南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

【準決勝プレビュー】興南vs美里工業――現世代を引っ張ってきた”王者”と、次世代を担う”挑戦者”との対決<2019年選手権・沖縄県大会>

【目次】

 

 

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はじめに
 

 この試合の展望について、なるべく簡潔に述べるなら――興南打線vs美里工業バッテリーの“持久戦”ということになろうか。

 

 上記の一文を読んで、意外に思われたかもしれない。

 

 興南といえば、1年生時から主戦級投手として活躍してきた宮城大弥を中心としている。それに対し、今大会の美里工は打線がチカラを発揮して勝ち上がってきた。だから「興南バッテリーvs美里工業打線」の間違いではないのか、と。

 

 いや、確かに美里工の打線も、勝敗を左右するポイントではあることは確かだ。それでも、最終的には同チームのバッテリーが鍵を握ると私は見ている。その根拠について、以下に述べていく。

 

1.盤石に見える興南投手陣の“死角”

 

 半ば確信しているのだが、この準決勝にて、宮城は「打たれる」と思う。

 さすがに大量失点するとまでは言わないが、2~3点……もしかしたら4、5点取られることも十分あり得る。

 

 宮城には、明らかな“ウイークポイント”があるからだ。それも二つも。

 

 一つ目は「球質が軽い」ということ。まず分かりやすいのは、彼は甲子園大会にて三試合の登板経験があるが、すべての試合で本塁打を浴びている。さらに県大会でも、甲子園出場校クラスでない相手にまで、あっさり長打を許すケースが多い。

 

 過去の名投手と比べるのは申し訳ないのだが――例えば同校の先輩・島袋洋奨は、球速自体は140キロ前後の直球でも、打者に“捉えられた”と思ったタイミングでさらに手元で伸び、詰まらせていた(これは沖縄尚学東浜巨も同様)。

 

 宮城には、こういうシーンがほとんどない。“捉えられた”と思った打球は、その通りに外野の頭を越してしまう。原因は分からないが、スピードのわりに球がそこまで来ていないのだろう。

 

 二つ目は「内角のコントロール」である。

 

 宮城の投球を見ていると、大半はキャッチャーの構えたコースに投げられているし、むしろコントロールは良いように思われる。

 

 ところが、内角を突こうとする際、微妙なコントロールが効かない。内に行き過ぎで死球を与えてしまったり、外(つまり真ん中寄り)に外れて絶好球となってしまい、相手打者に狙われてしまいがちである。

 

 しかも、とりわけ走者を得点圏に置いた場面での失投も少なくないから、点をやりたくない状況で凌ぎ切るということが難しい(↓の試合でも、1点目の適時打と2点目の犠牲フライは、内角を狙った球が真ん中寄りに甘く入ってしまっている)。

 

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 そして、美里工を率いるのは、かつて東浜を攻略した知将・神谷嘉宗監督である。

 

 私がここで挙げたような(あまりにも分かりやすい)ウイークポイントくらい、とっくに見抜いているはずだ。今頃、どの球を狙うかということまで徹底し、宮城攻略に向けて練習を積んでいるに違いない。

 

 このように、盤石に見える興南投手陣にも「死角」はあるのだ。美里工の攻め方次第では、思わぬ展開も十分起こり得る。

 

 しかし……だからといって、美里工にとって興南が、案外「与しやすい相手」などと言うつもりはない。

 

2.興南打線の“しぶといバッティング”に、美里工バッテリーは根負けせずにいられるか

 

 美里工側が警戒すべきなのは、むしろ興南の打線である。

 

 ここまでの4試合で、興南は二桁得点が一試合もない。だが、これを以て「興南は打線が弱い」などと解釈すると、間違いなく痛い目に遭う。

 

 興南打線の特徴は、どの打者も大振りせず、センターから逆方向へのバッティングに徹してくることだ。こちらに力勝負できる投手がいれば、一発長打のリスクが低い分、さほど怖くはないのだが……そうでなければ、かなり厄介な打線である。

 

 いくらシングルヒットでも、続けば確実に失点する。さらに、なかなかアウトが取れないとなると、よほど経験豊富なチームでない限り、集中を保つのが難しい。下手すると、そこから大量失点へとつながってしまう。

 

 事実――今大会の興南は、二回戦の前原戦を除く三試合で、すべて1イニング4点以上のビッグイニングを作っている。

 

 さらに、今の興南は“長打”での得点も少しずつ増えてきた。三回戦の具志川商業戦では、二番の西里颯が3点本塁打。いつでも大振りしないというわけではなく、状況によっては思い切りよく振り抜くという、硬軟併せ持ったバッティングができつつある。

 

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 始めに「興南打線vs美里工業バッテリーの“持久戦”」と書いたのは、こういう訳である。興南各打者のしぶといバッティングに、美里工バッテリーが根負けせず、集中を切らすことなく立ち向かっていけるか。できなければ、いくら点を取っても無為になる。

 

 そしてここが、美里工の弱点……というより、未知数な部分である。

 

 2014年に選抜出場を果たして以降、彼らは全国大会から遠ざかっている。ここ数年は2016年の夏季県大会と2017年の春季県大会の準優勝(いずれも決勝で大敗)の他は、目立った戦績を残せていない。

 

 つまり、試合における厳しい局面をどう乗り越えるかということについて、美里工にはチームとしての“知恵”がまだ備わっていないのだ。それは今後、彼らがライバルとの幾度の激闘を積み重ねていく中で、身に付けていくしかない。

 

3.実現した“最高のカード”

 

 それにしても……展望はともかく、色々な意味で“最高のカード”が実現したと思う。

 

 大会屈指の好投手・宮城大弥と、ここまでの四試合で47点を奪った強力打線・美里工との対決というだけでも面白いのだが、それだけではない。

 

 興南我喜屋優監督と、美里工業の神谷監督。ともに夏の甲子園で4強以上の戦績を誇る、まさに「全国での勝ち方を知る」知将同士の戦いにも目を離せない。

 

 ちなみに両監督の前回の対戦は、何と12年前に遡る。その試合こそ、今や語り草となっている興南浦添商業の延長十一回、雷雨による引き分け再試合の死闘である。それ以来の顔合わせとなれば、今回も何かしらドラマを期待せずにはいられない。

 

 また、沖縄高校野球の現世代を引っ張ってきた“王者”興南と、次世代を引っ張っていく“挑戦者”美里工との対決という読み方もできる。興南が意地と底力を見せ付けるのか、それとも美里工の加速的に成長を遂げる勢いが上回るのか。

 

 勝負の行方は「神のみぞ知る」だが、どちらに転ぶにせよ、今夏だけでなく将来の沖縄高校野球にとって、新たな財産となる試合ができそうだ。

 

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