南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

“強者”の空気が漂い始めた鹿島アントラーズ +追記

 前半は、相手がよく守れていたと思う。

 残留圏ぎりぎりを争っているヴァンフォーレ甲府は、まず失点しないことに重きを置き、守備に人数を割いていた。このような戦法を“引きこもり”“消極的”と批判する向きもあろうが、正しい選択だと思う。戦力差を考えれば、割り切った戦い方がベターだ。

 しかし、なかなかチャンスを作れない時間が続いても、鹿島アントラーズの選手達は落ち着いているように見えた。焦って前掛かりになることもなく、シビレを切らして強引な個人技で打開を図るということもなく、じっくりとサイドから崩しにかかる。

 前半終了直前には、山本修斗のヘッドがバーを叩く決定機を迎えるが、結局スコアレスで折り返す。だが、選手達のどっしりと構えるような戦いぶりに、ほぼ確信的に思えた——「どこかで点は入るだろう」と。

 もっともこちらの予想は、セットプレーだった。だが、鹿島はその上を行く。後半開始直後、微妙に集中を欠いていた甲府ディフェンスの一瞬の隙を、逃さなかった。レアンドロとのワン・ツーで抜け出した金崎夢生が、ゴール右隅へ流し込み先取点。

 狙っていた……というより、“分かっていた”のだと思う。後半の立ち上がり、残りの時間帯をどのようにプレーしていくか思案し始める……その時、甲府守備陣に僅かな綻びが生じるであろうことを。

 その後、速攻とパスワークから相手の守備網を破り、さらに2点を追加。終わってみれば30の快勝、これぞ“強者”という戦いぶりだった。

 ただ、この試合に点数を付けるとしたら……「7580」くらいだろうか。

 件の昌子源のプレーが目立ってしまったが、その前にも縦パスを裏へ通され、折り返しからポスト直撃のダイレクトシュートを打たれる場面があった。守備を崩されたわけではないのだが、どこかフワフワしているというか、まるでエアポケットに入ったように何でもないボール処理の対応を誤り、ピンチを招いてしまうことがあった。

 結果的に零封はしたが、これで良しとされてしまったら困る。……そう考えていたのだが、鹿島首脳陣はすでに手を打っていた。試合後のミーティングの際、ミスをした昌子源を他の選手達の前で、厳しく叱責したというのだ。

 これは昌子だけでなく、その場にいた他の選手達も引き締まったと思う。彼だけの問題ではない……そういう思いで全員がプレーすれば、次節からより隙のない鹿島が見られるだろう。

 それにしても、チームに弛緩した空気が漂いそうになった時、すぐさま手を打つ。昌子の件に限らず、大岩剛監督へ代わってから、鹿島はベンチからもピーンと張り詰めた空気を漂わせるようになった。

 いい加減なプレーは許されない。かといって選手達が委縮しているわけでなく、若手の鈴木優磨や安部裕葵までが臆することなく力を発揮している。これぞまさに、強豪チームの雰囲気である。

 決して満足できる試合ではない。だが、試合運びから良くない部分への対応に至るまで、随所に“強者”らしさを見せ付ける——ひょっとして、このチームはもっともっと強くなれるのではないか。そういう期待すら感じさせる一戦だった。

【追記】

 浦和レッズのフロントは、よく決断したと思う。コーチとしてチームをよく知る堀孝史に後任を託したのも、次善の策と言えるだろう。

 ただ、チーム方針自体が定まらないと、まだ同じことの繰り返しである。オジェック監督を解任してからの浦和は、「強豪を倒したい」のか「優勝したい」のか、はたまた「面白いサッカーをしたい」のか、チームをどうしていきたいのかが不明瞭だった。

 個人的には、今のパスサッカー・スタイルよりも、ドリブル突破を強引にでも仕掛けられた方が相手としては嫌だ。

 パスサッカーだと、どうしても攻撃に人数が割かれ、カウンターを受けやすくなる。

 守備に不安があるのなら、なおさらドリブル突破(個人技)+速攻スタイルを磨いた方が、上位チームは脅威に感じるのではないか。またこの方が、ある意味イケイケで怖いもの知らずの“今の”浦和の気質に合っている気がする。