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1年前、相手打線の迫力に怯えていた、あの頼りなげな一年生投手の姿は……もう、影さえ見られなかった。そこにあったのは、仲間のピンチに臆することなく立ち向かわんとする、紛れもない“エース”の姿だった。
あの八回表。土浦日大の5番・小沢礼嗣に投じられた2・3球目に、思わず目を見張る。球種こそ変化球と直球の違いこそあったが、立て続けにインコースを突く。このシーンを見て、無死満塁という絶体絶命の場面にも関わらず、不思議な安心感があった。
これなら、きっと……大丈夫だろうと。
序盤から、コーナーワークと緩急の使い分けは、素晴らしかった。しかしそれは、甲子園出場校レベルのバッテリーなら、できて当然だ。そんなことよりも、私がずっと見たかったのは、「ここぞ」という場面でインコースに投げ込める“本物のコントロール”そして“度胸”である。
興南の両投手は、二人ともそれを成した。宮城大弥、藤木琉悠――名門の“エース”の看板に恥じない、立派な投球を見せてくれた。あの屈辱からの再起を図った思いは、ここまでの1年間の取り組みは、嘘じゃなかった。それを証明できたことが、試合に勝てたこと以上に、何よりも嬉しい。
これでようやく、甲子園に「出る」レベルから、甲子園で「勝ちを狙える」レベルへと一段階上がったことになる。今日のような戦い方ができるのなら、甲子園で「勝ち進みたい」と口にしても、もう恥ずかしくない。
だから、あえてシビアなことも書かせていただこう。
今大会、他チームとの戦力を比べてみると……率直に言って厳しい。特にパワー不足は否めない。今日のようにヒットを重ねても、長打が出なければ大量点は期待できない。長打がないと分かれば、相手バッテリーは思い切りよく攻めてくるだろう。そうなれば、よほど上手く戦えない限り、この先勝っていくのは難しい。
投手陣に関しても、同様だ。今日に関しては、はっきり言って相手に助けられた部分も大きい。土浦日大の打線は、大勢が決まった後とはいえ最終回にホームランで追撃するなど、確かに力はある。だが試合全体を通して、全国での経験値が足りない印象があった。
それは、アウトコースの変化球への対応である。特に2ストライクと追い込まれてから、アウトコースへのスライダーに対して、まったくタイミングを合わせることができなかった。
甘く入った時に快打する場面はあったが、すべて“引っ張り”である。あの打ち方では、厳しいコースを突かれると捉えられない。選手個々の能力は低くないのだが、チームとしての戦い方自体が、まだ“地方大会レベル”だった。ここを改善できない限り、全国での1勝は難しいと思われる。
興南に話を戻せば、今日の感触としては「同県の強豪“公立校”を破った」のと同程度だろう。初戦で甲子園経験の浅い相手と当たったのは、幸運だった。これが他のどのチームにも通用すると思ってもらっては、困る。
二回戦の相手は、木更津総合と敦賀気比の勝者となる。いずれも甲子園常連校であり、さらに打線も強力。特に敦賀気比は、2015年の選抜優勝校というだけでなく、我が県にとっては2013年の選抜大会で沖縄尚学が粉砕された苦い記憶がある。とにかく、どちらが来ても一筋縄にはいかないだろう。
ただ、どんな強豪が相手でも、私が興南ナインに望むことは変わらない。勝っても負けても、ゲームセットの瞬間まで「勇気を持って戦うこと」である。
勝負は時の運だ。相手が個人能力で勝り、どんなに抵抗しても力で押し切られてしまうこともあるだろう。それでも……たとえ分が悪くなっても、興南ナインが勇気を失ない限り、私は最後まで応援する。
引き続き、彼らの挑戦を見守っていきたい。