南風の記憶

沖縄の高校野球応援! また野球小説<「続・プレイボール」ーちばあきお原作「プレイボール」もう一つの続編」連載中。俳句関連、その他社会問題についても書いています。

白球の”リアル”【第20話】<「名将の分析」の巻> ~ ちばあきお原作『プレイボール』もう一つの続編 ~

 ※前回<第19話「負けじゃない」の巻>へのリンクは、こちらです。

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第20話 「名将の分析」の巻

 

「墨高諸君は、百も承知だろうがね」

 折り畳み椅子に深く腰掛け、中岡は静かに語り掛けてくる。

「野球というのは……ふとしたことがきっかけで、試合の流れが大きく変わったりする。特に回の終盤は、それが顕著に現れる。とりわけ春夏の甲子園大会のように、舞台が大きくなればなるほどに、ね」

 そういやぁ……と、イガラシは思い出す。

――ばかが。終盤、思わぬ形でピンチを迎えるなんてことは、野球じゃありがちだろ。何を今さら、ウブに狼狽えてんだ。

 高山も、監督と同じことを言っていたな。ああ見えて案外、素直に人の話を聞ける奴なのか。それとも……監督と同じ視点でモノを見れるほど、あいつが優秀なキャッチャーということなのか。

 つい舌打ちをしていた。思い出すのも、考えるのも癪だ。

「その点から言うとね……」

 中岡がふいに、にやっと笑う。

「私は谷原より……むしろ君達、墨谷の方を警戒したよ」

 予想外の一言に、墨谷ナインはざわめいた。

「か、監督さん。それって……谷原より俺達の方が、強いと」

 戸室の浮かれ言葉を、倉橋が「ばぁか」と窘める。

「そりゃあ谷原の方が強いに決まってる。けど……西将さんにしてみりゃあ、選抜で対戦して力量が分かっている谷原より、情報の少ない墨谷の方がやりにくかったってとこだろ」

「ああ、そういうことか」

 後方で、横井が相槌を打つ。

「俺らだって、いくら弱くてもよく知らない学校と当たった時は、何となく嫌な感じするもんな。それと一緒かぁ」

 ナイン達の会話に、中岡は「ハハハハ」と高笑いの声を上げた。

「賢い子達だ。戦力的には、当然谷原の方が上回るだろう。しかし……それだけで計れないのが、高校野球の難しい、そして面白いところでね」

 中岡はふいに、キャプテンの方へと視線を向ける。

「谷口君。君達の最大の強み、何だと思うね?」

「は……そ、それは」

 谷口は照れたように顔を赤らめ、口ごもりながら返答した。

「チームワークの良さと、最後まで諦めないこと……でしょうか」

「ふふっ……今、君は何気なく言ったがね」

 百戦錬磨の名将は、ふと険しい顔つきになる。

「諦めない……実はこれ、大抵の選手が口にすることだ。どんな弱小校の選手さえ、やたらと『まだ試合は分からない』『野球は九回ツーアウトからだ』とね。ところが……だ」

 一つ吐息をつき、中岡は言った。

「墨谷の凄さは、それを本当に実現してしまうところにある」

 

――real=本当の、真の

 “リアル”も変化する。あり得ない、どう考えても無理だと思ってたことが、案外簡単にひっくり返る。それもまた、野球の「リアル」なのだ。

 

「聞くところによれば、君達……」

 妙におどけた顔で、中岡は言った。

「昨年夏。シード校の聖稜と専修館を、立て続けに九回裏の逆転で破ったそうだね」

 またもナイン達がざわめく。イガラシは、へぇ……とため息をついた。

 やっぱり俺達、丸裸にされていたのか。ほんと油断も隙もありゃしない。高山に負けず劣らず……というか、この人も同じ“狸”というわけだ。

「近年の戦績を元に、我々は君達を分析させてもらった」

 一転して淡々とした口調で、中岡は話を続ける。

「さっき“流れ”ということの話をしたが……墨谷の特徴は、その流れを引き寄せる術に長けている。我々は、君達をそのように見た」

 そう言うと、ふいに「くくっ」と笑い声を漏らす。

「戦ってみて、その理由がよく分かったよ。墨谷は攻守において、選手間の意思統一が図れている。初回のカーブ狙い、六回の待球策。こうと決めたら、誰もがブレることなくそれを実行する。なかなかできることじゃない。付け加えて言うと……そこの、制帽の君」

