【前回まで】
夏の甲子園大会初出場の快挙を果たした墨高野球部。新チームになりキャプテン谷口を始め倉橋、横井、戸室といった三年生の主要メンバーは抜けたものの、かつて墨谷二中で鳴らした丸井やイガラシら有力選手が数多く残り、下馬評では依然として秋季大会の優勝候補の一角に挙げられるのだった。
迎えた秋季大会。墨高は前評判にたがわぬ力を見せつけ勝ち進む。初戦、二戦目は難なくコールド勝ち。三戦目は強豪・専修館との打撃戦を制すと、四戦目は旧友・小室擁する明善を延長戦にもつれ込む激闘の末退け、夏の大会続き決勝進出を果たした。
だが夏とは違い、井口が他校から研究され打ち崩され始め、頼みのイガラシも激闘の連続だった夏の疲労を残したまま本調子でない中、準決勝で十三回を投げ抜き疲労のピークを迎えてしまう。
果たして――迎えた因縁の相手・佐野擁する東実との決勝戦。
墨高はイガラシのタイムリーとホームランなどで、終盤八回を終え3-1とリードを奪う。ところが九回裏、疲れの見え始めた松川が1点を返されると、リリーフ登板の井口も東実の勢いを止められず。エース佐野自らの逆転サヨナラホームランを浴び、土壇場でまさかの逆転負けを喫することとなった。
傷心の墨高ナインだったが、初の選抜大会は東実と共に二校選出を果たした。新たな目標へ向かって、丸井キャプテンの下、ナイン達はさらなるチーム強化に取り組むのであった。
―選抜高校野球大会―
1回戦
R H E
東実(東京) 00000000000 0 2 0
箕輪(和歌山) 00000000001× 1 8 0
【東】佐野-村野 【箕】阪井-小笠原
(戦評1)
佐野・倉田の左腕二枚看板を擁し、安定した戦いぶりで東京大会を勝ち上がってきた東実だったが、初戦で思わぬ刺客が待ち構えていた。
かつて和合中で選抜大会優勝投手となった阪井が、昨春優勝校箕輪の左腕エースとして佐野の前に立ちふさがった。以前と比べ速球の威力、大小のカーブとフォークのキレ、制球力、そのすべてがレベルアップしており、東実打線は四番村野がポテンヒットを放つのが精一杯。
一方の佐野は、箕輪の粘り強い攻撃に苦しめられ、再三ピンチを迎えるも辛うじて凌ぎ切る。
しかし迎えた十回裏、死球とエンドランで一・三塁のピンチを迎えると、最後はスクイズを決められ万事休す。優勝候補同士の一戦は、昨春優勝の箕輪に軍配が上がった。
1回戦
R H E
広島実業(広島) 000010000 1 6 0
墨高(東京) 10102221× 9 12 0
【広】松川-根岸 【広】※※―※※
<本塁打>イガラシ、井口
(戦評2)
東実まさかの敗退の動揺もなく、墨高ナインは堂々と自分達の力を発揮する。
打っては初回、三回とタイムリー、スクイズで効率よく得点。犠牲フライで1点差とされた直後の四回裏には、4番イガラシの2ランホームランで突き放す。終盤にも井口の一発などで集中打を浴びせ攻撃の手を緩めず。守っては先発の松川が被安打6、10三振を奪う力投。終わってみれば9-1の快勝で広島の雄を寄せ付けず、難なく初戦を突破した。
2回戦
R H E
墨高(東京) 000100002 3 9 0
横浜学館(神奈川) 001000000 1 6 0
【墨】井口-根岸 【横】丹波-愛甲
<本塁打>イガラシ、愛甲
(戦評3)
優勝候補の一角・横学と、もはやダークホースに躍り出た墨高のがっぷり四つの熱戦となった。
横学がスクイズで先制すれば、直後に墨高も井口のタイムリーで同点。その後は両チームともチャンスは作るもあと一本が出ず。迎えた九回表、四番イガラシがレフトスタンドへ勝ち越しソロを放つと、五番井口六番根岸の連打でもう1点を加え突き放した。
優勝候補を力でねじ伏せた墨高。初の全国制覇へ向けて、もはや視界良好に思われたが……
準々決勝
R H E
池宮(徳島) 300011003 8 15 2
墨高(東京) 00051040× 10 12 0
【墨】松川、片瀬、イガラシ、松川―根岸 【聖】才川、水島-榎並
<本塁打>水島、江波、井口
(戦評4)
大会屈指の強力打線を誇る池宮との対戦。初回、いきなり先発の松川が池宮の3番江波に2ラン、4番水島にソロを連続で被弾するなど3失点。それでも変則投手片瀬のリリーフで相手打線の勢いを止めると、四回裏に集中打で一挙5点を奪い逆転。中盤以降反撃を許すもその度に突き放し、八回裏にはダメ押しともいえる決定的な4点を追加。勝負あったかと思われた。
ところがその八回裏、リリーフで好投していたイガラシが左手の甲に死球を受け九回に登板できず。代わった松川が連打を浴び3点を失う。最後は逃げ切ったものの、先行きに不安を残す結果となった。
準決勝 R H E
墨高(東京) 000000000 0 0 0
箕輪(和歌山)10000101× 3 8 0
【墨】井口-根岸 【箕】阪井-小笠原
<本塁打>小笠原
(戦評5)
大会屈指の怪腕・阪井の前に、ここまで猛威を振るった墨高打線は完全に沈黙。なんとあのイガラシなで3三振を喫するなど、計12三振、ノーヒットノーランを喰らうという屈辱を味わった。
守っては初回、箕輪のセーフティバント→盗塁→三盗であっという間にピンチを迎えると、二番打者にあっさりスクイズを決められ先制を許す。さらに終盤の七回にはエース阪井自らのタイムリーで追加点。そして九回には四番小笠原にトドメとなる一発を被弾し万事休す。
打線も九回に四死球を奪いイガラシへつなぐも、前日に受けた左手の甲への死球(後に骨折と判明)では怪腕阪井に太刀打ちできず。
チームにとってもイガラシが3三振を喫した事実は重く、最後まで反撃の糸口すら作れないまま完敗。夏の初出場から二季連続の4強進出という快挙も、悔しい結末で終えることとなった。
【選抜高校野球大会・結果】
1回戦 墨高 9-1 広島実業
2回戦 墨高 3-1 横浜学館
準々決勝 墨高 10-8 池宮
準決勝 墨高 0-3 箕輪 ※ノーヒットノーラン