南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

それぞれの長所と課題が見えた決勝戦 ~令和4年春季沖縄県大会決勝・沖縄水産-沖縄尚学~

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 今年(令和4年)の春季沖縄県大会は、沖縄水産沖縄尚学との“強豪対決”に6-1と快勝し、25年ぶりとなる優勝を果たした。

 

 沖水の攻撃は見事だった。

 

 強振して外野の頭を越す打球だけでなく、コンパクトなスイングでセンターから右方向へ打ち返す技量の高さが見られた。

 また足も絡め、次々に一・三塁の状況を作っていく。とりわけ六回表、一・三塁からスクイズとタイムリーで決定的な2点を追加した攻撃は、鮮やかだった。

 

 九州大会へ向けて課題があるとすれば、投手も含めた守備だろうか。

 この日も3失策。エラー絡みでピンチを招いた場面もあったので、そこは修正してもらいたい。とはいえ、好プレーも随所に見られた。昨秋からの進歩は見られるので、もう一歩といったところか。

 

 投手陣に関しては、未知数である。今大会、5試合で9失点という数字はまずまずだが、県内ではそこまで強打のチームと対戦していない。

 九州大会では、もっと我慢の投球を強いられる場面も出てくるだろう。そこで集中を切らすことなく投げられるかどうか、シュミレーションを重ねてもらいたい。

 

 敗れた沖尚も、エースの吉山君は自責点0の投球。今大会を通じて、甲子園クラスの力があることを証明できた。

 

 個人的には吉山君を先発させてもらって、沖水打線相手に一回からどれくらい投げられるか試して欲しかったが、彼の先発回避については、沖尚側に何らかの意図があったのだろう。これは推測だが、沖水という全国クラスの打線に対して、現時点で誰が通用するのかをテストする意味合いだったのではないだろうか。ただテストだとすると、吉山君以外は厳しい結果に終わったが……

 

 投手力はある程度の目処が立ったと言えるが、やはり課題は攻撃だろう。全6試合のうち、3点以下に終わった試合が3試合というのは、強豪・沖尚にしては寂しすぎる。

 

 とはいえ、個々の技量が低いわけでは決してないと思う。問題は“意識”だ。

 準決勝の宮古戦辺りから気になっていたが、初球から難しい球に手を出して凡退という場面が目立った。特に決勝では、相手が四球や守備のミスでランナーがたまった状況で、そんなバッティングが何度か見られた。これでは得点力が低くなるのも当然である。

 

 例えば試合の前半は、初球から手を出さずじっくりとボールを見て、ねらい球と捨てる球を決める。そして後半に、ねらい球を見逃さず打っていく。そんな“意識”をチームとして徹底することも、今後必要になってくるだろう。

 

 捨てる球に関しては、ただ手を出さないというだけでなく、追い込まれた状況であればファールに逃げるという方法もある。――これはもう、練習から意識して取り組んでいくしかないだろう。

 

 また今大会、各打者の“振りの鈍さ”が気になったが、これはすべての球種に対応するためミート重視のスイングを心掛けていたからかもしれない。ただ、やはり強振しないと、打線の怖さは出てこない。それは沖尚の選手達も、沖水のバッティングを見て痛感したのではないだろうか。

 

 強振できないのは、すべての球種を打とうとするからである。基本的には速球狙い、変化球は高めにきたら狙う。他は捨てる。それくらい割り切っても良いように思う。

 

 ただ春の大会は、こうした課題を見つけるための場でもある。私がここで指摘したような事項は、本人達が一番痛感していることだろう。沖尚ほどのチームが、この負けの悔しさにただ黙っているとは思えない。夏の巻き返しに期待したい。

 

 勝った沖水にしても、現状で満足していると、夏には足元を掬われかねない。何より今大会はコロナで辞退した興南が加わるし、沖尚や前原も“今度こそ”の思いでぶつかってくることだろう。追われる立場のプレッシャーを味わうのは、これからである。

 

 確かなことは、沖水、沖尚ともそれぞれの長所と課題が明らかとなった大会だったということ。長所を伸ばし、課題は少しでも改善する。簡単なことではないが、今年の沖縄高校野球をリードする二校として、頑張って欲しい。

 

大阪桐蔭を倒す、数少ない”勝利パターン” ~第94回選抜高校野球より~

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 大阪桐蔭は、確かに強い。選抜優勝時のインタビューで、星子キャプテンが「三度目の春夏連覇を目指したい」と話していたが、十分にその力を有していると思う。

 

 しかし、他校にまったくチャンスがないわけではない。“あるパターン”に持ち込めば、多少力量で下回っていたとしても、番狂わせを起こせる可能性はある。

 

 例えば――初回に猛攻を仕掛け、一挙に3,4点もぎ取る。1,2点ではダメだろうが、さすがに序盤で3,4点のリードを許せば、いかに大阪桐蔭といえども慌てるだろう。

 慌てれば、普段通りのプレーができなくなり、ミスするようになる。そこに付け込む隙が生まれてくるというわけだ。

 

