ※2024.3.19最新話更新

<『続・キャプテン』>

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<『続・プレイボール』>

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3.その他関連リンク

①感想掲示

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②小ネタ集(※ギャグテイスト)

 

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ちばあきお『プレイボール』『キャプテン』関連批評記事

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日本代表が町田ゼルビアのサッカーを取り入れれば間違いなく強くなるが、なかなか他チームには真似できない理由

 

1.勝つために合理的な町田のサッカー

 

 2024年のJ1リーグにおいて、ここまで3勝1分と好スタートを切った町田ゼルビアのサッカーに対して、ファンや関係者の間でなおも賛否分かれる状態が続いている。

 

 以前の記事でも書いたが、サッカーが創造的なスポーツである以上、好き嫌いがあるのは仕方ないだろう(ちなみに私は、無駄なショートパスや横パスばかりの“なんちゃってポゼッション”が嫌いだ)。ただ野球好きの視点で町田のサッカーを見ると、こんな思いが出てくるのである。

 

 町田のサッカーが、異端ではなく日本サッカーの“スタンダード”になれば、間違いなく日本サッカーは数段レベルが上がるだろう、と。

 

 第3節、鹿島アントラーズとの一戦を見た限り、町田ゼルビアのサッカーには次のような印象を抱いた。

 

・各選手のポジショニングが素晴らしく、チームとしての統制がよく取れている

・パスをつなぐことよりも、ボールを前進させることに重きを置いている

・ブロックを作って相手を引き込むか、思い切って狩りにいくか、その判断が良い

・徹底して勝利から逆算したプレーに徹する

 

 こうして一つずつ挙げていくと、町田は何も特別なことをしているのではないと分かる。さらに付け加えると、町田のサッカーは、むしろ「日本人が本来得意とすること」を忠実に実行しているように思える。例えば、チームとしての統制。例えば、状況判断力。例えば、徹底して勝利にこだわる。

 

 野球を例に出すと、日本人のスポーツの長所がより見えてくる。

 いわゆるホームランか三振かといった分かりやすい勝負だけでなく、攻撃時には送りバントや足を絡めた細やかかつ多彩な作戦・パターンを見せ、守備時にはキャッチャーを中心とした堅守を展開し、内野ゴロを打たせて取る。

 

 ここに出てきた「細やかさ」「チームとしての統制」「勝利へのこだわり」等が、日本人の行うスポーツの長所として挙げられる。したがって町田ゼルビアは、サッカーにおいて“日本人の長所”を体現していると言える。

 

2.町田のサッカーを他チームがなかなか真似できない理由

 

 だから好き嫌いは抜きにして、町田のサッカーを複数クラブ、もっといえば日本代表が実践できるようになれば。高確率で日本サッカーのレベルは上がると思うのだが……おそらくその実現は、それこそ黒田監督を日本代表監督の座に据えない限り、かなり難しいと思われる。

 

 その理由は、町田のサッカーがかなり“自己犠牲”を要求されるからである。

以前の記事でも述べたが、サッカーは創造的なスポーツだ。どうせなら見栄えよく、やっている選手も気持ちよくなるプレーをしたくなる。すなわちショートパスをつないで相手よりボールを保持するサッカーの方が志向されるのは当然だ。

 

 しかし町田のサッカーは、見栄えのよい気持ちのいいサッカーを一旦脇に置いて、まず“勝つために必要なプレー”が徹底して求められる。それが勝つために最も合理的だと分かってはいても、気持ちよくプレーすることを脇に置ける選手というのは、(その選手の個人能力が高ければ高いほど)なかなか難しいと思われる。

 

 ではなぜ、町田ゼルビアではそのサッカーができるのか。

 言うまでもなく、黒田剛監督が優秀な指導者であるからに他ならない。細かいポジショニング、ロングパスやロングボール等、ややもすると“つまならい”と言われがちなプレーの必要性を選手達に納得させ、確実に実践させるには、黒田監督の力量がなければ成しえない。

 

 野球で言えば、阪神岡田監督がそうだ。

 昨年日本一を達成した阪神の野球は、確実に四球を選び状況によって小技や足を絡めたいわゆる“スモールベースボール”で、ホームランを量産するような見栄えのよい野球ではない。しかし勝つためには合理的、なおかつ日本人の長所を生かす野球である。結局他球団は、阪神の合理的な野球を最後まで止めることはできなかった。

 しかし阪神のような合理的な野球を実践するには、岡田監督の力量だけでなく、チームプレーを理解しないワガママな選手は獲得しない等、スカウトにおける球団の方針も不可欠である。

 

 ただ、それにしても勿体ない。

 

 野球ファンや関係者で、昨年の阪神の野球を「異端」だと言う者はいないだろう。

ところがサッカー界では、“日本人の長所”を体現している町田のサッカーが異端扱いされてのだ。このままでは、日本サッカーにおいて日本人の長所は、十分に生かされていないということになるのではないだろうか。

 

 WBCで世界一になった野球ファンの視点で見ると、日本サッカーが世界で勝つための大ヒントがそこに転がっているのに、それが生かされないということは、あまりに勿体ない話だと思う。

 

【野球小説】続・プレイボール<第76話「頭脳戦!キャプテン谷口対聖明館監督の巻」>――ちばあきお『プレイボール』二次小説

 

 

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【目次】

  • 【前話へのリンク】
  • <外伝> 
  •  第76話 頭脳戦!キャプテン谷口対聖明館監督の巻
    • 1.集中打
    • 2.片瀬登板と聖明館ベンチ
    • 3.谷口の気づき
    • <次話へのリンク>
      • ※感想掲示
      • 【各話へのリンク】

  

 

【前話へのリンク】

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<外伝> 

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 第76話 頭脳戦!キャプテン谷口対聖明館監督の巻

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1.集中打

 

―― 墨谷対聖明館の試合は、重苦しい展開のまま、中盤に差しかかっていた。

 強打を誇る聖明館は、毎回のように塁上をにぎわせるも、墨高の先発松川のねばり強いピッチングとバックの攻守により、二回の一点のみにとどまっていた。

 一方の墨高も、聖明館のエース福井から毎回のようにチャンスを作るも、福井ののらりくらりとしたピッチングを前に、どうしても得点が奪えなかった。

 そしてむかえた五回表……

 

 

 甲子園上空は、すっかり夜になった。星が瞬いている。

 五回表の開始前。三塁側ベンチに陣取る聖明館ナインは、監督を中心として円陣を組んでいた。

「さすがは、ねばりの墨高だ」

 ただ一人ベンチに座り、監督は言葉を発した。

「一点こそ奪ったものの、その後はしぶとく守りきられている。このままズルズルいけば、やがて向こうのペースになってもおかしくない」

 ナイン達の間に緊張感が漂う。

「そこでだ」

 しばし間を置いて、監督は話を続ける。

「この回、まっすぐとシュートに的をしぼって、一気にたたみかけよう」

「ということは」

 香田が質問した。

「緩い変化球は捨てるということですか?」

「そのとおりだ」

 指揮官は答える。

「カーブとチェンジアップは見逃すか、ファールにするんだ。そうしてねばっていれば、向こうのバッテリーは速球を投げざるをえなくなる。そこをねらい打て」

 監督はさらに語気を強める。

「やつらのねばりにつき合う必要はない。この回で松川をたたいて、勝負を決めてしまえ」

 ナイン達は「ハイ!」と、快活に応えた。

 

 

 すでに守備位置に散った墨高ナイン。

「いいタマきてるぞ松川」

 後輩の投球を受けながら、倉橋は相手ベンチを観察する。

(監督みずから円陣を組ませるとは。この回、勝負をかける気だな)

 そして回の先頭打者、二番小松が左打席に入ってきた。

(まずコレで様子を見るか)

 倉橋はサインを出し、ミットを外角低めに構える。松川はうなずき、ワインドアップモーションから投球動作へと移る。

 外角低めのカーブ。小松は悠然と見送った。コースいっぱいに決まり、アンパイアが「ストライク!」とコールする。

(反応しなかったな)

 倉橋は訝しげな表情で、打者を見やる。

(つづけてみるか)

 松川はサインにうなずき、二球目の投球動作を始めた。初球と同じく外角低めのカーブ。小松はまたも手を出さず。

「ストライク、ツー!」

 アンパイアが右手を突き上げコールする。

(いまのは見向きもしない感じだったな。やはりまっすぐねらいか)

