南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

【準決勝・興南4-2美里工業(戦評)】美里工ナインの涙は、明日の彼らそして沖縄高校球児の歓喜へと変わる<2019年 選手権・沖縄県大会>

【目次】

  • はじめに
  • 1.美里工業の“唯一の勝機”
  • 2.やはり露呈してしまった、美里工の“勝負所での経験不足”
  • 3.“相手と戦えるようになった”興南ナインの成長
  • 4.興南を本気にさせた、美里工の“チカラと可能性”
  •  【関連記事一覧】

 

 

f:id:stand16:20190707211434j:plain

 

www.youtube.com

 

はじめに

 

 過去5年間の沖縄県大会において、最もハイレベルな試合だったと思う。

 

 個人的には、まず美里工業のチームとしての予想以上の成熟具合に驚かされた。大会通じて無失策を誇った守備といい、走塁といい、各打者のバッティング技術の高さといい、そしてバッテリーの相手の打ち気を逸らす配球といい、すでに全国レベルに達していた。

 

 さらに……その美里工を迎え撃ち、堂々と押し切った興南の力強さにも、目を見張るものがあった。

 

 正直、私は今まで、興南の現チームをあまり認めてこなかった。いや、もちろん主戦投手の宮城大弥を始めとしてポテンシャルの高さは買っており、今大会も優勝候補の筆頭だと目してはいた。

 

 しかし、1年生時からレギュラーを張っている選手が多いわりに、ここ一番で力を出し切れない“ウブさ”が目に付く。どうしても「これだけのメンバーが揃っていて、この程度の試合しかできないのか」と感じずにはいられなかったのだ。

 

 だが、この準決勝・美里工戦の彼らは、(美里工がどこまで食い下がれるかという視点で見ていたこともあるが)十分に“強い”と感じさせられるチームだった。

 

 大会前、興南は「甲子園で一勝するのが精一杯のレベル」だと思っていた。

 

 これは昨夏から変わらず、本ブログの昨年のエントリーにおいて「よく頑張った」という趣旨の記事を書いている。しかし……昨日の試合を見て「(甲子園でも)もう少し勝ち上がれるかも」と思い始めた。

stand16.hatenablog.com

 

 前置きが長くなった。昨日の試合について、以下もう少し具体的にポイントとなった場面を振り返ってみることとする。

 

1.美里工業の“唯一の勝機”

 

 好試合ではあった。しかし、美里工ナインには酷なようだが……内容的には“興南のゲーム”だった。一試合通じて、ほぼ主導権は興南が握り続け、最後までそれを相手に渡すことはなかった。

 

 美里工に“勝機”があったとしたら――それは「初回」だったと思う。

 

 初回の宮城は、まだ制球が安定していなかった。そこで1点止まりではなく、もう少し畳み掛けられていれば、さすがに興南も焦っていただろう。

 

 もっとも並のチームなら、宮城の制球難に付け込むことさえできなかっただろう。美里工がそこまでのレベルに達していたからこそ、先取点を奪うことはできた。

 

 ただ……「勝つため」には、ここでさらに2点、3点と追加する必要があった。1点では、興南バッテリーの“虎の尾”を踏むだけになり、以後は明らかにギアを上げてきた宮城の投球に、打線が沈黙する。

 

2.やはり露呈してしまった、美里工の“勝負所での経験不足”

 

 初回だけでなく、美里工は「もう一歩詰められていれば……」という場面が、幾度となくあった。

 

 それが2失点目と、3,4失点目である。あれは外野手個人の判断ミスというより、打球がどこまで飛んでくるかという想定が、チームの中で徹底できていなかったことが原因と思われる。

 

 特に2失点と4失点目は、余計だった。ここで最少失点に凌いでいれば、まだ勝負は分からなかった。

 

 前述したが、美里工は今大会無失策。日々の練習で身に付けたものは、すべて試合において発揮していた。しかし……あのような場面での“想定”と“咄嗟の判断”は、強いチームと公式戦で戦った経験のあるチームでないと、なかなか身に付かない。

 

 言わば「勝負所での経験不足」が露呈してしまった格好だ。そしてこれが、夏の県大会2連覇中の興南との、小さいようで大きな“差”だった。

 