 もう一つ。これは、鳴門の冨田投手のように、好投手を擁するチーム限定だが……点を取られても最少失点でしのぎ、残塁を増やさせることである。そして、終盤のワンチャンスで一気に得点を重ね、ひっくり返す。

 

 要するに、大阪桐蔭のペースで野球をさせないことだ。

 

 厄介なことに、今年の大阪桐蔭は接戦にも強い。それは選抜大会の一回戦、鳴門に3-1ときっちり勝ち切った試合で証明済みだ。

 “少ない得点機をモノにする”という展開になると、大阪桐蔭はおそらく隙を見せないだろう。だから序盤で大きくリードを奪い、慌てさせ、攻守のいずれかでミスを誘う――そんな展開になれば、勝機を見出すことができるはずだ。

 

 逆に言えば……それくらいしか、今年の大阪桐蔭は負ける姿が想像できない。2018年以来、またしても突出したレベルのチームが誕生したことになる。

高校野球の野球留学を否定するのは、進学校が学業優秀な生徒を集めるのを否定するのと同じである

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 大阪桐蔭が圧倒的に優勝したせいか、野球留学を批判するようなメディアの記事等を見かけるようになってきた。要するに、他県から優秀な選手を集めてまで勝とうとするのは、やりすぎじゃないのかという文脈である。

 

 かく言う私も、一部の学校が甲子園の優勝を独占するより、例えば07年の佐賀北のようなチームが優勝した方が、一ファンとしては面白いと思う。

 

 ただ現実問題として、今は少子化の世の中である。また少年達の好きなスポーツも、野球だけでなくサッカー、バスケットボール、陸上競技等、かなり多様化してきている。野球人口そのものの減少が危惧されている昨今なのだ。

 

 そんな中、名の知られた野球強豪校であれば、黙っていても優秀な選手が入部してくる時代は、もう終わったのだと思う。今は、選手達が求めるニーズに応えられる野球部が生き残っていく――今はそんな時代に入っている。

 

 ただ一言でニーズといっても、選手個々人によって変わる。甲子園に出たいのか。あるいはその先、大学や社会人、プロでの活躍も見据えているのか。それとも純粋に野球を楽しみたいのか(これだって立派なニーズである)。

 

 したがって今後必要なのは、各野球部が選手達の“どんなニーズに応えられるのかを明確にすること”ではないだろうか。

 

 なぜ大阪桐蔭野球部に、あれだけ優秀な選手が集まるのか。それは端的に言って、選手達のニーズに応えられているからに他ならない。甲子園で活躍して、大学、社会人、そしてプロ――その最短距離に、大阪桐蔭があるということではないか。

 

 野球強豪校が有望選手を集めるのは、超進学校が学業優秀な生徒を集めるのと何ら変わらない。強豪野球部にはそれぞれの強化カリキュラムがあり、それに付いてこれる選手に来てもらいたいと思うのは、指導者側としても自然な心理だ。

 

 他府県への野球留学を制限すべきという声も聞かれるが、それは地方の学業優秀な生徒が、東京大学を始めとする有名大学へ進学すべきでない、地元の大学にしろと言っているのと同じである。

 

 とはいえ――強豪校への戦力集中は、確かに問題もある。それは、いわゆる“控えメンバー”の増加である。素質があるのに、競争の激しい強豪野球部に入部したがために、三年間控えというのはもったいない気もする。

 

 個人的には、ある程度の部員数以上の野球部は、複数チームのエントリーを可能にするのはどうだろうか――○○高校A、○○高校Bのように。これはすでに、サッカー等では実施している。

 

 やや話が逸れた。

 

 もちろんファン心理として、一部の学校が甲子園の優勝を独占しては面白くないという気持ちは、よく分かる。

 

 ただ高校野球の魅力は何かといえば、選手達の“一生懸命な姿”や“成長”が見られる点である。それならば、選手達が夢を叶える手段として、他府県の野球強豪校へ進学することを否定すべきでない。あくまで、選手達の意思が最優先でなければならない。

(※もちろん選手獲得を巡り、色々と生臭い話も聞こえてくるが、それらの問題を放置してはならないということは言うまでもない。)

強すぎた大阪桐蔭と、近江・浦和学院それぞれの覚悟 ~第94回選抜高校野球より~

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 選抜高校野球大阪桐蔭-近江の決勝戦は、18-1という大差で大阪桐蔭が圧勝し、四度目の優勝を果たした。

 

 このスコアは仕方がない。大阪桐蔭が強かった。いや、強すぎた。

 

 市立和歌山戦(準々決勝・17-0)と同じである。圧倒的力量を誇る相手に、万全でない状態で臨めば、どんなチームだってそうなる。

 

 近江はエース山田が足を負傷していただけでなく、前日の準決勝・浦和学院戦で十一回を投げ抜き、疲労もかなり溜まっていたはずだ。おそらく彼自身も含め、チーム関係者は決勝戦がこういう結果になることを、覚悟していたのだろう。それも分かった上で、山田にすべてを託したのだと思う。

 