 しばし思案の後、倉橋は次のサインを出す。

(ねらいダマを分かってて、そのとおり投げてやるほど、こっちはお人好しじゃねえぜ)

 三球目。松川は、真ん中低めにチェンジアップを投じた。小松のバットが回る。カキッ、と快音が響いた。痛烈なライナー性の打球だが、大きく切れて一塁側アルプススタンドに飛び込む。塁審が「ファール!」と、両腕を掲げる。

(なんて速い打球なんだ)

 倉橋は頬を引きつらせた。

(しかしいまのは、わざとファールにしたくさいぞ。やはりまっすぐを待っているのか)

 一方、小松も思案を巡らせる。

(フン、さすがだな。速球ねらいに気づいてら)

 一旦打席を外し、数回素振りする。

(だがねばってりゃ、そのうちしびれを切らすだろう)

 四球目は外角のカーブ。小松はこれもカットし、打球は三塁側ベンチ前を転がる。五球目は真ん中低めのチェンジアップ。これは見送り、外れてワンボール・ツーストライクのカウントとなる。

(マズイな……)

 正捕手は苦い顔になる。

(松川のやつ、ここまでだいぶ投げてる。これ以上ねばられちゃ、後がきつくなるぞ)

 手振りで「ロージンだ」と伝える。松川が足下のロージンバックを拾い、右手に馴染ませる間、倉橋は思案する。

(ちとキケンだが、ここは打たせるしかない)

 ようやくサインを決め、ミットを内角高めに構える。

(さあさあ。バックを信じて)

 松川はうなずき、ワインドアップモーションから投球動作を始めた。左足で踏み込み、グラブを突き出し、右腕を振り下ろす。シュッ、と風を切る音。

 小松がバットを強振する。パシッと快音が響いた。

「ら、ライト!」

 鋭いライナー性の打球が、深めに守っていたライト久保の頭上をあっという間に越え、ワンバウンドでフェンスに当たり跳ね返る。

「くそっ」

 久保はすぐさま捕球し、中継の丸井へと返球するが、小松はスライディングもせず悠々と二塁に到達した。ツーベースヒット。

(なんて見事なバットコントロールしやがるんだ)

 倉橋は思わず苦笑いした。

(松川の重いタマに、振り負けるどころか、肘をたたんでフェンスまで運ぶとは)

 そして三番打者の香田が、ゆっくりと右打席に入ってきた。

(おれが動揺しちゃいかんな。向こうがまっすぐねらいなのは、分かってるんだ)

 束の間考えた後、一球目のサインを出す。そして外角低めにミットを構える。

(だったら、その打ち気を利用してやる)

 松川はサインにうなずき、セットポジションから投球動作を始めた。その指先からボールが放たれた瞬間、倉橋は「うっ」と顔をしかめる。

 外角を狙ったはずのボールが真ん中に入ってしまう。パシッと快音が響く。痛烈なゴロが、横っ飛びしたファースト加藤のミットの下をすり抜ける。そのままライトのファールグラウンドを転がっていく。

「くっ」

 またもライト久保が、フェンスに当たり跳ね返った打球を拾い、中継の丸井へと返球する。ボールを受けた丸井は「ああ」と溜息をつく。その眼前で、二塁走者の小松がホームベースを駆け抜ける。さらに香田は二塁ベース上に立つ。

 連続ツーベースヒット。スコアボードがめくられ、聖明館の二得点目が表示される。

「しまった……」

 マウンド上で、松川が唇を歪める

「た、タイム」

 倉橋はアンパイアに合図して、マウンドへと駆け寄った。

「どしたい松川。ボール一個はずせと要求したのに、中に入ってきたぞ」

「すみません」

 神妙な顔で、松川は小さく頭を下げる。倉橋はポリポリと頬を掻いた。

(ま、しかたあるまい。あれだけ毎回のように連打されりゃ、どうしたって神経をすり減らしてしまうよな)

 後輩の左肩をポンと叩く。

「ま、あまり気ばらずいこうや。何度も言うように、バックを信じてな」

松川は「は、はい」と返事して、少し表情を和らげる。

 倉橋がポジションに戻ると同時に、四番鵜飼が右打席に入ってきた。そしてバットを長く構える。長距離打者特有の威圧感ある雰囲気だ。

(外だぞ)

 ミットを再び外角低めに構え、正捕手はサインを出す。松川はうなずき、セットポジションから第一球を投じた。

「あっ」

 そのボールがホームベース手前でワンバウンドした。倉橋はミットを縦にしてボールを前にこぼす。ランナー香田は進塁しようとするが、倉橋がボールを拾ったのを見て、慌てて帰塁する。

(うーむ。どうもまっすぐだと、腕が縮こまってしまうようだな)

 しばし思案の後、倉橋は「コレよ」とサインを出し、再びミットを外角低めに構える。

(これで力みが取れりゃいいんだが)

 松川はサインにうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。

 外角低めのカーブ。鵜飼はぴくりとも動かず。コースいっぱいに決まり、アンパイアが「ストライク!」とコールする。

(やはり緩いタマは捨ててるみてえだな。それなら……)

 倉橋は「つぎもコレよ」とサインを出す。

 松川はうなずき、セットポジションから三球目を投じた。またも外角低めのカーブ。これもコースいっぱい。やはり鵜飼はバットを出さず。

(フウ。どうにか追いこんだぞ)

 倉橋は小さく吐息をつく。

(最後もカーブでいくか。いや、何度も同じタマを続けると、やつらヤマをはってくる)

 束の間考えた末、次のサインを出す。

(だったらコレで)

 松川はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。左足で踏み込み、グラブを突き出し、右腕を振り下ろす。

 真ん中低めのチェンジアップ。鵜飼ははらうようにバットを出した。打球は三塁側ベンチ方向へ転がっていく。ファール。

(いまのは、はなからフェアゾーンに飛ばす気がなかったようだな)

 なるほど、と正捕手は合点する。

(さっきのミーティングで、緩いタマは捨てろと指示が出たんだな。だったら……)

 倉橋はすぐに五球目のサインを出し、ミットを内角低めに構えた。

(こいつで引っかけさせよう)

 松川はサインにうなずき、しばし間を置いてから、投球動作を始める。そしてシュートを投じた。しかし鵜飼は、躊躇なくスイングする。

 パシッ。鋭いライナーが三塁線を襲う。サード谷口がジャンプするも及ばず、打球はレフト線の内側に落ち、さらに外へ切れていく。

「レフト!」

 倉橋の指示の声よりも先に、レフト横井がクッションボールを処理し、中継のイガラシへ送球する。だがその間、二塁走者の香田はホームベースを駆け抜けていた。さらに打った鵜飼も二塁へ到達。

 またもタイムリーツーベースヒット。スコアボードに、聖明館の三点目が表示される。

「くそっ」

 ホームベース手前で、倉橋は唇を歪めた。

「シュートまで打たれるとは」

 

 

2.片瀬登板と聖明館ベンチ

 

 サードのポジションにて、キャプテン谷口は渋面になる。

(いかん。ねらい打ちされてる)

 そして「タイム」と三塁塁審に合図してから、一塁側ベンチへと走り寄る。

(しかたない……)

 高橋、攻撃時はコーチャーを担当する一年生に声を掛けた。

「は、はい」

ブルペンの片瀬を呼んできてくれ」

「分かりました!」

 キャプテンの指示に、高橋は急いでベンチを飛び出す。一方、谷口はアンパイアの下へ駆け寄り、短く告げる。

「ピッチャー松川から片瀬に交代します」

 うむ、とアンパイアは承諾し、バックネット裏へと走る。ほどなく、ウグイス嬢のアナウンスが流れてきた。

―― 墨谷高校、選手の交代をお知らせいたします。ピッチャー松川君に代わりまして、片瀬君。背番号12。

 アナウンスの間、谷口が今度はマウンドへと歩み寄った。そのマウンド上では、正捕手倉橋が渋面で腰に手を当て、そして二年生投手の松川は青ざめた顔になり、肩で息をしている。ハーハーと呼吸音が聞こえる。

