南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

阪神・岡田彰布監督と対照的な、サッカー日本代表・森保一監督とJFAの”軋轢を避けようとする”態度

 

 

1.注目すべき阪神岡田彰布監督の“軋轢を恐れない姿勢”

 

 昨年、阪神タイガースを38年ぶりの日本一へと導いた岡田彰布監督の著書『そら、そうよ』を読んだ。

 

一読しただけで、岡田監督が優秀な指導者・指揮官であることが伺えた。コーチ陣や裏方スタッフ、フロントの在り方といったプロ野球に関わる事項、それも細部に至るまで、全て岡田監督なりの哲学や方法論があることが伝わってきた。

 

 これだけでも岡田監督が優秀な指導者であることを裏書きするものだが、さらに注目すべきは、岡田監督が一貫して周囲との“軋轢を恐れない姿勢”を取り続けている点である。

 

 著書の中では、選手達の様子をよく観察しようとしていないコーチを叱責したり、旧知の仲であることから自分が依頼して入閣させたものの、結果の出なかったコーチを解任したりといったエピソードが書かれていた。

 

 もちろん岡田監督とて、不要な波風を立てようとは思わないだろう。しかし厳しい勝負の世界で勝ち残るためには、非情にならざるを得ない場面も出てくる。

 

 断っておくが、岡田監督が全て正しいと言いたいのではない。岡田監督に限らず、故野村克也氏や落合博満氏を始め名将”と言われる監督であっても、どうしてもソリが合わずに冷や飯を食わされた選手やコーチも少なくない(ちなみに『そら、そうよ』の中では、野村監督や落合監督のことを批判的な文脈で書いている部分がある)。

 

 とはいえ毀誉褒貶はあるにせよ、岡田監督や野村監督、落合監督らが突出した戦績を残し、故に“名将”だと多くの人に呼ばれていることは事実。いや、上記の名将達を「嫌っている」人も少なくないということ自体が、軋轢を恐れていてはチームを勝利に導くことはできないということの物語っていると言える。

 

2.“いい人”森保一監督では、代表チームを勝たせられない現実

 

 翻って、サッカー日本代表はどうか。

 森保一監督が、例えば選手やコーチ陣の反対意見を押し切って、自らの戦術なり戦略なりをチームに植え付けたというエピソードを耳にした方はおられるだろうか。

 

 おそらくいないはずである。むしろ聞こえてくるのは、徹底的に“軋轢を避けようとする”エピソードばかりではないだろうか。

 

 「海外で名監督に教えられている選手達には(戦術を)教えられない」と言って、チームの基本的な約束事さえ作らず選手達を混乱させ、敗れれば「個の力が足りなかった」と言い逃れをする。

 

 公平に見て、チームを率いる指揮官としての責任放棄にしか見えない。たとえ海外の名監督達と比べて力量は劣るにしても、「代表監督は俺だから、俺の決めた約束事には従ってもらう。その上で、君達の意見があれば聞かせてくれ」――せめてこれぐらい言うのが、代表監督の責任というものだろう。

 

 森保監督は“いい人”なのだろうし、サッカー関係者の中で森保監督を嫌う人もあまり聞いたことがない。

 

 しかし、そんな“いい人”に5年間も代表監督を任せた結果がどうなったか。

 W杯ではドイツとスペインを破ったインパクトに霞んでしまったものの、結局目標のベスト8は達成していない。五輪代表は、本来であればアジア予選敗退だったし、目標の金メダルはおろか銅メダルにも手が届かなかった。就任直後のアジア杯では、決勝でカタールに惨敗した。そしてトドメが、此度のアジア杯準々決勝敗退である。

 

 繰り返すが、森保監督に見られるのは徹底して“軋轢を避けようとする”態度ばかりである。言い換えれば、軋轢を起こしてまで押し通したい自らの哲学・信念がないことの裏返しではないだろうか。

 

3.ハリルホジッチ解任がJFAに残した“禍根”

 

 そして軋轢を避けようとするのは森保監督だけでなく、JFA(日本サッカー協会)の態度でもある。

 

 18年ロシアW杯直前、JFAは“やたらと揉め事を起こしがちな”ハリルホジッチ監督を解任した結果、本大会で16強入りと望外の躍進を果たした。そのことが、JFAに現在までつながる禍根を残したのである。

 

 個人的には、ハリルホジッチ監督のやろうとしていたサッカーは日本人選手に合わなかったと思うし、選手達からもどこか投げやりな空気が漂っていたため、あの時点での解任は妥当だったと思う。ただ、その理由が良くなかった。

 

 JFAは「コミュニケーションが多少不足している」などと、曖昧な解任理由を述べた。これまた軋轢を避けようとする態度の表れだ。本当は、「ハリルホジッチのやりたいサッカーと日本サッカーは合わないので、選手達が力を発揮できない」と、はっきり堂々と述べれば良かったのだ。

 

 ハリルホジッチ解任後、JFAの“軋轢を避けようとする”態度は、より鮮明になった。だから“戦術がない”と選手達からも不満が漏れ、アジア杯で惨敗した森保監督を「いい人だから」、もっと露骨に言えば「揉め事を起こさないから」という理由で続投する。

 このままいけば、代表チームは空中分解を起こすだろう。ひょっとしたらW杯予選通過も危うい事態になるかもしれない。

 だが、この危機的状況を止める手段は、もはやないに等しい。

 

 なぜ勝利を得ようとする時、軋轢を避けてはいけないのか。

 それは、勝つためにはチームを一つにまとめなければならないからだ。十人いれば十人とも考え方も行動も違う人間の集合体であるチームを、である。

 

 当然そこには意見の相違もあるし、お互いに妥協したり、あるいは激しくぶつかり合う場面も出てくるだろう。また、立場によっては不利益を被る者がいてもおかしくないし、それによって不平不満の声が出てきても不思議ではない。

 

 それでもチームを勝たせるため、軋轢に立ち向かい、軋轢を乗り越えることでチームを一つにまとめ上げようとする覚悟と信念が、チームを率いる指揮官には不可欠なのだ。

 

 勝てない日本サッカーの現状を、阪神岡田監督が見たら、何と言うか。きっと「そら、そうよ」と一言で切り捨てて終わりだろう。