南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

“あと一本”で涙を呑んだ早稲田佐賀ナインに、忘れないで欲しいこと

 大会3日目、第四試合。初出場の早稲田佐賀(佐賀)が、聖心ウルスラ(宮崎)に25と敗れた。

 前半はほぼ一方的な展開で、四回に一挙4点を失った時は、大差での負けもあり得ると思えたが、そこからよく持ちこたえたと思う。七回裏に集中打で2点を返し、もう一本出れば……というところまで、盛り返すことはできた。ただ早稲田佐賀が、今後も継続してチーム強化を図っていくのなら、忘れないで欲しいことがある。

 聖心ウルスラの2年生投手・戸郷翔征のスライダーである。

 良い投手だ。今後勝ち抜いていけるかどうかは未知数だが、少なくとも「甲子園に出てくるチームの投手」の“必要条件”を備えていた。

 では、その“必要条件”とは何か。簡単に言うとコントロールなのだが、ここではより具体的に述べようと思う。

 すわなち——「外角低めに、真っすぐと変化球の両方でストライクを取れること」だ。

 戸郷は、真っすぐは130キロ台中盤。スライダーにしても、驚くほど威力のある球というほどではない。全国に出てくる投手としては、ごく普通レベルかもしれない。

 だが、この“普通”を攻略することも、初出場校には意外にハードルが高いのだ。県大会レベルでは、この普通ができていない相手(投手)も少なくない。また、仮に攻略できなかったとしても、相手打線を封じればロースコアでも勝つことはできる。

 しかし、全国の舞台となると、ある程度の失点も覚悟しなければならない。となると、どうしてもバッティングにおける“対応力”で、甲子園経験校と差が付いてしまう。

 05で迎えた七回裏。早稲田佐賀は4連打で2点を返し、なお無死二・三塁と反撃のチャンスを得ていた。あと一本出れば1点差、ホームランで同点という場面である。

 ただ……私は、同点・逆転までは難しいと見ていた。

 なぜなら、早稲田佐賀打線は六回まで、戸郷のスライダーにほとんど対応できていなかったからだ。この回の4連打にしても、真っすぐや高めに浮いた球を狙い打ったものだ。相手投手に苦しめられている根本的な要因に、対処できているわけではなかった。

 案の定、続く打者が空振り三振に仕留められる。聖心ウルスラバッテリーも、連打を浴び慎重な配球になった。そしてやはり、少しでも低めの厳しいコースにスライダーを投じられると、途端にバットが空を切るようになる。結局、後続も抑えられ二者残塁。事実上、この回でほぼ勝負が決した。

 ここで“あと一本”が出るようにするためには、普段の練習から意識して取り組む必要がある。ピンチの場面で、甲子園に出てくるレベルの投手(バッテリー)が、そうそう攻撃側に都合の良い球を放ってくれるはずがない。これを想定した上で、どのように対応していくか。

 自信があるのなら、そのスライダーを狙えば良い。あるいは、ファールで何球も粘り、バッテリーが球種を変えるまで喰らい付くという方法もある。また、相手バッテリーが勝負所でスライダーを投げにくくするため、序盤からあえて「スライダーを狙う」という作戦も取れるかもしれない。

 いずれにせよ、勝負所で何らかの対応策を持てるようになることが、「甲子園に出られるチーム」から「甲子園で“勝てる”チーム」へとレベルアップする第一歩だ。

 敗れたとはいえ、健闘を見せた早稲田佐賀ナイン。この経験を「貴重な糧」として、今度は聖地での初勝利を掴んで欲しい。