「スマン」

 開口一番、倉橋は謝った。

「引っかけさせるつもりでシュートを要求したんだが、ものの見事に打ち返されちまって」

「うむ。しかたないさ」

 苦心のバッテリーをねぎうように、谷口は言った。

「二人とも、よくがんばってくれた。これはもう相手をほめるしかない」

 やがてライトのラッキーゾーンより、片瀬が駆けてきた。しかしマウンド上の重い空気を察してか、しばし押し黙る。

 松川がぐっと顔を上げ、谷口と目を見合わせる。

「役割を果たせなくて、すみませんでした」

「いや。そんなことはない」

 キャプテンはきっぱりと答え、二年生投手の左肩をポンと叩く。

「あの打線相手に、ここまでよく投げてくれたな。あとは体をしっかりケアしながら、ベンチでナインを盛り立ててくれ」

 はい、と返事したその口元に、途中降板の悔しさがにじむ。そして片瀬のグラブの左手にボールを渡し、「たのんだぞ」と告げる。それから踵を返し、ベンチへと向かう。

 松川がダッグアウトに引っ込むのを見届けてから、谷口は「さて片瀬」と一年生投手に向き直った。

「都大会以来の登板だが、準備はできているな?」

「もちろんです」

 思いのほか片瀬は快活に返事する。

「見てのとおり手ごわい打線だが、バックを信じて思いきり投げるんだ。いいな!」

「はい! まかせてください」

 端正な顔立ちの一年生は、微笑んで応えた。

 

 

「うーむ……」

 三塁側ベンチ奥。聖明館監督は腕組みしたまま、グラウンド上の光景を見つめていた。その眼前では、リリーフ登板の片瀬がサイドスローのフォームで、キャッチャー倉橋相手に投球練習を行う。

(一気に突き放したいところだったが、やはりここで、うちの苦手な軟投派投手をぶつけてきたか。思ったとおり、あの谷口というキャプテン、手ごわい男だ)

 そして「高岸!」とネクストバッターズサークルの次打者を呼び、手振りでサインを伝える。

(あの一年生投手は足を痛めているという情報もあるが。いずれにせよ、こうなったら一点ずつ追加していくしかあるまい)

 

 

 やがてタイムが解け、五番高岸が左打席に入ってきた。その傍らで、キャッチャー倉橋は視界の端で打者を観察する。

(さっきまでは速球ねらいだったが、軟投派の片瀬に代わって、ねらいダマをどうしてくるか)

 しばし思案の末、倉橋はサインを出し、ミットを外角低めに構える。

(まずコレで様子を見るか)

 片瀬はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。サイドスローのフォームで、速球を投じた。

 次の瞬間、高岸はバットを寝かせた。

「なにっ」

 コン、と音がした。倉橋は目を見開く。高岸はボールをマウンドとホームベースの中間地点に緩く転がす。

 片瀬は素早くマウンドを駆け下りた。しかし捕球した瞬間、足がもつれ転んでしまう。

「あ……」

 何とか上半身を起こしたが、すでに高岸はベースを駆け抜けていた。一塁三塁オールセーフ。

「タイム!」

 アンパイアがコールの後、少し屈んで尋ねる。

「だいじょうぶかね、きみ」

「は、はい。平気です」

 そう言って片瀬は立ち上がり、倉橋と目を見合わせ「すみません」と頭を下げる。

「気にすんな」

 正捕手は右手を差し出し、一年生投手を助け起こした。

「まさかバントしてくるなんて、こっちも思いもしなかったからな」

「ええ」

「それより、足はほんとうに平気なのか?」

「あ、はい。いまのはちょっとすべっちゃいまして」

 ホッ、と倉橋は安堵の吐息をついた。そして相手ベンチを睨む。

(向こうの監督、片瀬の足が万全じゃないってこと、知ってやがったな。さすが、あの青葉部長の弟なだけあって、いやらしい采配してきやがる)

 ほどなく谷口もそばに来た。

「片瀬。足を伸ばしてみろ」

「はい」

 片瀬は言われた通り、膝に両手を当て、片足ずつ伸ばしていく。

「どうだ、痛みはないか?」

「ええ。なんともありません」

 よかった、と谷口は微笑む。

「しかし二点追加されて、さらにピンチが広がっちまったな」

 倉橋は渋面で言った。

「打順も下位に入っていくことだし。向こうはまた、バントで揺さぶってくるだろうぜ」

「む。おれもそう思う」

 谷口は「片瀬」と、後輩に向き直る。

「バントはおれと加藤で処理する。たとえ真正面でも、おまえは反応するな」

「え、でも」

 戸惑う後輩の左肩を、谷口はポンと叩く。

「こっちのことは気にするな。向こうのねらいは、おまえをバントで走らせて、自滅させることだ。そのテにわざわざ乗る必要はない」

「分かりました」

 片瀬はようやく納得してうなずいた。その隣で、倉橋はちらっとネクストバッターズサークルを見やる。次打者の六番糸原が、マスコットバットで素振りしている。

スクイズだろうな」

 正捕手の一言に、キャプテンは「うむ」と同調する。

「あの監督のことだ。軟投派の片瀬から、連打で得点するのは難しいと判断するだろう。となると、いまいるランナーをかく実に返そうとしてくるはず」

「どうする、させるか?」

「ああ。もう一点くらいはしかたあるまい。それより大量失点を防ぐんだ」

 谷口の言葉に、倉橋も「分かった」と腹を決める。

 ほどなくタイムが解け、六番糸原が右打席に入ってきた。倉橋は「ココよ」と、ミットを真ん中に構える。

 片瀬はうなずき、セットポジションから投球動作を始めた。その瞬間、三塁走者の鵜飼がスタートを切り、糸原はバットを寝かせる。スクイズ

 倉橋は「やはり」と、マスクを脱ぎ立ち上がる。

 コンッ。打球はマウンドの左側に緩く転がった。サード谷口はボールを拾うと、鵜飼を見向きもせず、素早く一塁へ送球した。

 ようやくワンアウト。しかしスクイズを決められ、点差は四点に広がってしまう。

 沸き立つ三塁側ベンチとスタンド。対照的に、墨谷応援団の陣取る三塁側スタンドからは「ああ……」と溜息混じりの声が漏れる。

「ワンアウト! さあ、ここからしっかり守るぞ」

 重苦しいムードを振り払うように、キャプテン谷口は朗らかな声を発した。ナイン達も快活に「オウヨッ」と応える。

 そして七番打者の真壁が、右打席に立つ。前と変わらずバットを長く持つ。

(また速球をねらってくるか。いや、ひょっとしてなにかしかけてくるかも……)

 横目で打者を観察しつつ、倉橋はサインを出す。そしてミットを内角高めに構えた。

(そう好きにさせてたまるかよ)

 片瀬はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。その瞬間、真壁も糸原と同様にバットを寝かせた。同時に、二塁ランナー高岸がスタートを切る。

「ん?」

 真壁は投球の軌道に驚く。速球と思われたボールは、打者の手元でナチュラルにシュートした。

 ガッと鈍い音。打球はマウンドとホームベースの中間地点への小フライとなる。片瀬が迷わずダッシュし、飛び付いた。そのグラブの先に、ボールが収まる。

「しまった」

 ベースから飛び出してしまった高岸は、慌てて帰塁する。しかし起き上がった片瀬は、すぐさま振り向いてベースカバーのイガラシへ送球する。

 高岸はヘッドスライディングするも、間に合わず。

「アウト!」

 二塁塁審のコール。ダブルプレーとなり、これでスリーアウト。登板したばかりの片瀬のファインプレーに、今度は墨高応援団の一塁側スタンドがワアッと沸き立つ。

「ナイスガッツよ片瀬!」

 谷口は右こぶしを軽く突き上げ、気迫の後輩を称えた。そしてピンチを切り抜けた墨高ナインが、足取り軽くベンチへと引き上げていく。

 

 

「くそ。やっちまった」

 三塁側ベンチ。バントを失敗した真壁が、渋面で戻ってくる。

「ただのまっすぐだと思って油断したな」

 ベンチ奥にて、聖明館監督は厳しい口調で言った。

「きのうのミーティングで、あの一年生のボールは、ナチュラルに小さく左右に曲がると言っておいたろう」

「す、すいません」

 真壁は気まずそうに頭を下げる。

「まあ、すんだことはしかたがない」

 少し口調を柔らかくして、監督は話を続ける。

「それより、ようやく追加点を取れたんだ。うちのペースで試合を進めるためにも、このウラをしっかり守り抜くことだ。いいな!」

 ナイン達は「はいっ」と、力強く返事した。

 

 

3.谷口の気づき

 