 覚悟といえば、準決勝で敗れた浦和学院にも、別の形でそれが見られた。同点に追いつかれ、延長戦に突入するという緊迫した展開で、最後までエース宮城を登板させなかった。もちろん球数制限のこともあるだろうが、大阪桐蔭相手には主戦投手が万全の状態でなければ歯が立たないと分かった上で、覚悟を決めた“エース温存”だったのではないだろうか。

 

 近江の覚悟。浦和学院の覚悟。私は、そのどちらも尊重したい。

 

 しかし――近江と浦和学院という全国屈指の強豪に、それだけの覚悟を迫るほど、今大会の大阪桐蔭は図抜けた存在であった。

 

 この決勝戦。私にとって驚きは、18点を奪ったことではなく、1点しか与えなかったことだ。先発の前田、八回からリリーフした川原は、それだけ高い集中力を持って投球していた証である。どんなに点差が開いても、気を緩めることはなかった。

 

 打線も4本塁打は圧巻だったが、基本的にコンパクトなスイングで、けっして大振りしなかった。ホームランとなった当たりも、甘く入った球を素直に打ち返したら、そのままスタンドに入ったという印象だった。またアウトになった場面でも、ファールで粘ったり際どいコースをきっちり見極めたりして、じわじわと近江投手陣にジャブを打ち続けた。パワーのある打線に技を駆使されるほど、厄介なことはない。

 

 大阪桐蔭の西谷監督は、日頃から選手達に「どんなに大差がついても、1点差のつもりで戦いなさい」と指導しているという。まさにそれを体現する戦いぶりで、彼らは最後まで攻め続けた。その姿勢には、天晴れと言うほかない。

 

 こうして今年(令和4年)の選抜高校野球は、幕を閉じた。しかし“春”の良いところは、負けても“夏”への希望を残せることにある。

 

 大阪桐蔭は、今年も十分に春夏連覇を狙える力量を有している。そんな彼らを倒すチームは、現れるのだろうか。この大敗の雪辱を期す近江か、その近江に惜敗した浦和学院か、大阪桐蔭に唯一接戦を演じた鳴門か。はたまた、別のチームが頭角を表してくるのか。

 

 球児達のさらなる成長と、コロナ禍の終息、そして“夏”の大会の幕開けを、今から心待ちにしたい。

市立和歌山の健闘と、大阪桐蔭の”王者の凄み” ~第94回選抜高校野球より~

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 昨日(令和4年3月28日)の選抜高校野球大会・準々決勝の第4試合・大阪桐蔭-市立和歌山の一戦は、凄惨なゲームとなった。

 大阪桐蔭が打ちも打ったり6本塁打・18安打の猛攻で17得点。投げては3投手の継投で僅か1安打無失点に抑える。まさに完膚なきまでに叩きのめすという内容である。

 

 残酷なようだが、これも高校野球の一部だ。

 見る者を爽やかな気持ちにさせてくれる接戦もあれば、この試合のように、ただただ胸を締め付けられるような大量得点試合もある。

 

 それでも私は、市立和歌山の投手陣に拍手を贈りたい。

 

 けっして判官びいきで言うのではない。市立和歌山は、一回戦、二回戦と際どい試合を制して勝ち上がってきた。選手達には、とりわけ投手陣には、少なからず心身の疲労があったことだろう(実際、二番手として登板した米田投手は、腰の張りがあったと伝えられている)。そんな状態で、強豪の大阪桐蔭を相手にしなければならなかった。

 

 点差がどんどん開いていき、味方の援護も望めなかった絶望的な展開の中で、よくぞ九回を戦い抜いた。これだけでも、彼らは讃えられて良いと私は思う。

 

 正直に言うと――こういう一方的な試合になると、私はある程度予想していた。

 

 前述のように、市立和歌山は万全でないチーム状態で、準々決勝に臨まなければならなかった。そして大阪桐蔭。一回戦は3-1という僅差ゲームながら、私はその強さに戦慄を覚えていた。

 

 あの鳴門の好投手・冨田が僅かな隙を見せただけで、たちまち2点を奪い取り、1点差に迫られた直後、当たり前のようにスクイズで突き放す。これぞ横綱相撲。私はそこに、王者としての凄みを感じていたのである。

 そんなチームに、万全でない状態でぶつかればどうなるか。言うまでもない。

 

 大阪桐蔭、強し。だからこそ市立和歌山の選手達には、胸を張って和歌山に帰って欲しい。

 恥じることはない。私学優勢の今の高校野球において、公立校ながらベスト8まで勝ち残ったのは、立派な戦績である。

 

 かつて智辯和歌山の“一強時代”が続いていた和歌山高校野球に風穴を開けたのは、市立和歌山だと聞く。彼らとの切磋琢磨があったからこそ、昨年の智辯和歌山の全国制覇があったとも思う。今年の夏もまた、両校による熾烈な戦いが繰り広げられることだろう。

 

 そして、勝った大阪桐蔭。試合の大勢が決まった後も、手を抜かずにプレーし続けた姿勢は立派だ。普通の高校生なら気が緩んでもおかしくない状況で、絶対に隙を見せなかった。これぞ王者。まだ準決勝・決勝と残ってはいるが、今最も優勝に近い地点にいるのは、やはり彼らだろうと思う。