南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

沖縄県大会、準決勝の戦評&決勝戦の展望

【第一試合】興南2-0糸満

 

 引き締まった好ゲームだった。とはいえ要所でベストプレーをした興南と、ミスが出てしまった糸満の、小さいようで埋めがたい“差”が勝敗を分けたように思う。

 

 最初のポイントは四回裏。一死一・三塁の場面で、糸満スクイズを敢行するが、打者が空振り。三塁走者が飛び出し、タッチアウトとなった。結局、この回無得点。

 

 スクイズを選択したことは、かえって興南を助けてしまったと感じる——作戦の成否は関係ない。もし成功していたとしても、スクイズだと1点止まりだからだ。

 

 過去の戦績から、興南の現チームはロースコアの試合に強く、打ち合いに持ち込まれると弱い。糸満が勝とうと思えば、あの場面はスクイズではなく、強行策が良かったと私は思う。

「1点ずつ確実に」ではなく、一気に畳みかける姿勢の方が、興南バッテリーにとっては脅威だったはずだ。同じ無得点だったとしても、相手投手はより疲労しただろう。

 

 続く五回表。奇しくも四回裏の糸満と同じ、一死一・三塁のチャンスを今度は興南が作る。ここで糸満が、痛恨のバッテリーミスで三塁走者が生還。更に8番・里のライト前タイムリーヒットで2点目。やはり“ここ”という時には、高い集中力を発揮した。

 

 ただ、興南の方にも一つ“計算違い”があったように思う。それは、先発した主戦・川満大翔が、予想以上の好投を見せたことだ。

 

 ベンチも継投のタイミングに苦慮したのではないか。結果として、九回一死一塁という難しい場面で、宮城大弥を登板させることとなる。その宮城も四球を与えてしまい、一死一・二塁とピンチが広がる。

 

 しかし、ここで途中出場していた金城が、三遊間を抜けそうな当たりを好捕し、三塁フォースアウト

 

 このシビアな場面で、しかも交替で出た選手にベストプレーが飛び出すというのが、興南の底力なのだ。普段からこういう場面を想定した練習に取り組んでいるのだろう。数字には表れない、野村克也氏の言葉を借りればこれが“無形の力”ということだと思う。

 

【第2試合】美里工業8-0八重山農林 ※七回コールド

 

 代打の選手が、満塁ホームランを放つとは……。実績では現世代ナンバー1のチームなだけあって、さすがに選手層が厚い。美来工科が終始ペースを握る展開になるだろうと思っていたが、それにしても、予想を上回る圧勝劇だった。

 

 八重山農林が、そこまで弱いチームだったとは思わない。選手個々の能力というよりも、やはり高いレベルの試合の“経験値の差”というものが大きかったように感じる。

 

 美来工科は、八重山農林にとって今大会初めて対戦する、明らかな“格上のチーム”だった。点を取られるにしても、何とか23点差で抑え、終盤の反撃に望みを託す……そういう展開に持ち込めればまだチャンスはあったが、如何せん“凌ぎ方”が身に付いていないように感じた。

 

 バッティングにしても、速球派投手(山内慧)とアンダースロー投手(比嘉太陽)への備えが不十分だったように見受けられた。

 

特に、先発の山内は全体的のボールが浮き気味で、高さを見極めベルト付近に入ってきた球を狙い打ちすれば、十分攻略できたと思うのだが。どうも速球自体に目が慣れていないようだった。離島で練習試合が組みにくいというハンデもあったかもしれない。

 

 美来工科にとっては、コールドゲームで終わらせたことで、翌日へ向けて体力を温存することはできたはずだ。

 

 ただ個人的には、もう少しピンチを迎えた場面も見たかった。その上で、どのように凌いでいくかということも、経験した方が望ましかったかもしれない。拮抗した展開で、自分達のペースを掴んでいく。それができれば、全国でも勝てるチームになれるだろう。

 

【決勝戦の展望】美来工科興南

 

 総合力で上回る美来工科が、やや優位だとは思う。

 ただ、展開は読めない。両チームとも、それぞれ長所があり、また少なからず不安材料も抱えていると見る。それが、いざ対戦となった時、どのような形で現れるか予想が付かない。