 一塁側ベンチでは、墨高ナインがキャプテン谷口を中心に円陣を組む。

「言うまでもないが、野球では取られたら取り返す。これが鉄則だ」

 開口一番、谷口はそう告げた。

「点こそ奪えていないが、われわれも再三チャンスを作ってる。もうひと押しすれば、必ず向こうのエースを打ちくずせるはずだ。そのためにも各自ねらいダマをしぼって、しっかりミートすること。いいな!」

 キャプテンの檄に、ナイン達は「オウヨッ」と快活に返事した。

(もうひと押しすれば、か……)

 しかし当の本人は浮かない顔になり、この回の先頭打者丸井の背中を見送る。

(なんだろう。なにか見落としてる気がする)

 谷口の眼前では、守備位置に散った聖明館内野陣の真ん中で、エース福井が投球練習を行う。初回から変わらず淡々とした表情だ。

(あの時折くる甘いタマ、なにかワケがあると思うんだが。いったいどんな意図が)

 グラウンド上の光景を眺めながら、思案を続ける。

 ほどなく既定の投球を受け終えたキャッチャー香田が、二塁へ送球した。そしてアンパイアが「バッターラップ!」と、ネクストバッターズサークルに控えた丸井を呼ぶ。

(ようし。反撃するためにも、おれっちが出塁しなきゃ)

 丸井は決意して打席に入り、バットを短く構え「さあこい!」と気合の声を発した。

 初球。内角低めにカーブが投じられる。丸井は手が出ず。コースいっぱいに決まり、ワンストライク。

 ちぇっ、と丸井は舌打ちする。

(こんなにキレのあるカーブをコースいっぱいに決められちゃ、そうそう連打はむずかしそうだな)

 二球目。福井はサインにうなずき、ワインドアップモーションから投球動作へと移る。

「えっ」

 丸井は目を丸くした。速球が真ん中やや外寄りの甘いコースに投じられる。つい見送ってしまい、アンパイアが「ストライク、ツー!」とコールする。

(しまったあ。おれっちとしたことが、あんな絶好球を見逃すなんて……)

 福井はテンポよく、三球目の投球動作を始める。右足で踏み込み、グラブを突き出し、左腕を振り下ろす。

「うっ」

 コースはど真ん中、しかしスピードを殺したチェンジアップが投じられた。丸井は上体が泳いでしまう。それでも掬い上げるように打ち返すが、打球はセンターほぼ定位置への凡フライ。鵜飼が顔の前で難なくキャッチする。ワンアウト。

 悔しげに天を仰ぐ丸井。

「くそ。打たされちまった!」

 ベンチにて一連の光景を眺めていた谷口は、思わず立ち上がる。

(そ、そうか! 分かったぞ。あの甘いタマの意図が)

 それからベンチを出て、アンパイアに「タイム!」と合図してから、ネクストバッターズサークルの島田を呼び戻す。

「島田。ちょっとくるんだ」

 島田は「は、はあ」と戸惑った表情で引き返してきた。やがてベンチ内に、再び谷口を中心に円陣が作られる。

 

 

「いいかみんな」

 声をひそめて、谷口は切り出す。

「あの時々くる甘いタマだが、以後は捨てるんだ。見逃すか、追い込まれていたらカットしろ」

 えっ、とその場にいる多くの者が声を上げる。

「あんな絶好球を打つなということですか?」

 島田の問いかけに、谷口は「そうだ」と即答する。また周囲から、戸惑ったふうなざわめきが聞かれる。

「話は最後まで聞きましょうよ」

 その場をとりなしたのは、イガラシだった。

「キャプテンがそう言うからには、なにかワケがあるんでしょう」

 うむ、と谷口はうなずく。そして理由を述べる。

「あの甘いタマは、打ちいそぎを誘うためのワナなんだ」

 今度はナイン達から「ああ」と溜息が漏れた。谷口はさらに話を続ける。

「一度絶好球を見逃すと、つぎこそは打たねばと、どうしても打ち気にはやってしまうだろう」

 なるほど、と丸井が納得した声を発した。

「そして打ち気にはやったところに、緩いタマを使ったり厳しいコースを突いたりして、打たせて取るというわけですね!」

「そのとおり。さすが一番バッターだな」

 谷口に褒められると、丸井は「へへっ、どうも」と照れて顔を赤らめる。

「自分がやられただけあって、説得力あるぜ」

 横井の突っ込みに、丸井は「あっ」とずっこけた。周囲からクスクスと笑い声が漏れる。

「とにかく。向こうのねらいが分かった以上、それに乗ることはない」

 谷口が、やや語気を強めて言った。

「それとここまでの傾向からして、甘いタマを見逃した後は、こちらのあせりを利用して打ち取ろうと変化球を投げてくる可能性が高い」

 む、と倉橋も同調する。

「いつくるか分からない甘いタマを待つより、ずっとねらいダマが絞りやすいな」

「そういうことだ」

 谷口はナインの顔を見回し、さらに付け加える。

「材料もそろったことだし。この回なんとしても、点をもぎ取るぞ。いいな!」

 ナイン達は「オウッ」と、力強く返事した。

 

 

 ホームベース手前で、キャッチャー香田は屈み込み、相手ベンチの様子を観察する。

(とくにチャンスってわけでもねえのに。このタイミングでミーティングたあ、あの谷口という男なにを考えてやがる)

 やがてタイムが解け、二番島田が右打席に入ってきた。

「ようし、こい!」

 島田は気合の声を発し、バットを短めに握る。

(なんだこいつ、みょうにはりきっちゃって。まさか……)

 香田はあることに思い至る。

(やつら、あのタマのねらいに気づいたんじゃ)

 束の間考えてから、香田はサインを出す。

(たしかめてみるか)

 福井はサインにうなずき、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

 真ん中やや外寄りの速球。島田はぴくりとも動かず。アンパイアが「ストライク!」とコールする。

 香田は横目で打者を見やる。島田は打席に入ってきた時と同じ、気合のこもった表情だ。

(いやな見逃し方だな)

 胸の内につぶやく。

(いままでなら、しまったって顔してたのに、まるで表情を変えやがらねえ)

 しばし思案の後、香田は二球目のサインを出す。

(コレならどうだ)

 福井はうなずくと、すぐに投球動作を始めた。そして今度は、ど真ん中にチェンジアップを投じる。

 打者は上体を崩さず。迷いなくバットが回る。カキッと快音が響く。

 低いライナーが二塁ベース横を破り、外野へ抜けていく。ショート小松が横っ飛びするも及ばず。センター前ヒット。

 島田は一塁ベースを回りかけたところで引き返し、「よしっ」と右手を軽く突き上げた。対照的に、キャッチャー香田は「くっ」と唇を歪める。

「ナイスバッティングよ島田!」

 キャプテン谷口がヘルメットを被りながら、快打の後輩に声を掛けた。

 

 

 三塁側ベンチ奥。聖明館監督は腕組みして、戦況を見つめる。眼鏡の奥の眼光は鋭い。

(ほほう。やはりあの谷口という男、こちらのバッテリーの意図を見抜いたか)

 眼前のマウンド上では、福井が左手にロージンバックを馴染ませている。監督はひそかに思案を巡らせた。

(ここで福井がふんばれないようなら、つぎの手を打たねばなるまい)

 

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【野球小説】続・プレイボール<第75話「ふんばれ松川!の巻」>――ちばあきお『プレイボール』二次小説

 

 

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【目次】

  • 【前話へのリンク】
  • <外伝> 
  •  第75話 ふんばれ松川!の巻
    • 1.先制なるか!?
    • 2.強打の聖明館打線!
    • <次話へのリンク>
      • ※感想掲示
      • 【各話へのリンク】

  

 

【前話へのリンク】

stand16.hatenablog.com

 

<外伝> 

stand16.hatenablog.com

 

stand16.hatenablog.com

 

 第75話 ふんばれ松川!の巻

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1.先制なるか!?

