南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

興南、美里工業、沖縄水産……今年の沖縄高校野球を引っ張る3チームにおける、三者三様の長所と課題 <2019年 選手権・沖縄県大会>

【目次】

 

 

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はじめに

 

 甲子園大会で勝てるかどうかは別として、今夏の沖縄高校野球は、久々に……本当に久々に、興味深い展開を見せている。

 

 やや大げさに言えば――今大会の結果は、単に今年の甲子園大会の勝敗だけでなく、ここから数年の沖縄高校野球の流れを大きく左右するだろうと、私は予想する。それだけの可能性を秘めた3チームについて、以下に分析を述べる。

 

1.興南――“力と技”の両方を備えられるか

 

 

 まずは、第1シードの興南

 

一・二回戦は、正直「またかぁ」と言いたくなるような戦いぶりだったが、今日(2019.7.13)の具志川商業戦では、ようやくスッキリした勝ち方を見せてくれた。

 

 守っては、主戦投手・宮城大弥と又吉航瑶のリレーで七回無失点。ただ、これはもう毎度繰り返される事象なので、今さら驚くことはない。

 

 問題は、攻撃である。このところの興南は、極端にいえば「シングルヒットしか打てないチーム」という印象だったのだが……今日はようやく、2番の西里颯にスリーランが飛び出すなど、複数の長打を含む11安打・8得点の快勝劇。

 

 大振りせず、確実に捉えるバッティング。それも大事ではあるのだが……本当は、これを「長打も打てるチームがやる」からこそ、相手にとって脅威なのである。

 

 長打がないと分かれば、敵のバッテリーは大胆に攻めてくる。結果、チャンスへ作れどあと一本が出ない。これはけっして不運などではなく、相手投手がピンチの時にも思い切りよく攻めてくるのだから、むしろ当然の結果なのだ(最近の興南の試合で、よく見られた光景ではないか)。

 

 攻撃に関してもう一つ言及しておきたいのが、興南の打順である。

 

 今日の試合が、ようやく“最適解”ではないだろうか――すなわち、勝連大稀の“3番”、宮城大弥の“4番”という組み合わせだ。クリーンアップは、そろそろ固定すべきだと思う。その方が、ナイン達に「こうやって点を取る」形についての共通認識が図れる。

 

 共通認識を図ることにより、何が良いかというと、各打者のスイングに“思い切り”が出てくることである。何をすべきか分かっているから、迷うことなく打席に立てるのだ。……そういうチームの方が、敵に回すと怖い。

 

 技をもって躱すだけでなく、時には力でねじ伏せる。興南の今夏の躍進には、そういう硬軟取り合わせた“深い野球”を実現できるかどうかに掛かっている。

 

 チームとして“こうやって点を取る”でないと、チームの得点パターンの“共通認識”を図れない。

 

 

2.美里工業――あとは、本当に“経験”だけ

 

 次に、ノーシードながら第三シード・北山に快勝し勢いに乗る美里工業。

 

 今日の首里東高戦では、序盤に3点を奪い幸先の良いスタートを切ったが、相手の思わぬ粘りに苦しみ追加点が奪えず、逆に度々ピンチを迎えてしまう。

 

 もっとも、ダメ押し点を奪えなかったこと自体は、そんなに心配していない。首里東が必死の継投で、何が何でも凌ぐ構えを見せていたからだ。そこまでやってくる相手を、それでも力で圧していくには……もう少しの経験が必要だろう。

 

 そう、美里工に足りないのは“チームとしての経験”――より具体的に述べるならば「本気で甲子園を目指し、力のあるライバル校と鎬を削った」の経験である。

 

 この経験により得られるもの、とは……すなわち「勝負所でも駆け引きの仕方」である。

 

 例えば、拮抗した展開で迎えた終盤の得点機、狙うべき球は何か。あるいは、1点もやれないピンチの場面で、どのように配球して相手打者を仕留めていくか。

 

 この過程を経て、年々レベルアップしていったのが、かつて神谷嘉宗監督の率いた浦添商業である。

 

 その浦商と同じ流れに、今の美里工は入りつつあるように思える。1年生大会の沖尚戦、チャレンジマッチの日大三戦。……そして今大会、ハイレベルな相手に終盤の厳しい局面を迎えた時、どう立ち向かっていくか。

 

 ブログやツイッターで再三書いたが、何かキッカケがあれば、現チームは大きく化ける可能性がある。その期待を持って、昨秋より注目し続けている。

 

 

3.沖縄水産――勝負所での“プレー精度”を如何にして上げるか、それとも……

 

 そして、古豪復活を期す沖縄水産

 

 相変わらず弱点がハッキリしている。素質の高い投手を複数擁しているにも関わらず、あっさりと点を与えすぎである。

 

 二回戦の小禄戦。結果としてコールド勝ちしたとはいえ、4点は取られ過ぎだ。この試合だけでなく、秋季九州大会や招待野球での戦いぶりを見る限り、一挙に失点を重ねてしまうクセが抜けない。

 

 力勝負で相手を上回っている時は良いのだが、より緊張感のある場面、言い換えれば“プレー精度を求められる場面”で、力任せになって自滅する傾向があるようだ。原因は、よく分からない。

 

 ただ、この失点癖が抜けないままでも、今夏を制する可能性は十分ある。相手に5点取られても、それ以上に得点すれば勝てるのだから。できるだけの戦力は揃っている。

 

 もっとも、これは断言できるのだが……今のままでは甲子園に出られても、甲子園で勝つことは難しい。全国大会ともなると、今の沖水と同程度の戦力を擁するチームはゴロゴロしているし、戦力が同程度となれば、あとは“要所でのプレー精度”に掛かってくる。

 

 精度の勝負になると、今の沖水では勝てない。

 

 しかし、あくまで力技にこだわるというのも一つの手だ。ある程度の失点は織り込み済みで、さらに点を取るための方法を突き詰めるのが、現実的なのかもしれない。それはそれで、“新生”沖水のスタイルとして、オールドファンは受け入れてくれるだろう。

 

 中途半端に守備を強化するのは、かえって良くないかもしれない。あくまでも力で押していく。敵わなければ仕方がない。それぐらいの開き直り、思い切りが、“壁”を破るには必要だろうと思う。

 

 

まとめ

 今回取り上げた3チームに共通するのは、結局のところ“勝負所”でどのようにプレーするのかという点。そこで迷いなく、最高の精度を発揮できたチームこそが、今夏を制すということは間違いない。