 ふいに中岡が指差した先で、半田がノートを手にメモを取っていた。

「えっ、ぼ……僕ですか」

 突然呼ばれ、半田は甲高い声を発した。周囲の部員達は吹き出す。

「半田君、といったっけ。昨年の大会で、君がノートを手に各球場を回る姿を、やはり対戦校の関係者が目撃していてね。そうやって情報を収集し、相手を徹底的に分析する。敵を知っているから、戦い方に迷いがない。だから君の存在は、墨谷にとって大きな武器だ」

 中岡の言葉に、横井と戸室が笑って顔を見合わせる。

「まさか西将の監督さんが、半田のことを褒めるなんてな」

「笑いごとじゃない」

 中岡が、語気を強めて言った。

「やがて高校野球は、情報収集と分析を細かく行い、それを武器として戦うことが一般的になるだろう。だからこそ、私は野球部内にその専門の班を作った」

 倉橋が「そこまでやるのかよ」と、吐息混じりにつぶやく。

「規模は違えど、墨谷も情報収集に力を入れていると聞いて、なるほど……と思ったよ。君達には、先見の明がある。強くなるはずだ、と得心したものさ」

「それで……途中から、次々にレギュラーを?」

 谷口が尋ねると、中岡は「ご明察」とうなずく。

「最初から、その予定だったよ。こちらがリードを奪っても、君らがいずれ盛り返してくることは想定していたからね。相手に傾きかけた流れを断ち切る……それがレギュラー陣に与えたミッションだった。この先、こういう展開はいくらでもあるとね」

「……なるほど」

 島田が苦笑いを浮かべた。

「どおりで竹田さん、最初からあんな凄い球を」

「ああ。ここを抑えられなければ、エースの座は危ういと、脅したからね。ハハハハ」

 笑えねぇよ……と、イガラシは密かにつぶやく。主戦投手候補が何人もいる西将だからこその、リアルな脅しだ。

「しかし……それでも君達は、追い縋ってきた」

 褒めているのか呆れているのか、中岡はため息混じりに言った。

「点にこそならなかったが、八裏の久保君のセーフティバントと、イガラシ君のスリーバントスクイズ。そして九回、谷口君の一発……あれはボール球だったが、狙っていたのかい」

「ええ、そうです」

 谷口は、きっぱりと答える。

「最終回だからか、バッテリーの配球が慎重に散らしてくるようになってましたから。追い込まれてフォークを投げられると厳しいので、たとえボールでも、狙うなら直球しかないと」

「やはり……君といい、八回の久保君とイガラシ君といい、その判断力には正直舌を巻いたよ。君達を警戒して、正解だった」

 中岡の言葉と、試合中に高山が自チームへ向けて発した檄とが、脳裏で静かに重なる。

――おまえら、どこかでまだ墨谷を“格下”だと、ナメてたんじゃねぇか。戦力的には、確かにうちがずっと上だろう。けど試合前、監督が言ってたじゃないか。墨谷みたいなチームこそ『最も注意しなければならない』ってな。

「……少し、矛盾してませんか?」

 イガラシは、あえて率直に疑問をぶつけた。

「どういうことだね」

 名将は少しも表情を変えることなく、静かに問い返す。

「終盤に流れが変わる原因の一つは、体力の消耗です。本当に、終盤の厳しい局面を経験させたいのなら、なぜ最初からレギュラーを出さなかったのですか」

「うむ。確かに、それは君の言う通りだよ」

 拍子抜けするほど、中岡はあっさり答える。

「できれば私もそうしたかったが。これは君らがどうこうじゃなく、うちのチーム事情によるものなんだよ」

 苦笑い混じりに言った。

「あの通り、大所帯だからね。もちろんレギュラーメンバーの経験値を上げることも大事だが、それだけじゃなく控えの選手達にもチャンスを与えて、チーム全体の底上げも同時に行う必要がある。うちの場合、控えといってもレギュラーとさほど実力差はない」