 

 一回裏の攻撃前。墨高ナインは一塁側ベンチにて、キャプテン谷口を中心に円陣を組む。

「にしても、あいつらよく打ちますね」

 丸井の言葉に、隣で加藤が「うむ」と首肯する。

「やたら振り回すだけかと思いきや、速球に強いだけじゃなく変化球にも合わせてくる。こりゃ想像以上の強敵だぜ」

 ナイン達の間に緊張感が漂う。

「さあみんな。今は守備じゃなく、攻撃に入ったんだ」

 キャプテン谷口がそう言って、軽く右こぶしを突き上げた。

「向こうの打力からして、一点勝負にはならなさそうだし。相手投手を打ちくずさなきゃ勝ち目はないぞ」

「谷口の言うとおりだ」

 傍らで、倉橋も口を開く。

「こっちも練習を積んできたわけだし、予選で当たった谷原の村井や東実の佐野と比べりゃ、そう飛び抜けた投手というわけでもあるまい」

 横井が「そうよ」と同調する。

「先にこっちが点を入れりゃ、向こうのご自慢のバッティングにも狂いが生じるかもしれないぜ」

「そういうことだ」

 表情を柔らかくして、谷口はうなずいた。

「きっと先の読めない展開になると思うが、こっちが先制すりゃ、試合の主導権をにぎることができる。そうやって相手の勢いを封じていくんだ。いいな!」

 オウヨッ、とナイン達は快活に返事した。

 

 

 グラウンド上。守備に着いた聖明館野手陣は、軽快な動きでボール回しを行う。その中心で、細身の左腕エース福井がマウンドにて投球練習を始めていた。

 福井はセットポジションから右足を踏み込み、グラブを突き出し、左腕をしならせる。そうして投じられたボールは一球、二球と、キャッチャー香田の構えたミットに寸分違わず吸い込まれていく。ズバン、ズバンと小気味よい音が鳴る。

「ナイスボールよ福井!」

 香田が一声掛けると、福田は無言でうなずき、次の投球動作へと移る。

「ちぇっ。あいかわらず、ぶっきらぼうなやつめ」

 苦笑いして、香田はミットを構える。

(だが一戦、二戦とかなり投げてるわりに、タマは走ってるじゃねえか)

 やがて福井が規定の七球を投げ終え、香田は二塁ベースカバーに入ったセカンドへ送球した。そして墨高の一番打者丸井が、右打席に入ってくる。

 丸井はバットを短めに握り、「さあこい!」と気合の声を発した。

(ハハ。闘志むき出しってやつだな)

 香田はマスクを被り、ホームベース奥に屈んで打者を観察する。

(こいつナリは小せえが、かなり目がいいって話だったな)

 マウンド上。福井はロージンバックを放る。その眼前で、香田が「まずコレよ」と一球目のサインを出す。

「む!」

 福井はうなずくと、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

「れっ」

 速球が、真ん中やや外寄りのコースに飛び込んできた。丸井は手が出ず。

(しまった。今のはねらうべきだった)

 打席を外し、ぺっぺっと両手を唾で湿らせる。

(ただコントロール抜群という話だったはずだが。初球からあんな甘いタマを投げてくるなんて、おれっちをナメてるのかしら)

 丸井は打席に戻り、バットを構え直す。福井がすぐさま投球動作を始めた。

「うっ」

 またも速球が、今度は内角低めの厳しいコースに飛び込んできた。しかし僅かに外れ、アンパイアは「ボール!」とコールする。

(あぶねえ。手を出してたら、引っかけて内野ゴロだったな)

 さらに三球目。次はカーブが、外角低めいっぱいに投じられる。これは決まってツーストライク。

(なんでえ、初球はやっぱりコントロールミスか)

 丸井は渋面になる。傍らで、香田が「フフ」とほくそ笑む。

(顔に出やすいバッターだぜ。これなら料理は簡単そうだ)

 四球目。真ん中高めに、吊り球が投じられた。丸井はこれを悠然と見送る。く、と香田は顔を歪めた。

(手を出してくれると思ったが……)

 一方、丸井は「フン」と鼻を鳴らす。

(おれっちがそんな単純なバッターだと思っちゃあ、甘いぜ)

 一塁側ベンチより、キャプテン谷口が「いいぞ丸井! ナイス選球」と声を掛ける。

 続く五球目。香田は「だったらコレで」とサインを出す。うむ、と福井はうなずき、投球動作へと移る。

 真ん中低めに投じられたボール。丸井は「あ、甘い」とスイングするが、ボールはホームベース手前で曲がり外に切れていく。

「うっ」

 ガキ、と鈍い音。打球は三塁側ファールグラウンドに転がる。

(ここでシュートか。あのピッチャー、ぼんやりした顔に似合わず、いやらしい投球してきやがる)

 丸井は再び打席を外し数回素振りしてから、アンパイアに「どうも」と合図して打席に戻る。

(さすが、いい反応しやがるぜ)

 香田は苦笑いして、次のサインを出す。

(コレで勝負といこうよ)

 マウンド上。福井はうなずくと、すぐさまワインドアップモーションから六球目を投じた。外角低めいっぱいのカーブ。

「くっ」

 丸井は上体が泳ぎそうになりながらも、バットをおっつけるようにスイングした。パシッと快音が響く。ライナー性の打球がライト線を襲う。

「ライト!」

 香田の指示の声よりも先に、ライト甘井が駆け出していた。ボールは白線の内側ギリギリに落ちていく。次の瞬間、甘井が横っ飛びする。差し出したグラブの先に、ボールが収まる。

 甘井は上半身を起こすと、捕球した左手のグラブを掲げた。

「あ、アウト!」

 一塁塁審のコール。ああ、と三塁側墨高応援席からは落胆の溜息が漏れた。一方、一塁側の聖明館応援席からは「おおっ」と歓声が上がる。

「ちーっ、とられちったか」

 丸井は悔しがりながらも、次打者の二番島田とすれ違うと、「おい島田」と冷静に情報を伝える。

「事前に分析したとおり、コントロールはいいが、たまに甘いタマもくるぞ」

「そうみてえだな。分かった、ねらってみる」

 島田はうなずき、小走りに打席へと向かう。そして右打席に入ると、こちらもバットを短めに握り構えた。

(こいつはスイッチヒッターだったな)

 傍らで、香田は打者を観察する。

(福井が左投手だから、右打席に立ってるのか)

 その福井に、香田は(コレで誘ってみよう)とサインを出す。む、と投手はうなずき、ワインドアップモーションから第一球を投じた。

「き、きたっ」

 またも真ん中やや外寄りの速球。島田のバットが回る。パシッと快音が響き、低いライナー性の打球が一・二塁間を抜けていく。ライト前ヒット。ワアッ、と沸き立つ一塁側の墨高応援団。

「なんでえ」

 ベンチ後列にて、戸室が言った。

「あの福井とかいうピッチャー、たいしたことないじゃねえか」

 うむ、と横井が同調する。

「前の試合の感じじゃ、コントロールは良さそうだったが、やはり疲れが出てるのか」

「む。いずれにせよ、チャンスじゃねえか」

 盛り上がる墨高ナイン。その中で、キャプテン谷口はネクストバッターズサークルへ向かうためヘルメットを被りながら、一人浮かない顔をしていた。

(みょうだな……)

 胸の内につぶやく。

(あれだけ変化球をコーナーに決められる投手が、速球を二人続けてコントロールミスするなんてことがあるのか)

 その時「キャプテン」と、声を掛けられる。振り向くとイガラシが立っていた。

「どうしたんです。そんなむずかしい顔しちゃって」

「ああ」

「なにか気になることが?」

 後輩の問いかけに、「そうだな」とうなずく。

「だったら、みんなに伝えた方が」

「いや。いまはよそう」

 バットを手に、谷口は答えた。

「ナインの、いけるというムードに水を差したくないんでな」

「は、はあ」

「それよりイガラシ。向こうのバッテリーの様子、よく見ておいてくれ」

「分かりました」

 それだけ言葉を交わし、谷口はネクストバッターズサークルへと向かう。

 ワンアウト一塁。このチャンスに、三番倉橋が右打席に立つ。こちらもバットを短めに握り、「ようし」と気合の声を発した。

(だいぶ気合が入ってるな)

 打者の傍らで、キャッチャー香田が(まずコレよ)とサインを出す。その眼前で、福井がうなずき、今度はセットポジションから投球動作へと移る。

 初球、カーブが外角低めいっぱいに決まる。倉橋は目を丸くした。

(やっぱりコントロールいいじゃねえか。これだけ変化球をコーナーに投げられるやつが、なんで速球を甘いコースに放ったりなんか)