3.“相手と戦えるようになった”興南ナインの成長

 

 この試合、興南が「強くなったな」と感じたのは、きちんと“相手と戦えるようになった”ということ。

 

 相手と戦うのは当たり前じゃないか、と思われるかもしれない。しかし、必ずしもそうはならない。相手と対する前に、まず“自分のプレー”や“チームスタイル”を実行できるかどうかという問題がある。

 

 特に興南の場合、(良い悪いは別として)“戦術重視の野球”を展開しているから、チームの初期段階では「戦術を“こなす”のが精一杯」という状態になる。

 

 そのせいか、昨夏……いや昨秋辺りまで、興南は“長打が打てない”打線だった。「逆方向へのバッティング」を意識しすぎるあまり、思い切りよく振り切る余裕がなかったのだろう。これはバッティングだけでなく、走攻守すべてにおいて言える。

 

 しかし、今大会(正確には春季九州大会辺りから)の興南は違う。宮城と遠矢大雅の適時打は、それぞれ振り抜いたバッティングだった。何とか戦術を“こなす”段階から、「状況に応じて使い分ける」というレベルにまで達した証だろう。

 

 さらに、バッテリーの配球。

 

 二回以降、興南バッテリーは変化球を多投していたが、これは美里工打線の各打者が「変化球にタイミングが合っていない」と判断してのものだろう。これにより、準々決勝まで毎試合二桁安打を記録していた打線が、僅か4安打に抑え込まれる。

 

 また、七回裏に美里工各打者にタイミングを合わされていると見るや、バッテリーはさらに配球を変えた。きちんと相手を観察していないと、この判断はできない。結果として、一番プレッシャーの掛かるラスト2イニング、相手に反撃の糸口すら掴ませなかった。

 

4.興南を本気にさせた、美里工の“チカラと可能性”

 

 ただ、私は思うのだ。興南を文字通り“本気”にさせたのは、それだけ美里工のチカラを感じ取っていたからではないかと。きちんと相手の出方を見なければ、こちらもベストパフォーマンスを発揮しなければ、やられてしまう……と。

 

 先週、私は興南の主戦投手・宮城大弥について、「県内のライバルチームがいなかったことが彼の不運だ」という趣旨の記事を書いた。

stand16.hatenablog.com

 

 

 宮城だけではない。興南の現レギュラーは、1年生時から試合に出続けているのだが、県大会レベルにおいて、自分達と志を同じくする(甲子園を“夢”ではなく、現実的な目標として捉えている)力量あるチームと対戦したのは、この美里工戦が初めてではなかったか。

 

 そう……彼らはようやく、自分達のチカラを高めてくれる“ライバル”と、最後の夏に出会えたのである。こう考えると、何だか感慨深いものがある。

 

 もう一つ、忘れてはならないことがある。

 

 美里工の現2年生は、昨秋の1年生大会において4強入りを果たしている。実力的には、優勝した沖縄尚学とともに、他校を一枚も二枚も上回っていた。

 

 収穫を手にしたのは、興南だけではない。強敵に食い下がり、それでも届かなかった悔しくも貴重な経験……それを美里工の新チームは、必ずや生かすだろうということ。“経験”だけが足りなかった彼らが、ついにそれを手にした。

 

 間違いなく、秋以降の美里工は、沖縄高校野球を引っ張っていく存在となる。

 

 昨日の美里工ナインの涙は、明日の彼らそして沖縄高校球児の歓喜へと変わる。そう遠くない未来に……

 

続きを読む

【準決勝プレビュー】興南vs美里工業――現世代を引っ張ってきた”王者”と、次世代を担う”挑戦者”との対決<2019年選手権・沖縄県大会>

【目次】

  • はじめに 
  • 1.盤石に見える興南投手陣の“死角”
  • 2.興南打線の“しぶといバッティング”に、美里工バッテリーは根負けせずにいられるか
  • 3.実現した“最高のカード”

 

