今年(2023年)の沖縄県高校野球秋季大会において、第1シードのエナジックスポーツ高等学院が初戦敗退を喫する波乱があった。
エナジックといえば、かつて浦添商業と美里工業で二度の甲子園出場を果たした智将・神谷嘉宗監督の指揮の下、1年生大会と新人大会を立て続けに制し、夏季県大会では全国8強の沖縄尚学に善戦するなど着実に力をつけ、今大会は本命中の本命と目されていた。それがなぜ、こちらも実力校とはいえ宜野座にあっさり敗れたのか。
もちろん宜野座が強かったことは言えるが、もう一つの大きな要因として、エナジックが「難易度の高い野球」を志向していたことが挙げられる。
TVでのインタビューにおいて、指揮官は「機動力野球」を掲げると述べている。実際1年生大会での映像を見ると、積極的に足を使い、また各打者は反対方向へ打ち返す意識が感じられ、バリエーションに富んだ攻撃が印象的だった。
ただこの野球は、打者が「気持ちよくスイングすることができない」ため、一時的に各選手本来の打力を“一時的に削ぐ”リスクがある。
一般的には、高校野球レベルでそこまで細かいことは求めない。「好球必打」「センター返し」くらいの意識で十分といえば十分なのだ。その方が選手達も迷いなく思い切りプレーできる。
この“迷いなく思い切り”という点が重要で、当然その方が選手達は力を発揮しやすい。件の試合で、宜野座の方がベストに近いパフォーマンスを発揮できた一方、エナジックは力を出せなかった。すべてとは言わないが、それが波乱の大きな要因の一つだろう。
しかし、かといってエナジックの野球は「選手達が迷いなく思い切りプレーできない」から良くないと否定するのは早計である。
思い出されるのは、昨夏の甲子園大会で大阪桐蔭を下した下関国際・坂原秀尚の証言だ。同校は練習から「2ストライク取られた状況」を設定し、気持ちよくスイングするのではなく、食らいつくバッティングを徹底させた。
確かに“気持ちよくスイング”する野球は、選手達が迷いなく思い切りプレーすることができ、結果も出やすい。しかし、相手投手が自分達の力量を上回ってきた場合、途端に手も足も出なくなってしまう。
かつて東浜巨擁する選抜覇者の沖縄尚学を夏季県大会決勝で破り、続く甲子園大会で4強に進んだ神谷監督には、全国上位レベルでは“気持ちよくスイング”するだけでは通用しないということが見えているのだろう。だから多少のリスクを負っても、選手達に「難易度の高い」野球を求める。今回は、それが逆の目に出てしまったというだけだ。
もっとも、ここで急いで付け加えておくが、けっして“気持ちよくスイング”させることが悪いわけではない。
どっちみち最後まで勝ち残れるのは全国で一校だけ。難しいことをやろうとして、本来の力も発揮できなければ意味がない。だったら、選手達に思い切り迷いなくプレーしてもらい、それで相手に上回られて負けるのなら仕方ない――こう考えるのも、一つの正解だ。
だからこれは、どの哲学を選ぶのかという問題である。
エナジックの選手達には、この敗戦に気を落とすことなく、最後まで自分達の野球を信じて貫いて欲しい。夏4強の浦添商業も、前年秋は二回戦敗退だった。エナジックが第二の下関国際になれる可能性は、十分にある。