 

 興南の不安材料は、何といってもバッティングである。ここまでの5試合で、2桁安打の試合は初戦のみ、ホームランは一本もない。

 

 準決勝では、2点を挙げたとはいえ、もう少し狙い球を絞った方が良かったのではないかと思う。糸満バッテリーは、長打を警戒してか、外角中心の配球をしていた。結果論ではあるが——直球・変化球のどちらかに狙いを定め、踏み込んで逆方向に打ち返すという策があれば、もう少し楽な展開に持ち込めたかもしれない。

 

 美来工科の不安材料は、主戦投手・山内慧の状態である。準決勝では、投打ともに本来の彼ではなかった。山内の調子が下降気味だとすると、決勝戦では苦戦を強いられることになるかもしれない。

 

 決勝戦では、「変化球」を効果的に使えるかどうかが鍵になるだろう。

 

 興南のここまでの試合を見る限り、変化球を捉えて打ち返す技術は、そこまで高くないように見受けられる。逆に真っすぐは、高めに入れば捉えられるだろう。

 

 外角寄り、できれば低めに変化球を集めたい。何本かヒットにされても、連打を浴びなければそうそう点を失うことはないはずだ。

 

 もっとも、すべて変化球というわけにはいかない。真っすぐをどう使うかだが——できれば、思い切って内角を突きたい。

 

 外角の直球は、確かに長打になるリスクは低い。その反面、バットを合わせやすい。さほどパワーはなくとも技術のある打者であれば、センターから逆方向へ打ち返せる。全国レベルであれば、逆方向へ長打を打てる打者もいる。甲子園で勝つことも視野に入れるなら、広いゾーンで勝負する術を身に付けて欲しい。

 

 逆に興南は、できれば変化球は捨て(見逃すかファールに逃げる)、真っすぐを狙いたい。準決勝を見る限り、山内は低めの制球はあまり良くなかった。明らかなボールは見極め、例えば肘からベルトまでというふうにコースを絞り、逆方向へライナーで打ち返す。そういうバッティングができれば、相手バッテリーにプレッシャーをかけることができる。

 

 一方、美来工科は前半五回までが鍵と見る。

 

 興南の先発は、川満大翔・上原麗男のどちらかだろうが、二人とも球が高めに浮くことがある。その球を狙い打ちしたい。美来工科には、長打力がある。走者が溜まった場面で打てれば、ビッグイニングを作ることができる。

 

 糸満のように、ロースコアの展開には持ち込みたくない。過去二戦と同様、4点以上の打撃戦になれば、美来工科に分がある。

 

 ただ興南も、準決勝までのように守り勝つというわけにはいかないだろう。少なくとも23点は覚悟しなければならない(それ以上取られると、おそらく勝ち目はない)。先行、逃げ切りの形で、42くらいで勝てれば理想的だろうか。

 

 美来工科は、前半五回までに23点差を付けておきたい。リリーフで宮城大弥が出てくると、追加点は難しくなるだろう。それまでにリードを奪い、押し切るというのが彼らの勝ちパターンだろう。

 

 個人的には、もしロースコアの展開になったとしても……それでも美来工科が勝ち切れるかどうかが見たい。選手個々の能力的にも、戦術的にも、彼らは十分全国で通用する力は持っていると思う。

 

 後は、紙一重の試合を制した“経験”である。終盤の大ピンチを凌いだ、ワンチャンスをモノにして勝ち越した——そういう経験を手にしさえすれば、彼らは大きく化ける。

 

 その意味で、興南は“最高の相手”である。この決勝戦は、間違いなく、今までで最も厳しい展開を強いられるだろう。これを乗り越えられるか、それとも……

 

 逆に興南は、県内で“最も野球を知り尽くしたチーム”としての、意地を見せてもらいたい。新興勢力に、そう簡単に覇権は渡さない。そういう試合ができるか。

 

 今後の沖縄高校野球の行く末を占う上でも、重要な一戦となるだろう。

 

<予想スコア>美来工科 43 興南  ※準決勝を見て、少し修正。