 

f:id:stand16:20190707211434j:plain

続きを読む

課題を修正できた沖縄尚学、修正できなかった沖縄水産の明暗分かれる! <2019年 選手権・沖縄県大会>

【目次】

  •  1.昨秋の“ノーヒットノーランの衝撃”に紛れていた、両チームの課題
  • 2.狙い球を絞った沖尚、また変化球にタイミングを狂わされた沖水
  •  3.一気に面白くなった、沖縄“令和初の大会”
  •  関連コラム一覧

 

f:id:stand16:20190707211434j:plain

 

 今日(2019.7.14)の三回戦にて、第2シード・沖縄水産が、今大会はノーシードに回っていた沖縄尚学に敗れる“波乱”があった。これでシード4校のうち、実に3校が敗退。あとは第1シードの興南を残すのみである。

 

続きを読む

興南、美里工業、沖縄水産……今年の沖縄高校野球を引っ張る3チームにおける、三者三様の長所と課題 <2019年 選手権・沖縄県大会>

【目次】

  • はじめに
  • 1.興南――“力と技”の両方を備えられるか
  • 2.美里工業――あとは、本当に“経験”だけ
  • 3.沖縄水産――勝負所での“プレー精度”を如何にして上げるか、それとも……
  • まとめ

 

 

 f:id:stand16:20190707211434j:plain

 

はじめに

 

 甲子園大会で勝てるかどうかは別として、今夏の沖縄高校野球は、久々に……本当に久々に、興味深い展開を見せている。

 

 やや大げさに言えば――今大会の結果は、単に今年の甲子園大会の勝敗だけでなく、ここから数年の沖縄高校野球の流れを大きく左右するだろうと、私は予想する。それだけの可能性を秘めた3チームについて、以下に分析を述べる。

 

1.興南――“力と技”の両方を備えられるか

 

 

 まずは、第1シードの興南

 

一・二回戦は、正直「またかぁ」と言いたくなるような戦いぶりだったが、今日(2019.7.13)の具志川商業戦では、ようやくスッキリした勝ち方を見せてくれた。

 

 守っては、主戦投手・宮城大弥と又吉航瑶のリレーで七回無失点。ただ、これはもう毎度繰り返される事象なので、今さら驚くことはない。

 

 問題は、攻撃である。このところの興南は、極端にいえば「シングルヒットしか打てないチーム」という印象だったのだが……今日はようやく、2番の西里颯にスリーランが飛び出すなど、複数の長打を含む11安打・8得点の快勝劇。

 

 大振りせず、確実に捉えるバッティング。それも大事ではあるのだが……本当は、これを「長打も打てるチームがやる」からこそ、相手にとって脅威なのである。

 

 長打がないと分かれば、敵のバッテリーは大胆に攻めてくる。結果、チャンスへ作れどあと一本が出ない。これはけっして不運などではなく、相手投手がピンチの時にも思い切りよく攻めてくるのだから、むしろ当然の結果なのだ(最近の興南の試合で、よく見られた光景ではないか)。

 

 攻撃に関してもう一つ言及しておきたいのが、興南の打順である。

 

 今日の試合が、ようやく“最適解”ではないだろうか――すなわち、勝連大稀の“3番”、宮城大弥の“4番”という組み合わせだ。クリーンアップは、そろそろ固定すべきだと思う。その方が、ナイン達に「こうやって点を取る」形についての共通認識が図れる。

 

 共通認識を図ることにより、何が良いかというと、各打者のスイングに“思い切り”が出てくることである。何をすべきか分かっているから、迷うことなく打席に立てるのだ。……そういうチームの方が、敵に回すと怖い。

 

 技をもって躱すだけでなく、時には力でねじ伏せる。興南の今夏の躍進には、そういう硬軟取り合わせた“深い野球”を実現できるかどうかに掛かっている。

 

 チームとして“こうやって点を取る”でないと、チームの得点パターンの“共通認識”を図れない。

 

続きを読む

【私選】平成の沖縄高校野球名勝負ベスト10<甲子園編>(その1:第10~6位)

f:id:stand16:20190707211434j:plain

 

<はじめに> 

 

 かねてより構想していたものの、なかなか取り組めなかった企画――「【私選】平成の沖縄高校野球名勝負ベスト10」。以前の<県大会編>に続き、いよいよ<甲子園編>である。

  今回は、全10試合のうち第10~6位までの五試合を紹介することとしたい。

続きを読む