1.千原ジュニアさんの優勝句考察
先日(2020年11月12日)放送の「プレバト!!」<金秋戦>を視聴した。
結果はご周知の通り、予選の敗者復活枠から勝ち上がってきた千原ジュニアさんが、見事に初優勝を果たしたのである。その記念すべき一句を、以下に引用させていただく。
痙攣の吾子の吐物に林檎の香(千原ジュニア)
一読した瞬間、もちろん良い句だとは思った。だが果たして、他の上位の句(横尾渉さんの「流星のターミナル三分で蕎麦」や梅沢富美男さんの「火恋し形見の竜頭巻く深夜」も素晴らしい句だと思う)を上回るほどの句なのか、私には判断が付かなかったのだ。
しかし録画を見返し、自分なりに考えてみた上で、ようやく合点した。
俳句の基本は、まず“季語を生かす”ことだ。以前の放送で、梅沢さんが組長に言われた「果物はもっと美味しそうに詠め」という指摘は、言い換えると“ちゃんと季語が生かされていない”ということである。
季語が果物の場合、それを生かすためには「美味しそうに詠む」ことがセオリーだ。私も兼題が果物の時は、いかに美味しそうに見えるかに腐心した。
(※参考までに、私の拙句を掲載。すべて人選句なので、それなりのレベルには達していると思われる。ただどれも、俳句のセオリーを守る以上のことはできていない句)
二十秒水に潜れた西瓜食ふ
西瓜の香情事はラジオ流しつつ
崩れゆく桃の香ホスピスの造花
逢引の声白桃の潰れる香
だが――本当に“凄い句”は、セオリーを超えてくる。
千原ジュニアさんの句、確かに林檎は“美味しそうではない”。それ故、組長は「無季の句だと主張してもよい」と述べている。
それでも、私は“林檎の句”として読みたい。
組長も解説されたように、林檎には「病気の子に親が食べさせる」という側面が確かにある。蜜柑でもパイナップルでも駄目なのだ。季語が林檎じゃなければ、この句は成立しない。
何も“誰もが知っている面”を際立たせることだけが、季語を生かすこととは限らない。意外と見過ごされがちな面、あるいは今まで誰も気付かなかった面にスポットを当てることも、立派に季語を生かすことである。
千原ジュニアさんの句は、林檎という季語の“見過ごしがちな側面”を見出した。これはセオリー通りに季語を生かすことよりも、数段レベルが高い。それをやってのけたからこその優勝だったと、私は思っている。
2.プレバト名句紹介
最後に、千原さんを始め上位三人の句で、個人的に好きなものを五つずつ紹介させていただく。
第1位 千原ジュニア
舌先に鰡子の粒現れる
皸(あかぎれ)に窓の結露を吸わせけり
パティシエに告げる吾子の名冬うらら
甥っ子とおいっ子と子と夕虹と
顔面骨折カニューレの接ぐ春の朝
第2位 横尾渉
籐椅子の脚もとにある水平線
秋の暮街路に鳩のふくみ声
リハ室のコーヒー苦し八重桜
庖丁始都心は計画運休
第3位 梅沢富美男
花束の出来る工程春深し
銀盤の弧の凍りゆく明けの星
廃村のポストに小鳥来て夜明け
花粉来て獺の祭りのごとちり紙
暮れてゆく秋の飴色セロテープ