 続く二球目。その速球が、真ん中低めに投じられた。

「しめた!」

 倉橋のバットが回る。ところがホームベース手前で、ボールはすうっと沈んだ。

「うっ」

 カキッ。引っ掛けてしまうが、それでも速いゴロが二塁ベース左を襲う。ショート小松が横っ飛びした。バチっと音がして、打球はグラブを弾く。それでも小松はすぐに起き上がり、ボールを拾い直す。

「へいっ」

 ベースカバーに入ったセカンドが合図する。小松は片膝立ちで素早く送球し、二塁フォースアウト。セカンドはすかさず一塁へ転送するが、ファースト高岸が捕球した時、倉橋はすでにベースを駆け抜けていた。

「セーフ!」

 一塁塁審のコール。それでも倉橋は「くそっ」と、顔を歪める。

(いまのはフォークか。まんまと打たされちまったぜ)

 一塁ベースに着き、渋面になる。

(しかし甘いタマがきたかと思いきや、一転してきわどいコースを突いてきやがる。ほんとつかみどころのない投手だぜ)

 ランナーが入れ替わり、ツーアウト一塁。ここで四番谷口が右打席へと入る。やはりバットを短めに握った。

(とにかく、相手の意図を探らなきゃ)

 一方、香田は横目で、打者の観察を続ける。

(ナリは小さいが、たしか四割近く打ってるバッターだったな)

 そして「まずコレよ」とサインを出した。む、と福井はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。

 内角低めの速球。谷口は手を出さず。

「ボール!」

 アンパイアのコール。香田は「ナイスボールよ福井!」と言って、返球した。その傍らで、谷口は思案する。

(ボール一個分はずしてる。やはりコントロールは抜群だ)

 続く二球目。速球が、真ん中やや外寄りに飛び込んできた。谷口は、驚いて「えっ」と目を見開く。自然とバットが反応する。

 パシッと快音を残し、鋭いライナーが三塁線を襲う。サードがジャンプするも届かず、ボールはレフト線の内側に落ちた。そのままフェンス際まで転がっていく。レフトが回りこんで捕球する。

「くそっ」

 レフトは中継に入ったショート小松に返球した。しかしその間、ランナー倉橋は三塁へ、バッター谷口は二塁へそれぞれ進塁する。

 ツーベースヒット。墨高がツーアウトながら二・三塁とチャンスを広げた。

(く、ちと甘く見すぎたか)

 キャッチャー香田は渋面になる。それでも気を取り直し「さ、ツーアウトよ」と、野手陣に声を掛ける。

 やがて五番打者のイガラシが右打席に入ってきた。それと同時に、香田は立ち上がり、ホームベースの右側へ移動して、ミットを構える。

「なんでえ、敬遠か」

 イガラシは苦笑いする。眼前で、相手投手は山なりのボールを四球投じた。敬遠四球。これでツーアウト満塁となる。

 そして六番横井が右打席に入った。アンパイアはすぐさま「プレイ!」とコールし、試合再開を告げた。

 ほう、と谷口は二塁ベース上にて、感嘆の吐息をつく。

(満塁になったというのに、タイムすらかけない。まだ余裕があるのか)

 右打席にて、横井はバットを短めに握り、「さあこい!」と気合の声を発した。

(さあさあ。下位打線だからって、油断は禁物よ)

 打者の傍らで、香田がサインを出す。マウンド上で福井がうなずき、セットポジションから投球動作を始める。

 カーブが外角低めいっぱいに投じられた。決まってワンストライク。

(コースいっぱいじゃねえか)

 横井は渋面になる。

(甘いタマがきたかと思いきや、こんなきわどいトコも突いてきやがる。ほんとつかみどころがねえや)

 続く二球目。今度は速球が、真ん中やや外寄りに飛び込んできた。横井は「うっ」と、つい見送ってしまう。

(しまった。いいタマだってのに)

 その時、谷口が二塁ベース上より「切りかえろ横井!」と声を掛ける。

「練習したとおり、ねらいダマをしぼって打ち返すんだ」

 オ、オウと横井は応える。隣で香田がフフと含み笑いを漏らす。

(そうそう練習どおりにいくと思っちゃ、大まちがいだぜ)

 そして三球目。福井はまたも速球を、今度は真ん中低めに投じた。

「き、きたっ」

 横井はスイングする。ところがボールは、ホームベース手前ですうっと沈んだ。

「うっ」

 カキッ。横井はやや上体を泳がせながら、ボールを掬い上げるように打ち返した。センター鵜飼がフェンスの数メートル手前までバックするが、やがて足が止まり、余裕を持って顔の前で捕球する。スリーアウト、三者残塁

「く、くそ!」

 横井は悔しさのあまり、バットを土に叩き付ける。

(うーむ。最後は、うまく打たされたな)

 二塁ベース上で、谷口は唇を歪めた。

(チャンスを生かせなかったこともあるが、なんだかイヤな感じだ……)

 

 

2.強打の聖明館打線!

 

 二回表。守備位置に散った墨高ナインの中央、マウンド上にて、松川はフウと大きく吐息をつく。その表情は硬い。

「リラックスよ松川!」

 キャッチャー倉橋が声を掛けると、松川は「は、はい」と戸惑ったふうに返事した。

(無理もねえか)

 倉橋は胸の内につぶやく。

(点こそやらなかったとはいえ、初回からあれだけとらえられちゃあな)

 マスクを被りホームベース奥に屈むと、ほどなく回の先頭打者が右打席に入ってきた。(こいつも体格こそ中軸の三人には劣るものの、けっこう上背あるな)

 視界の端で打者を観察し、倉橋はサインを出す。

(まずコレよ)

 む、と松川はうなずき、ワインドアップモーションから投球動作へと移る。

 初球は外角のカーブ。打者のバットが回る。パシッと快音が響いた。ライナー性の打球がライト線を襲う。ファースト加藤がジャンプするも届かず。

 しかしボールはライト線の外へ切れた。一塁塁審が両腕を掲げ「ファール!」とコールする。

(あぶねえ)

 倉橋は苦笑いした。

(ボールにしといてよかった。しかしほんと、なんでも手を出してくるチームだぜ)

 しばし思案の後、「つぎはコレよ」と二球目のサインを出す。松川はうなずくと、すぐに投球動作を始めた。

 今度は内角低めのカーブ。またも打者のバットが回る。パシッと快音の後、打球はレフトポール際へ飛ぶ。しかしこれも外に切れ、一塁側アルプススタンドに飛び込む。

「こら糸原!」

 三塁側ベンチより、聖明館監督が指示の声を飛ばす。

「なんでもかんでも振り回すんじゃない」

 打者は「は、はい」と神妙な顔になる。

 三球目。倉橋は「コレで誘ってみよう」とサインを出す。松川はうなずき、テンポよく投球動作へと移る。シュッと風を切る音。

 真ん中高めの吊り球。打者のバットが回る。ガッ、と今度は鈍い音がした。打球は力なくセンターの定位置へ。島田がほぼ動くことなく、顔の前で捕球する。ワンアウト。

(ハハ。いくら好きなまっすぐでも、あんなボールに手を出しちゃしめえよ)

 ほくそ笑む倉橋の眼前で、打者は背筋を丸め引き上げていく。

「真壁(まかべ)!」

 またも聖明館監督が、次打者に指示する。

「おまえは糸原のようなヘマするなよ。しっかりねらいダマをしぼるんだ」

 真壁と呼ばれた打者は「はいっ」と快活に返事して、右打席に入る。

(じっくり見られるのはイヤだな……)

 束の間思案して、倉橋はサインを出す。

(コレならどうだ)

 松川はうなずき、ワインドアップモーションから一球目を投じた。外角低めの速球。打者のバットが回る。パシッと快音が鳴る。低いライナー性の打球が、一・二塁間を抜けていく。ライト前ヒット。

「くっ」

 倉橋は唇を歪める。

(まっすぐをねらわれたな。どうも監督の指示が効いたらしい)

 すぐに次打者が右打席に入ってきた。こちらはバントの構えをする。それを見て、サード谷口とファースト加藤が前進してくる。

(打順は下位だし、まず得点圏に走者を進めようってとこか)

 それなら、と倉橋は一球目のサインを出した。松川はうなずき、セットポジションから投球動作を始める。

 内角高めの速球。打者はバントの構えから一転して、ヒッティングに切り替えた。

「なにっ」

 倉橋は目を見開く。その眼前で、打者は鋭いライナーをピッチャー方向へ打ち返した。松川の頭上へ伸ばしたグラブを掠め、打球はセンター島田の前で弾む。

(まいったね)

