南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

好投手の三条件——“勝てる投手”であるために、不可欠なもの

 先に結論を言う。コントロール、度胸、スタミナ——この三つを備えていれば、全国レベルの好投手と見て差し支えないと思う。

 極論に思われるかもしれない。投球フォーム、球威、決め球があること、体格(身長や手足の長さ)……その他の要素も、もちろん大切だ。ただ、これらは上記三つがなければ、まるで張子の虎である。

 例えば、投球フォーム。度胸がなければ、腕が縮こまったり力みがあったりして、簡単に崩れてしまう。

 例えば、球威。マシンが普及している現在、どんなに速くともコースに投げ分けられなければ、県大会レベルでさえ捉えられてしまう。まして高校野球は、金属バットだ。

 例えば、決め球。これもコントロールが悪ければ、そもそもカウントを作れないから、あっても宝の持ち腐れに終わる。

 ただここまでは、一般的によく言われている話でもある。そこで、もう少し踏み込んで考えてみたい。

 具体的なケースを挙げる——同点で迎えた九回裏、二死満塁のピンチ。相手打者は、4番。ヒットはもちろん、四死球さえ許されない場面だ。

 度胸のない、あるいはスタミナの切れた投手なら、ここでストライクが入らなくなる。

 ならば、思い切ってストライクを取りに行けば良いのか? 下位打線であれば、そうでなくても打者の力量が投手よりも明らかに下であれば、構わないだろう。しかし、4番打者ともなれば、バッティングには自信を持っている。この場合、簡単にストライクを取りにいけばどうなるか。

 今年の沖縄県大会でも、似たようなケースがあった。

 二回戦・八重山美里工業の一戦だ。試合は55のまま、延長戦にもつれ込む。そのまま両チーム譲らず、迎えた十三回裏、八重山は先頭打者の二塁打を足掛かりに一死満塁のチャンスを掴んだ。打者は3番。この場面で、美里工業バッテリーは、初球にストライクの真っすぐを選択。

 果たして——八重山の3番打者は、初球を狙い打ち。二遊間をライナーで破るサヨナラタイムリーとなった。

 延長戦を一人で投げ抜いた主戦投手を責めるつもりはないのだが、どうすればよりベターだったのか、(美里工業ナインの今後のためにも)考察してみたい。

 美里工業の主戦・島袋投手は、球威で勝負するタイプではなかった。140キロ中盤以上の速球派投手であれば、外角へ投じて詰まらせるという手もある。しかし、これは球威で勝てなければ簡単に合わせられ、外野へ運ばれる危険性が高い。

であれば、答えは2パターンしかあるまい。

 一つ目は、死球覚悟で内角へ直球を投じること。二つ目は、これも死球あるいは暴投・パスボール覚悟で、内外角の際どいコースへ変化球を投じること。

「コイツ、この場面で……よくこんな球を放れるな。いい度胸じゃねぇか!」……打者のそんな呟きが聴こえてきそうではないか。

 ピンチを迎えてなお厳しいコースで勝負できる投手が相手であれば、打者の方がプレッシャーを感じることになる。

 下手に手を出せば、凡打に終わる。ここは慎重に、いや追い込まれてからじゃ厳しい。どうするか……そうやって迷わせることができれば、相手はベストなスイングができなくなる。

 ただ、1点も与えたくないピンチの場面で、際どいコースに狙って投げる。それは、言うほど容易なことではない。

 そう。だからこそ、先に述べた3条件——コントロール・度胸・スタミナ。これらの重要性が浮かび上がってくる。

 コントロールが悪ければ、そもそも際どいコースを狙って投げることはできない。コースを投げ分ける力はあっても、度胸がなければ、いざという場面でコントロールを乱してしまう。同様に、スタミナが切れてしまえば、これもコントロールを乱してしまう確率が高くなってしまう。

 この3条件という観点から見て、個人的に印象に残っているのが、2013年の夏の甲子園大会で、常総学院の主戦投手としてベスト8まで勝ち進む原動力となった、飯田晴海(現東洋大)である。

 びっくりするほど真っすぐが速いわけではなかったが、ランナーを背負った場面でも動ずることなく、内外角いずれのコースに、直球・変化球を自由自在に投げ分けることができた。その上、終盤になってもコントロールを乱さないだけのスタミナがあった——想定外の暑さだった、あの準々決勝・前橋育英戦を除いては。

 沖縄県内でいえば、興南の1年生左腕投手・宮城大弥が楽しみな存在だ。

 三回戦の読谷戦、宮城は六回からリリーフで登板した。読谷の鋭いバッティングに苦しめられ、再三走者を背負ったものの、粘り強い投球で凌いでいく。

 圧巻は九回裏だった。二死満塁のピンチを背負い、相手打者は4番。この場面で、宮城は何と内角ぎりぎりのコースに、真っすぐを投じた。結果は、三振……まさにコントロールと度胸の勝利だった。

 完投した経験はないため、スタミナは未知数だ(また、将来全国で上位を狙うなら、やはりもう少し球威が欲しい)。それでも、1年生の段階で3条件のうち、コントロール・度胸の2つは身に付けている。今夏の甲子園出場は五分五分か、もう少し厳しい確率だと見るが、順調に成長していって欲しい。

 それはともかく……今年の夏も、意外なチームが勝ち進んだり、その逆に注目投手があっさり打ち込まれて姿を消すといった光景が、全国各地で展開されることだろう。

 だが、それは本当に“意外”な展開だったのだろうか。

 早々に姿を消した注目投手は、3条件のどれかに弱点を抱えていなかったか。あるいは、予想外の快進撃を見せたチームの主戦投手は、目立たなくとも3条件を確かに備えた、“隠れた好投手”ではなかったか。