 自慢めいた話に聞こえなくもなかったが、イガラシは「なるほど」とうなずいた。

「チカラのある者にはチャンスを与えないと、チーム全体の士気に関わりますもんね」

「そう。アピール機会さえもらえなかったと、腐ってしまう者も出てくる。そういう者は、必ず周囲の足を引っ張り始める。時折、有力校が早い段階で負けてしまうことがあるが、裏にこういう事情が絡んでいる場合が多い」

 ふと横を見ると、谷口が妙にうなずいている。青葉学院時代を思い出したのかと、イガラシは勝手に想像した。

「かと言って、試合に出してやれる人数は、限られている。この辺りの匙加減が、私の悩みの種なんだが……ともかく、それであのような選手起用となったわけだ」

 片瀬が「あの……」と割り込んでくる。

「レギュラーと控え選手とで、バッティングに別々の制約を課したのも、何か理由がおありだったのですか」

「いや。それは、ちょっと違う」

 不思議なほど穏やかな眼差しで、中岡は首を横に振った。

「あれは、レギュラーと控え、というふうに分けたんじゃない。あくまでもピッチャーのタイプによって、使い分ける予定だったんだ」

 ナイン達が一斉に、谷口へと視線を集める。

「試合中、キャプテンが言った通りだ」

 丸井が感嘆の声を発した。中岡は「ほぅ」と目を細めて、先を続ける。

「さっきも言ったように、松川君と井口君、それに谷口君。三人がそれぞれどんな特徴のあるピッチャーかどうかは、事前に情報を仕入れていた。その上で、井口君には“ファーストストライク狙い”、松川君は“ツースリーまで粘る”という制約を設けた」

 そう言うと、一瞬渋い顔になる。

「もっとも……それさえ君達には、見抜かれていたようだが」

「じゃあ、もし井口じゃなく、松川さんが先発だったら」

 イガラシが尋ねると、中岡は「おそらく君の推測通りだよ」と答えた。

「制約を、レギュラーと控え……というより先発メンバーと交代出場のメンバーとで、逆にするだけだ。元々これは、うちのフリーバッティングでよくやるのだが。どうやら君達も、二番手の西田への対応を見ると、似たような試みをしているようだね」

 思わずため息をついた。この人物、やはり油断ならない。

「ただ結果的に、控え選手に“ファーストストライク打ち”をさせたのは、彼らにとって良かったよ。甲子園では井口君と同等か、それ以上の投手と相対すことになる。全国レベルの投手だと、まず甘い球は来ない」

 名門野球部の厳しい現実を、中岡はあっけらかんとした口調で伝える。

「厳しいボールでも打ち返せる技術がなければ、あるいは打ち返そうという意思がなければ、到底レギュラーは奪えないぞってな。今まさにレギュラーに入れるかどうかの当落線上にいる彼らに、そういうメッセージを突きつけたかったのでね」

 その時、控室の扉が再びノックされた。

 半田が応対しようとしたが、谷口に「俺が出るよ」と制止される。扉を開けると、さっきの係員が顔を覗かせた。

「監督そろそろ、お時間です」

「ありゃ。もうそんなに経つのか。分かった今行く」

 中岡は立ち上がると、両手を組み軽く伸びをした。

「やれやれ。君達にノセられて、ついつい喋り過ぎてしまった」

 谷口が「起立!」と号令を掛け、部員全員を立ち上がらせる。

「監督さん。今日は僕達のために、わざわざ来ていただき、ありがとうございました」

 キャプテンの合図とともに、ナイン達は「ありがとうございました!」と一斉に一礼する。

「こちらこそ、ありがとう。とても楽しかったよ」

 名将は微かな笑みを浮かべ、さらに一言付け加える。

「近いうち、また会おう……甲子園でな」

 

 