 倉橋はマスクを脱いで立ち上がり、腰に手を当てる。

(いくらまっすぐに強いとはいえ、あんな内角の高めをセンターへ打ち返すとは)

 ワンアウト一・二塁。打順はピッチャーの福井へと回り、こちらは左打席に立った。バントの構えはしない。

(半田のメモじゃ、九番とはいえ四割近く打ってるバッターだったな。ピンチが広がっちまったし、ちと慎重にいかにゃ)

 初球。倉橋は「コレで様子を見よう」とサインを出す。松川は右手のロージンバックを足下に放り、しばし間を取ってから、投球動作を始めた。

 内角低めのチェンジアップ。しかし福井は体勢を崩すことなく、ボールを掬い上げるようにしてスイングした。パシッと快音が響く。

「くそっ」

 丸井がジャンプして伸ばしたグラブの上を、打球が越えていく。そしてライト久保の前でワンバウンドした。

「させるか!」

 久保は前進してきて捕球すると、直接バックホームした。ワンバウンドで倉橋のミットに収まるストライク返球。これを見て、三塁ランナー真壁は三本間から慌てて引き返す。

 しかし下位打線の三連打でワンアウト満塁。さらにピンチが広がってしまう。

「タイム!」

 ここで谷口が三塁塁審に合図し、マウンドへと駆け寄った。それに伴い、初回と同じように倉橋と他の内野陣も集まってくる。

「いまのはヤマをはられたようだな」

 キャプテンの問いかけに、正捕手は「ああ」と渋面でうなずく。

「ほんとやんなるぜ。あいつら、どんなにタマをまぜても、しっかり対応してきやがる」

 倉橋の傍らで、松川はうつむき加減になっていた。

「しっかりしろ松川」

 谷口は苦心の投球を続ける二年生投手に声を掛ける。

「ひるむんじゃない。おまえがしっかりコントロールよく投げられてるから、ここまで大量失点せずにすんでるんだぞ」

「は、はい」

 キャプテンの励ましに、松川は返事して背筋を伸ばす。

「しかし、面倒な場面で上位に回っちまったな」

 なおも渋面で倉橋は言った。

「どうする?」

 む、と谷口はうなずく。

「ここは一点を惜しむより、まずアウトカウントを増やすことを優先しよう」

「その方が賢明だな」

 倉橋も同調する。

「で、ですが」

 戸惑う松川に、谷口は「心配するな」と微笑みかける。

「こっちだって、相手投手を打ちくずす練習はつんできてる。松川。このさいバックを信じて、しっかり腕を振って投げるんだ」

「わ、分かりました」

 松川がうなずくと、谷口は他の内野陣の顔を見回す。

「さあ。あとはバックが、松川を盛り立てていこう。いいな!」

 ええ、とイガラシが短く返事する。その隣で、丸井は「まかせといてください!」と自分の胸を叩き、意気込んだ。

「松川も思い切っていけよ」

 加藤は松川を激励した。オウ、と投手は応える。

 やがてタイムが解け、内野陣と倉橋はポジションに戻った。残された松川は、マウンド上にてロージンバックを右手に馴染ませる。

 ほどなく次打者の一番甘井が、右打席に入ってきた。初回と同じく、バットを長く持つ。

「プレイ!」

 そしてアンパイアが、試合再開を告げた。

(さすがにスクイズってこたあねえな)

 倉橋はしばし思案して、一球目のサインを出す。松川はうなずき、すぐにセットポジションから投球動作へと移る。

 内角低めのシュート。甘井は手を出さず。ストライクゾーンより僅かに内側に外れる。

「ボール!」

 アンパイアのコール。

(ちぇっ。引っかけさせてやろうと思ったが、そう甘かねえか)

 倉橋は苦笑いして、次のサインを出す。

(それならコレでどうだ)

 松川はうなずき、二球目の投球動作へと移る。グラブを突き出し、右腕を振り下ろす。

 内角低めの速球。甘井のバットが回る。カキッ、と快音が響いた。痛烈なゴロが三塁線を襲う。しかし谷口が左へ飛び捕球した。

「ファール、ファール!」

 三塁塁審が、両腕を掲げてコールした。

(フウ、ボールにしといてよかったぜ)

 倉橋は頬を引きつらせる。

(ほんとまっすぐは、どこに投げてもとらえてきやがる)

 しばし思案の後、倉橋は三球目のサインを出す。

(つぎはコレでいこう)

 む、と松川はうなずき、やや間合いを取ってから投球動作を始めた。

 外角低めのカーブ。甘井の上体が泳ぎかけた。それでもバットのヘッドを残し、おっつけるようにしてスイングする。

 パシッと快音が響いた。

 倉橋はマスクを脱いで立ち上がり、「ライト!」と叫ぶ。その声よりも先に、ライト久保は背走し始めていた。そしてフェンス手前で正面に向き直る。

 打球が落ちてくる。久保は顔の前で捕球するも、助走を付けることができず、ショート丸井へ返球するのが精一杯。その間、三塁コーチャーの「ゴー!」という合図と同時に、三塁ランナー真壁がタッチアップして、ホームベースに足から滑り込んだ。

「く……」

 丸井はバックホームできず。犠牲フライとなり、聖明館が一点を先取する。

「これでいいんだ松川!」

 すかさず谷口が声を掛けた。

「ツーアウト! さあ、バックもしっかり守るぞ」

 キャプテンの掛け声に、野手陣は「オウヨッ」と快活に応える。

(一点取られはしたが、どうにかツーアウトか)

 ホームベース奥に屈んだ倉橋の傍らで、次打者の二番小松が左打席に入ってきた。

(なんとかこいつで切らねえと、得点圏でクリーンナップに回っちまう)

 早くもセットポジションに着こうとした松川に、「ロージンだ」と手振りで合図して間合いを取らせた。松川が右手にロージンバックを馴染ませる間に、思案を巡らせる。

(まずコレよ)

 倉橋がサインを出すと、松川はロージンバックを足下に放り、セットポジションから投球動作を始めた。

 内角低めの速球。小松はバットを出さず。

「ボール!」

 アンパイアのコール。ほう、と倉橋は目を丸くする。

(ボール球とはいえ、初めてまっすぐに手を出さなかったな。ツーアウトになったせいか、慎重になってきたな)

 一方、打者の小松も思案する。

(くそっ、なかなかきわどいコースをついてきやがる。そう簡単にまっすぐは投げてこないだろうし、なにをねらえば……むっ)

 その時、ベンチの監督よりサインが出される。小松は「なるほど」と、うなずいた。

 二球目。倉橋が「つぎはコレよ」とサインを出す。松川はうなずき、セットポジションから投球動作へと移る。

 その瞬間、小松はバットを寝かせた。なにっ、と倉橋は驚いて目を見開く。

 コンッ。外角低めのカーブを、小松はマウンド左へ緩く転がす。セーフティバント。松川は慌ててダッシュし捕球すると、身を反転させ一塁へ送球する。しかし間に合わず。

「セーフ!」

 一塁塁審が、両腕を大きく広げコールする。ワアッ、と沸き立つ三塁側の聖明館応援団。

「た、タイム」

 倉橋はアンパイアに合図し、マウンドへと駆け寄った。松川が「すみません」と頭を下げる。

「完全に無警戒でした」

「な、なあに。それはこっちも一緒よ。気にすんなって」

 後輩を励ましたものの、倉橋も渋面になる。振り向いた二人の視線の先では、次打者の三番香田がマスコットバットをカキカキと鳴らしながら素振りしている。

 松川、と倉橋は後輩を呼んだ。

「こうなったら、さっきも言ったように、バックを信じて打たせることだ。おまえは思い切って腕を振ることだけ考えろ」

 覚悟を決めた表情で、松川は応える。

「分かりました」

 ほどなくタイムが解け、倉橋はポジションに戻り、屈んでマスクを被る。傍らで、香田が右打席に入ってきた。松川はうなずき、すぐにセットポジションから投球動作を始めた。

 真ん中低めに投じられたチェンジアップ。うっ、と香田は体勢を崩しかける。それでもヘッドを残し、はらうようにスイングした。

 パシッ、と快音が響く。打球はレフト横井の頭上を襲う大飛球。

「れ、レフト!」

 倉橋の指示の声よりも先に、横井は背走し始めていた。やがて背中がフェンスに着くと、目一杯グラブを伸ばしジャンプする。

 横井は背中をフェンスにぶつけながら、伸ばしたグラブの先で辛うじて捕球した。

「と、とった……」

 三塁塁審がそれを確認して、右手を突き上げ「アウト!」とコールする。

 松川は、ホッと安堵の吐息をついた。谷口が「ナイスプレーよ横井!」と声を掛ける。辛うじて一失点で切り抜けた墨高ナインは、足取り軽くベンチへと引き上げていく。

 

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公平に見て、町田ゼルビアは強い!



 BS1で放送された町田ゼルビアvs鹿島アントラーズの試合を観戦したが、好き嫌いはあるにしても、やはり“町田のサッカーは認められなければならない”と強く思った。

 

 公平に見て、町田ゼルビアは強い!

 

 球際の強さばかりがクローズアップされるようだが、それ以上に目を引いたのは、ポジショニングの良さである。

 

 例えば鹿島が自陣でボールを回しながら縦パスを入れる機会を伺っても、危険なコースはすべて埋めているため出し所がない。そのため、無理めな縦パスを入れて回収されたり、あるいは横パスがずれた所を狙われてパスカットされ、一気にカウンターされたりといったシーンが散見された。危険なコースをすべて埋めているから、あれだけ思い切って球際で強く行けるということも言えると思う。

 

 またチャンス時にも、無駄につなぐのではなく、数本のパス交換のみ、あるいは単独のドリブル突破で、必ずシュートまで持っていくという意識が感じられた。つなぐことを目的とするのではなく、ゴールから逆算して、どんなプレーをするのが効果的なのか、その判断が良い。得点こそ1点のみだったが、2,3点差付いてもおかしくない内容だった。

 

 もちろん課題がないわけではない。数多くあったチャンスで追加点を取れなかったのは、展開次第では響いてくるし、最後の決め切るという部分での精度はもう少し欲しいところだ。また、先制を許した場合にどこまで対応できるかも未知数である。

 

 ただ町田は、間違いなく“勝利から逆算された”素晴らしいサッカーをしている。それは間違いない。優勝争いできるかどうか考えるのは早計だが、秋頃に町田が上位に食い込んでいたとしても、私は驚かない。

 

阪神・岡田彰布監督と対照的な、サッカー日本代表・森保一監督とJFAの”軋轢を避けようとする”態度

 

 

1.注目すべき阪神岡田彰布監督の“軋轢を恐れない姿勢”

 

 昨年、阪神タイガースを38年ぶりの日本一へと導いた岡田彰布監督の著書『そら、そうよ』を読んだ。

 

一読しただけで、岡田監督が優秀な指導者・指揮官であることが伺えた。コーチ陣や裏方スタッフ、フロントの在り方といったプロ野球に関わる事項、それも細部に至るまで、全て岡田監督なりの哲学や方法論があることが伝わってきた。

 

 これだけでも岡田監督が優秀な指導者であることを裏書きするものだが、さらに注目すべきは、岡田監督が一貫して周囲との“軋轢を恐れない姿勢”を取り続けている点である。

 

 著書の中では、選手達の様子をよく観察しようとしていないコーチを叱責したり、旧知の仲であることから自分が依頼して入閣させたものの、結果の出なかったコーチを解任したりといったエピソードが書かれていた。

 

 もちろん岡田監督とて、不要な波風を立てようとは思わないだろう。しかし厳しい勝負の世界で勝ち残るためには、非情にならざるを得ない場面も出てくる。

 

 断っておくが、岡田監督が全て正しいと言いたいのではない。岡田監督に限らず、故野村克也氏や落合博満氏を始め名将”と言われる監督であっても、どうしてもソリが合わずに冷や飯を食わされた選手やコーチも少なくない(ちなみに『そら、そうよ』の中では、野村監督や落合監督のことを批判的な文脈で書いている部分がある)。

 

 とはいえ毀誉褒貶はあるにせよ、岡田監督や野村監督、落合監督らが突出した戦績を残し、故に“名将”だと多くの人に呼ばれていることは事実。いや、上記の名将達を「嫌っている」人も少なくないということ自体が、軋轢を恐れていてはチームを勝利に導くことはできないということの物語っていると言える。

 

2.“いい人”森保一監督では、代表チームを勝たせられない現実

 

 翻って、サッカー日本代表はどうか。

 森保一監督が、例えば選手やコーチ陣の反対意見を押し切って、自らの戦術なり戦略なりをチームに植え付けたというエピソードを耳にした方はおられるだろうか。

 

 おそらくいないはずである。むしろ聞こえてくるのは、徹底的に“軋轢を避けようとする”エピソードばかりではないだろうか。

 

 「海外で名監督に教えられている選手達には(戦術を)教えられない」と言って、チームの基本的な約束事さえ作らず選手達を混乱させ、敗れれば「個の力が足りなかった」と言い逃れをする。

 

 公平に見て、チームを率いる指揮官としての責任放棄にしか見えない。たとえ海外の名監督達と比べて力量は劣るにしても、「代表監督は俺だから、俺の決めた約束事には従ってもらう。その上で、君達の意見があれば聞かせてくれ」――せめてこれぐらい言うのが、代表監督の責任というものだろう。

 

 森保監督は“いい人”なのだろうし、サッカー関係者の中で森保監督を嫌う人もあまり聞いたことがない。

 

 しかし、そんな“いい人”に5年間も代表監督を任せた結果がどうなったか。

 W杯ではドイツとスペインを破ったインパクトに霞んでしまったものの、結局目標のベスト8は達成していない。五輪代表は、本来であればアジア予選敗退だったし、目標の金メダルはおろか銅メダルにも手が届かなかった。就任直後のアジア杯では、決勝でカタールに惨敗した。そしてトドメが、此度のアジア杯準々決勝敗退である。

 

 繰り返すが、森保監督に見られるのは徹底して“軋轢を避けようとする”態度ばかりである。言い換えれば、軋轢を起こしてまで押し通したい自らの哲学・信念がないことの裏返しではないだろうか。

 

3.ハリルホジッチ解任がJFAに残した“禍根”

 

 そして軋轢を避けようとするのは森保監督だけでなく、JFA(日本サッカー協会)の態度でもある。

 

 18年ロシアW杯直前、JFAは“やたらと揉め事を起こしがちな”ハリルホジッチ監督を解任した結果、本大会で16強入りと望外の躍進を果たした。そのことが、JFAに現在までつながる禍根を残したのである。

 

 個人的には、ハリルホジッチ監督のやろうとしていたサッカーは日本人選手に合わなかったと思うし、選手達からもどこか投げやりな空気が漂っていたため、あの時点での解任は妥当だったと思う。ただ、その理由が良くなかった。

 

 JFAは「コミュニケーションが多少不足している」などと、曖昧な解任理由を述べた。これまた軋轢を避けようとする態度の表れだ。本当は、「ハリルホジッチのやりたいサッカーと日本サッカーは合わないので、選手達が力を発揮できない」と、はっきり堂々と述べれば良かったのだ。

 

 ハリルホジッチ解任後、JFAの“軋轢を避けようとする”態度は、より鮮明になった。だから“戦術がない”と選手達からも不満が漏れ、アジア杯で惨敗した森保監督を「いい人だから」、もっと露骨に言えば「揉め事を起こさないから」という理由で続投する。

 このままいけば、代表チームは空中分解を起こすだろう。ひょっとしたらW杯予選通過も危うい事態になるかもしれない。

 だが、この危機的状況を止める手段は、もはやないに等しい。

 

 なぜ勝利を得ようとする時、軋轢を避けてはいけないのか。

 それは、勝つためにはチームを一つにまとめなければならないからだ。十人いれば十人とも考え方も行動も違う人間の集合体であるチームを、である。

 

 当然そこには意見の相違もあるし、お互いに妥協したり、あるいは激しくぶつかり合う場面も出てくるだろう。また、立場によっては不利益を被る者がいてもおかしくないし、それによって不平不満の声が出てきても不思議ではない。

 

 それでもチームを勝たせるため、軋轢に立ち向かい、軋轢を乗り越えることでチームを一つにまとめ上げようとする覚悟と信念が、チームを率いる指揮官には不可欠なのだ。

 

 勝てない日本サッカーの現状を、阪神岡田監督が見たら、何と言うか。きっと「そら、そうよ」と一言で切り捨てて終わりだろう。