「ふぅ……食った、食った」

 鈴木がのんびりとした声を発し、三度目のげっぷをした。最後部の席にも関わらず、車内全体へ響き渡る。ナイン達は「あーあー」とずっこけた。

「美味かったなぁ。トンカツに鶏肉、シュウマイ、ご飯も大盛り。おまけにドリンク付き。あんな豪勢な弁当、初めてだよ」

 傍らで、半田が「でしょう?」と相槌を打つ。

「招待野球出場校だけの、特製弁当らしいんだ。滅多に食べられないよ」

「辞退した川北の連中には礼を言わないとな。こんな美味い弁当をもらえるなら、毎年招待野球に呼んで欲しいよ」

「オイオイ、呑気に食い物の話してる場合かよ」

 二人の左斜め前に座る倉橋が、そう言って窘める。

「俺達が負けた西将相手に、谷原があれだけの試合をして見せたんだ。この後も気を引き締めて、精進していかないと、勝負にならない……いや、そこまで辿り着けるかどうかもあやしくなる」

「しかし、西将にはとことん驚かされるよ」

 倉橋の向かい側の席で、谷口は半ば呆れ顔で言った。

「先発したあの宮田っていう二年生投手。さっき半田が言ってた通り、竹田とそう力は変わらないな。その次に出てきた、左腕の遠野にしてもそう」

「ああ、誰が主戦投手でもおかしくないレベルだったな。腹立つくらい贅沢な布陣さ」

 横井が「でもよ」と割り込んでくる。

「俺は……逆に、村井の凄さを思い知ったよ。あの打線相手に一人で投げ抜いて、一点に抑えたんだから」

 第二試合。谷原と西将学園の一戦は、一対一の引き分けに終わった。

 選抜の雪辱を果たすべく、谷原の主戦・村井は気迫の投球。高山にホームランを浴び一点は失ったが、あとは西将打線を散発五安打に封じ、十個の三振を奪う。

 しかし、西将も投手層の厚さを見せ付ける。

 先発した次期エース第一候補の宮田が、前半四回を僅か二安打に抑える。二番手の遠野が、谷原の四番・佐々木に同点ホームランを打たれるも、やはり四回を投げ被安打はその一本だけ。最終回は、エースの竹田が三者三振で締めた。

「イガラシ君」

 ふいに呼ばれ、振り向く。イガラシの斜め前、運転席のすぐ後ろの席に座る片瀬が、生真面目な眼差しを向けている。

「おう。どしたい」

「学校に戻ったら、僕も投球練習を再開したい。できれば君に打席に立ってもらって、何か気付いたことがあったら、言ってもらえると助かる」

 一瞬意外に思ったが、そういやぁ……と思い直す。

 こいつの球、久しく見てないんだったな。入学直後に見た時は、井口と並んで投げていたせいか、あまり威力は感じなかったが。怪我してたんなら、仕方ないけどよ。

「ああ。そりゃあ……構わねぇけど」

 念のため、懸案事項を確かめる。

「怪我の具合、もういいのか?」

「昨日、病院で了解も得てきた。もうバッチリさ」

「よし。そう来なくっちゃ、張り合いがねぇもんな」

 ほどなくして、降車ブザーが鳴った。続けて案内アナウンスが流れる。

――次は、城東高校前。城東高校前。

 ふと、車内を眺めた。駅近くのバス停から乗り込んだ時には、連休中ということもあってか、だいぶ混雑していた。それでも市街地を過ぎると、幾らか落ち着いてくる。

 その時、おや……と、イガラシは思った。

 片瀬の座る席から、二つ後ろ。青のTシャツにジーパン姿の少年の姿が、目に留まる。その端正な顔立ちに、見覚えがあった。

「……あれ、松下さん?」

 声を掛けると、少年はすぐに反応した。

「あちゃあ、見つかっちまったか」

 顔をこちらに向け、苦笑いを浮かべる。

「やっぱり松下さんじゃないですか」

「シッ。他の連中に気付かれると、騒ぎになる」

 松下は、墨谷二中時代の二期上の先輩だ。ポジションは投手。さほど突出した力はなかったものの、強豪・青葉相手に粘り強く投げ抜いた。現在は、城東高校の野球部でキャプテンと主戦投手を務めていると、谷口から聞いていた。

「今日のところは、声を掛けないつもりだったんだ。おまえ達、試合だったろ。みんな、疲れているだろうし」

「とすると……松川さんも、見に来てたんですか?」

「ああ。予選で当たるかもしれないし、偵察のつもりでな。けど……びっくりしたよ、西将相手にあそこまで食い下がるなんて」

「それなら、なおさら声掛けてくれりゃ良かったのに。みんな喜ぶと思いますよ」

「……おや、君達は墨谷高校の野球部かね?」

 松下でない声が突然割り込んできたので、ぎくっとする。恐る恐る振り返ると、車内後方の席に固まっていたナイン達に、サラリーマンらしき中年男性が話しかけていた。

「さっきラジオで聴いたよ。大阪の名門校相手に、都立高校が大健闘したとアナウンサーが言ってた。感動したよっ」

 谷口が顔を赤らめ「……ど、ドウモ」と返答する。

「ええっ墨谷?」

「あの、たった十人でシード権を獲得したっていう」

 サラリーマンの一言を皮切りに、他の乗客達がざわめき出す。

「俺もテレビのニュースで見たぞ。あの西将学園相手に、凄い試合をしたんだと」

「へぇ……西将っていやぁ、春の甲子園の優勝校じゃないか。そんなチーム相手に」

 ざわめきは、やがて拍手へと変わる。

「あ、ありがとうございます。今後とも……応援、よろしくお願いします」

 顔を赤らめたまま、谷口はぺこっと頭を下げた。その周辺で、ナイン達も一様に照れた表情を浮かべながら、誇らしげに胸を張る。

「……イガラシも、後ろの席に座れば良かったのに」

 松下が、からかうように言った。

「そしたら、おまえも拍手してもらえたのによ」

「やめて下さいよ。たかが招待野球、それも負け試合ですよ」

 不機嫌に返事すると、かつての先輩は「相変わらずだな」と笑った。

 やがて、バスが停まる。松下は立ち上がると「じゃあな」とだけ言い残し、足早に降りていく。その背中が、どこか寂しげに映る。

「何となくだけど」

 しばし沈黙していた片瀬が、おもむろに口を開く。

「あまり会いたくなかったみたいだね。君に、というより……僕ら全員に」

「ああ。確かに、そんな雰囲気だったな」

「む……おおっ、ここの席だったのか」

 唐突に声を掛けられる。顔を上げると、島田が立っていた。

「何だよ二人とも、そんなところに寂しく座って」

「仕方ないじゃないですか。バスに乗った時は、ここしか空いてなかったんですし」

「ははっそうだったな……ところでよ、今の松下さんじゃないか」

 不思議そうな顔で問うてくる。

「はい。さっき少し挨拶して、すぐ降りて行きました」

「何だよ、松下さんも水くさいなぁ……でも。まぁ、仕方ないか」

 ため息混じりに、島田は言った。

「どういうことです?」

「イガラシ達が入部する前、松下さんのいる城東と練習試合をしたんだけど……まるで相手にならなくってな」

 複雑な思いがよぎるのか、島田は苦笑いを浮かべる。

「城東も弱いわけじゃないんだが、うちがそれ以上にレベルアップしてたもんで、向こうの投手陣じゃ抑えられなかったんだよ」

「そんなに大差が付いたんですか」

「ああ。特に、あの人……松下さんは、一回持たなかったからな。んなもんで、うちがこうして躍進するのを見ると、内心穏やかじゃないんだろうよ」

 島田はそう言うと、踵を返し「後でな」と席へ戻っていく。

 バスの車窓より、午後の陽が差し込んできた。初夏の日差しだ。「最後の夏」へ向かう日々は、刻々と過ぎてゆく。口にせずとも、墨谷ナインの誰もが実感していた。

 

次回<第21話「怪我の功名」の巻>へのリンクは、こちらです。

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ちばあきお原作<『キャプテン』『プレイボール』関連ブログ>を新設しました。

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※各話のリンクは、こちらです。 

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